ワクワクする未来はすぐそこに!VRの現状と今後を紐解く本『ミライのつくり方2020-2045』


 自分が初めて「VR」に触れたのは、ちょうど1年前のこと。友人を誘って訪れた『VR ZONE SHINJUKU』で触れたゲームが、いわゆる「VR」との出会いだったと記憶している。

 上下左右、どこを見まわしても「ゲームの中」にいるとしか思えない感覚に興奮し、夢中になり、その世界に没入するほどに楽しんだ思い出。マリオになってカートを走らせ、シンジになってエヴァを操縦し、廃病院で恐怖体験を堪能し……最終的には、机に突っ伏して動けなくなるほどだった。

 ──興奮しすぎて疲れたのかって?
 ──いいえ、VR酔いです。

 もともと乗り物に酔いやすい自分にとって、長時間のVR体験は思っていたよりもハードだったらしい。3つのゲームを終えるころにはすっかり気持ち悪くなっており、しばらく動けなくなるレベルでダウンすることになったのでした。楽しかった……けどキツかった……。

 それ以来、意識的にVR関連の情報を追うようにはなったものの、我が家にHMDを導入するまでは至らず。そして迎えた年末、12月に “のじゃロリおじさん” ことねこます*1さんの動画にハマったことをきっかけに、今度はバーチャルYouTuberの動画を観るようになる。

 あれから半年が経ち、今や「VTuberの配信を観る」ことが生活の一部になっている今日この頃。

 二次元キャラが話している絵面には一瞬で慣れ、おじさん声も自然と受け入れ、それどころかTOKIMEKIすら感じている。目下の夢は「バーチャル受肉する」ことであり(ただしお絵かきスキルはない)、美少女の皮をかぶったおじさん同士のキャッキャウフフに混ざりたいと、常日頃から爪を噛み噛みうらやましく思っている僕です。ちなみにまきりむ派です*2

 ──と前置きが長くなりましたが、そんなVRの現状と展望を整理した本『ミライのつくり方 2020-2045』を読みました。

 筆者は過去にオキュラス・ジャパンチームの立ち上げに尽力し、フェイスブック・ジャパンでVRの普及に務めてきた、GOROman@GOROmanさん。「『マッハ新書』の提唱者」と書いたほうがピンとくる人もいるかもしれませんね。

 日本国内におけるVR普及の最前線で活動してきたGOROmanさんが語る “ミライ” とは、どのようなものなのか。VRの知識がまったくない人が昨今の盛り上がりを知るのにも役立ちそうな、まっこと読みやすくわかりやすい1冊でした。

 

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VRが世界を変える?

 いずれVRという技術そのものが空気のような存在になって、未来の人々の生活・娯楽・ビジネスその他すべてを変えてしまうだろう……ということを僕なりに予測して書いた本です。

(GOROman著『ミライのつくり方 2020―2045』P.3より)

 以上のような前書きから始まる本書。

 筆者・GOROmanさんの半生を振り返る冒頭から、VRとの出会いと、2013~2016年にかけての日本における普及活動を追った前半を経て、後半では「VRは今後、私たちの生活と社会をどのように変えるか」をQ&A方式で解説していきます。

 それによれば、最終的にVRは「国」をもつくりえるのだとか……?

 前半はどちらかと言えば筆者さん自身の「価値観」の話になっているのですが、これが思いのほかおもしろかった!

 世代は異なるかもしれませんが、「パソコン通信(インターネット)を介することで、同じ価値観を持つ人たちと出会えた!」という原体験に共感できる人は多いはず。また、ものづくりに対する姿勢などは、特にプログラマーさんであれば頷ける箇所も多いのではないかしら。

 語られるのは、「新しいものや、自分がおもしろいと思ったことを人に伝えたい」という、筆者さんの強い思い。僕自身にはプログラミングの知識も、物事に取り組むバイタリティもありませんが、それでもこの考えにはすごく共感できました。好き好んでブログなんてものを書いているくらいですしね。

 そしてGOROmanさんの場合、なかでも本当に心底から「伝えたい」と感じたのが、VRの技術だったのだそうです。

 ポジショントラッキングのデモ動画*3に興奮し、オキュラス・リフトの登場に衝撃を受け、「このすごさを伝えなくては!」と奮起。その過程で『Mikulus』*4をつくり、それが国内外から注目され、やがてオキュラスを日本に広めるべく奔走することになったのだそうです。

「バーチャル国家」が誕生する?

