SNSやブログなどを始めとするソーシャルメディアが普及して、もうしばらく経つ。FacebookやTwitterを利用した情報収集・発信を誰もが気軽に行えるようになり、個人から企業に至るまで、それらは僕らの生活にとって「当たり前」のものとなった。
しかしその一方で、昨年はTwitterでの「炎上」が幾度も取り上げられた。それに伴って、「ブログの使い方」や「正しい情報発信の方法」といったエントリが各メディアでたびたび持ち上がり、話題となっている。ソーシャルメディアの正しい使い方、ネットリテラシーが問われている。
このたび読んだ『ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す』は、日本におけるTwitter利用の草分け的存在でもある津田大介(@tsuda)さんの著書。サブタイトルに「これからのソーシャルメディア航海術」とあるように、インターネット利用においてひとつの指針となるものだと思う。
ツイッターで「人」を見抜く
プロローグでは、2013年夏の参議院選挙で解禁されたネット選挙や東日本大震災におけるTwitter利用と絡めつつ、Twitterの持つ特徴について再確認している。
- 初のネット選挙で効果をあげたのは、ソーシャルメディアを通じて「人柄」を伝えるのに成功した候補者であり、党であった
- ソーシャルメディアを通じて多様な意見に触れているような気になっているが、そのじつ、自分の声が反響しているだけの空間にいる
- 「ツイッターはいい書き手を探すためのツールではない。仕事を頼んではいけない書き手を見分けるためのツールなんだ」
- 人間関係を構築していくうえでのソーシャルメディアの最大のメリットは、人脈を「広げる」ことよりも「深める」ところにある
そのうえで、ソーシャルメディア時代の情報リテラシーとは「人を見る力」であり、「人を選ぶ力」であるとして、同時に、自分という「人」がソーシャルメディアを通じて見られていることを意識しなければならない、と説明している。
これは、日頃からソーシャルメディアに触れている人の多くが実感していることだと思う。一連の「炎上」騒ぎの発端は、どれもが「見られている」ことを意識していなかったがゆえのツイートであったし、タイムラインを少し遡って見ればその人の人柄も何となくわかってしまう。
Twitterは140字という短い文章を発信するツールであるために、簡単に、感覚的に、感情的に使えてしまう。何をいまさら……と言われるかもしれないが、あまりに慣れ親しみすぎた結果、ちょっとしたミスを犯してしまうことは何においてもありがちだ。
「初心忘るべからず」ではないが、本書はそのような「ソーシャルメディアの使い方」について改めて見直し、確認をすることができる内容となっている。プロローグと巻末の付録を除けば一冊を通してQ&A方式の構成になっており、項目ごとに非常に読みやすい仕様となっているのもありがたい。
ここからは、各章の内容をご紹介。1、2章の一部に突っ込み、以降は簡単な概要となります。
1. [動かす] メディアはどこへ行く
第1章では本や新聞といった既存のメディアに触れながら、インターネットの登場によって起こったそれらメディアの変化、さらにネットメディアとの比較を行いつつ、その妥当性について解説した内容となっている。その一部を抜き出すと、以下のような感じ。
- 紙メディアはなくなるのか
- 新聞記事はすべて無料になるのか
- 電子書籍の値段が安くならないのはなぜか
- 読書がソーシャル化する
- ネット選挙は政治の何を変えたのか
- マスメディアとネットメディアはどちらが信頼できるか
個人的に関心を持ったのが、「読書がソーシャル化する」の項目。津田さんは著作やメルマガの感想をいつもリツイートしているが、それは単なる宣伝ではなく「著作のアップロードをしている」という感覚で行なっているらしい。
