2014年発売の25冊!“考える”ためのおすすめ本・テーマ別まとめ
個人的に「これは良かった!」というものを挙げてみたら12冊だったので、それらの内容と感想を簡単にまとめました。対象作品は、2013/12〜2014/6に発売された新刊。
新書とビジネス書が多め。あと、小説・ラノベ・コミックが一冊ずつ。キーワードとしては、「心理」「承認」「ことば」「ネット」「サブカル」「地方活動」といったところでしょうか。
どなたかの参考になれば幸いです。
『嫌われる勇気』/岸見一郎、古賀史健
昨年末からリアル書店だけでなく、複数のネットメディアでも名前が見られ、話題となっていた一冊。フロイト、ユングに並ぶ重要な心理学者として名前の挙げられる、アルフレッド・アドラーの心理学(=個人心理学)を議論形式で解説した内容。
どうしてあんなに話題になっていたのか疑問だったけれど、読んでみて得心がいきました。確かに、よく言われる“空気を読みがちな日本人”からすれば、この論説は痛快に刺さるし、「実践したい!」と思わせる力を持ったものだと思う。
本書の中でアドラーの言葉を代弁する哲学者は、彼の元を訪れた青年に、こう語りかける。「“トラウマ”は存在しない」「あなたは他者の期待を満たし、他人の人生を生きていないだろうか?」「自由とは、他者から嫌われることである」。
何か引っかかるものがあるのなら一度、読むことをオススメしたい作品です。対人関係に悩む青年、就活中の学生、現在の職に不安や不満をもつ会社員など、何かしら「悩み」を持っている人に対して、突き刺さる問いを投げかける劇薬。全てを鵜呑みにせず、読み終えた後に自身の中で反芻する必要性が高い本だと感じました。
『承認をめぐる病』/斎藤環
現代日本を覆う、「コミュニケーション偏重主義」と「承認欲求」に関して、精神科医である著者の視点から解説した本。
自分の本質とは無関係の「キャラ」としての役割を演じる必要性による、マズローの欲求段階説の逆転現象。「キャラとして承認されること」が最も重要であり、それゆえにコミュニケーション能力を何よりも重視する、「コミュニケーション偏重主義」が広まりつつあると指摘しています。
また、特に問題視されるべき「承認をめぐる病理」は、「承認への葛藤」「承認への過剰反応」「承認への無関心」の3パターンが挙げられ、それぞれが『新世紀エヴァンゲリオン』の登場人物に当てはまるという主張*1がおもしろい。
「承認欲求」に関する話題は定期的に上がってくる印象がありますが、それを語るにあたって、本書は参考になりうるものかと。カバーしている範囲はかなり広いので、いろいろな面で刺激をもたらしてくれる一冊だと思います。
『ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す』/津田大介
ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す これからのソーシャルメディア航海術 (PHPビジネス新書)
- 作者: 津田大介
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2014/02/07
- メディア: Kindle版
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Twitterを始めとするソーシャルメディアに限らず、広く「ネットメディア」と「ネットリテラシー」について改めて見直し、その使い方と考え方を確認をすることができる内容です。
自分にとって価値ある情報の探し方、インプット方法。ブログなどで情報を発信するにあたって、「炎上」とどう向き合っていくか。
その上で、ソーシャルメディア時代の情報リテラシーとは、「人を見る力」であり、「人を選ぶ力」であるとして、同時に、自分という「人」がソーシャルメディアを通じて見られていることを意識しなければならない、と説明しています。
「ネットリテラシー」を考えるにあたっては、ぜひ多くの人に読んで欲しい一冊。特に日頃から情報を発信しているブロガーさんには、第3章「アウトプットの論点」が参考となるかと。
プロローグと巻末の付録を除けば、一冊を通してQ&A方式の構成になっており、項目ごとに非常に読みやすい仕様となっているのも、ありがたい。「アルゴリズムに支配されないために」と題した、川上量生*2さんとの対談も必読。
『その言葉だと何も言っていないのと同じです!』/吉岡友治
「人それぞれ」「常識で考えればわかるだろう」「二度と繰り返されてはならない」など、何か意味のあることを言っているようで、実は何も言っていない、便利な言葉。そんな社会に蔓延る「マジック・ワード」に対して、ひとつひとつ突っ込んでいく内容。
ただ単にツッコミを入れるだけの内容かと思いきや、その言葉に含蓄された意味や本質、マジック・ワードに対する対処法、考え方など、非常に濃い一冊でした。
後半は特に「論理的な思考法」に焦点が当てられており、どちらかと言えば、サブタイトルである「『自分の考え』を論理的に伝える技術」の方がメインコンテンツであるような読後感を受けた。気付きが多く、繰り返し読み返したい良書です。
『“ありのまま”の自分に気づく』/小池龍之介
一口に言えば、他者からの「承認」 に一喜一憂せず、善でも悪でもなければ何者でもない、ただの自分、“ありのまま”の自分を受容しようという内容。れりごー!……ではありません。
自己承認は成り立たない。他者承認には依存できない。だからこそ、ただただ現状を見つめて、「ああ、そうなんだ」と受け止めるのみに終始する。
「承認」と「渇愛」を求めず、「孤独」を意識し、ただ「ありのまま」を受容せよ、という教え。常に中立的な立ち位置に自分を据えて、「良い」も「悪い」も、「こうなりたい」も「ああするべき」も全部、その感情があることに気づき、受け止め、見届けるだけ。
自分を知り、認め、肯定するには、「念(きづき)」を得る必要がある。そのための方法論も、軽妙ながら優しい語り口で論じられております。
