ぐるりみち。

平成生まれのフリーライターのブログ。本・映画・マンガ・アニメの各種レビューに、旅行・グルメ・街歩き日記など。

2018年の推し本、17冊をまとめたよ

2018年に読んだ本の中から、おすすめの「推し本」をまとめました。

特にジャンルを限定して選んだわけではないのだけれど、こうして並べてみると、昨年の自分は「習慣」についての本を何冊も読んでいた様子。定期的に乱れがちな生活を改善しようとしたのか、はたまた「習慣」それ自体に興味を持ったのか──。

という自分の意図はさておき、年始のタイミングでおすすめする本としてはぴったりな気も。この記事も例年ならば年末にまとめて投稿しているはずだったので、「しもたー!」と軽く後悔していたのだけれど……そのように考えれば結果オーライかもしれません。

というわけで、改めまして──本記事では、僕個人がおすすめしたい17冊の本と、その感想をまとめています。2018年の新刊もそこそこ多め。思いのほか長い紹介になってしまったので、気になった本の部分だけでも流し読みしていただければ。2019年の最初に読む本を選ぶ際の参考になりましたら幸いです。

 

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『天才たちの日課』メイソン・カリー

2018年、特に記憶に残った1冊を挙げるなら、これ。

古今東西、161人の「天才」の習慣をまとめた本。登場するのは、小説家・詩人・芸術家・哲学者・研究者・作曲家・映画監督など、十人十色の天才たち。ぶっ飛んだエピソードも出てきて、最初から最後までおもしろく読めました。

7時間ぶっとおしで書き続けるバルザック。発した言葉をすべて書き留めていたユーゴー。変人からの手紙も含めすべてに返事を書いていたダーウィン。2時間の散歩を欠かさなかったチャイコフスキー。煙草なしでは絵が描けないバルテュス。大量のカタツムリと暮らしていたハイスミス。行き詰まると三点倒立をしていたストラヴィンスキー。創造性を高めるため頻繁にシャワーを浴びているウディ・アレン──などなど。

共感できそうな習慣もあれば、世間的には変人極まりないだろう日課も。また、作家・詩人・作曲家といった創作者の仕事時間を見ると、ほぼ「3時間前後」で共通しているように読める点も興味深い。

そしてこれほど大勢の「日課」を知れば、きっと自分自身の「習慣」を省みずにはいられないはず。なんたって161人もの実例が書かれているのだから、参考になる習慣・考え方との出会いがあってもおかしくはありません。1年が始まるこの時期にぴったりの1冊です。

 

『ライフハック大全〜人生と仕事を変える小さな習慣250』堀正岳

今となってはすっかり使い古されてしまったイメージもある、「ライフハック」という言葉。それを長年にわたってブログで紹介し、また自身も実践してきた筆者による「大全」が、本書となります。

曰く、ライフハックの本質は「小さな事を繰り返すことで、大きな成果が得られる」こと

生活に変化をもたらすのは大きな出来事ではなく、「行動の変化」──小さな習慣の積み重ねであると説明。本書ではそんな “習慣” の中でも手軽に取り組める、250項目の手法をまとめ上げています。どこから読んでもいいし、気になる部分だけをつまみ食いしてもOK。

中でも印象的だったのが、HACK226「『やめない』仕組みをつくる」の項目。

何事においても「継続は力なり」の重要性が語られがちな生活習慣において、「継続よりも『やめない』ことが大切である」という指摘。とにかく続けることばかりを考えていた自分にとっては、言われてみれば当然なのに、まったく思い至りもしなかった視点でした。

実際、2018年の1月に本書を読んで、いくつかの習慣を “やめない” で定着させることに成功。特にタスク管理や時間管理の面では目に見えて効率を高めることができ、仕事が捗るようになりました。そして新しい年を迎えた今、改めて生活習慣を見直すべく、また本書のお世話になっています。

読み終えておしまい──ではなく、手元に置いて継続的に使いたい1冊です。

 

