【MAD】二つの心with you【明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。】
「ライトノベル」といえば、玉石混交、種々雑多な物語作品を抱えているジャンル。正直、むちゃくちゃ幅が広いので、自分に合う作品を探すのも一苦労だと思うんです。
定義の曖昧さ、出版されているレーベルによるカテゴライズなどもあり、本当になんでもあり。ラブコメはもちろん、青春群像、ファンタジー、SF、伝奇ロマン、推理、冒険──と、もうなにがなんだか。
そんな幅広さを見ると、世間の「ラノベ」のイメージだけで食わず嫌いをしている人は、もったいないんじゃないかとも思うのです。
とは言っても僕自身、昔から一般文芸もライトノベルも関係なく、関心を持った作品は適当に手にとって読んできたような偏読家なので、あまり詳しいわけでもなく。有名どころ、もしくは、微妙にマイナーだけど一部に人気、みたいな作品が好きです。一般文芸でも、ラノベでも。わぁい、両極端。
そんなハイブリッドな「物語好き」として、ちょっとは変化球となるような紹介記事が書けるかなーと考え、まとめてみました。
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神栖麗奈は此処にいる
高校時代に、電撃文庫の作品としては初めて読んだライトノベル。ラノベなのにイラストがない。ホラー色の強いミステリー……と言っていいのかな。
各章ごとに異なる登場人物が「神栖麗奈」という〈現象〉と出会い、死へと追いやられていく物語が描かれる。別個の話として読んでいると、「神栖麗奈」のキャラが違いすぎてわけがわからない。しかし、最後まで読み進めていくなかで、やがてその理由も明らかになる。
最近の作品で言うと、『Another』*1の雰囲気と近いかもしれない。ただ、主人公たちが〈現象〉に立ち向かおうとする『Another』に対して、『神栖麗奈』では基本的に翻弄されるだけ。すべての謎の答えは、続刊で明かされる。
彼女は、「わたし」の親友。陸上部に所属していて、クラスは違うけどいつも一緒に下校している親友。彼女は、「僕」の家族を殺した憎い仇。僕は彼女を許さない。僕の家族を殺してなおのうのうと生きている彼女を許さない!彼女は、「わたし」の仲間。人型エネルギーを消すため…世界の危機を救うために一緒に戦う仲間。彼女は、「僕」の…彼女は、いつもおかしいくらい美しい微笑みを浮かべている。彼女は、「あなた」にとっての、何…。
砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない
『私の男』『GOSICK -ゴシック-』などで有名な、桜庭一樹*2さんの作品。角川文庫版で読んだので、まったくライトノベルというイメージがなかった。
しかもその前にコミック版を読んでいたので、展開はもう知ってしまっていたという……。にもかかわらず、やはり文字で読んでもおもしろかった。
最初から最後までどこか重々しい停滞感が漂い、息苦しさを感じるやり取りが続く本作。描かれるのは、生きるための “実弾” を求める少女と、 “砂糖菓子の弾丸” を撃ちまくる少女。絶望しか見えない物語の中で、終盤の「先生」の言葉が特に印象に残っている。
その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは徐々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日――。
“文学少女”と死にたがりの道化
いわゆる『“文学少女”シリーズ』*3と呼ばれる作品群の第1巻。普段は一般文芸しか読まない人におすすめのラノベとして、よく紹介されている印象も。
一口に言えば、「青春ミステリー」。謎解きがあり、恋模様が描かれ、主人公の成長物語でもある。そしてもっとも大きな特徴として、それぞれの巻ごとに「元ネタ」となっている文学作品があるという点が挙げられる。
たとえば、この1巻では『人間失格』。ほかには、短編も含めて『友情』『夜叉ケ池』『嵐が丘』『オペラ座の怪人』『夏への扉』『ライ麦畑でつかまえて』などなど、古今東西の文学作品が登場する。
それゆえ、偏読家にはぴったりの作品。
それぞれの元ネタについても、その要素をうまく物語に組み込んでいるような形なので、知っていても知らなくても楽しめる。さらには、原作とは異なった解釈すら提供してくれるため、既読者は刺激的に感じるはず。合わせて読むと、よりおいしい。
天野遠子・高3、文芸部部長。自称“文学少女”。彼女は、実は物語を食べる妖怪だ。水を飲みパンを食べる代わりに、本のページを引きちぎってむしゃむしゃ食べる。でもいちばんの好物は、肉筆で書かれた物語で、彼女の後輩・井上心葉は、彼女に振り回され「おやつ」を書かされる毎日を送っていた。そんなある日、文芸部に持ち込まれた恋の相談が、思わぬ事件へと繋がって…。新味、ビター&ミステリアス・学園コメディ!
AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜
思春期の黒歴史──いわゆる「中二病」*4と称される痛々しさを扱った作品は、今や少なくない。
しかし、中二病をただの「ネタ」や「キャラ付け」として消費する作品も多いなかで、本作は、その有り様をしっかりと描き切り取っている。
設定上、文中で登場する “妄想戦士” は非常に極端に描かれているけれど、そのぶっ飛んだ痛々しさが、かえって読者の古傷を刺激する。しかもそこにはクラス内カーストがあり、苦々しい「いじめ」までもが描かれるため、より大きなダメージを受ける人もいるかもしれない。
大人になった今でも考える、「『普通』ってなんだろう?」という、素朴な疑問。かつてのような妄想には浸れなくなってしまったけれど、どこか普通じゃない「非日常」に憧れを抱くのは、子供も大人も関係ないのかもしれない。そんなことを考えさせられた。
その日。教科書を忘れた俺は、夜半に忍び込んだ学校で彼女と出会った。教室に向かう階段の踊り場。冷たい月の光のスポットライトを浴び、闇を見据えている少女。美しい―。そこには、人を惹き付けるオーラを放つ青の魔女がいた。…いや待て、冗談じゃない。妄想はやめた。俺は高校デビューに成功したんだ!そのはずだったのに、この妄想女はッ!「情報体の干渉は、プロテクトを持たない現象界人には防ぐことはできない」「何いってんだかわかんねーよ」実はだいたい理解できていた。
小説 スパイラル ~推理の絆~ (2) 鋼鉄番長の密室
おすすめ小説、おすすめラノベなどを紹介する記事で、よく挙げられがちな本作。『少年ガンガン』で連載していたマンガ『スパイラル ~推理の絆~』*5の小説版。
もともと原作者と作画担当の2人で作っている作品であるため、小説版も原作者自ら執筆する形となっている。──で、なぜか妙にこの小説版、特に2巻の評価が良い。いや、僕も中学生当時「おもれー!」と読んだ記憶があるけれど。
その理由はおそらく、「一見するとバカらしいけど、ミステリとしての仕掛けも謎解きもしっかりしている」というミスマッチ具合にありそう。想像の斜め上をいくマンガの展開も大好きだったけれど、違った方向でのぶっ飛び具合を読める小説版も楽しい。
四十五年前、密室で死んでいた鋼鉄番長は自殺だったのか、他殺だったのか?歩とひよのは謎の美少女・牧野千景のために、「熱き番長の時代」を揺るがす密室を開くことに…。果たして「鋼鉄番長の密室」は開くのか!?そして開いた先にあるものは!?
