20代前半のころは、「人生を劇的に変える何か」を期待している節があった。
滞りなく大学を卒業し、採用された企業に勤めはじめ、仕事にも慣れてきたくらいの時期。業務の効率化を図るべく自分なりに試行錯誤しつつ、ビジネス書も手広く読むようになったのが、このころだったように思う。
そんななかで出会ったのが、「ライフハック」だった。
仕事の生産性を上げるための工夫から、暮らしを便利にする豆知識的なものまで取り扱う、多種多様なテクニック。十人十色の仕事術や生活の知恵を知り、わくわくさせられたことを覚えている。
ひとつひとつの活動は小さいけれど、これらの考え方を参考にして取り入れていけば、自分も充実した毎日を送ることができるようになるのではないか。そしてゆくゆくは、「人生を劇的に変える」ことにつながるのではないか──と。
でも実際は、そううまくはいかなかった。
ライフハックや自己啓発にハマる人の少なからずがそうなるように、欲張って複数のテクニックを取り入れようとした結果、かえって生産性を低下させてしまったのだ。いわゆる「目的と手段をはき違え」た、ってやつですね。焦ったところで、うまくショートカットもできないでしょうに。
それから数年が経ち、すっかりこの言葉とも無縁になっていた近頃。ブログ「Lifehacking.jp」の堀正岳(@mehori)さんが新刊を出すと聞いて、久しぶりに「ライフハック」という言葉と再会した。
それが本書『ライフハック大全』です。長年にわたって数多のライフハックを学び、紹介し、自身も実践してきた筆者さんによる “大全” だけあって、非常に網羅性の高い1冊。
それでいて、「小さな習慣を積み重ねることで大きな成果を得る」というライフハックの本質から説明しており、入門書として捉えることもできる本。その目的は「ラクになる」ことであり、楽しみながら生活を豊かにする考え方を紐解いた内容となっています。
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ライフハックの本質は「小さな事を繰り返すことで、大きな成果が得られる」こと
筆者曰く、ライフハックの本質は「小さな事を繰り返すことで、大きな成果が得られる」こと。生活に変化をもたらすのは大きな出来事ではなく、「行動の変化」──小さな習慣の積み重ねであると、本書の冒頭で説いています。
しかし他方で、ネット上で取り上げられている「ライフハック」からは、どこか慌ただしさや息苦しさのようなものも感じられる昨今。
とにもかくにもコスパ重視、効率化や生産性の向上ばかりを追い求めるようになった結果、当初の「人生をもっとラクに(楽しく)しよう」という考え方が薄れてしまったのではないか──と。冒頭では、そのような懸念も示されています。
そこで本書では、「時間が経っても新鮮さを失わない、最もラクに実践できるもの」に絞って、ライフハックを厳選&類別化。全9章で250項目の手法をまとめ上げた、文字どおりの “大全” となっています。どこから読んでもいいし、気になる部分だけをつまみ食いしてもOK。
ただし、一番最初のSECTION00だけは外せない。
というのも、「始めよう『人生を変える7つのライフハック』」と題した本章だけは、ほかのSECTIONと毛色が異なっているように読めたので。そこに書かれているのは、どちらかと言えば自己啓発本の範疇であるようにも感じられる、7つの考え方。
本文中では明文化されていなかったと思いますが、わざわざほかの8つのSECTIONから外れた “00” としているあたり、おそらくはこれが「ライフハック」の基本となる考え方に当たるのではないかしら。まず最初に確認しておきたい、重要なポイント。
- 001 人生を変えるなら、時間の使い方を極端にする
- 002 決断するスピードを加速する
- 003 言葉を換えれば性格は変えられる
- 004 すべての場所にメモとペンを持ち歩く
- 005 心の中のヒーローに悩みを打ち明ける
- 006 機会にはすべて「イエス」と言う
- 007 小さな習慣で、毎日を「小さな勝利」にする
こうして並べてみると、思いのほか心当たりがあるというか、自分が実践していたり、本で読んで目に留まったりした考え方が多い。004は自分が年単位で続けられている数少ない習慣だし、002は昨年読んだ『無敵の思考』で強く印象に残った “ルール” のひとつ。
あるいは、「ライフハック」の考え方の多くは、この7つのうちのどれかに当てはまると考えることもできそうだ。 “人生を変える” という目的を果たすにあたって改善するべき、7つの視点。これらを切り口として具体的な手法・習慣を考えるのが、ライフハックのスタート地点となる。
気になる部分だけつまみ食いもできる、全250個のテクニック
続く各章では、カテゴリー別に具体的なライフハックの手法を紹介。250項目と聞くとむちゃくちゃ多いように感じるものの、個々の説明は2~3ページ程度。かと言って短すぎるわけでもなく、必要に応じて図や写真の実例を掲載しつつ、そのエッセンスをまとめています。
SECTION01のテーマは、時間管理。
平時から時間を記録することの大切さを説きつつ、スケジュールの見直し、プランニング、仕事における時間の割り当て方などを解説。「メールを朝一番に見てはいけない」「80:20の法則を味方につける」「先送りメモ」「自分締め切り」といった項目が並んでいる。
