速読・精読・味読を身につける!「書く」よりも大切な『「読む」技術』を紐解いた本


 「アウトプット」の重要性は、改めて説明するまでもないように思う。

 受け身で情報を摂取するばかりではなく、見聞きした知識や体験を自分の言葉で整理すること。頭の中に入ってきた事柄を自分なりに咀嚼したうえで、再び外部へ出力して可視化すること。そうして知識の定着を促進し、対象への理解をより深めることができる。それは間違いない。

 とはいえ、一口に「アウトプット」と言っても切り口はさまざまだ。「日記を書く」といった身近な習慣から、「勉強会を主催する」などの人を巻きこむ方法まで。情報過多の昨今、仕事や学習を効率化するためのアウトプット術は、同時に生活を豊かにするライフハックとして捉えられているようにも見える。

 実際、書店に足を運んでみれば、多種多様な「アウトプット術」についての本を発見することができる。なかでも多いのが、「読書術」と紐付けられた本。読んだ本の感想を書いたり話したりすることで記憶を促し、理解の手助けとする──というものだ。基本といえば基本であるものの、本を読むにあたっては欠かせない考え方と言える。

 しかし一方で、多くの本では「書く」ことや「話す」ことに注力してしまうことで、その前提となる「読む」技術への言及が疎かになってはいないだろうか。「出力」ばかりを気にかけて、その前段階である「入力」の過程──「インプット」の視点を忘れてしまっているようにも映る。

 『「読む」技術~速読・精読・味読の力をつける~』は、そんな「読み方」の仕組みと技術について取り上げた1冊だ。当たり前すぎて意識する機会の少ない、「読む」という行為について掘り下げて考えた内容。本書を読了して、自分がいかに雑に文章を読んでいたのかを実感させられた。

 良質なアウトプットは、良質なインプットから。自身の「読み方」を再考するきっかけとなるだけでなく、「読む」という行為の仕組みを知ることで、必然的に「書き方」も再検討せざるを得なくなる。普段から試行錯誤しつつ文章を書いている人にこそ読んでほしい、「読み書き」を考えさせられる本です。

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読み方にも癖がある!「読体」を改善し、インプットの質を高める

 そもそも「読む」のに「技術」が必要だと言われても、ピンとこない人も多いかもしれない。日本語が母語であり、義務教育を受けてきた人であれば、文章は読めて当然。作文や小論文などを「書く」ことに苦手意識があったとしても、「読む」だけならば誰にだってできるじゃないか──と。

 ところが、本書は「『読む』のに技術は必要である」と断言している。文章にもさまざまな種類があり、また目的によってもそれぞれの「読み方」は変わってくる。文章ごとに最適化された「読み方」の技術を身につけることによってこそ、読書の効果は最大化されるのだそうだ。

 「読む」技術と聞いて、まず真っ先に思い浮かぶのは「速読」だ。短時間でたくさんの本を消化できることから、速読の技術を身につけたいという人は少なくないはず。ただし、実際に速読をする際には、読む本の選別が欠かせない。味わって読む小説は言うまでもなく、知識を得るためのノウハウ本まで流し読みしてしまっては本末転倒だからだ。

 しかし他方で、「速読」は多くの人が日常的に実践している読み方でもあるのだと、筆者は説明している。その一例として挙げられているのが、「新聞」だ。

 新聞を隅から隅まで読む熱心な読者もいるかもしれないが、出勤前の早朝などのタイミングではそうもいかない。そこで「速読」が役に立つ。新聞を広げ、見出しをざっと視界に入れたら、気になる単語や情報ががないか高速でチェック。目的の記事を発見したら、全体を眺めるようにしていた視線を本文へと絞って、集中して読む体勢に切り替える──。

 つまり、新聞を読む際には、「見出しのなかから気になるキーワードだけをすくって読む『速読』」と、「目に留まった記事の本文に集中して読む『精読』」の、2つの「読み方」を駆使しているわけだ。このような読み方をしている人は珍しくないだろうし、新聞以外──たとえばニュースサイトなどで、同様の読み方をしている人もいるのではないかしら。