ナルキッソス
原作はサウンドノベル*6。とても “ライト” ノベルの名には似つかわしくない、ヘビーな物語。サウンドノベル版は無料ですべて読めるフリーゲームなので、知っている人も多いのではないかしら。
死を待つだけの場所──ホスピスの患者である2人が、残り限られた生の時間を過ごす場所を探して、あてもない旅に出る。たしかに感動できる物語であることは間違いない……のだけれど、どちらかと言えば、虚脱感のほうが大きかったかもしれない。
本作で問われているのは、答えのない「死生観」。
登場人物の発する言葉の意図はもちろん、誰が間違っているのか、何が正しかったのかも、すべて自分たちで想像するしかない。人の生死という重いテーマに加え、「読んで楽しい! すっきり!」といったエンタメ性も薄く、ライトノベルというジャンルで見れば、異質な作品だと思う。
でも、大好き。
「……只、生命の尽きる場所」。ある冬の日に阿東優が入院した「7階」は、そういう場所だった。そのことを彼に告げたのは、長い黒髪を持つ同じ入院患者の美少女。名前はセツミ、血液型O――手首の白い腕輪に書かれていたのは、ただそれだけ。最期の時を迎えるのは、自宅か7階か。いずれの選択肢をも拒み、ふたりは優の父親の車を奪って走り出す――。
ゆめにっき
おなじく、フリーゲームが原作*7。こちらはまた一風変わった、魅力的なノベライズとなっている。
おどろおどろしい世界観と、いくらでも解釈のできる衝撃的な結末で話題となった原作。その奇っ怪な雰囲気は、小説版でも見事に文中で描写されている。それだけにとどまらず、原作を遊んでいる人でも「わけがわからない」と感じられる展開が魅力的だ。
何と言っても、主人公が誰なのかがわからない。ゲームで操作する三つ編みの女の子を「あなた」と呼ぶ誰かの視点で、物語が進んでいくのだ。
原作を知っている人なら、物語後半にあっと驚く種明かしがされると同時に、いろいろな疑問が噴出してくるはず。そして、結末がこれまたとんでもない。そんな解釈もあったのか──と、鳥肌が立つ思いだった。
こう書くと、原作をプレイしておくことが前提であるように感じられるかもしれないけれど、未プレイの人のレビューを見ても、そこそこ好評である様子。読者を選ぶ作品であることは間違いないものの、「わけのわからなさ」に魅力を感じる人には、ぜひとも読んでほしい1冊。
扉を開けたその先には、不可解な景色が広がっていた。深い眠りに就いた少女は、ひとり夢の中をあてもなく歩きはじめる…。
明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。
なんと冒頭、ヒロインが速攻で死ぬ。
死んだ彼女は主人公の体に入り、1日おきにお互いの人格が出てくる “二心同体” の生活が始まる──という、なかなかにぶっ飛んだ作品。
しかも2人には、この手の作品でありがちな「脳内で会話できる」という便利な設定はなく、1人の意識が体を動かしている最中、もう1人は意識不明状態という、不便な関係。交換日記という手段を用いらなければ、お互いにコミュニケーションをとることもできない。
つまり、物語を通して2人が直接的に接触することはない。
この「近くにいるけれど遠い」感じが、とにかくたまらないのだ。どこか少女漫画チックでキュンキュンくるんですよ! 切ないんですよ! 甘酸っぱいんですよ! 2人に救いをお与えください! ……などと叫びたくなるほどには。
3巻で完結しており、さっくりと読める点もおすすめ。筆者は本作がデビュー作ということなので、次作にも期待したい。
生まれつきの恐い顔のせいで、学校で浮きまくっている坂本秋月。彼はある夜、一人の少女の事故現場に遭遇し、謎の人物から究極の選択を迫られる…。『お前の寿命の半分で、彼女を救うか?』秋月は寿命と引き換えに少女“夢前光”を救った、はずだったのだが…なぜか秋月の体は1日おきに光の人格に乗っ取られるというおかしな展開に―!始まってしまった二心同体の交換日記ライフ。イタズラ好きな光の人格は、トンデモな出来事や仲間を次々に引き寄せ、秋月の低空飛行人生を一変させていく!交換日記の中でしか出会うことのない「ぼっちな俺」と「残念な彼女」による、人格乗っ取られ型青春ストーリー。
さよならピアノソナタ
クラシックとロック、いずれかの音楽が好きな人ならば、高確率でビビッとハマる作品だと思う。ラブコメとしても、王道中の王道で最高に楽しめる。
なにより、主に演奏をはじめとした「音楽」関係の描写がとんでもなくうまい。過去にバンドものの作品はいくつか読んだことはあるけれど、本作ほどに「文字」から音が聞こえてくるような、熱くたぎらせられるような文章には出会った記憶がない。
特に熱いのが、バンドメンバーの心が通い合う、演奏のシーン。僕自身、学生時代には複数人で楽器の演奏をしていたけれど、まさにそのときの興奮が蘇ってくる感じ。──そうなんすよ……! テンションが最高潮まで昂ると、いつまでも演奏していたくなるんすよ……!