ストック型のメディアである本は、あくまで「起点」。ソーシャルメディアを介して読者の疑問に答えたり、新たな議論が始まったりすることで、本で書いた内容にフロー的な情報が「乗っかってくる」と考えています。それも含めて、トータルなコンテンツになっていく。せっかく自分の考えをまとまったかたちで世の中に出すのですから、そうやってコミュニケーションすることで、付加価値が生まれると考えているのです。
「なるほど!」と思わされた。僕自身、津田さんの発行する有料メルマガの読者であるので、たびたび感想をツイートしているが、他の人の感想を読んでいて為になることはよくある。
内容に関して、人によって突っ込む箇所が違うのは当たり前。多くの人は、「私はこう思った」「こういう考え方をしてもいいんじゃね?」「類似例でこんなのもありまっせ!」などといった、各々の考えたことを含めてツイートしているために、それらの感想から気付きを得る場合も非常に多い。
これが津田さんの言う「付加価値」であり、これまでは、勉強会や読書会といった「閉じられた場」でないとできなかった感想の共有が、開かれたインターネットという空間で可能になったという事例のひとつだと思う。
もうひとつ、「『人』そのものを総合的に掘り下げていけるコンテンツ・サービスはまだ存在しない」とあり、「ザ・インタビューズ」がそのうまくいかなかった例として挙げられていた。
これに関しては、「STORYS.JP」が割と近いんじゃないかな、という印象を持った。ただ、そこにあるコンテンツは「完結した物語」なので、今ひとつ物足りない感じはある。
2. [受ける] 情報のチューニング
第2章は、主に「情報の受け取り方」に焦点を当て、論じたものとなっている。
- 成熟した情報の受け手になるために
- フォローの基準をどこに置くべきか
- ツイッターのデマを検証する方法
- 情報のメンターを見つける
- 良書を見抜く目を養う
- ソーシャルメディア疲れ対処法
中でも関心を持ったのは、「情報のメンターを見つける」の項目だ。
「この人の言うことはおもしろい」「この人の情報は信頼できる」といったメンター(導師)的存在を何人かつくる。その人が本を書いているなら全部読む。その人が紹介する情報や書籍を継続的にチェックする。そうすることで、自分が情報を読み込むための軸ができてきます。
もちろん、「信者」になる必要はない、とも書かれている。複数のメンターを見つけて、自分をレバレッジするためのツールとして、メンターを「使う」気構えが何よりも大事、とも。
簡単にいえば、自分が「いいね!」と感じた人を参考にすること。はてなブログにおける「読者」になるような、かるーい感覚でいいんだと思う。その人の考え方を取り入れつつ、自分の情報発信に活かすこと。それを繰り返していれば、自然と知識は増えるよ、という。
加えて、そのようなメンターは時によって変わってくるとも思う。僕なんかだと、働いている時は、仕事観や働き方に関する言説の多いTwitterユーザーやブロガーさんをチェックしていたけれど、最近は、広く、考え方や言葉について論じている人の意見を詠むようになった。
その時々で、自分に合ったメンターを見つけて、参考にすればいいのでは。ずっと同じ人を追っかけるのも疲れるしね。行き過ぎれば、信者化といった危険性も。
3. [発する] アウトプットの論点
第3章では、アウトプット、情報発信の面から、ソーシャルメディアの使い方について説明している。炎上云々が気になる人は、一読の価値あり。
- ツイッターでフォロワーを増やす方法
- ブログを長続きさせるために
- いい文章を書くための秘訣
- 叩かれそうな意見でも言うべきか
- むしろ炎上すべし
- ネガティブな反応をどうとらえるべきか
ご覧のとおり、ひっじょーにブロガー向けな内容になっております。この章は、ぜひブロガーさんに読んで欲しい。詳細は省きますが、広く情報発信について語られており、ブロガーにとってのひとつの指針となりうるかと。
ただ、「炎上」に関しての言説は、結構、マッチョなもの。情報発信する側の心構えとしては間違ってないのだけれど、ネガティブな意見に目が向いてしまうのはどうしようもない。むしろ必要なのは、周りの人間が積極的に肯定的な感想を書き込むことだと思う。声なき賛成が前面に出てくれば、理不尽な暴言も少しは見えなくなるかと。
