「書くことは楽しい!」を教えてくれる『書く習慣』は、ネットで何かやりたい人のためのマインドセット


 

いわゆる「文章」をテーマにしたハウツー本には、それぞれにテーマがある。

 

たとえば、『新しい文章力の教室』

この本のテーマは、ずばり「完読されること」。読者に完読してもらえる文章を書くにはどうすればいいのか。コミックナタリーの元編集長が、自社の新人教育で提示していた「文章術」をまとめた内容だ。

あるいは、『伝わる・揺さぶる!文章を書く』

こちらは「読み手の納得・共感を得る」ことに主眼を置いており、読者の気持ちを動かすことに狙いを定めた「書き方」を提案する1冊だ。中高生に作文の指導をしている筆者が教える「問い」の立て方は、文章以外の分野でも活用できる。

ほかには、『日本語の作文技術』

書店に行けば必ずと言っていいほど置いてある定番本であり、30年以上も読まれ続けているロングセラー。テクニックとしての「文章術」以前の、「作文」の基本を学ぶことができる。選んで間違いのない「最初の1冊」だと言えるだろう。

このように「文章本」も多岐にわたるが、今回読んだ『書く習慣』もまた、それらの本とは異なるテーマを持つ1冊だった。ある意味では現代にぴったりの、これから何かを「書こう」と考えている人にこそおすすめしたい本だったので、簡単に紹介します。

書く習慣

書く習慣

  • 作者:いしかわゆき
  • クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
Amazon

 

徹頭徹尾わかりみドライブ

本書の筆者は、フリーライターのいしかわゆき@milkprincess17さん。「文章を書く」ことを仕事にしている一方で、人と話すことは苦手。他人と目を合わせるのも苦手で、コミュ障だと自称する筆者が生きてこられたのは、「書く」ことができたから――。

そんな「はじめに」から始まる本書を読み始めて、早くも「わかる〜〜〜!!」と頷きながら全力で縦揺れしていた自分。冒頭から共感ポイントが多く、ほぼ徹頭徹尾ぶんぶん頷きながら読むことになったわけですが、それにしても共通点が多くてびっくりした。

以下、本書の「はじめに」をざっくり要約してみましょう。

学生時代にブログを書いていた原体験から、「なんでもない日常でも、書けば、絶対になにかが変わる」と確信していた筆者。それによってライターになることができ、本を出版し、営業もほとんどせず「書いているだけ」で仕事を得ている現状がある。

曰く、「書く」ことは最高のひとり遊びでもあり、良き相談相手でもある。それは、自分の気持ちを、口で言わなくても相手に届けてくれる、最強のツール。「書く」ことは仕事に繋がるだけでなく、新しい自分の発見や、すばらしい未来を引き寄せるのにも役立つ。

だからこそ、「やりたいことがない」「毎日同じような日々でつまらない」と感じている人にこそ「書く」ことをやってみてほしい。

本書は、「なんでもいいから発信してみたい」「人生をもっと楽しみたい」「よくわからないモヤモヤをなんとかしたい」という人にも向けて書いた本である。しかし、好きな気持ちがなければ、「書く」のはしんどい。ゆえにこの本は、「どう書くか」ではなく、「書きたい」気持ちを育んで、無理なく楽しく続けられる「習慣」を身につけることを目指している。

文才はいらない。正解もない。
大事なのは、とにかく書き続けることだ。

何よりも大切な「楽しみ方」と「続け方」を教えてくれる

このような「はじめに」から始まる本書は、冒頭で挙げた3冊のような「書き方」の本ではございません。

一言で説明するなら、「書く」ことを楽しく続けるための「習慣」を育む手助けをしてくれる、「楽しみ方」と「続け方」の指南書だと言えるだろうか。冒頭で取り上げた3冊とは明確に異なり、「文章術」以前の「マインド」に目を向けた内容となっている。強いて挙げるなら、ライターとしての自分がバイブルにしている『書けるひとになる!』と近いかもしれない。

しかし30年以上も前のアメリカで出版された『書けるひとになる!』とは違って、『書く習慣』は現代日本で書かれたホヤホヤの1冊。Webメディアで実績を積み重ね、SNSも積極的に活用し、文章以外の媒体でも発信活動に精を出す、「永遠の17歳」を標榜する若者の書いた本でございます。

つまりどういうことかと言えば、現代日本のインターネットで「なんでもいいからやってみたい!」と考えている人に対して、本書は最適解に近いマインドセットを示してくれている。そう断言したくなるくらい、強く強く共感できる1冊だった。

そう、文章の書き方とか、数字の伸ばし方とか、小手先のテクニックとか、そんなこたぁどうだっていいのです。……いや、その活動を仕事にするのなら必要にはなるでしょうが、それ以前に大切なことがある。

何よりも重要なのは、「書く」ことの「楽しみ方」と「続け方」。それをピンポイントで教えてくれる本書は、「書く」ことに限らず、ネットで何かをしようと考えている人にこそおすすめできる本だと感じたわけです。数字ばかりを見るようになって暗黒面に落ちたブロガーや、やりたいことを見失い病んでしまったVTuberを、この数年間だけでもいったいどれだけ見送ってきたことか……!

「感情が動いたら、それがインプット」

逆に言えば、すでに「好き」の感情で突っ走っている人は、本書から得られるものは少ないかもしれない。僕自身、(こう書くと筆者さんには失礼かもしれませんが)冒頭から「あなたは私ですか?」と感じるエピソードばかりで、ヘドバンするレベルで頷きまくりながら最後まで読めたものの、新しい発見はそこまで多くは得られなかったので。

ただ、さすがは多くの媒体で活躍されているライターさんということもあって、言葉選びや伝え方に関しては学びになる部分も多かった。

個人的にぶっ刺さったのが、「感情が動いたら、それがインプット」のフレーズ。そこはかとなく意識高い系のイメージが漂う「インプット」という言葉を、「好きなものについて書こう!」という文脈と結びつけて、やんわりと一言でまとめているのが見事だなあと。このような表現がほかにも何箇所かあって、いちライターとしてとても勉強になりました。

そしてなにより、「書く」をサボっていたことを実感させられたのが、最も大きな収穫だった。

仕事の原稿で、日々のツイートで、毎日の日記で、「書く」ことはずっと続けているのだけれど、本書で言うところの「書く」は疎かになっていた気がする。数年前と比べると無機質に見える自分のツイートもそうだし、更新できていないブログもそう。書きたいネタがたまっていく一方で、自身の原点に近い性質を持つ意味での「書く」ことができていなかった。

そういう意味では、自分を「書く」と再会させてくれた本として、これまで読んできた文章本とはまた別の意味で記憶に残る1冊になるのかもしれない。また明日から……いや、今日から早速、「書く」を楽しんでいこうと思います。BIG感謝。

 

書く習慣

書く習慣

  • 作者:いしかわゆき
  • クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
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