GWに読書はいかが?さっくり読んで楽しめる本20冊


ゴールデンウィークおすすめ本まとめ

 2019年のゴールデンウィークは10連休。

 まあ実際問題として10連休を確保できている人がどれほどいるのかは知れませんが、何はともあれせっかくの長期休暇でございます。遠出する予定を立てつつ、家でゲームを遊んだり読書に耽ったり──という予定を考えている人もいるのではないかしら。

 そこで本記事では、連休中に読み切れそうな、ほどほどのボリュームの本をピックアップ。上から順に、「物語世界に浸る5冊」「知的好奇心を満たす5冊」「日常を再考する5冊」「最近のお気に入り5冊」と題して、計20冊。本選びの参考になりましたら幸いです。

 

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【小説・ラノベ】物語世界に浸る5冊

『新釈 走れメロス 他四篇』森見登美彦

 森見登美彦さんの “新釈” によって蘇った、近代日本文学作品の短編集。

 収録作品は、京都市内を駆け巡る『走れメロス』のほか、アパートに引きこもり小説を書き続ける大学生の『山月記』、文化祭の映画制作にまつわる『藪の中』、人気小説家の愛と情熱の喪失を描いた『桜の森の満開の下』、以上の4篇のキャラクターが登場する『百物語』の5篇となっています。

 パロディが色濃く、作者もノリノリで書いたと思しき『走れメロス』が爆笑必至である一方、『桜の森の満開の下』のように淡々と進み余韻が味わい深い物語も魅力的。

 元ネタの文学作品との「比較」を楽しむも良し、過去の筆者の作品とのリンクを探して読むも良し(「詭弁論部」や「パンツ番長戦」など)、それら要素は鑑みず純粋に物語を楽しむも良し。手に取った各々がさまざまに楽しめる、万人におすすめできる1冊です。畢竟、面白きことは良きことなり!

『恋する寄生虫』三秋縋

 タイトルの「寄生虫」は喩えかと思っていたら、比喩でも何でもなかった。

 互いの体に巣食う〈虫〉を介して絆を深める、歳の離れた男女の物語。社会不適合者でもある2人が織りなす関係性は、読んでいて共感できる人、救われたような気持ちになる人も少なくないのではないかしら。都合の良い話かもしれないけれど、「虫のいい話」が人を癒やすこともある──そのことを強く実感しました。

 荒唐無稽なようでいて、そうとは感じられないほどに詳細な「寄生虫」の説明も魅力的。著者さんの作品は本作が初めてだったので、他の作品も読んでいきたい。

『時給三〇〇円の死神』藤まる

 死にゆく人の未練を晴らすべく奮闘する、少年少女のハートフルストーリー……かと思いきや、予想外に重苦しい物語に絶望させられた。

 死後の「ロスタイム」という独特の世界観を背景に描かれるのは、決して心温まるとは言えない《死者》との交流。「死神」として働く少年少女は《死者》の未練を晴らすべく奔走するが、そのたびに虐待や不倫といった「家族」の闇がそれを阻む。問題を解決して無事に成仏──とはいかず、中盤までは尽く救いがない。

 それでも、最後に2人が辿り着いた答えはこの上なく尊い、「生」の喜びを感じさせられるものでした。

『Hello,Hello and Hello』葉月文

 繰り返し繰り返し「見ず知らずの女の子に声をかけられた」場面から始まる、7つの断片。

 強調された “たった一度” きりの別れのために、繰り返し “出会い続けてきた” 少年少女の恋物語。途中からはヒロインに強く感情移入してしまい、切なさとやるせなさに悶えるような心持ちで読み進めることになりました。ラノベ好きの10〜20代にはもちろん、恋愛小説が好きな大人にもこっそりと勧めたい。

 強いインパクトでもって価値観を揺さぶられる作品ではないけれど、きっと心の片隅に残り続ける、素敵な別れの物語でした。

『魔女の旅々』白石定規

 一口に言えば、「サバサバ系魔女の旅先での出会いを描いたファンタジー連作短編集」。物語は主人公の魔女・イレイナの一人称で進み、彼女が訪れた国々での出来事や、そこで出会う人々との交流が描かれます。

