【2017年ベスト本】本当におすすめしたい20冊をまとめたよ


2017年のおすすめ本まとめ

 今年は「実用書」に触れることの多い1年だった*1

 例年は、好きな作家さんの小説とか、日常や人生を語ったエッセイとか、幅広い意味での「物語」を多く読んでいた自分。でも今年はどちらかと言えば、ビジネス書や自己啓発本をはじめとした、仕事や実生活で役立つ「ハウツー本」のたぐいを読むことが多かったように思う。

 実際、それら読書体験が「役に立った!」と感じられる機会があったことも事実だ。

 文章作法の本は、それまで「なんとなく」で書いていた己の文章を省みるきっかけになった。インプット術の本を読み、メモの取り方を変えたことで作業効率が上がった。それまで関心の薄かった分野――歴史や仮想通貨などの本を読んだことで、既存の知識・認識と照らし合わせて「つながった」と感じられた事柄があり、知的好奇心を満たす気づきがあった。

 本記事では、今年読んだそれらのおすすめ本と、個々の感想をまとめています。

 前半は、個人的に強くおすすめしたい13冊。それぞれに何かしらの学び・発見・気づき・感動があり、ぜひとも誰かに(主に普段からこのブログを読んでくださっている方)に勧めたいと感じた本。

 後半は、こちらも広くおすすめしたいものの、前半と比べると読む人を選びそうな8冊。特定のジャンルやコンテンツに関する解説本をはじめとした、万人向けとは言い切れない本。こちらの紹介文はあっさりめに書いているので、詳しくは個別の感想記事を参照ください。

 それなりに長い記事になっているので、気になった部分だけでも流し読みしていただければ。年末年始の本選びの参考になりましたら幸いです(※Kindleストアの年末年始セールで半額になっている本もいくつかあるみたい)

『アイデア大全』読書猿

 「今年の1冊」を選べと言われたら、迷わずこれを挙げる。読んだらそれで終わりではなく、現在進行系で役立っている参考書。仕事に行き詰ったときには手に取り、並々ならぬ刺激を得ることができている1冊。いつもお世話になっております。

 一口で説明するなら、古今東西の「アイデア」をまとめ上げた事典。

 身近なアイデアとしては、トヨタの生産方式を生んだ「なぜなぜ分析」や、「ブレインストーミング」の考案者による発想法など。かと思えば、シュルレアリスムの手法である「デペイズマン」や、数学者による「ポアンカレのインキュベーション」といった考え方も掲載。さらには、映画界の格言「ルビッチならどうする?」も登場するなど、ビジネスにも学問にも芸術にも通じた「発想法」を網羅した1冊となっている。

 また、「大全」あるいは「事典」と聞くと退屈な印象を受けるかもしれないが、読み物としても純粋におもしろい。ただ発想法を紹介するにとどまらず、その考え方を生み出すきっかけとなった出来事や歴史にも言及しているからだ。まったくの無関係に見える人同士のつながりや、異なる時代に異なる国で類似のアイデアが生み出されていたことなどにも言及されており、一種の「歴史書」としても興味深く読むことができる。

 幅広い学問分野にわたるアイデアが取り上げられているにも関わらず、専門知識を必要としない、明快な解説も魅力的。それまで関心のなかった学問に興味がわいてくるほどであり、良い具合に知的好奇心をこしょこしょされる。本書を経由して、別の読書体験につなげることもできそうだ。

 休日に一気読みするも良し、1日1項目、42個のアイデアをひとつずつ試しつつ、42日かけてゆっくりと読み進めるも良し。本書の筆者さんによる2冊目『問題解決大全』とあわせて、年末年始は頭の体操に取り組んでみてはどうでしょう。

『僕らが毎日やっている最強の読み方』池上彰・佐藤優

 フェイクニュースの問題が話題になった2017年。嘘やデマがはびこるネットの問題点が改めて浮き彫りになったのが、今年のメディア界隈の大きなトピックのひとつだったのではないかと思う。

 どういったメディアから情報を仕入れ、真偽を判別すればいいのか。必ずしも正しいとは限らない新聞・雑誌・ネットの記事は、どのように読めばいいのか。良くも悪くも選択肢が増えすぎてしまったからこそ、「情報」との付き合い方は今まで以上に大切になってくる。

