『りゅうおうのおしごと!』がアツい。アニメを3話まで一気に見て、ビビッときた。これは原作も読むしかあるめえと、積ん読状態だった原作を手に取り、夢中になって読み耽り……気がつくと、最新刊まで読破している自分がいた。
そしてその間、少なくとも3度、マジ泣きした。序盤、中盤、終盤、隙がないと思うよ。
想像以上に熱中し、惚れこみ、すっかりその魅力に取り憑かれてしまった自分。アニメ放映中の今だからこそ原作をおすすめしたく思えたので、その魅力をちょろっとまとめてみました。『りゅうおうのおしごと!』はいいぞ。
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良い意味で裏切られた、「将棋」を題材としたライトノベル
『りゅうおうのおしごと!』は、竜王・九頭竜八一と、その弟子・雛鶴あいを中心に据えた、熱血将棋ライトノベルである。──と、今でこそ知ってはいるけれど、当初は「ゆるふわ部活ものかな?」という印象を持っていた。もしくはドラクエのパロディ的な何か。世界の半分ちょーだい。
ほら、最近よく見る、「部活(特定の趣味)×かわいい女の子」の組み合わせで人気を博するマンガ。ああいった系列の作品に見えていたんですよね。ゆえに、 “竜王” という将棋界のタイトルの名前を冠してはいるものの、将棋部とか地域の将棋クラブとか、小さなコミュニティが物語のスタート地点になるのかと思っていた。
ところがどっこい。すでに本作に触れたことがある人はご存じのとおり、主人公は紛れもない “竜王” である。物語冒頭ですでにその称号を獲得しており、高校へは進学せず、(スランプ真っ只中とはいえ)将棋一筋で生計を立てるプロ棋士だ。この時点で、「部活もの」の要素はかき消えた。
そんな若き竜王の元に押しかけるかたちで現れたのが、弟子志望の女子小学生・雛鶴あい(9歳)。竜王戦の最中、もがき苦しみ、のたうち回りながらも戦う八一の姿を見て将棋を志し、わずか3ヶ月で詰将棋の最高峰を解くほどの棋力を身につけた天才。かわいい! アホ毛! ロリっ娘!
プロの世界で懊悩する若き竜王と、彼を支えつつ、自らも女流棋士を目指して将棋界へと飛びこんだ女子小学生。つまるところ本作は、2人の「天才」の成長物語なのだ──と、そのように感じた。少なくとも、アニメを3話まで観た時点では。あるいはロリコンホイホイアニメ。しゃうちゃんはてんしだぉー?
3話まで観たところで、「そういえば原作を5巻までポチって放置していたような……」と思い出し、まずは1巻を読了。2人の出会いと竜王戦の描写から始まるアニメ版1話に対して、「ししょうの玉(ぎょく)……すっごく固い……」で始まる原作のプロローグに、思わずにっこり。
……うん! 知ってた!
なんたって、『のうりん』の作者さんですもんね!
早い段階で下ネタが来るだろうと思ってたら、第一声からそれだった。実家のようなの安心感。プロローグを抜きにしても、第1章の冒頭も「オシッコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」だからね。すごいね。あとでおち○ぽ星人も出るしね。
ところが、その後しばらくして、本作に対して自分が抱いていたイメージが間違っていたことに気づかされる(下ネタ的な意味でなく)。ちょうどアニメ3話のラストと重なる原作1巻を読み終え、2巻はアニメの放送に合わせて読もうかな……と考えていた矢先のこと。
ページをめくる手を途中で止められず、夜更かしして最後まで読んでしまったのだ。
「スポ根」と書くと語弊があるかもしれないけれど、スポーツを彷彿とさせる対局の描写が、とてつもなくアツかった。キリの良いところで止めようにも、どうにも止まらない。特に、駆け足ぎみのアニメでは省略されてしまった会長戦が、完全に熱血バトルマンガのそれだった。
その対局に際して語られたのが、 “傍若無人、悪逆非道の行い” としての “竜王のお仕事” 。このタイトル回収はアツい。
そして盤を挟んで向かい合うは、悪の竜王と盲目の永世名人。しらびさんのイラストを間に挟んで描かれる対局の演出が、これまたニクい。
──こんなん読まされて、燃えないほうが嘘でしょう! アニメ5話冒頭、あいちゃんの怨嗟に満ちた声で語られたコメディ調の “りゅうおうのおしごと” ではなく、勝負師としての “竜王のお仕事” が登場する2巻。アニメでは伝えきれない地の文も含めて、いろいろな意味でアツかった。
そして、3巻。すっかり本作の虜になった自分は、予想もしていなかった展開にマジ泣きさせられることになる。
「持たざる者」の戦いと、十人十色の目に映る「将棋」の魅力
『りゅうおうのおしごと!』は、若き天才棋士2人の成長物語──ではない。もちろんその要素もあるけれど、それだけではない。
本作は、「将棋」に打ちこむ人間を複数の視点から描き、白熱する対局で魅せ、そこに師弟・友人・家族といった関係性を絡ませることで、夢と憧れと苦悩が入り交じったドラマを演出している。最新刊に向かって読み進めるなかで、作品に対する印象はそのように変わっていった。
特に3巻は、思いもしない方向に話が広がったので驚いた。
新たな弟子・天衣を迎え入れたことで、今後は2人のJSが互いに競い、棋力を高め合っていく──のかと思いきや、一転。語られるのは、2組の父娘と、凡人の物語。女流棋士への一歩を踏み出せるかどうかの年齢制限が間近に迫る、八一たちの姉貴分・清滝桂香にスポットが当てられる。
八一の師匠・清滝鋼介もそうだけれど、そもそもラノベにおける「大人」と言えば、多くは主人公ら若者を見守る立ち位置にいるイメージが強い。
両親だったり、先輩だったり、先生だったり。普段はアホみたいなことをしつつも、いざという時には良き助言者となる存在。そんなイメージ。
本作における桂香も、初登場からして「お姉さん」然としていたし、「主人公よりも少し年上の憧れの女性」として描かれているように見えた。2巻の天衣との対局では悔し涙を流す場面もあったものの、本筋には関わってこない、あくまでサブキャラクター的な役回りなのだろうと思っていた。
しかし蓋を開けてみれば、3巻において、彼女は「もう1人の主人公」の立ち位置にあった。
年齢というタイムリミットに焦り、身近な若い才能に嫉妬し、己の凡人っぷりを嘆き、憧れと諦観、夢と現実の狭間で葛藤する桂香の姿。それは、決して物語の型通りの「主人公を見守るお姉さんキャラ」ではなく、血の通った「将棋を愛する夢追い人」だった。
3巻で描かれるのは、そんな棋士の戦い。大人だとか子供だとかは関係なく、「将棋がだいすき!」と叫びながら、傷つきながら、それでもあがき続ける、1人の人間の物語。
──そんなん読まされたら、燃えたぎらずにはいられないでしょうよ!