 特に印象的なのが、イレイナの語り口調。「です・ます」の丁寧語ながら、軽妙でエッジのきいた地の文が、読んでいてすっごく楽しい。変にテンションは高くなく、淡々とした口調ながら感情には素直で、皮肉屋ながら嫌らしくはない、どこにでもいそうなかわいい女の子。たぶん。

 5分程度で読める小話から、複数話にまたがる物語もあり、淡々としているようで緩急のある構成も魅力的。寓話的な話があり、ギャグもあり、かわいいキャラがおり、女の子同士のキャッキャウフフもありと、飽きの来ない短編集となっています。

 

【学び】知的好奇心を満たす5冊

『VRは脳をどう変えるか?』ジェレミー・ベイレンソン

 VR研究の第一人者による解説書。

 主に認知心理学の観点から「仮想現実」の功罪を紐解いていく本書は、どちらかと言えば技術面で語られることの多かった既存のVR本とは一線を画しています。

 曰く、VR経験は「メディア経験」ではなく「経験」そのもの。現実のように実在性を伴うVR経験はスポーツ・医療・教育などあらゆる分野で有効活用できるが、リアルゆえに不適切な方法でも使われる懸念があるのだそう。

 良きにせよ悪しきにせよ世界を変えうる力を持つ「VR」の魅力と危険性を、20年に及ぶ研究成果と共に説明する。メディア関係者必読の1冊です。

『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』金水敏

 「〜じゃ」と話す老人や「ですわよ」と話すお嬢様(女性)など、特定のキャラクターと結びついた特徴的な言葉づかい──「役割語」の機能と成り立ちを概説した1冊。

 〈老人語〉にせよ〈お嬢様ことば〉にせよ、日本人であれば誰もがわかる表現なのに、現実には使っている人がほぼ見受けられない不思議。それら役割後の起源は、なんと江戸時代にまで遡るのだとか。

 歴史学・民俗学・社会心理学の視点から「ことば」について紐解いた内容で、知的好奇心が満たされること間違いなし。趣味や仕事を問わず、創作に携わっている人にもおすすめの本なのじゃ。

『武器になる哲学』山口周

 「無教養なビジネスパーソンは『危険な存在』である」という見出しから始まる、哲学の入門書。ただしその内容は他の類書と一線を画しており、哲学の力を借りて日常の問題と向き合おうという「哲学の使い方」を紐解いたものになっています。

 素人目には小難しく、何の役に立つのかもわからない哲学を、「こういう問題を考えるときに使える」という実例を交えて説明。哲学を身近なものとして感じられるだけでなく、純粋な読み物としてもおもしろく読めました。

 複数分野に跨る解説も刺激的で、知的好奇心を満たしてくれる1冊です。

『世界を変えた10冊の本』池上彰

 池上彰さんによる、「世界を変えた10冊」のブックガイド。

 経済・社会・宗教など、いずれも現代の「常識」を整理・再考するような10冊を選び、それぞれの概要と推薦する理由を説明している。

 たとえば、キリスト教とイスラム教の衝突や、今も世界情勢を大きく動かし続けている思想体系なども、本文では概説。現在の世界を取り巻く動きと関連を持たせて論じていることから、「2010年代に読むべき10冊」とも言い換えられるかもしれない。

 まったく関係がないように見えて、実は明確につながっている「世界」の問題を俯瞰するという内容に、否が応でも知的好奇心を刺激される。

 しかし、そのように幅広いトピックを扱っている割には、文章は平易で読みやすい印象を受けた。中学生くらいからでも読めそうな、敷居の低いブックガイドと言えるかもしれない。

『シャーデンフロイデ』中野信子

 「誰かが失敗した時に、思わず湧き起こってしまう喜びの感情」を指す言葉「シャーデンフロイデ」について紐解いた本。

 いわゆる「メシウマ」な感情を抱いてしまうのはなぜか。その理由を、過去の心理学の実験結果を参照しつつ説明していく内容です。

 「出る杭は打たれる」問題や、自分が損をしてでも他者に罰を与えようとする「利他的懲罰」、時として攻撃的な「正義」を行使させる社会通念としての「倫理」の話など。日常生活で自分が属する「集団」の中で理不尽や不平等や非合理を感じてモヤモヤしたことがある人は、きっと興味深く読めるはずです。

