VTuberのFPS大会を舞台にした物語がおもしろくないはずがない!『FPSゲームのコーチを引き受けたら依頼主が人気VTuberの美少女だった』感想


久しぶりにライトノベルを読んだ。本当に久しぶりすぎて、もう何年ぶりかも覚えていないレベルである。前回は何を読んだのか確認するべく、こんな時こそブログに書いている読書記録を参考にしよう――と思ったのだけれど、最近はあまり感想も書けていないことに気づいた*1。インプットしたい情報が、摂取したいコンテンツが多すぎて、時間が足りなすぎる。たすけて。

数年ぶりのラノベ復帰戦の相手となったのはこちら、『FPSゲームのコーチを引き受けたら依頼主が人気VTuberの美少女だった』だ。

昨今のラノベタイトルの例に漏れず長いので、公式略称の『えふぶい』と以下呼称します。この手のタイトルであらすじをガガッと説明するタイプのラノベを読むのも久方ぶり……というか、そもそも摂取できていなかったのでは? それでもライターか? あれだけ好きだった『俺ガイル』も積ん読してなかったっけ? ……いや、違うんです。ちゃんと新刊が出るたびにポチってたんだけど、あの物語が完結を見てしまうのが怖くてもったいなくて読めてないだけなんです! ……え? 2023年現在も続刊中? よっしゃ読みます。

――という感じで「ラノベ」というジャンルに触ること自体がしばらくぶりなわけですが、そんなことよりも『えふぶい』です。

今回、ちょっとしたご縁があって献本いただいた本作。趣味サイトのほうでも情報をまとめているのですが、想像以上におもしろかったので、ブログのほうでも言及しておきたくなりまして。ゆるっと感想をまとめておこうと思い、こうしてキーボードに向かっている次第でございます。ラノベ復帰戦、対戦よろしくお願いします。

 

VTuber×FPS×青春ラブコメ〜!?ざっくりあらすじ

タイトルにもあるとおり、「VTuber」と「FPSゲーム」を題材としている本作。その大まかな筋書きは、こうだ。

過去に伝説的プレイヤーとして名を馳せるも、表舞台からは姿を消していた主人公。しかしある日、ずっと放置していた古いパソコンに「コーチをしてほしい」というメールが舞い込む。話だけでも聞いてみようと連絡を取ってみたところ、依頼相手は、超絶美少女の人気VTuberだった――。

登場するVTuberが尽く美少女、かつ主人公と同年代の学生、そしてチャンネル登録者数も数万単位――という「これぞラノベェ!!!」な設定に、人によってはそれだけでお腹いっぱいになってしまうかもしれない。いや、でも実際、リアル10代の個人勢VTuberがブイブイいわせている世界があったらいいなとは思う。現実に当てはめると、いったい誰になるんじゃろうか……個人勢VTuber……登録者数10万オーバー……美少女……( ゚д゚)ハッ! 兎鞠……!?

ありそうでなかった掛け算と、アツくならないわけがないモチーフ

とはいえ、そういった「お約束」はあくまでも本作の下地に過ぎない。それよりも特筆すべきは、「VTuber」と掛け合わされているもうひとつの要素、「FPS」だ。ラノベの題材として珍しくないゲームジャンルではあるものの、意外とまだ「VTuber」との掛け算はなかったのではないかしら。「作中描写としては頻出かもしれないが、FPSを主軸に据えているVTuberラノベはまだ見かけない」という意味で*2

VTuberとFPS――。普段、VTuberを見ていない人はピンとこないかもしれないけれど、VTuberの存在が広まっていくにあたって、FPSが果たした役割は決して小さくはない……と、個人的には思っている。そもそも「バトルロイヤルFPS」の盛り上がりがすさまじかったし、その流行の最中でたびたび開催されていた大会では、ゲーム実況者や芸能人と並んで、VTuberもそれなりに存在感を発揮していたからだ。競技シーンとの接点にもなっていたし、FPSきっかけでVTuberに興味を持った人は少なくないんじゃないだろうか。

そんな2つの要素の掛け算は、「考えてみれば定番だけれど、ありそうでなかった」タイプの作品設定と言えるかもしれない。

実際、この『えふぶい』に登場する大会も実在の大会をモチーフとしているような節があり、気づいた瞬間に「やられた!」と思った。いや、厳密に言えばモデルは複数あって、全部が全部「これ!」と断言できるものではないとは思うけれど。作中に登場するFPS『Summit Cross』も複数のゲームのハイブリッドっぽいし。