 そこでおすすめしたいのが本書、『僕らが毎日やっている最強の読み方』だ。ご存知、池上彰さんと佐藤優さんによる対論本。幅広い分野における「知」のプロフェッショナルである2人の手法を紐解いた本ということで、濃密かつ実践的な内容となっている。

 サブタイトルにもあるとおり、新聞・雑誌・ネット・書籍・教科書から「知識と教養」を身につけるための、インプット術を論じた1冊。ビジネスマン向けに書かれているものの、新聞や本の読み方は大学生にとっても参考になりそうだ。僕自身、学生のうちに知りたかった “読み方” だと感じたので。

 曰く、 “「何を読むか」「どう読むか」だけでなく「何を読まないか」も重要な技法のひとつ” であるとのこと。

 個々の情報の真偽以前に、「どのメディアを選ぶか」かの選択が大切になる。加えて、世相を「知る」には新聞を、世相を「理解する」には書籍をベースとして読むようにするなど、メディアごとの「使い方」も具体的に指摘。これまで「なんとなく」で読んでいた人にとっては、自分のインプット方法を省みるきっかけになるはずだ。

 さらには、2人が実際に読んでいる新聞・雑誌・サイトなども一挙に公開。日常的に使っているツールや記事の保存方法なども書かれており、興味深く読めた。そのまま真似するのは難しいものの、「忙しいサラリーマンにはこれがおすすめ」という解説も含めて書かれているため、参考にしやすいのも嬉しいポイント。

 誰もが「情報」とは無縁ではいられない現在、情報収集と知的生産のエキスパートである2人の対論は、今後の学習の指針となるはず。 “インプット術” というテーマを考慮すれば、年初のタイミングで読むのにぴったりの本とも言える。

『仕事のスピード・質が劇的に上がる すごいメモ。』小西利行

 『アイデア大全』同様、実用面で役に立った1冊。

 年明けの1月に読んで以来、本書を参考にして意識的に「メモ」を取るようにした結果、目に見えて仕事効率が上がった。読んで字のごとくの「メモ術」――というよりは「アイデア本」であり、情報の「整理術」を学ぶことができる内容となっている。

 本書で取り扱う「メモ」とは、単なる自分用のメモにとどまらず、物事を忘れないための走り書きでも終わらない。他者とのやり取りでも効果を発揮し、未来の自分に考えるきっかけをもたらしてくれる、アイデアの厳選となる「すごいメモ」の書き方を解説している。

 その具体的な方法として、14のメソッドを紹介。第1章では「メモ」と聞いて多くの人が思い浮かべるだろう「整理術」の切り口で取り上げている一方、続く2章では「アイデア術」としてのメモを、第3章ではコミュニケーションツールとしての考え方をそれぞれ説明している。

 たとえば第2章「つくメモ」では、目的ときっかけを明確にする「ハードルメモ」、情報量を増やすことで共感度を高める「マンガメモ」、あえて結果→原因の順序で発想する「あまのじゃくメモ」といったメソッドが登場する。商品企画を例に出して説明される「三角メモ」のアイデアは、ブログで書く記事のネタを考える際にも役立ちそうだ。

 このように、本書は「メモ」によって仕事の生産性を高める考え方、走り書きを腐らせず使うための活かし方を丁寧かつわかりやすくまとめた、実践的な1冊だ。勉強に仕事に生活に、あらゆる場面で重宝する「メモ」を身につけたい人におすすめ。

『中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク』グレゴリウス山田

 「職業に貴賎なし」とは言うけれど、いつの世にも花形とされる人気の職業があれば、嫌な顔をされる仕事もある。そして、移りゆく時代のなかで消え行く職業もあり、そういった仕事は現在、歴史や物語のなかで語られるだけの存在となっている。

 しかし一方では、現代では消え失せたそれらの職業が、僕らの身近な存在として消費されている一面もある。剣士、吟遊詩人、盗賊騎士、ドルイド、アサシン――などなど。今となってはゲーム上の “ジョブ” としてのイメージが強いが、これらは過去にたしかに実在していた職業でもあるのだ。

 そんな「世界史においてマジで存在した過去の職業を、SRPGの “ジョブ” っぽく紹介した本」が、この『十三世紀のハローワーク』だ。

 見るからにゲームの攻略本、あるいは設定資料集のごとく、イラストが多めの紙面でありながら、その内容はむちゃくちゃ詳細。徹底的に参考文献を洗ったうえで、各地の歴史や文化とも紐付けつつ各職業を解説しており、ちょっとした歴史書としても楽しめそうだ。

