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214回の出会いと、一度きりの別れの物語『Hello,Hello and Hello』

この物語を一言で表すなら、以下の一文に尽きると思う。

 

わたしたちは、このたった一度の別れの為に出会い続けてきたのだ。

(葉月文著『Hello,Hello and Hello』Kindle版 位置No.2,846より)

 

とは言っても、「別れの為に出会う」のは当たり前。人のつながりをちょっと詩的に表現しようすれば、この手の言い回しはいくらでも思い浮かびそうな気もする。誰しもが死に向かって生きている──語弊を恐れず言えば「死ぬ為に生まれてきた」人間は、いつも「別れの為に出会」っている。

ただし、「たった一度の別れの為に出会い続けてきた」と書くと、その意味合いは少し異なってくる。──そう、これは、強く強調された “たった一度” きりの別れのために、繰り返し “出会い続けてきた” 物語。

 

 

第24回電撃小説大賞の金賞受賞作。
葉月文@myfragmentさんの『Hello,Hello and Hello』を読みました。

 

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繰り返される「初めまして」が意味するもの

 これは僕が失った、二百十四回にも及ぶ一週間の恋の話だ。

 そして──

 これはわたしが手にした、四年に及ぶたった一度きりの恋の話。

(葉月文著『Hello,Hello and Hello』Kindle版 位置No.20より)

 

本作冒頭を読んで、反射的に「ループものかな?」と思った。同じ季節を繰り返す恋の物語か、はたまた並行世界ものか──。いずれにせよ、ライトノベルとしては決して珍しくはない世界の話。良い意味でありふれた、しかし世界によって分かたれた、少年少女の恋模様。

実際のところ、本作も同様の流れを汲んでいることは間違いない。ただ、同じ時間を繰り返すループものではないし、並行世界をめぐる展開もない。時の流れは当然のごとく一方通行で、出会った2人は同じ時間を過ごしていく……ように見える。一応は。

主人公・瀬川春由はある日、自分のことを知っている少女・椎名由希と出会う。1つ年上の由希は春由のことを「由くん」と呼び、彼のことを前から知っているような素振りをたびたび見せる。覚えのない「約束」を口にし、小悪魔的に彼を振りまわす彼女は不思議で、でも魅力的な存在に映る。

本作ではそんな2人の出会いが、章ごとに違った形で、何度も描かれる。

 

学校からの帰り道で。
駅前の小さな本屋で。
学校のグラウンドで。
図書館のスペースで。
何の変哲もない空き地で。

 

繰り返し繰り返し「見ず知らずの女の子に声をかけられた」場面から始まる、7つの物語。

時系列もバラバラに、ある時は中学生の、ある時は高校生の春由の目線で出会う由希。彼女はいつも彼を知っていて、彼はいつも彼女を知らない。繰り返される「初めまして」には、いったいどんな意味があるのだろう──そんな気持ちで読み進めることになった。

 

きっと心の片隅に残り続ける、素敵な“別れ”の物語

正直に言って、ありきたりと言えばありきたりな話だとも思う。思春期の男女2人の、ありふれた恋物語。若干の特殊な設定はあれど、それが特別に真新しいものというわけでもない。そういう意味では、ストーリー構造や舞台設定の特異性を求めて読もうとする人にはおすすめできない。

しかし一方で、本作ならではの魅力もある。全体としてはライトノベル調ながら、どこか季節の色彩と匂いを感じられるような文章表現。特に透き通るような冬の情景描写とそれに絡めた心情表現が印象的で、読み進めるうちに、自然と脳裏に寒空の広がる街並みが思い描かれるほどだった。

そして何より、ヒロインである「由希」というキャラクターの魅力が大きい。

春由の視点で物語が始まり、必然的に彼へと感情移入しながら読み進めることになる本作。ところが途中、「見ず知らずの男の子に声をかけられた」場面から始まる挿話があり、以降はたびたび由希の視点でも話が展開していく。作品世界の謎が明らかになるその章からは、彼女の胸中も描かれるようになるのだ。

そこからはもう、由希という独りの女の子を応援するばかりだった。気づけば彼女の側に感情移入し、切なさとやるせなさに心動かされ、幸福な結末を切望せずにはいられなかった。春由と楽しいひとときを過ごし、2人の関係性が進展し、素敵な未来を築ければいいと。そう願うようになっていた。

誤解のないように書いておくと、バッドエンドではない……と思う。本作が「出会いと別れの物語」であることは冒頭で示されていたし、着地点もご都合主義ではなく、読後感は想像以上に爽やかだったので。素直に「素敵な物語を読めた!」という心地よさを抱いたまま、気持ちよく本を閉じることができた。

 

──ただし、それもあとがきを読むまでは。

 

いや、あとがきに重大な事実や感動的なエピローグが書かれているわけでないんです。単なる小話というか、「執筆中にこういうことがあったよ!」という筆者さんのエピソード。

ただ、どうやら自分にとってはその一文がツボだったらしく、「そんなんズルいやん……」と、軽く泣かされてしまったのでした。……いや、泣いてないっす。軽く涙腺にビビッときただけっす。涙は出てない。ノープロブレム。問題ない。でもやっぱり、心底から素敵だなぁと感じたんですよね。

電撃文庫ということもあって、おそらくは10代後半〜20代前半に向けた物語。でも同時に、恋愛小説が好きな大人にもこっそりと勧めたい、少年少女のありふれた恋物語でもある。強いインパクトでもって価値観を揺さぶられる作品ではないけれど、きっと心の片隅に残り続ける、素敵な “別れ” の物語でした。

 

「誰かの心にずっと 棲むことが出来るなら、それくらい愛されたのなら、それはきっと命への祝福だから」

(葉月文著『Hello,Hello and Hello』Kindle版 位置No.1,597より)

 

 

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