『没頭力〜「なんかつまらない」を解決する技術』吉田尚記

「夢中」になれる人は強い。嫌々ながら取り組むのではなく、ただ自分の欲求の赴くままにやりたいことをやり続けて、成果を出すことのできる人。趣味でも仕事でも勉強でも、自然に「夢中」になって取り組める人こそが最強だと思う。

そうやって「夢中になる」ための方法を紐解いたのが、この本です。

タイトルでも本文でも「没頭」という言葉を使っているものの、意味するところは「夢中」とほぼ同じはず。即物的な快楽のためではなく、成功や承認を求めるでもなく、ある意味では自己完結的な「没頭」によって、毎日を楽しく過ごすための方法を考える──そんな内容です。

とは言え、誰もが同じ物事に、同じ方法で、確実に没頭できるはずもなく。

そこで本書では、「『なんかつまらない』を解決する」ことを目的として掲げ、「毎日を楽しく過ごすための方法」を探っていきます。まずは人間が「没頭」する条件を明らかにしたうえで、一人ひとりが思い思いの活動に「没頭」するための方法と考え方を提示し整理していく流れ。

印象的だったのが、「没頭するためには不安が不可欠」という指摘。不安なくして没頭することはできず、言い換えれば、それは「絶望」からしか生まれない。「絶望」は言いすぎな気もするけれど、「小さな不安やストレスこそが『没頭』の種である」という指摘は自分にも心当たりがあり、共感できました。

なんとなくモヤモヤを抱えている、自分の中の違和感を持て余している、物事に集中して取り組めない、自分の「好き」が見つけられない──そんな人たちにこそ読んでほしい本です。

 

『働く大人のための「学び」の教科書』中原淳

「30代以上のホワイトカラーのビジネスパーソン」を想定読者にしていますが、20代の若手社員や大学生にもおすすめです。

──「学ぶ」ことの重要性はあちらこちらで語られているものの、具体的にはどうすればいいのだろう。教科書やカリキュラムに従って学んでいればよかった学生時代とは異なり、「大人の学び」には明確な指針がない。自由すぎるがゆえに、「とりあえず本を読む」くらいしかできていない人もいるのではないかしら。

本書が示してくれるのは、そんな「大人」ならではの「学び」の指針。

なんとなく本を読み、マナー講座や勉強会に参加するだけでも、たしかに得られるものはあるでしょう。しかし、それが必ずしも実務で役立つとは限らない。

すべてが無意味とは言えないでしょうが、指針や目的のない学習ばかりを続けるよりは、結果につながる「学び」を得たい──そう考えている人もきっと多いはず。とはいえ、職種や環境が異なれば「学び」の方向性も変わってくるため、万人に当てはまる「これ!」という学習の方法はありません。

そこで本書は、「大人の学び」を実践している7人に話を聞き、その仕事人生をロールモデルとして紹介。自身の方向性に悩んでいる人は、彼らの “履歴書” がきっと参考になるはずです。

象徴的なのが、「大人は、何もしなければ、次世代の子どもよりも劣る存在になってしまう」という一文。漠然と日々を過ごしてしまっている若者に、活を入れてくれる本です。

 

『武器になる哲学』山口周

ビジネスパーソン向けの「哲学の入門書」であると同時に、「現代社会の問題を整理し紐解く実用書」。ただ単に哲学の理論を紹介するのではなく、それらを現代社会の問題や生活と絡めて解説する内容となっています。

それも「実例を交えることで難解な理論をわかりやすく説明する」のみならず、「ここで紹介した理論を使えば、日常の問題をこうやって捉えることもできるよ!」といった形で、実用的な「哲学の使い方」まで説明してくれている丁寧さ。読み物としても純粋に楽しめるため、門外漢でも気軽に手に取って読めます。

しかも筆者が「哲学の領域のみにフォーカスを当てて考察すること自体が、そもそも哲学的ではない」と断言していることもあり、本書では哲学のみならず、経済学・文化人類学・心理学・言語学などの理論も登場。話題が複数分野に跨がっているために飽きにくく、読んでいて知的好奇心が満たされるのを感じました。