 では、もしこのまま順調にVR技術が普及していった場合、生活や社会はどのように変わっていくのでしょうか。書名にもあるように、まずは「2020年」がターニングポイントになるとのこと。そのうえで、VRの前にAR技術が発達&一般化すると説明しています。

 ARとVR──両者の違いを示す切り口はいくつかありますが、本書ではシンプルに「ARは『足していく』技術」「VRは『代替していく』技術」として説明しています。「拡張現実」とも表現されるARは、現実に「情報を足す」技術。『ポケモンGO』などの例がわかりやすいですね。

 「将来的にはARとVRの違いは小さなものになる」と書かれている一方で、おもしろかったのが「音のAR」について。

 これは現実世界の音に対して、音楽やナビゲーションといった音の情報を付け加える技術。たとえば美術館で使われる音声ガイドなどは、「音のAR」と相性が良いと言えそうですね。そういえば過去に行った特別展で、「特定の作品の近くに行くと、自動で音声が流れる」という仕掛けがあったような……*5

 このようなARの話題があるかと思いきや、2045年を見据えた「VR普及後の社会」まで考えていく視点もあり、こちらが本書の肝。いくつか挙げると、以下のような予測をしています。

VRの普及で生活・社会はどう変わる?
  • 有名人やアイドルの「視界を提供するサービス」が生まれる
  • アバターでコミュニケーションするのが当たり前になる
  • 不必要な長距離移動が減る一方、特別な体験が伴う「移動」の価値が高まる
  • 現実の衣服と同様に、アバターの衣装や髪型を売買するようになる
  • 「先に買っておいてくれる」広告が出てくる
  • 技術の進化によってできた余暇で、人間はクリエイティブになる
  • 教育は「一対多」から「一対一」に変わっていく
  • バーチャル国家が誕生し、「生まれた国」とは別に所属するようになる
  • 文化や理念への共感を基準として「自分の属する国」を決めるようになる

 以上の予測が実現するかどうかはさておき、「バーチャル国家」の考え方はとてもおもしろく感じました。すでに「電子国民」の概念を取り入れているエストニアの例も挙げられていますが、仮想的な国が生まれた場合、行政上の扱いはどうなるのかといった点も含めて語られていて興味深い*6

 たとえば、優れたEラーニングが提供されている国の「電子国民」となり、そのバーチャル国家に納税することによって、教育を含めた仮想空間上の「非物理行政サービス」を享受することができるようになる──というような。もちろん、実際に暮らしている「物理国」においても納税義務はありますが。

 仮想的な国で過ごし、そちらに納税することが多い場合にも、「物理行政サービス」には一定の費用がかかり、それは直接の納税でもいいですし、他国から「その国の電子国民が利用した物理行政サービスの利用料として、実際の居住国に支払われる……という仕組みも成り立つかもしれません。バーチャルな国でも必要で成り立つ「非物理行政サービス」と、実際に動かねばならない「物理行政サービス」に分かれ、それぞれを提供する存在として、国の役割が分かれる、と考えることもできるでしょう。

(GOROman著『ミライのつくり方 2020―2045』P.237より)

 もしもバーチャルな国家が普及することになれば、現実の日本の人口は減っていく一方だとしても、 “バーチャル日本” としての電子国民は増えていくようなことだってあるかもしれない──。

 それが良いことなのかどうかはさておき、想像するぶんにはおもしろいですよね。たとえば将来、列島単位で限界集落と化した日本に対して、仮想の “バーチャル日本” ではAIによってアニメやマンガが生み出され続けている──なんて近未来も考えられそう。ディストピア的ではあるけれど。

 そしてそのような社会の変化に伴い、VRのある生活は人間同士の付き合い方をも変え、「人の個性とは何か」を問い直すことになるのだそうです。インターネットの普及は「人と人とのつながり」を劇的に変えた印象がありますが、VRは「個性」との向き合い方をも変えていく、という話。

VRによって可視化される「個性」

 でもこれって実は、2045年まで待つまでもないのでは……? むしろ今まさに、現在進行形で「個性」を問われているような気がするのです。

 だって、「美少女アバターの皮をかぶったおじさん」の存在は言うに及ばず、「美少女の姿をしたおじさんVTuberが、女の子の声(あるいは地声)でイチャイチャしている」様子が全世界に向けて放送されているんですよ……? しかも、それを「かわいい」「ガチ恋した」「エッッッッ」などとコメントしながら見守っている僕らもまた、おじさんであるという。

 つまり、「かわいいおじさんを見守るおじさんが、おじさん同士の会話によって胸をときめかされている」という光景が、すでに一部界隈では当たり前になりつつあるわけです。配信者も視聴者(の多く)もおじさんなのに、画面に映っているのはかわいい女の子の姿。この現状こそ、まさしく「人の個性とは何か」を問い直されていると言えるのではないかしら。

 ──ということで長くなりましたが、GOROmanさんの著書『ミライのつくり方』を簡単に紹介させていただきました。

 輝夜月*7ちゃんの帯が目立つものの、あくまでもメイントピックは「VR」全般について。それも技術まわりの難しい話ではなく、主に「日本国内におけるVRの普及と今後」についてまとめた内容となっています。なので、VRにまったく関心がなかった人が読む、最初の1冊としてもおすすめできるかと。

 僕も早くこの波に乗りたいけれど、まずは機器をそろえないことには始まらないんですよね……。がんばってお金を貯めよう……。

 

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