 具体的には、前述のようなゲームの “ジョブ” 的な職業があるかと思えば、現代にも(微妙に形態は変えつつも)残る「飛脚」「鷹匠」「占星術師」などのほか、「ビール妻」「コーヒー嗅ぎ」「足力」といった、一風変わった職業も取り上げられていておもしろい。

 また、タイトルには “十三世紀” と書かれているが、正確には「中世欧州を中心とした世界史上で存在した職業」を取り扱っており、本文では日本も登場する。なんとなく聞いたことがある役職もあれば、「そんなところにまで特化した専門職があるのか!」とびっくりする専門職もあり、歴史に明るくない人でも楽しく読めるはずだ。 “将軍が尿意を催したときに尿筒を差し出す便器番” の「公人朝夕人」とか。

 ちなみに、本書は過去に頒布された同人誌の商業復刻版であり、著者・グレゴリウス山田さんは現在、漫画『竜と勇者と配達人』を連載中。漫画は漫画で、ファンタジー世界の “ジョブ” に現実世界の考証を加えたお仕事モノとして楽しく読めるので、よかったらそちらもどうぞ。

『最後の医者は桜を見上げて君を想う』二宮敦人

 いわゆる「医療小説」に区分される作品でありながら、描かれている「死」があまりに鮮烈すぎて驚いた。小説自体はエンタメ的――つくられた “物語” のようでありながら、「死」の香りだけが嫌に生々しい。読み終えたあとはなんだかドキドキしてしまって、しばらく落ち着かなかった。

 この物語には、明確な「主人公」が存在しない。全3章・約400ページにわたって描かれるのは、医者と患者、複数人の視点から見た「医療」と「死」の在り方だ。ヒーローは不在だが、熱血漢と冷血漢、そしてその2人の間を取り持つ1人を加えた、3人の医者を中心に物語が展開していく。

 ただし、彼らは主要なキャラクターではあるものの、最後の3章に入るまでは脇役に過ぎない。1、2章は、「医者」である彼らがが向き合う、不治の病に冒された「患者」2人の主観で話が進む。死に向かって悪化していく病状を、患者目線で追いかける構成になっている。

 そもそも、章のタイトルからしてネタバレじみている。なんたって、1章が「とある会社員の死」であり、2章が「とある大学生の死」なのだ。……え? 読む前から死亡確定? 奇跡も魔法もないの? ――と思わずにはいられなかったし、案の定、ドラマにありがちなミラクルはなかった。

 描かれるのは、この世の理不尽を呪い、医者から提示される選択肢に悩み苦しみ、残される者を想い、泣きわめき、逃れられない「死」という絶望の沼へと沈んでいく2人の患者の心境の変化。そこに3人の医者が関わることで明らかになる「死生観」が、本書のテーマだと感じた。良くも悪くも“物語”として単純化されてしまった、死にゆく人との向き合い方。それを“物語”の力でもって再検討した“物語”こそが、本作なのではないだろうか。

 そして最終章では、「とある医者の死」が語られる。悩み悶えつつも、前の2章で患者が選んだ答えに後押しされるように、3人の医者は各々がひとつの選択をする。尊厳死と延命治療、どちらを選ぶか。誰にでも同様に降りかかる「死」と同じく、誰がいつ迫られてもおかしくない選択について、改めて強く考えさせられる小説だ。

『魔女の旅々』白石定規

 3年ほど前にAmazonのKindleストアで作者さん自ら出版され、話題になっていた小説の書籍版。好きで読んでいた電子書籍が紙の本になると聞けばそりゃあ気になるし、しかもよく見れば、イラスト担当が大好きな絵師さん。必然、買わずにはいられなかった。既刊5巻。

 一口に言えば、「サバサバ系魔女の旅先での出会いを描いたファンタジー連作短編集」。物語は主人公の魔女・イレイナの一人称で進み、彼女が訪れた国々での出来事や、そこで出会う人々との交流を描く。