一朝一夕で身につけられる考え方ではなく、あまり積極的に実践しようとも思えなかったけれど、間違いなく、辛い時、苦しい時の「考え方」の処方箋とはなりうるかと。
『フルサトをつくる』/伊藤洋志×pha
タイトルの印象とは異なり、本書は、最近流行りの「田舎暮らしをしよう!」的な入門書とは似て非なるもの。
都会か田舎、定住か移住といった二元論ではなく、都会とは別の役割を持ったもうひとつの拠点、「フルサト」を作り出し、都会と行き来することによって、暮らしをより豊かにできるのではないか、と。
本書は2人による共著の形ですが、伊藤さんが「住居」や「仕事」について実践的な話を展開しているのに対して、phaさんは「つながり」や「文化」という、田舎におけるコミュニティや人の関係性について言及する形式をとっています。
そうすることによって、本を通してある種の緩急が生まれていたようで、非常に読みやすかった。また、そのような役割分担が、まさに彼らの語る「ナリワイ」的でもあり、興味深い。
☆感想:いま、求められる「つながり」の形
『21歳男子、過疎の山村に住むことにしました』/水柿大地
彼女にフラれ、自己分析を始めた、当時21歳の著者。「自分がやりたいこと」「できていないこと」に気付かされ、現場での経験を積むべく、「地域おこし協力隊」に応募。その、岡山県美作市での活動を記した一冊です。
「上山内で人を見かけたら、ぜったいに軽トラを止めて声をかける」という自分ルールに学ぶ、挨拶の大切さ。
地方というと不便なイメージが強いけれど、ちょっとした課題や関心が見つけやすく、また挑戦しやすい土壌が整っているのが、もしかすると、「田舎」なのではないか。そう思わせてくれる一冊でした。
☆感想:『21歳男子、過疎の山村に住むことにしました』を読んで草刈りを志す
『一〇年代文化論』/さやわか
「残念」をキーワードとして、その要素を含んだ近年のサブカルチャーについて言及、論じた内容。
「残念な美人」とは何者か。電子音声のボーカロイド、アマチュア作曲家のボカロ曲は、「残念」だからこそ応援したくなる。『僕は友達が少ない』*3で示されている、「友達を作るために演技する」という「残念」さと、Perfumeの演技と日常のギャップがもたらす「残念」。
ゆとり世代だのさとり世代だの、世代を表す言葉は多くあるが、そのような年齢別のカテゴライズはもはや意味を成していないのではないか。新旧世代を区別するのは、現代日本社会に蔓延る新しい感性を理解できるかどうか。その基準として、「残念」という考え方がある。それが筆者の主張したいことだと、僕には読めました。
☆感想:「残念」な僕らの若者文化
『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』/柴那典
「サード・サマー・オブ・ラブ」「遊び場」の2つをキーワードに、音楽史における「初音ミク」の存在と、それが単なるブームで終わらず、新世代のひとつのカルチャーとして存在感を高めるにまで至った理由を紐解いた内容。
2007年、初音ミクが起こしたムーブメントを第3の「サマー・オブ・ラブ」として、それが広まるきっかけとなった「遊び場」の存在――ニコニコ動画や、同人音楽の存在を指摘しています。
初音ミクの「これまで」を整理し、そして「これから」を考えるにあたって、本書は大きな力となるものだと思う。現存するボカロ関連書籍としては、ひとつの「教科書」としてもいいのではないかと。ボカロカルチャーに興味のある方には、ぜひ勧めたい。
『ゲームウォーズ』/アーネスト・クライン
仮想世界モノということで、『ソードアート・オンライン』*4や『.hack』*5が好きな人には、ビビっと来るものがあるかもしれない。
けれどそれ以上に、80年代のゲームや映画やアメコミが大好きな人にとっては、もう最高なんじゃないかと。作者がコアなギークということもあり、出てくる作品の守備範囲がとんでもなく広い。僕のような若造にゃ分からんぜよ。
軽くネタバレになりますが、後半がとんでもないんすよ。一言で言えば、「スーパー特撮大戦」。日本のアニメ&特撮ロボットが大暴れ。しかも、主人公機が東映版……ゲフンゲフン。
☆感想:ヴァーチャル空間で日本のロボットが大暴れするアメリカ小説
『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。⑨』/渡航
ガガガ文庫 やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。9(イラスト完全版)
- 作者: 渡航
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2014/04/25
- メディア: Kindle版
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シリーズ物を取り上げるのもどうかと思ったけれど、あまりに良かったので。ここまで、複数の登場人物を掘り下げ、その関係性と心の機微、文字通りの「人間関係」をしっかりと描いているライトノベル作品は、なかなか見られないんじゃないかと。
それに何と言っても、主人公の描かれ方が他の作品とは明確に異なっているように感じる。
どうしようもなく鈍感な主人公が多くなりがちなラノベ作品において、こんなにも「敏感」で、他人との距離感を気にするキャラクターは珍しい。その悩みと葛藤、変化も劇的ではなく、丁寧に描かれている印象。助言者としての「大人」の存在もまた、魅力的。
物語も終盤ということで、これからの展開に期待大。
『聲の形』/大今良時
話題作。障害者問題と言うとどこかタブー視されがち。コンテンツの作り手としても、消費者としても、その扱いに困ってしまいがちな印象が強い中、真っ向からストレートに切り込んでいった作品。
こちらも、キャラクター同士の距離感が絶妙で好き。メイン2人に限らず、教師や家族も含めて。
作者インタビュー*6で、“和解できたらできたで素晴らしいことですけど、できなかった場合にどうするのか、救いはあるのかを描きたい”という話があったということで、一抹の不安が。でもかえって複数の可能性が想像できるので、先の展開が楽しみ。