4. [伝える] 発信者として突き抜ける
第4章では、3章を前提として、情報の発信者としてステップアップするための考え方が書かれている。
- スペシャルな分野を複数もつ
- 価値あるニュースや情報はどこから見つけてくるのか
- 核心に迫る質問のぶつけ方
- 人前で上手に話せるようになる
- 間違った情報を拡散してしまったら
- メルマガで読者を集めるためには
3章に続き、ソーシャルメディアを活用した情報発信がメインテーマではあるが、同時に、インタビュアーや司会者としての方法論についても説明されており、参考になる点が多い。
5. [魅せる] メディア・アクティビストになる方法
第5章は、より実践的な内容。情報の発信者として、どのように自分を育て、売り込んでいけばいいか。津田さんご自身の経験も多い、ライターに関する内容が主となっている。
- 情報の取り扱いは危険と隣り合わせ
- 未経験からプロのライターを目指すには
- フリーライターとして生きていけるか
- 「非コモディティ人材」になるには
- ネットメディアはお金になるか
- 無料コンテンツへの「寄付」でお金はまわるか
6. [働く] あらためて仕事とは何かを考える
第6章は、いわゆる仕事観の話。どちらかと言えば、就職活動中の大学生向けの内容となっているような印象を受けた。
- やりたいことを見つけるには
- 自分の能力に疑問を感じたら
- 正社員を捨ててでも成功する転職とは
- 飲み会をゲームと考える
- 能力重視の世界を生き抜くには
- ソーシャルメディアを使って人脈を深める
仕事を辞め、無職となった我が身にも省みるような点が多く、得心のいく内容だった。
付録
本書では、付録として、株式会社ドワンゴ会長の川上量生さんと津田さんの対談と、宗教学者、島田裕巳さんによる解説が収録されている。
川上さんとの対談は、「アルゴリズムに支配されないために」と題し、インターネットの持つ集合知がもたらす未来などについて語られた内容。どこかで見たような内容だと思ったら、過去の津田マガで配信されていたらしい。
本対談の内容は、川上さんの著書である『ルールを変える思考法』でも論じられており、興味のある方はそちらも合わせて読むと理解が深められると思います。
もうひとつは、「津田大介論、あるいはパーソナルメディアの誕生」と題された、島田さんによる解説。これが、ものすごく納得のいく内容でおもしろかった。曰く、津田さんの役割は情報の「交通整理」であり、自己の考えや主張を展開する場として、自らのメディアを機能させようとする意図が感じられない、という。
人気のあるブロガーや、知識も経験も豊富なジャーナリストやライターの発信する情報には、その人の考え方・思想が多分に含まれている。だからこそ、その情報は魅力的なものとして多くの人に支持されることになる。
しかし、それらの情報は説得力があったり、刺激的であるがゆえに、躊躇いなく受け入れてしまえるものだ。専門家が言っているならそうなんだろう。あの人が言うなら間違いない。それらの情報の価値は高いかもしれないが、そこに受け手自身が考える余地は少ない。
そのような中で、津田さんのもたらす情報は、余計なバイアスがあまりかかっていない、生に近い情報である、ということが評価されていた。
考えてみれば、割と飽きっぽい僕が、津田さんの著作やメルマガを続けて購読できているのも、それによるものなのかもしれない。読めば必ずと言っていいほど、アウトプットしたくなるような魅力がある。何かしら為になる。それはきっと、ある情報の価値が、決定づけられていない状態で、僕ら読者に提供されているからではないだろうか。
単純に「津田信者」と言ってしまえば、それまでですが。そんな僕にとっても、本書は「ソーシャルメディアを考え直す」という意味で、気付きの多い内容でした。ソーシャルメディアが当たり前のものとなっている今、改めてネットリテラシーを考えるべき段階に来ているのかもしれない。