 特に印象的なのが、イレイナの語り口調。「です・ます」の丁寧語ながら、軽妙でエッジのきいた地の文が、読んでいてすっごい楽しい。変にテンションは高くなく、淡々とした口調ながら感情には素直で、皮肉屋ながら嫌らしくはない、どこにでもいそうなかわいい女の子。たぶん。

 5分程度で読める小話から、複数話にまたがる物語もあり、淡々としているようで緩急のある構成も魅力的。巻によっても色が異なるというか、いろいろと試しているようにも見受けられ、夜の眠る前に気持ちよく読み進められるシリーズだと言える(ダークな話もあるものの)

 寓話的な話があり、ギャグもあり、かわいいキャラがおり、女の子同士のキャッキャウフフもありと、飽きの来ない短編集。冬の夜のお供に、いかがでしょうか。

『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』岡田麿里

 最後のページをめくった瞬間、ラスト4行を読むために、この本を手に取ったのだと理解した。映画やアニメでボロ泣きすることはあれど、小説やライトノベルで泣くことは滅多にない。そんな自分が、本書を読み終えた途端、思わずポロッと泣けてしまったのだ。

 本書は、タイトルにもある『あの花』『ここさけ』などのアニメでおなじみ、脚本家・岡田麿里さんの自伝だ。周囲を山に囲まれた秩父の街の、家の中の狭い部屋で思春期を過ごした少女が、 『外の世界』へ飛び出して現在に至るまでのノンフィクション。いつか誰かに言われたという「岡田は人間失格じゃなくて、人間失敗だよね」の一言に始まり、物語を志すようになるまでの半生が生々しく描かれている。

 キーワードは『外の世界』。

 少女時代の筆者にとって、『外の世界』とは秩父の外であり、自身のように不登校でない “普通” の人たちを指すものであり、決して手の届かない異世界を指すもの。不登校時代、ひたすら自意識と向き合っていたという筆者の述懐は、どこか自分ごとのようにも感じられ、読んでいて苦しくなってくるほどだった。

 他方で、筆者と同様の苦しみを感じたことがある人は、決して少なくないんじゃないかとも思う。誰もが大なり小なり抱えている他者との「ギャップ」、その境界線の外側にあるものを『外の世界』と称してみれば、この感覚に共感できる人も多いのではないだろうか。

 思春期の自意識だったり、逃れようのない性差だったり、「世間」や「社会」や「常識」「普通」といった言葉だったり。周囲に適応できない、浮いてしまう、なんだかわからないけれど息苦しさを感じる――それらギャップは、どれもが『外の世界』との差異によって生まれるものだと言える。

 そのギャップをいかにして解消するか、あるいは折り合いをつけて付き合っていくかは当然、人によって異なってくる。ならば、そのヒントとして、この「自伝」が参考になる人もいるのではないかと。行き場のない感情に “名前” を与える役割を、本書が果たしてくれる場合もあるかもしれない。

 ただ淡々と自分語りをしているだけなのに、それでも読ませる、強く共感させられてしまうのは、筆写の筆力ゆえか、はたまた誰にも普遍的な経験であるためか。岡田さんの作品のファンはもちろんのこと、広い意味で「生きづらさ」を感じている人に勧めたい1冊。

『内向型を強みにする』マーティ・O・レイニー

 ある研究によれば、世の中の75%は楽天的で活発な「外向型人間」であり、「内向型人間」は25%しかいないのだそうだ。

 彼らは得てして人ごみが苦手であり、外出すると疲れやすく、無駄に考えすぎるきらいがあり、肩身の狭さを感じている。……はい、僕のことですねわかります。最近は適応しつつあるものの、人付き合いでドッと疲れることがあるのは今も昔も変わらない。

 そんな明らかに「内向型人間」である自分にとって、本書『内向型を強みにする』との出会いは最高に刺激的だった。「ほんまそれな」と共感し、「こういう見方もあったのか!」と驚き、もう少し前向きにがんばろうと思えた。

 本書にかかれているのは、長年にわたって心理療法士として活動してきた筆者による、内向型人間がうまく生きるためのアドバイス。筆者自身も当てはまるという「内向型人間」の特徴を明らかにしたうえで、「外向型」との違いを説明。さらに、内向型人間がなぜ「やる気がない」「自己中心的だ」と誤解されがちなのかを分析したうえで、それが生まれつきの気質であるかどうかを紐解いていく。

