ぐるりみち。

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好きが仕事に!ボカロと共に歩んだ40mPの物語『ボカロPで生きていく』

レビュー『ボカロPで生きていく──40mPのボーカロイド活動日誌』サムネイル

 これまでに数々の「物語」を生み出してきた、ボーカロイド。

 楽曲自体がストーリー風の内容になっているものもあれば、一見すると普通の楽曲ながら、歌詞から物語が読み取れそうなものもある。もちろん、一般的な歌謡曲においてもストーリーのある歌は珍しくないものの、ボーカロイド曲は──と一括りにするものでもないかもしれないけれど──そういった「物語性」を特に強くはらみやすいように思うのです。

 なぜそう感じるのかを考えてみると……もしかしたら、「ボーカロイド」という存在そのものを歌った楽曲が数多く投稿され、人気を集めているから、なのかもしれない。

 黎明期のキャラクターソング的な楽曲にはじまり、電子の歌姫としてのポップソングが多数生まれる一方、やがて一部で叫ばれるようになった衰退論に反論するような曲も登場。そして節目の年には、ボカロPたちが思い思いの気持ちをこめた楽曲を公開。そこには、紛れもない「ボーカロイドの物語」がありました。

 作曲者の数だけ曲があり、イラストレーターの数だけ姿がある。千変万化の魅力でもって物語を積み重ねてきたボーカロイドですが、彼女らが紡いできた「物語」はそれだけではありません。

 「ボーカロイドの物語」の担い手──つまりは、ボーカロイドPたち。

 きっかけは人ぞれぞれでしょうが、ボーカロイドと出会い、何かしら心惹かれる部分があって、歌を歌ってもらうようになり、動画を投稿するようになった彼ら彼女らの中には、少なからず人生が変わった人がいる。それもまた、紛れもない事実だと思うのです。

 本書で紡がれるのは、そんな「 “ボーカロイドP” の物語」

 会社員として働くかたわら、曲作りに没頭するようになり、ネット上で注目を集め、数々の素敵な出会いを経て、ついにはアーティストとしてデビューし、大好きな音楽で生きていくことを決意したボカロP──40mP/イナメトオル@40mPさんのこれまでの軌跡を描いた、コミックエッセイです。

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“0と1が交差する地点”~あなたの「ボカロ」はどこから?

『ボカロPで生きていく』プロローグ

たま、40mP著『ボカロPで生きていく──40mPのボーカロイド活動日誌』P.2より

 40mPが、まだそのP名を名乗る前──晴れて社会人になったばかりの青年・イナメトオルさんの視点から、彼がどのような道を歩んできたのかを振り返る。それがこの、『ボカロPで生きていく 40mPのボーカロイド活動日誌』です。

 作画を担当するのは、40mPの楽曲で数々のミュージックビデオを手掛けてきた、たま@tamak0さん。「妄想スケッチ」「シリョクケンサ」「恋愛裁判」などのMVでもおなじみのイラストレーター/漫画家さんですね。

 個人的には「シリョクケンサ」の動画が好きで、公開当時むちゃくちゃリピートして見ていた覚えがあります。絵柄がまた好みなんじゃ……。本作はデフォルメされた低めの頭身で40mPをはじめとするキャラクターを描かれており、ネット上の動画としては──「ドレミファロンド」*1の絵柄が近いかな?

「シリョクケンサ」サムネイル

【GUMI(40㍍)】 シリョクケンサ 【オリジナルPV】 - ニコニコ動画より

 物語は、4コマ漫画の体裁で進行。イナメトオルさんが『VOCALOID 初音ミク』を購入し(先に『DTMマガジン』の体験版を買っていた)、仕事の合間を縫って作った楽曲をニコニコ動画に投稿し、タグに付けられた「40㍍P」を自ら採用する──といった活動初期の頃の出来事を、時系列順に取り上げていきます*2

