たすけて。くるしい。
……顔のニヤニヤが、戻らない。
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「百合漫画」のファーストインパクト
仲谷鳰さんの漫画『やがて君になる』を読みました
一口に言えば、いろいろと “持っていかれた” 。
主人公は、快活&サバサバ系(に見える)のアホ毛女子・小糸侑。新入生として高校に入学したばかりの彼女が出会ったのは、眉目秀麗&完全無欠(に見える)の黒髪ロング先輩・七海燈子。この2人がメインの物語です。
数多くの人間からの好意を受けながらも「どの相手も特別に感じることができない」という理由で告白を断ってきたという燈子。そして、同じように「特別」を実感できず、中学の卒業式で伝えられた告白に返事ができていない侑は、彼女に共感を覚える。
しかしその告白について燈子に相談した折、侑は燈子から「好きになりそう」という言葉をかけられて──という始まりです。
「特別」を見つけた先輩と、「特別」に憧れる後輩
──あのですね、読み始めはてっきり、お互いに「特別」な感情を理解できない先輩と後輩の2人が、互いの仲を深める過程で徐々に強い愛情に気づいていく……的な展開だと思っていたんですよ。同姓ながら正統派の恋愛モノ。きゅんきゅんするじゃありませんか。
ところがどっこい。蓋を開けてみれば、先輩は後輩ちゃんに即堕ち&ベタ惚れだし、後輩ちゃんは後輩ちゃんで自分よりも先に「特別」を見つけた先輩に対して筆舌に尽くしがたい憧れと嫉妬心を抱えているわけです。なんだこれー! なんだこれー!(歓喜)
後輩・侑の視点で見れば、「先輩なら『好き』の感情を理解できない自分に共感してくれると思ったのに、なんで私に惚れるんだ! ちくしょう! 私だって誰かを『特別』だと思いたいのに!」──と思っているかどうかは定かではありませんが──そんなイメージ。
仲間だと思った先輩が、よりにもよって「自分」に惚れている。一足先に「好き」の感情を知った先輩に対して羨望の念を抱き、戸惑いも感じると同時に、並々ならぬ興味も持っている。時には燈子を「試そう」としているようにも侑の感情は、筆舌に尽くしがたいものであるように読めます。
そんな「特別」を知った先輩が、自分と触れ合うたびに赤くなるのを見て、裏で手を握り、揺さぶりをかける後輩ちゃんの図。この清々しいほどの対比──最高だ。
“「特別」な感情を理解できない” と先ほど書きましたが、 “実感できない” と言ったほうが正確かもしれない。「恋に恋する女の子」という単純なものではなく、「『恋』や『好き』という感情は知っているし理解もできるけれど、それを自分は実感することができない」。それが主人公・侑の心情かと。
人が人を「好き」になるのは自然な感情だと知ったうえで、それを体感したことがない、周囲と比べて冷めている自分に疑問を感じている。ゆえに、自分と同じだと期待した先輩が「好き」を知って輝いているのを見て、「ずるい」と。後ろ暗い嫉妬というよりは……悔しさ、だろうか。
初めての「特別」を知った先輩と、「特別」に憧れる後輩。同類だと思って手を伸ばした先輩が初めて惚れたのは、自分だった──と。1対1の関係なのに、いろいろな感情の矢印が互いを行き来し、渦巻いているのが本当にすごい。
だって、まだ1巻ですよ、これ。
「視線」が示す感情の行方
また本作の特徴として、キャラクターの表情がわかりやすいというか、「視線」が人物の感情をそのまま示すよう、象徴的な描かれ方をされているように読めた点があります。モノローグは多用せず、細かな視線とコマ割りで心情の変化を表現しているような印象を受けました。
キラキラ眩しい青春模様、「特別」を体現するかのような告白シーンから「目を逸らす」侑と、「特別」な相手が口にした容器の飲み口を意識して「目を向ける」燈子。
こうした描き方は、別に珍しいものではないとも思います。でも本作の場合は特に、最小限のキャラクターで場面を動かしつつ、コマ割りも細かく刻むことで、読んでいて心情の変化がよりわかりやすく伝わってくるように感じられました。僕のような素人読者でも一目瞭然っすよ!
先ほどの見開きの対比もそうですが、数行に及ぶようなモノローグは用いず、あのような表情の変化とコマの場面経過によって心情を表すような形。この描き方は劇中の随所で取り入れられているように見えて、それがすっごい好きです。
なかでも特に76〜77ページの見開きが、シチュエーションといい、瞬間の無音感といい、個人的には最高すぎてニヤニヤが止まらないんだけど…………あ、というかもうそろそろ、自分、自重しないで叫んでいいっすか?
目覚めた心は走りだした
表も裏もあるように見えて根っこにあるのは実は純粋な想いひとつで思春期特有の不安定な自分の感情の行き場と扱い方を持て余しながらも互いに徐々に歩み寄っていくかわいい女の子同士のどきどきもやもや恋愛模様とか最高か!!!!
──うむ、つまりは、そういうことだ。
まず前提として、僕はこれまで、いわゆる「百合漫画」は嗜んでおりませんでした。好んで読む「恋愛モノ」と言えば当然のごとく異性愛が語られるものであり、男性同士・女性同士の恋愛模様が核となる作品はほとんど読んだ記憶がございません。
強いて言えば、二次創作で時たま目にする「友情以上恋愛未満」なカップリングは好物だったけれど、それくらい。ざっくり言えば、男女に関係なく、同姓同士の性的交渉に発展しない程度の関係性は好き。相棒への強すぎる想いを持て余しつつも、互いに付かず離れずであり続ける感じ……尊い……。
……まあね? 過去には「ロイエド」「レグリ」といった男性CPをうっかり目にしてしまった結果、「あれ? 意外といけるやん?」と読んでいた時期もありましたけどね?
ぶっちゃけ、性行為に及ばなければ普通に読めるんです。強すぎる友情が恋愛じみた関係に発展しても、おかしくはないんじゃないかと。仲の良い同姓コンビが、別の相手との関係に嫉妬している描写、それを見ていると──男性だろうが女性だろうが、僕はそこで純粋に「かわいい」と感じるんですよね。
そういった下地的なものはあったので、今回「百合漫画」に分類される作品として初めて手に取った『やが君』を読み終えた感想としても、とにかくもう「最高か!!!」の一言で絶賛できるわけでございます。かわいい。きゅんきゅんする。てぇてぇ。
そんなこんなで、自分にとって初の「百合漫画」となった本作は、間違いなく新世界を切り開いてくれたのでした。……もうね、読み終わって速攻で再読するだけでは飽きたらず、すぐに3周目にまで突入した漫画なんて記憶にないっすよ。それくらい好き。
1巻は出会った2人の距離感の調整に終止しているという印象だったけれど、周囲のキャラクターもちょいちょい本筋に関わってきそうな気配があるし、そもそも2人の言う「特別」が実は別種のものである気がしてならないので……とにかく先が楽しみでハゲそうです、はい。
──あ、もちろん自分は素人読者に過ぎませぬゆえ、百合作品における「お約束」のたぐいは把握しておらず、好き勝手に書いている格好です。申し訳ありません。これをお読みの先輩方、もしおすすめの百合作品などありましたら、よかったらご教授くださいませ。やがて沼になる。
© 2015 Nakani Nio/KADOKAWA