哲学とビジネスを掛け合わせた類書は数多くあるものの、この点は本書ならではの魅力であると言えるでしょう。巻末にはブックガイドも掲載しているため、読んでいて興味を惹かれた分野の知識を深めるべく、次の本に向かうことも可能。まずは書店で、試しに手に取って読んでみてくださいな。

 

『弟子・藤井聡太の学び方』杉本昌隆

2017年以降、将棋界の外にまで波及した藤井フィーバー。

書店にも数多くの関連本が並ぶなかで、特に目を引いたのが本書でした。「藤井聡太」という1人の棋士を見守り育ててきた、師匠・杉本昌隆七段による著作です。

読み終えて最初に感じたのが、ものすごく学習意欲が高まる本だということ。

「藤井聡太」という棋士を通して見る「将棋の魅力」を説明しつつも、本筋は書名にもある「学び方」の視点。将棋以外の物事にも当てはまる「勝つ」ための考え方と、親や教師目線で「教える」にあたっての心構えが書かれています。教える側目線の本なのに、読んでいると不思議と学びたくなってくる。

それでいて、「師匠」の優しげな目線で「弟子」について書かれた本書は、読み物としても極上。天才棋士として注目され、大きな期待を背負って活躍する姿を誇らしく感じながらも、「しかし藤井聡太は藤井聡太です。それ以外の何者でもありません(P.240)」と言い切るところに、師匠のあたたかさを感じました。

師でありながら、他の誰よりも彼のファンである筆者によって書かれた、優しさと熱量に満ちあふれた読み物。将棋ファンもそうでない人にもおすすめしたい本です。

 

『りゅうおうのおしごと!』白鳥士郎

アニメの3話が放送されたくらいのタイミングで原作を手に取り、最新刊まで一気に読んだ。途中、少なくとも3回はマジ泣きした。序盤、中盤、終盤と、隙がなかった。

何と言っても、本作は「アツい」。少年マンガさながらの熱血展開に興奮し、大人が抱える苦悩や再挑戦の物語に強く共感させられ、てぇてぇ師弟関係に涙した。「手に汗握る」という表現がしっくりくるほどの対局描写は、もしかしたらアニメ以上にドキドキしながら読んでいたかもしれない。

特に3巻、少年少女を中心に据えたラノベ作品としては珍しく、「主人公を見守るお姉さんキャラ」の葛藤と凡人ゆえの苦悩を描いたエピソードでは、彼女と自分の年齢が近いこともあって、喫茶店で読みながら本気で涙を流してしまったくらい。巻ごとに焦点の当たるキャラクターが異なるため、読者それぞれに共感できるポイントがあり、中には思わず自分を重ねてしまうキャラもいるのではないかと思います。

一口に言えば「天才少年棋士と、彼のもとに弟子入りした少女の成長を描く物語」ではあるのだけれど、それだけにとどまらない人間ドラマがある。そして同時に、現代の将棋界のアツさを伝えんとする作品でもある。ラノベに苦手意識を持っている人にも自信を持っておすすめしたいシリーズです。

 

『ミライのつくり方2020-2045〜僕がVRに賭けるわけ』GOROman

個人的な話になりますが、2018年は「VR」と「バーチャルYouTuber」の年でした。

VTuber文化にハマり*1、VRライブに感動し*2、バーチャルキャストやイベントで好きなVTuberさんと触れ合い*3、尊みが天元突破して死んだ。「自分の推しと、リアルよりも近い距離で触れ合える」という体験は、自身の価値観を少なからず変え、VR世界への憧れを強くするものだったのです。

そんな「VR」の現状と展望を整理しまとめたのがこの、『ミライのつくり方2020-2045』です。筆者によれば、今はまだ普及段階にあるVR技術はやがて空気のような存在になり、人々の生活・娯楽・ビジネスなどのすべてを変えてしまう(かもしれない)──とのこと。