ただ、本作で描かれる「VTuber主催の大会」……こればっかりは、明確なモデルがあるようにしか見えなかった。すでに複数回にわたって開催されており、いつも決まってトレンド入りするほどの話題性と白熱ぶりを見せ、期間中は事務所の壁を超えたVTuber同士の交流を楽しむことができ、数多のドラマが生まれてきたお祭りイベント*3。主催者の名前と背景にもなんとなく繋がりが感じられたし、大会のシステムも踏襲している様子。なにより、作中でも象徴的に描かれているチームのモデルが、おそらくはSta……ゲフンゲフンっぽかったので。

――そんな、現実でもめちゃくちゃアツい大会をモチーフにした物語が、アツくないわけがないじゃん?

しかもおもしろいのが、「実在する大会がモデルであると思しき作中の大会に、実在するVTuberを登場させている(38人も!)」という点。もちろん、本当にその大会に出場していたVTuberが出てくるわけではないものの、「物語の中に実在するVTuberを登場させる」という構造がなんだかおもしろかった。だってこれ、見方によっては「メタにメタを重ねる」ような挙動で、最高に「バーチャル」って感じじゃないです?

「教官もの」の味付けがもたらす、激アツ展開

ここまで「FPSとVTuberの掛け算がおもしろい」というような話をしてきましたが、それだけではございません。本作には、それ以上におもしろく感じたもうひとつの「掛け算」の要素がある。

それが、「教官もの」というジャンル性。この『えふぶい』という作品の独創性をあげるとすれば、これは外せないんじゃないかと思う。「FPS」と「VTuber」の掛け算はまだわかるけれど、なぜそこに「教官もの」なんて要素を組み合わせようとしたのか。そんな疑問をいだく人もいるかもしれませんが、全体を通して読んでみると、この組み合わせが違和感なく成立するのみならず、むしろこの掛け算があるからこその激アツ展開が生まれていて驚いた。

ただ、タイトルがそもそも『FPSゲームのコーチを(略)』なので、訓練されたラノベ読みの方からすれば自然と読み取れる部分もあったのかもしれない。一線を退いたかつてのレジェンドが指導者として帰還し、現役プレイヤーにコーチングを行う物語構成。自分は作者さんの後書きを読むまで、「あっ! そういう掛け算だったんだ!」と気づけませんでした。てへぺろ。

「FPS×VTuber×教官もの」という掛け算の、いったい何がおもしろかったのか。一言で説明するなら、「“コーチ”目線でのドラマが生まれていたから」だと言えるかしら。

モチーフとなった大会にも存在する「コーチ」をまず主人公に据えて、さらにそのキャラクター自身の背景も、あらかじめ要所要所で紐解いておく。基本的にはコーチとして見守る立場でありつつも、物語が展開していくのにしたがって、主人公自身もまた現役世代のドラマに巻き込まれ、忘れていた熱を胸のうちに宿すようになる。そのような変遷を経てたどり着いた終盤の展開が、実在するVTuberのFPS大会で見られるのとはまた違った熱をはらんでいて、個人的には激アツだったわけです。

あんまり詳しく書くとネタバレっぽくなっちゃうかもですが、その「アツさ」の演出と、ストーリー上での魅せ方が、これまた絶妙だったんすよ……! 大会ならではの“ある要素”をうまくストーリー上で活用することで、「教官もの」としての激アツ展開を演出していた格好。こんなんズルいやん! 前日譚とか後日談とかめっちゃ読みたくなるやつやん!

そんなことを考えつつ、そういえば背表紙に「1」の文字が書かれていたことを思い出した。これは、つまり……そういうことですね? 期待していいんですね? 献本とか関係なく、普通に夢中になって一気読みしちゃったので、続刊出たらポチりますよ?

というわけで、『えふぶい』こと『FPSゲームのコーチを引き受けたら依頼主が人気VTuberの美少女だった』の感想記事でした。本作を読んで「そういえば、VTuberを題材にしたラノベは読めてなかったなー」と思い出したので、ちょこちょこ手を付けていこうと思います。

――あ! もちろん、ラブコメ要素もいいぞ! メグちゃん推しです!! スパチャ投げさせろオラァ!!(過激派)

 

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*1:遡って確認してみたかぎりでは、2019年に読んだ『これは学園ラブコメです。』が最後っぽい。4年前。マジ??

*2:もし前例があったら教えてー! 読みます!!

*3:みなさんご存知のアレ、ですよね?