 

【エッセイ】日常を再考する5冊

『ナナメの夕暮れ』若林正恭

 オードリー若林さんのエッセイ集。正直に言うと、芸人に詳しくない自分は筆者さんのこともほとんど知らずに読み始めたのですが──むっっっちゃくちゃ共感できておもしろく読めました。

 日常生活で抱く小さな違和感や漠然と感じている「生きづらさ」を、ここまで見事に言語化できる人がいるのか、という驚き。必ずしも答えがある話ばかりではないものの、自分自身が普段から抱えているモヤモヤに対する考え方や視点を与えてくれるため、読んでいて胸のすくような印象がありました。

 もともと電車移動中に少しずつ読み進めていたのですが、最後のほうは「途中で栞を挟むのがもったいねえ!」と感じ、まっすぐ家に帰らず、夜の最寄り駅のホームで読みふけってしまうほど。2019年に入ってから読んだ本としては、特に記憶に残っている1冊です。

『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』岡田麿里

 『あの花』『ここさけ』などのアニメでおなじみ、脚本家・岡田麿里さんの自伝。興味本位で手に取ったところ、最後の4行でなぜか泣けてしまった。

 周囲を山に囲まれた秩父の街の、家の中の狭い部屋で思春期を過ごした少女が、“外の世界”へ飛び出して現在に至るまでのノンフィクション。ただ淡々と自分語りをしているだけなのに、それでも読ませる、強く共感させられてしまうのは、筆写の筆力ゆえか、はたまた誰にも普遍的な経験であるためか──。

 岡田さんの作品のファンはもちろんのこと、広い意味で「生きづらさ」を感じている人に勧めたい1冊です。

『時をかけるゆとり』朝井リョウ

 こちらも電車移動中のお供。『桐島、部活やめるってよ』 『何者』などでおなじみ、朝井リョウさんのエッセイ集。

 作家さんのエッセイを読むたびに思うのですが、作家さんがブログを毎日更新していたら、そのへんの一般人はとてもじゃないけれど敵わないよね……。

 人を選ぶ文体かもしれませんが、とにもかくにも言葉遊びが楽しい。同年代か、それよりも若い世代──20代の人にはきっとハマるはず。どこからどう見てもリア充なのに、それを自虐するかのような切り口と表現に何度も笑わされました。読み終えたあとは不思議とスッキリした面持ちに。

『ひきこもらない』pha

 『ニートの歩き方』等でおなじみの筆者による新著。

 「街」や「家」についての考え方、スーパー銭湯とサウナ、「旅先で普段どおりに過ごす旅行」のススメなど、多種多彩な話題を詰めこんだエッセイ集となっています。

 一見すると雑多に見えるが、どれも「暮らし」や「生き方」に関わるトピックであり、「普通」とは違う様々な考え方を知れて楽しい。「こんなことがあったんですよー」というゆるさながら、なかには「そういう考え方もあるのか!」と眼前の景色が広がるような印象を受ける文章もあるはず。

 何らかの「生きづらさ」を感じている人におすすめです。

『ピンヒールははかない』佐久間裕美子

 第一印象は「女性の、女性による、女性のためのエッセイ」。ニューヨークという街ならではの十人十色の価値観の波に溺れつつ、その自由闊達さに元気をもらえる本です。

 特に女性が読めば、NYで暮らすトムボーイたちの生き方に勇気づけられるはず。そういった生き方は、男性目線でも共感できるものであると同時に、男にとっても無視できない「女性」が抱える諸問題を知ることにもつながるため、男性にも読んでほしい冊でもあります。

 彩り豊かな価値観に触れながら、自分の「歩き方≒生き方」を再確認できる本。性別・世代に関係なくおすすめです。

 

【マンガ】最近のお気に入り5冊

『世話やきキツネの仙狐さん』リムコロ

 残業を終わらせて一人暮らしの家に帰ったら、ケモミミ幼女が笑顔で出迎えてくれる──。日本人の10人に1人は、きっとそんな妄想をしたことがあるはずだ。……あるでしょう? ……あるんです!