具体的には、「有名人やアイドルの『視界を提供するサービス』が生まれる」「現実の衣服と同様に、アバターの衣装や髪型を売買するようになる」「『先に買っておいてくれる』広告が出てくる」「バーチャル国家が誕生し、『生まれた国』とは別に所属するようになる」など、VR普及後の未来を予測。

最終的にVRのある生活は人間同士の付き合い方をも変え、「人の個性とは何か」を問い直すことになるのだそう。 ──でもこれ、“バ美肉” した人周辺のコミュニケーションを見ると、すでにある程度は現在進行系で変化しつつあるようにも見えるんですよね。

ますます加速しつつあるVRの現状を整理するにあたっては、今まさに読んでおきたい本。「VRのことはまったく知らないけれど、興味はある」という人にもおすすめです。

 

『VRは脳をどう変えるか?〜仮想現実の心理学』ジェレミー・ベイレンソン

VR研究の第一人者による解説書。仮想現実の「未来」を見通そうという先ほどの本に対して、20年にわたってそれを研究対象として取り上げてきた筆者による本書は、VRの「過去」と「現在」を整理した内容になっていると言えます。

曰く、「VR経験は『メディア経験』ではなく『経験』そのものである」

利用者の身体的感覚に訴えかけるVRは、小説・映画・テレビといった既存のどのメディアとも異なる「経験」をもたらすもの。「暴力的なゲームが犯罪につながる」という主張は今や明確に否定されていますが、ことVRに関しては「間違いなく我々の思考方法を変える」と筆者は断言しています。

しかもそんな特色を持つVRは、すでに多方面で実用化されつつあるという話。

いち早くVRを取り入れたアメフト界ではすでに目覚ましいトレーニング成果を上げているほか、テロや戦争に居合わせた数々のPTSD患者を救うVRソフトも開発され、医療現場では幻肢痛を和らげるのに役立っている。パイロットをはじめ命の危険を伴う専門職は実地訓練のリスクをゼロにできるし、机上の学習とは異なる「経験」ができるVRは教育とも相性が良い。

数々の実例を交えて紐解かれるVRの話はどれも興味深く、未来の可能性を感じさせるものばかり。他方では、問題点や懸念事項についても研究者の目線で説明されているため、VRの特徴と現状を整理するのに適した1冊であると言えるでしょう。今後、VRコンテンツに携わろうという人は、読んでおいて損はないはず。

 

『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』金水敏

Twitterなどでたびたび話題になる「役割語」を紐解いた本。

「〜じゃ」と話す老人、「よくってよ!」と話すお嬢様、「アルヨ」と語尾につける中国人──。現実では聞くことがないのに、なぜか特定の人物像と結びついている言葉遣い。現実の日常生活では使われないのに、誰もが知っているヴァーチャルな日本語。本書では、その成立過程に迫ります。

遡れば、「〜じゃ」に代表される〈老人語〉の原点は江戸時代にあり、それを全国に普及させたのが手塚治虫作品なのだとか。その他に〈お嬢様ことば〉や〈女性語〉が生まれる過程も探りつつ、「そもそも〈標準語〉とは何なのか?」というところにも話題が及ぶ。

「ヒーローはなぜ〈標準語〉を話すのか」「脇役はなぜ役割語を話すのか」といった切り口の分析もあり、物語作品が好きな人はきっと楽しく読めるはずです。

そして、言葉に流行があるように、「役割語」の役割も変化しつつある昨今。物語世界を飛び出して、自身の性質を示す一種のペルソナとして使う人も少なくなく、ネット上では〈女性語〉を話す男性の姿もあります。ある種の仮想言語だった「役割語」が当たり前に使われる日は、案外遠くないのかもしれません。

 

