「かわいい」が幸福度を高める!?研究によって明らかになったKawaiiの力を紐解くビジネス書『Kawaii経営戦略』


 

近年、自分の中で「サンリオ」がアツい。

 

きっかけは、2021年末の「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」。VR世界のサンリオピューロランドで開催された、バーチャル音楽フェスでございます。VTuberやサンリオキャラクターだけでなく、リアルで活躍するおなじみのアーティストやアイドルも多数登場したライブイベント。当時はお世辞抜きに「今までで一番のバーチャルライブ」だと感じていたし、このためにVR機器を買う価値があるとすら思っていました。ちなみに、今年のサンリオVfesがちょうど明日から開催されるので、興味のある人は要チェックですぞー! VR機器がなくても楽しめるライブ配信や各種コンテンツもあるよー!

その約半年後には取材で初めてサンリオピューロランドに足を運ぶ機会があり、その“素敵なテーマパーク”っぷりに大興奮。サンリオキャラに詳しくない成人男性をも「かわいい~~~!!」と一瞬で虜にしてしまう世界観に、改めて興味を持った。

そんなサンリオに少なからず関係のある書籍として、今回読んだのがこちら。コンサルティング会社のディレクターさんと、サンリオエンターテイメントの社長さんの2人による共著『Kawaii経営戦略』です。

一見すると「どんな組み合わせ?」と感じられるかもしれませんが、両社は以前から「Kawaii」についての共同研究をしているそう*1。見方によっては、本書はその過程で得られたデータや知見を紹介する1冊と言えるかもしれません。

なので、ゆるめのビジネス書かと思いきや、取り扱うテーマと内容は思いのほか“ガチ”。この手のビジネス書を読むのも久々で、経営学やマーケティングの知識が人並み程度にしかない自分は、脳みそのしばらく使っていなかった部分をぐわんぐわんと回転させながら読むこととなりました。読み終える頃には、日帰り旅行から帰ってきた後のような充実感を感じられていたほど。いやー、おもしろかった。

 

「Kawaii経営戦略」とはなんぞや

Kawaiiの力で世の中の幸福度を高めたい、やさしさを届けたい

この一文から始まる本書の内容を簡単に説明するなら、「ビジネスに『Kawaii』を取り入れ、その力で人々の幸福度を高めようとする研究の概要をまとめた、マーケティングの戦略書」だと言えるだろうか。

第1章ではまず、SDGsやESG、サステナビリティといったおなじみのワードや、内閣府のムーンショット型研究開発制度などを取り上げつつ、今や世界的なアジェンダともなっている「幸せ(ウェルビーイング)」という概念について整理。フィリップ・コトラーが示したマーケティング理論とマズローの欲求段階説が呼応することを示しつつ、「幸福度」という指標をビジネスに取り入れる「幸福度マーケティング」のあらましを解説している。

第2章と第3章では、「Kawaii」の特徴と、ビジネスシーンでの活用事例を紹介。

Kawaiiは「幸せに繋がる感情」「身近な感情」「心理的安全性に関わる感情」「多様かつインクルーシブな感情」「日本発の感情」という5つの特徴を兼ね備えており、それゆえに、企業の競争優位の源泉を構築する上でのキーコンセプトとなるのだそう。具体的なユースケースとして、ここではサンリオや増田セバスチャン氏、さらには西濃運輸や孤独のグルメといった、9つの活用事例を挙げている。

第4章以降は、実際のビジネスのヒントとなる「Kawaii経営戦略」の全体像を解説。

市場戦略、顧客戦略、CX戦略、商品戦略、データ戦略、マネジメントといった切り口で経営戦略を展開していく、なかなかに「ガチ」な内容である。思いのほかがっつりと「マーケティング」の話が展開されていて、正直に言えばちょっと面食らった部分はある。とはいえ、人並み程度にしかマーケティング知識がない自分(ウェブ記事やビジネス書でかじった程度)でも問題なく読み進められたので、その手の部署の所属ではない会社員でも興味深く感じられるのではないだろうか。

「Kawaii」が幸福度に繋がる?

その「興味深さ」を担保してくれているのが、文中でたびたび参照されるデータ群だ。というのも、本書にはPwCコンサルティングが実施した数多くの調査結果が掲載されていて、そのどれもこれもがおもしろい。

たとえば、「Kawaii」に関する感応度をベースにして抽出した「8つのKawaii顧客クラスター」

ここではまず、人はどのような対象に「Kawaii」を感じるのかを明らかにするべく、約5,000人に対して調査を実施。サンリオキャラクターを含む複数の有名キャラクターと、そのキャラクターの音声、そしてそれ以外の「赤ちゃん」「人気アイドル」「コメディアン・芸人」「大物人気男優」「大物人気女優」といった17の対象を挙げて、それぞれに「Kawaii」を感じるかどうかを回答してもらい、その結果を統計的手法でクラスタリングしたところ、8つのクラスターに分類できたのだそうだ。

各クラスターの詳細については実際に本文で確認してほしいのですが、全体としてKawaii感応度と幸福度の間には強い相関関係があるとのこと。つまり、「Kawaiiと感じる対象の範囲が広ければ広いほど、その人の幸福度も高い」のだそうだ。一例として、どのような対象もKawaiiと感じる「全領域高感受性クラスター」はエネルギッシュで多趣味、リーダーシップを持っている一方で、赤ちゃんも含むどんな対象もKawaiiと感じない「全領域低感受性クラスター」は熱狂する趣味が少なく、さまざまな経験値が少ない――といった傾向も見て取れたそう。

例に挙げた2つのクラスターは両極端ではあるものの、「どのような顧客層が、何に対してKawaiiと感じるのか」が明確に分類された図となっているため、眺めているだけでもおもしろい。と同時に、一口に「Kawaii」と言ってもその性質は多岐にわたる――かよわさや幼さだけでなく、美しさや華やかさ、そしてダサさや気持ち悪さも「Kawaii」である――ことや、その感じ方も人それぞれであることが、本書では明瞭な「データ」を通して伝わってくる。そのことがとても示唆深く、読んでいて「Kawaii」の奥深さを実感せずにはいられなかった。

Kawaiiは、つくれる!

他にも「経営なんもわからん」な自分でも興味深く感じる研究とデータが盛りだくさんで、それでいて難解すぎず、読みやすい筆致で楽しめた本書。少しでも「Kawaii」に関係のあるコンテンツに携わっている人であれば、個人単位でも参考になるんじゃないかしら。

僕自身も読み終える頃には、後書きで書かれていた「個人レベルのパーパス」の話に感化され、あれこれと腕組み考えずにはいられなかった。当たり前に口を衝いて出る「Kawaii」の一言は、僕らが普段感じている以上に幅広く、奥深い。そんな広さと深さを持つ「Kawaii」には、人々に愛されるキャラクターやコンテンツには、まだまだできることがある、誰かを幸せにする力がある――。そんなことを考えさせられた1冊でした。

 

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