 なので、40mPのファンであれば楽しく読めること間違いなし! でも同時に、彼のことをまったく知らない人、さらにはボーカロイドについて詳しくない人でも、本書ならきっとおもしろく読めるんじゃないかなーと感じました。それほど説明が丁寧でわかりやすいんですよね。

『ボカロPで生きていく』40mPの生活

たま、40mP著『ボカロPで生きていく──40mPのボーカロイド活動日誌』P.30より

 楽曲制作の楽しさや動画投稿のおもしろさのみならず、「歌ってみた」をはじめとする派生動画と、他のクリエイターさんとの交流、さらには「ぼからん」「にゃっぽん」「ボーマス」などの話も登場。当時のボカロカルチャーを取り巻く事情と魅力が伝わる内容になっているので、知らない人も興味深く読めるはず。

 逆に当時からボカロにふれていた人であれば、「そんなのあったー!」とか「盛り上がってたよねー!」などと、当時を懐かしむことができそう。あと、意外にも内向的(?)かつ凝り性っぽい40mPの人柄に軽く共感を覚えました。あ、それとそれと、DECO*27さんとのやりとりがこう……なんて言うか……てぇてぇ……。

 

“メロディはどうせ鳴り止まない”

「Hatsune」サムネイル

【初⾳ミク(1640m)】Hatsune【オリジナル】 - ニコニコ動画より

 40mPの軌跡を追いながら、今なお途切れることなく続くボカロカルチャーと、活躍するクリエイターさんたちの思いを垣間見ることができる本書。CD制作やライブ準備、レコーディングといった制作者目線の話もあり、ほほーっと興味深く読むことができました。

 その他にも、40mPの楽曲にまつわるエピソードも盛りだくさん。仕事で落ちこんでいたときに歌詞がふってきた「トリノコシティ」、山手線で寝過ごしたときに思いついた「からくりピエロ」に加えて、「晴れのち桜」についても言及しています。

『ボカロPで生きていく』トリノコシティ

たま、40mP著『ボカロPで生きていく──40mPのボーカロイド活動日誌』P.83より

 特に「晴れのち桜」については、言葉にしてまとめるのにも勇気のいるエピソードだったんじゃないかしら……。それでも避けることなく、当時の胸中も含めて言及していることに、少なからず彼の楽曲を聴いてきた人間として、何と言うか……勇気づけられたように思います。

 数々の物語を紡いできたボカロPたちの一人ひとりにも、当然ながら生活がある。ボーカロイドと出会ったことで人とつながったり、毎日が楽しくなったり、活動の幅が広がったり──。ボーカロイドの存在によって何かしら得られたものがある人は、きっと少なくないと思うのです。

 だって、彼ら彼女らの楽曲をただ「聴く」だけの僕らですら、その存在によって救われている部分があるのだから。

ネット上から聞こえてくる歌声の裏側にある、クリエイターたちの人間模様に少しだけ思いを馳せながらボカロ曲を楽しんでみていただけると幸いです。

(たま、40mP著『ボカロPで生きていく──40mPのボーカロイド活動日誌』P.156より)

 普段はインタビューやSNSでしか垣間見ることのできない、「ボカロP」として活動してきた人の経験と心情。会社員のまま制作活動を始め、やがては大好きな音楽を仕事にするようになったボカロPの一例として、40mPの物語る話は本当に素敵に感じられ、またおもしろく読むことができました。

 往年のボーカロイドファンはもちろんのこと、ぶっちゃけよく知らないという人にもぜひともおすすめしたい、1人の青年の物語。素直でストレート、それゆえに心に響く彼の楽曲のような本書は、焦燥感を抱えながらも日々をぐーたらと過ごす自分の身に染み渡るような1冊でした。僕もがんばろう。

「夢地図」サムネイル

【GUMI(40㍍)】 夢地図 【オリジナル】 - ニコニコ動画より

大切なものはいつも出発地点に忘れてる

(「夢地図」より)

 

© 40mP/Tama 2018

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