SECTION02は、タスク管理。
基本中の基本、されど管理の方法は幅広いToDoリストのフォーマットを複数提示し、GTDの考え方、マインドマップ、アナログ・デジタルを問わないノートやツールの使い方を紹介。今まで種類が多すぎて試す気になれなかったタスク管理アプリは、本書を参考に早速取り入れてみた。
SECTION03は、集中力・ストレス対策。
「48:12時間分割法」「ポモドーロテクニック」「睡眠の10-3-2-1ルール」「ホワイトノイズによる集中力向上」といった項目が並ぶ章。作業の切り替えがうまくいかず、集中力の持続性も課題だった自分にとっては、最も参考になったカテゴリーと言えるかもしれない。
──という感じでSECTION08まで続くのだけれど、個々に説明していると長くなりそうなので、以下、目次から一部抜粋して紹介させていただきます。
SECTION04:読書・情報収集・学習「情報は減らして管理する」
- 112 フロー情報は3つに分流して処理する
- 116 二次情報サイトに時間をかけてはいけない
- 118 フィルターバブルを意識して情報元を増やす
- 129 毎日の「読書ジャーナル」をつくる
- 133 知的限界を突破する「ディープ・ワーク」の時間をもつ
SECTION05:発想・アウトプット・思考「自分だけのアイデアがある」
- 147 アイデア法(1)すべての発想はリミックスである
- 155 記憶を記録に変えるユビキタス・キャプチャーの習慣
- 158 ブログは、情報アウトプットの最高のトレーニング
- 159 1日に10万字を読んで、5000字をアウトプットする
- 164 怒りや不安を、メールや手帳に書いて積み下ろしする
SECTION06:コミュニケーション&チーム「見方は増やせる」
- 169 Noといえないなら「Yes,but」を取り入れる
- 172 嫌な人の言動は「ハンロンの剃刀」を通して見る
- 174 相対せずに横に並ぶとケンカにならない
- 176 フランクリン効果で相手の好意を引き出す
- 183 チームのタスクを付箋で管理する
SECTION07:日常生活・旅行「ちょっとした快適さを」
- 190 「使用中・保管中・飾り」で持ち物を分類する
- 194 未来に書類を飛ばせる43Foldersシステム
- 208 「指差し確認」を生活にも取り入れる
- 210 出張の準備を「指令書」にしてかばんに隠しておく
- 216 充電ケーブルの断線はマスキングテープで防ぐ
SECTION08:習慣化・やめない技術「人生を変える小さな習慣」
- 226 「やめない」仕組みをつくる
- 229 習慣のトリガーとして優秀なのは「時間」と「場所」
- 234 新しい習慣をすでにある習慣に「接ぎ木」する
- 241 写真は10倍撮影して、毎日1分の動画を撮影する
- 243 「30日チャレンジ」で人生を楽しく変えてゆく
続けようとするのではなく、「やめない」ことを意識する
後半、本書を読んでいて特に印象的だったのが、HACK226「『やめない』仕組みをつくる」の項目。
何事においても「継続は力なり」の重要性が語られがちな生活習慣において、継続よりも「やめない」ことが大切である──という指摘。これは、とにかく続けることばかりを考えていた自分にとって、言われてみれば当然なのに、まったく思い至りもしなかった視点だった。
新しい習慣を身につけるということは、これまでにない新しい行動を人生に取り入れるということです。まずは「行動」ができるかどうかが問題であって、「継続」それ自体には意味がありません。
逆説的に聞こえるかもしれませんが、最初は継続を意識するよりも「やめないこと」、つまりは行動をゼロにしない工夫をさまざまに試してみることから始めます。
(堀正岳著『ライフハック大全』Kindle版 位置No.3829より)
でも一方で改めて考えてみると、自分が今こうして書いている「ブログ」こそが、まさしくそうだった。「やめない」ことで習慣となり、実際に「人生を変える」存在ともなった、コツコツと続けてきた小さな活動。
そういえばブログだけは、当時の自分が取り入れようとしたほかのライフハックの手法とは異なり、自分が好きなように、自由気ままに書きたいことを書こうと始めたものだった。それが気づけば5年も続き、今日の活動の幅を広げているというのだから、びっくりだ。
文字どおり「小さな習慣を積み重ねることで大きな成果を得る」を体現した活動であり、そう考えると、これから何かを習慣づけようとしたときの考え方も見えてくる。
大切なのは本書にもあるように、何と言っても「やめない」こと。そのうえで、楽しみながら試行錯誤を繰り返すこと。そうすれば、やがては自然と生活に定着するのではないかしら。
振り返ってみれば、すっかり意識低く日々を過ごすようになっていた近頃。そんななかで年始に本書を読めたのは、ナイスタイミングだったと思わずにはいられない。なぜって、新しいことを心機一転始めるには、最高の時期だから。その “始め方” も、今の自分はよく知っている。
そんなこんなで、今年こそはやりたいことに挑戦し、自分にとって楽しい習慣として継続するべく、本書を片手に取り組んでいこうと思います。読み終えておしまい、ではなく、読了したこの瞬間から、ますますお世話になるだろう1冊。今後ともよろしくお願いします。