 行動力だコミュ力だと活発な人が中心の現代社会で、内向きな人間はどのように立ち回れば良いのだろう。本書が特徴的なのは、多くの自己啓発本のように無理に「外向型」になることを目指すのではなく、「内向型」ならではの強みを活かる方法をまとめている点にある。筆者が数十年のあいだで実際に関わってきたクライアントの例も示しつつ、具体的な考え方や立ち回り方もあわせてまとめられており、きっと参考になるはずだ。

 そしてなにより、本書を読み終えてまず考えたのが、「自分と同じ内向型の友達に、この本を勧めたい!」ということだった。普段から無理をして疲れ切ってしまっている身近な内向型の人たちに、少しでも楽になってほしい。内向きであることに苦しんでいる人は、ぜひ手に取ってみて。

『反応しない練習〜あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』草薙龍瞬

 最近流行り(?)の仏教本のひとつ。ブッダの考え方を参照しつつ、日常生活における大小さまざまな「悩み」の解消を目指す内容。仏教全体について取り扱うわけではなく、あくまでブッダ個人の言葉を引用しつつ、「ストレスなく暮らすための考え方」を丁寧に紐解いている

 曰く、「悩み」とは「心の反応」であり、嫉妬や執着といった無駄な反応が苦しみを増やしている。なればこそ、変に「反応しない」ことが重要だと本書では説いている。

 まずは「心はそういうものだ」と認識し、悩み事に対しては「悩みがある」と自覚し、「悩みには理由がある」と考えたうえで、「理由のある悩みは解決できる」と、順を追って「理解」していくこと。その理解なしに、自分の心を見直すことはできないのだそうだ。

 漠然とした悩みにも何かしらの理由はあり、原因がわかることで見えてくるものもある。そうした「理解」を経れば自身の「心の状態」が見えるようになり、落ちこんだり心配したりといった「無駄な反応」を抑えることが可能になるという。こういった考え方は過去に読んだ『“ありのまま”の自分に気づく』ともつながるため、すんなりと納得することができた。

 タイトルだけを見ると「反応しない」ことがメインテーマであるようにも読めるが、最終目標は「自分に納得できる生き方をする」ことにある。何もかもに無反応ではいられない常世において、避けるべきは「苦痛」へとつながりうる「無駄な反応」。競争心を全否定する必要はなく、承認欲求は誰もが持っていて当然だ。ただし、そういった反応に「執着」してしまうことが問題だとして、その解消方法を説いている。

 本書を読んですぐ、劇的に何かが変わるわけではない。けれど、少しでも “反応しない練習” をするべく、少しずつ意識して取り組み始めることはできる。普段から怒りっぽい人、気分の浮き沈みが激しい人、他人との折り合いの付け方に悩んでいる人などにおすすめ。

『ひきこもらない』pha

 phaさんの書く文章は、柔軟剤のようなものだと思っている。

 必要不可欠ではないけれど、日々の生活で摩耗し、くたくたになった繊維を柔らかくほぐしてくれる。そして、特定の環境ですっかり染みついてしまった匂いをリセットし、ふんわりリラックスできる香りをもたらしてくれる――なんだかうまいこと言おうとして失敗した気がしなくもないけれど、要するに「凝り固まった考えを解きほぐしてくれる」的なアレです。

 『ひきこもらない』は、『ニートの歩き方』でおなじみの筆者による2017年の新刊のひとつ。「街」や「家」についての考え方、スーパー銭湯とサウナ、「旅先で普段どおりに過ごす旅行」のススメなど、多種多彩な話題を詰めこんだコラム・エッセイ集だ。

 「夕暮れ前のファミレスで仕事がしたい」「牛丼ばかり食べていたい」「37歳になったらサウナに行こう」「ぼーっとしたいときは高速バスに乗る「ニートが熱海に別荘を買った話」「ときどきゲーセンのパチンコが打ちたくなる」など、一見すると雑多な見出し。しかし、よく読むとどれもが「暮らし」や「生き方」に関わるトピックであり、それでいて、世間一般の「普通」とは異なる筆者ならではの目線から論じられていておもしろい。

 「こんなことがあったんですよー」というゆるさながら、なかには「そういう考え方もあるのか!」と眼前の景色が広がるような印象を受けることもある。純粋に読み物として楽しみつつ、時にハッとさせられることがある。週末の昼下がり、炬燵と蜜柑とセットで読みたい。