『「読む」技術~速読・精読・味読の力をつける〜』石黒圭

ブログのほかにライターとしても文章を書くようになり、強く実感したことがあります。

それは、「読めなければ、書けない」ということ。文章力だなんだと言うけれど、実はそれ以前の問題として、文章を正しく「読む」ことができなければ「書く」ことは難しいんじゃないか──と。

文章力を伸ばすための「書き方」を教えてくれる本は数あれど、意外に見当たらないのが「読み方」の本。その数少ない指南書の中でも “技術” としての読み方を教えてくれるのが、この本です。

本書によれば、書き手によって「文体」という個性が文章に表れるように、読み手にも各々の「読体」がある。精読するべき文章を速く読んでしまう癖がついていないか。速読してもいい文章を無駄に時間をかけていないか。そのような読み方の癖──「読体」の対象化と改善をめざすのが、本書の大きな目的です。

後半ではTPOに合わせた8つの「読み方」を個別に紹介し、読解力を身につけるための考え方を提示。自分の場合、ここで複数の「読み方」の視点を知ることで、否が応でも「書き方」を意識することに。それまでは書き手の目線で読んできた文章を、自然と読者目線で考えるようになりました。

良質なアウトプットは、良質なインプットから。「出力」のための「入力」を考えつつ、両方を合わせて学ぶことのできる本として、読み書きの質を高めたい人に勧めたい。

 

『1分で話せ』伊藤羊一

「どんな話でも『1分』で伝えることはできる」と仮定して話を組み立てる、「話し方」の指南書。どのようなコミュニケーション術の本よりもシンプルなタイトルそれ自体が、この本の特徴をそのまま示しているようにも読めますね。

本書がめざすのは、「コミュニケーションを通じて相手に動いてもらう」こと。必要なのは人前で発表するスキルではなく、上手に話すスキルでもなく、人に「動いてもらう」ための力。筆者はその力を「プレゼン力」と定義し、順を追って「伝え方」の本質を紐解いていきます。

ただし「プレゼン」に限定するわけではなく、多彩な場面を想定したハウツー本であり、本文では「ピラミッドストラクチャー」をはじめとしたロジカルシンキングの手法も登場。簡潔で論理的な話の組み立て方を説明しつつ、他方では相手の感情に訴えかけるような話し方の重要性も説いています。

「1分」という短い基準での考え方ではありますが、それゆえに「話し方」のエッセンスが詰まっていると感じました。

 

『恋する寄生虫』三秋縋

タイトルの「寄生虫」は喩えかと思っていたら、比喩でも何でもなかった。

互いの体に巣食う〈虫〉を媒介として絆を深める、歳の離れた男女──極度の潔癖症ゆえに人と関わることができない青年と、視線恐怖症ゆえに人前に出られない少女──の物語。

「要するに僕は人間に向いていないのだ」と話す彼の精神性に共感しつつ、ある種の「似た者同士」ゆえに惹かれ合う2人の関係性は、傍目から見ても応援したくなるもの。バッドエンドの予感しかない物語に光明を見出したくなるほどには、感情移入しながら読んでいました。

そして、都合のいい話かもしれないけれど、「虫のいい話」が人を癒やすこともある──そのことを強く実感しました。荒唐無稽なようでいて、そうとは感じられないほどに詳細な「寄生虫」の説明も魅力的。筆者である三秋さんの作品は本作が初めてだったので、今年は他の作品も読んでいくつもりです。

 

『時給三〇〇円の死神』藤まる

「労働基準法? なにそれ食べれるの?」とツッコみたくなるほどに、ヤバい “時給” がタイトルで踊っている本作。ひょんなことから “死神” のアルバイトをすることになった主人公と、彼をスカウトした少女の2人が、《死者》との交流を通して成長していく作品です。

「死者の未練を晴らすために奮闘する少年少女の青春小説」とだけ書くと、ありふれた物語だと感じる人も多いかもしれない。ただ、本作を取り巻く雰囲気は思いのほか暗め。《死者》との交流は心温まるものばかりではなく、想像以上に絶望に満ち満ちていました。……ハートフル? いいえ、ハートフルボッコ作品です。