 この例からは、「読み方」にもTPOがあることがわかる。
 そして同時に、読み方には「癖」があるとも、本書では指摘している。

 書き手によって「文体」という個性が文章に表れるように、読み手にも各々の「読体」がある。精読するべき文章を速く読んでしまう癖がついていないか。速読してもいい文章を無駄に時間をかけて読んでいないか。そのような読み方の癖──「読体」の対象化と改善をめざすのが、本書の大きな目的だ。

 迅速に処理しなければならない文書は速く読み、創造的なアイデアを生む可能性のある名著はじっくりと読む。趣味としての読書は時間を気にせず味わうように読み、物語は自由に楽しむ。文章術の本が目的ごとの「書き方」を教えてくれるように、本書は「読み方」の引き出しを増やしてくれる1冊となっています。

「読む」ための本であり、「書く」ための本でもある

 本書で登場する「読み方」は8つ。そのそれぞれを「読解ストラテジー」として、TPOに合わせた「読み方」の戦略を個別に紹介していく。具体的には以下のような切り口から、読む力──すなわち「読解力」を身につけるための考え方を示していく格好だ。

8つの「読解ストラテジー」
  • 速読
    • 話題ストラテジー:知識で理解を加速する力
    • 取捨選択ストラテジー:要点を的確に見抜く力
  • 味読
    • 視覚化ストラテジー:映像を鮮明に思い描く力
    • 予測ストラテジー:次の展開にドキドキする力
    • 文脈ストラテジー:表現を滑らかに紡いで読む力
  • 精読
    • 行間ストラテジー:隠れた意味を読み解く力
    • 解釈ストラテジー:文に新たな価値を付与する力
    • 記憶ストラテジー:情報を脳内に定着させる力

 以上の8類型を個々に紹介していくと長くなるので、詳しくは実際に本書を読んでいただきたい。迅速な情報整理を可能にする「速読」が役に立つのはもちろん、物語を楽しむ「味読」の考え方を新鮮に感じられる人は多いはず。そして「精読」の視点を知ることで、良質なアウトプットにつなげられる。

 読んでいて特に印象的だったのが、これら「読み方」の戦略を知ることによって、否が応でも「書き方」を意識せずにはいられないということ。

 漢字とひらがなのバランス、接続詞や指示語の選択、具体と抽象の使い分けなど、自分が漠然と実践してきた「書き方」にはどのような意義があり、読者目線ではどのように「読まれる」のか。そのような「読み方」の視点を知ることで、これまでは主に「書き手」の側から見てきた文章を、真に「読者目線」で考えることができた。本書を読み進めていると、自分の「読み方」だけでなく、自然と「書き方」も一緒に再検討したくなってくるのだ。

 また、過去に自分が読んだ「書き方」の本と紐付けて考えることによって、双方の理解をより深めるような「読み」ができたのも、大きな収穫だった。

 創造的な読み方を志向する「解釈ストラテジー」の項目では、逆に解釈の幅を最小限に抑える『理科系の作文技術』が、視覚的な表現を考える「視覚化ストラテジー」の項目では、読者の想像力を喚起する比喩表現を論じた『レトリック感覚』が、それぞれ想起された。さらには、同筆者の既刊である『文章は接続詞で決まる』だけでなく、つい2週間前に読んだばかりの『わかったつもり』が参考文献として出てきたときには、さすがに驚いた。

 「読む」ための本であり、「書く」ための本でもある。

 解釈ストラテジーに則って読むのであれば、自分が本書に付与する「解釈」は、上のようなものになる。読解力を鍛えたい人、読書活動から多くの価値を得たい人、もっと楽しく本を読んでみたい人、そして──「読み方」と同時に「書き方」を再検討したい人にも、おすすめの本。

 普段、アウトプットとしての「書き方」を考えるときには、どうしても個々の文法や細かな表現技法に目が向いてしまう。それはそれで大切ではあるけれど、その前提となる視点も忘れてはいけない。インプットとしての「読み方」の知識がなくては、読者目線で文章を「書く」ことなどできるはずもないのだ。

 良質なアウトプットは、良質なインプットから。「出力」のための「入力」を考えつつ、両方を合わせて学ぶことのできる本として、幅広い人に勧めたい1冊です。

 

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