 本作は、そんな夢を冒頭8ページ目にして叶えてくれる。

 仙狐さんが何よりもすばらしいのは、「世話やき」というポイントにある。ただ単に狐っ娘と共同生活を送るのではなく、ブラック企業勤めで私生活がぶっ壊れている会社員・中野を慮り、押しかけ同然にお世話してくれるのです。

 大人だって、ダメになっていい。子供のように甘えたっていい──。甘え下手な全日本人に捧げる、やさしくあたたかな1冊です。

『やがて君になる』仲谷鳰

 はじめて読んだ百合漫画であり、自分の大好きな「人間関係」を描いた物語であり、最高にハマった作品。

 「特別」が実感できない先輩後輩関係の2人が、徐々に互いに惹かれていく物語……かと思ったら、先輩のほうが即堕ちでベタ惚れしていた。他方ではいまだ「特別」を見つけられず、キラキラと輝きだした先輩を冷めた目線で見ながらも惹かれ始めている後輩ちゃん──という図もまた、対比的でおもしろい。

 何より、キャラクター同士を行き交う “矢印” の方向それ自体はシンプルでありながら、とても一言では表せない想いのベクトルがすばらしい。言語化の難しい思春期の心の機微と、諸々が綯い交ぜになって混沌とした感情。それを「マンガ」という媒体でこれほどまでにわかりやすく、しかも魅力的に描いている作品って、そうそうないんじゃないかしら。

 もうずっと、大好きな作品です。

『なでしこドレミソラ』みやびあきの

 王道の「バンドもの」でありながら、その編成は珍しい「和楽器ガールズバンド」の作品。なによりも特徴的なのが、多彩な和楽器によって奏で織り紡がれる、極彩色の「音」の表現です。

 三味線は花を咲かせるように。尺八は風が吹き抜けるように。琴は水面に波紋を広げるように。──楽器ごとに異なり、市松、菱菊、格子、青海波といった和柄の文様で描かれた「音」の表現は、その音階・強弱・呼吸までをも伝えてくれるかのよう。モノクロのマンガを読んでいるはずなのに “色とりどり” であるかのように錯覚する魅力を持っています。

 和楽器の経験がある人、あるいは和楽器が好きな人には、ぜひとも読んでほしい作品です。

『図書館の大魔術師』泉光

 主人公は、本が大好きな少年。ジャンルを問わず「物語」が大好きな人が本作を読めば、きっとその展開に興奮せずにはいられないはず。

 正直に言って、ありがちと言えばありがちな物語だと思います。ただ、その “ありがち” の純度が一線を画している。物語構造のテンプレートを単になぞるのではなく、その展開に説得力があり、キャラクターが生き生きとしていて、尋常じゃない熱がこめられている──そんな印象を受けました。

 そうやって1巻を読み終え、最高の読後感を味わいつつ、そういえば冒頭に「原作」があるらしい表記があったことを思い出し、気になって調べてみると……という部分にまで楽しみがあります。続きが待ち遠しくて仕方ない期待作です。

『ボカロPで生きていく』たま、40mP

 「トリノコシティ」や「からくりピエロ」でおなじみのボーカロイドP・40mPさんの軌跡を描くコミックエッセイ。

 初音ミクとの出会いに始まり、動画制作、初投稿、楽曲制作、コラボ、オフ会、CD制作、メジャーデビューといった主だった活動を時系列に振り返っていく内容となっています。数々の作品が生まれた経緯についても描かれており、彼の楽曲が好きな人は間違いなく楽しめるはず。

 また、たまさんの描く40mPとその仲間たちはみんなかわいらしく、ほんわかと穏やかな気持ちで読むことができます(後に結婚するシャノさんのほか、DECO*27さん、ぎたさん、arico.さん、事務員Gさんなどが登場)。合間合間にはボカロやDTMや創作活動にまつわるコラムも掲載されており、読み応えがありますよ!

 

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