家族と仲違いしたまま、不慮の事故で死んだ学生。定職に就けず、家族も壊し、社会の理不尽さを呪いながら死んだ中年男性。虐待を受け続け、殺されてなお母親を求める子供。夫から愛されず、子供を産むことだけを求められ、出産後は使い捨てられたも同然の新婚生活を送る女性。……まっこと、救われない話ばかり。

その他の世界観もかなり絶望的な設定になっているものの、それゆえに際立つ「希望」もある。絶望しかなく、その行為に意味などないと知りながらも、何かを残そうと奮闘する少年少女の姿。紛れもない「別れ」の物語でありながら、次へ次へと何かを伝えていこうとする、「恩送り」の物語でもあると感じました。

 

『平浦ファミリズム』遍柳一

これまでずっと使ってこなかった「エモい」という言葉を、本作を読んで初めて口に出した。

決してハートフルではない、むしろ読んでいて胃が痛くなってきそうなエピソードも交えつつも、最後にはあたたかな気持ちを抱きながら本を閉じられる、「家族」の物語。

トランスジェンダー、引きこもり、不登校──世間的には「普通じゃない」と称される平浦家の過去は、読んでいて辛くなってくるほど。でも同時に、物語が進むにつれて描かれる「他人」との関係性や「世間」との向き合い方は、特に「普通じゃない」ことに悩む人を勇気づけてくれるのではないかと思います。

そして当然、家族の中では「普通」に見える主人公も問題を抱えており、徐々に変化していく彼の心情と、それに伴う終盤の展開がエモいのです。信用ならない外部の人間が、 “かけがえのない他人” となる瞬間。彼の抱える問題を知りながらも、静かに見守ろうとする家族の思いやり。あったけぇ……。

 

『Hello,Hello and Hello』葉月文

何度も何度も繰り返し「見ず知らずの女の子に声をかけられた」場面から始まる物語。

ある時は学校からの帰り道で。ある時は駅前の小さな本屋で。ある時は学校のグラウンドで。ある時は図書館で。ある時は何の変哲もない空き地で。話しかけられる “彼” はいつも “彼女” のことを知らず、話しかける “彼女” はいつも “彼” のことを知っている。

世界がループしたり、パラレルワールドに分岐したりしているわけではない。ただ、両者は世界によって明確に分かたれており、切なく尊い恋愛模様が描かれる。透き通るような冬の情景描写と、それに絡めた心情表現が印象的な作品です。

電撃文庫ということもあって、おそらくは10代後半〜20代前半に向けた物語。でも同時に、恋愛小説が好きな大人にもこっそりと勧めたい、少年少女のありふれた恋物語でもある。強いインパクトでもって価値観を揺さぶられる作品ではないけれど、きっと心の片隅に残り続ける、素敵な「別れ」の物語でした。

 

『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』しめさば

“家出JKと26歳サラリーマンの共同生活” とだけ聞くと、「それなんてエ口マンガ?」な設定。

ところがどっこい。多くのライトノベルよろしく、ちょいエ口展開があるかと思えばそうでもなく、常にラブコメしているわけでもない。「現実」の息苦しさと「虚構」の温かさが同居した、不思議な読み心地の作品でした。

倫理観の塊のような主人公には好感を持てるし、男女関係を抜きにした適切な「子供」と「大人」の関係性を考えさせられるストーリーは、一周まわって新鮮に感じる。かと思えば、現実にもある「大人の悪意」をはっきりと描くなど、読んでいてやるせない気持ちになる場面もありました。

温かな共同生活を描くとともに、現実の汚さも遠慮なく突きつけていくスタイル。ラノベ的な文脈を汲みつつもどこか一般文芸寄りな印象も受ける本作の物語は、リアルの息苦しさを少し和らげてくれるようにも感じられました。続刊も評価が高いようなので、引き続き追いかけていくつもりです。

 

過去の年間おすすめ本まとめ