自分自身、ほかのキャラクターと比べれば最も桂香と年齢が近いこともあり、その生き様と精神性に強く心を震わされ、アツいものがこみ上げてきたと思ったら……いつの間にか、泣いていた。
2巻の時点で「ええ話や……ツンロリ天衣ちゃんかわゆす……」などとそれなりに感動していたのに、3巻では、本気で涙を流すレベルで泣かされたてしまったのだった。マジで泣くとは想定すらしていなかったので、我ながらびっくり。それくらい、終盤の独白とイラストのコンボががズルかったし、感じさせられる部分があったのだと思う。けーかさん……結婚しよ……。
その後、「さすがに3巻以上に泣かされることはないっしょー」とたかをくくっていたのだけれど、4巻では師弟愛にコロッと泣かされ、5巻は後半、長時間にわたって涙が乾くことなく溢れっぱなしで、7巻も最後までは涙腺が緩むのを耐えきれなかった。
もちろん、筆者の文体の合う合わないもあるでしょうし、誰もが感動して泣くような作品ではないはず。ただ、人それぞれに共感できるポイントがあり、思わず自分を重ねてしまうキャラクターがいる作品なんじゃないかとも思う。それほど、本作では多くの登場人物に焦点が当てられているのだ。
特に最新7巻は、幅広い年代の読者に刺さっていた様子。
それまでは飄々としたオッサンとしての印象が強かった師匠・鋼介を中心に据え、老兵目線の諦観と倦怠が描かれる。「老い」をテーマにした作品は数あれど、ヒロインが女子小学生のラノベで、オッサンのメイン巻があるとは……。師匠のみならず、周囲のオッサン&ジジイもかっこよかった。
研修生である桂香の物語があり、大ベテランの鋼介師匠の物語があり──当然、竜王・八一と弟子2人と、さらに彼らを取り巻く人たちの物語もある。
要するに『りゅうおうのおしごと!』は、将棋をテーマにしたラノベであると同時に、複数のキャラクターの思惑が絡み合う人間ドラマを描きながら、現代の将棋界のアツさを伝えんとする作品だと言えるのではないか。そのアツい想いは、毎巻の筆者さんのあとがきからも垣間見える。
ファンタジーを題材にした作品なんかですと、読み終わった後に「私もこんな世界に行って冒険してみたいな……」と思ったところで、そこに行く事はできません。
ですが将棋なら、すぐに指す事ができます。この巻に登場した大阪の新世界にも将棋道場がありますし、それこそ連盟に行けばプロ棋士と将棋を指す事もできます。
読んだ『先』に、もっと面白いものがある。
そんな作品を書く事が私の夢でした。
(白鳥士郎著『りゅうおうのおしごと!』2巻 Kindle版 位置No. 2,980より)
今、将棋が、将棋界が、『りゅうおうのおしごと!』が、とにかくアツい。
5巻の “盤上” へと向かうアニメ版
正直、後半ずっと泣きっぱなしで、服を脱ぐほどに全身が熱くなった5巻だけでもあれこれと感想を書けそうだし、ついでに、白鳥先生のあとがきもアツかったり勉強になったりしたのだけれど──。あまり長々と書きすぎてもアレですし、そろそろまとめませう。
アニメの話に戻ると、駆け足ぎみだった2巻の部分、4~5話については、賛否両論ある模様。ただ、原作のペース配分を考えると、やっぱり致し方ないようにも感じます。本作の山場であり、筆者さんが全身全霊を込めて書いたという、5巻をラストに持ってくるのであれば。
いったい何段構えなんだと思わせるほどに波のある展開と、その過程で清算されていく身近なキャラクターとの関係性。それが、苦しくもアツく、それ以上に愛おしい。それが5巻の魅力かと。
そして極限状態の竜王が挑むラスボスは、「ただのオッサン」でありながら、大勢の少年少女が憧れてきた、紛れもない「勇者」であるという構図。元・男の子であるアラサーの自分にとっても、それは最高に盛り上がる展開であり、この上ない結末をもたらしてくれるものだった。
──とまあ、それほどまでに原作に夢中になってしまったことで、かえってアニメのハードルが高くなってしまった印象もありますが……。そんなアニメをきっかけに原作に触れ、実生活にも影響を及ぼすほどのエネルギーをもらえた今日この頃。今後の放送も楽しみに観ようと思います。
まったく、小学生は最高だぜ!
© 白鳥士郎・SBクリエイティブ/りゅうおうのおしごと!製作委員会