ただし「ラノベあるある」として、主人公にむちゃくちゃイライラさせられることもあり、その点では人を選ぶ作品かもしれない。まずは1巻、手に取って読んでみて!
「六月になったら、わたしは消えるから」転校生にしてピアノの天才・真冬は言い放った。彼女は人を寄せつけずピアノも弾かず、空き教室にこもってエレキギターの超速弾きばかりするようになる。そんな真冬に憤慨する男子が一人。大音量でCDを聴くためにその教室を無断使用していたナオは、ベースで真冬を“ぶっとばす”ことにより、占拠された教室の奪還をめざす。民俗音楽研究部なる部活の創設を目論む自称革命家の先輩・神楽坂響子とナオの幼なじみ・千晶も絡みつつ、ナオと真冬の関係は接近していくが、真冬には隠された秘密があって―。恋と革命と音楽が織りなすボーイ・ミーツ・ガール・ストーリー。
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
過去に読んだライトノベル作品の中ではベスト3に入るくらい好き。……いや、本当は1位と断言してもいいのだけれど、「最近読んだばかり」という補正が入っていると思うので。
本作に惹かれる人が多いのは、劇中で描かれる「人間関係」に感じ入る人が多いからだと思う。
キャラクター同士の「距離感」の生々しさ。近いようで遠い「友達」の在り方や、他の友人との関係性も考慮したコミュニケーションの面倒臭さ。そして、欺瞞や虚飾に彩られている(ように見える)友人関係に対して、皮肉っぽいツッコミが畳み掛けられる。そこに魅力を感じる人もいるかもしれない。
だって、誰にだって、人間関係の悩みはある。そんな「当たり前」に対して、自分が普段は言えないようなことを痛快に示し、切り込んでいってくれるのだから。その物言いは、なかなかに爽快だ。
エッジのきいたツッコミをかます主人公は、ぼっちでひねくれや。それだけならば、もう使い古された属性なのだけれど……異なるのは、「軸のあるぼっち」であること。孤高であることに意味を見出し、斜に構えつつもその本質を見出し、異性の好意に気付きつつも「自分の有り様」を曲げない。
たとえば、一般的な青春ものにおいては、最終的にはキャラクター同士の「関係を肯定する」ところに焦点が当たる印象がある。すれ違いや挫折を経験しつつも、最後には手を取り、みんなが仲良くなることで問題が解決される格好。やれやれ系主人公でも、結局は輪の中心に収まる。
しかし本作では、同じように人間関係の問題を解決するにあたって、逆に「関係性を否定する」というプロセスを採用している点がおもしろい。輪の中心に主人公はおらず、徹底的に脇役として、嫌われ役として舞台の片隅に立つ、「アンチ青春」な物語構造。その有り様に、なぜか共感してしまう。
そして、そのような「否定」を無理に積み重ねてきたことで、やがて彼は、自分の「軸」の根本を崩されかねない状況に直面するのだけれど……。詳しくは、ぜひ本編を読んでいただきたい。
孤独に負けず。友達もなく、彼女もなく。青春を謳歌するクラスメイトを見れば「あいつらは嘘つきだ。欺瞞だ。爆発しろ」とつぶやき、将来の夢はと聞かれれば「働かないこと」とのたまう―そんなひねくれ高校生・八幡が生活指導の先生に連れてこられたのは、学校一の美少女・雪乃が所属する「奉仕部」。さえない俺がひょんなことから美少女と出会い…どう考えてもラブコメ展開!?と思いきや、雪乃と八幡の残念な性格がどうしてもそれを許さない!繰り広げられる間違いだらけの青春模様―俺の青春、どうしてこうなった。