『ピンヒールははかない』佐久間裕美子

 おしゃれなデザインの表紙に、かっこいい大人の女性を想起させる “ピンヒール” の単語。いったいどのような内容になっているのか――とページをめくりめくり、あっという間に引きこまれる。そうして最後まで読み終えて、最初に抱いた感想は一言、「つよい」だった。

 第一印象は、「女性の、女性による、女性のためのエッセイ」。ニューヨークという街ならではの十人十色の価値観の波に溺れつつ、その自由闊達さに元気をもらえる本。特に女性が読めば、NYで暮らすトムボーイたちの生き方に勇気づけられるはずだ。

 しかし、一見すると「強い」ようにも見えるトムボーイたちも、読み進めると、十人十色の懊悩と煩悶を乗り越えて「強く」なった(ように見える)ことが伝わってくる。本書に書かれているのは、どれもが「等身大の個人」のエピソード。個人の実体験に基づいた考え方と生き方は、性別に関係なく、読んだ人に等しく活力を与えてくれるはずだ。

 と同時に、本書に書かれているのは何も「女性の生き方」だけではない。ニューヨークという街の空気と、そこに息づく人の思想までもが文章から伝わってくるかのようで、良くも悪くもクラクラしてくる。男女の性差のみならず、街や文化の側面も含めた「多様性」を本文中で体現しているようにも感じられ、刺激的に読むことができた。

 また、十人十色の女性の生き方は、男性目線でも共感できるだけでなく、男にとっても無視できない「女性」が抱える諸問題を知るきっかけともなりうるものであり、ぜひ男性にも読んでほしい。彩り豊かな価値観に触れながら、自分の「歩き方≒生き方」を再確認できる1冊だ。

『理科系の作文技術』木下是雄

 「作文」を取り扱ったハウツー本の名著。

 一口に言えば、「正確・簡潔・明瞭な文章を書くための技法をまとめたハウツー本」。タイトルのとおり〈理科系〉の人をターゲットにしてはいるものの、書かれているのは〈文科系〉の人にとっても不可欠な「作文」の基礎。具体的には、論文をはじめ、レポート、仕様書、報告書、手紙やメモなど、多種多彩な文章が対象となる。

 つまり、広い意味での「他人に読んでもらうもの」を取り上げており、その書き方を解説していく内容だ。それこそ、自分のように「なんとなく」で文章を書き散らしてきた人にこそ熟読してほしい1冊だと言える。そこに、理科系・文科系といった分類はあまり関係がなさそうだ。

 曰く、〈理科系の文章〉には、 “読者につたえるべき内容が事実(状況をふくむ)と意見(判断や予測をふくむ)にかぎられていて、心情的要素をふくまない” という特徴があるという。一切の感情が混入されてはならず、感想や弁明は不要なものとして排除するべき。

 なぜならば、〈理科系の文書〉は読者の「共感」を引き出すのではなく、「情報伝達」を執筆の目的としているからだ。国語の授業のように、筆者の “思い” を汲み取る余地を与えてはいけない。つまり、まさに今こうして書いている感想文は、〈理科系〉からはかけ離れた文章であると言える。

 しかしだからと言って、〈文科系〉の人間やブロガーには本書をおすすめできない、なんてことはない。エッセイでもブログでも日記でも、他者に情報を伝えるための文章を書くにあたっては、最低限の「事実」や「意見」が「伝わる」ものを書けなくては意味がない。自分の感情を言語化したり、他人の「共感」を得ようとしたりするのを考えるのは、その後である。

 つまるところ、逆なのだ。 “理科系の作文技術” は、〈文科系〉の執筆者にとって無意味な技術ではない。それどころか、この技術なしでは、他者を共感させる文章を書くことなどできないのだ。書店に行けば多種多彩な「文章術」のハウツー本が並んでいるが、それらは後回し。まず学ぶべきは、「文章術」以前の大前提となる「作文」の方法であり、それゆえに本書は、あらゆる文章本に先立つ1冊だと言えるだろう。

 人に読まれる文章を書くにあたっては、自分の主張を「伝える」ための文章力・語彙力を身につけるよりも前に、事実・意見が確実に「伝わる」ための作文技術が必要になってくる。学校の授業では習わなかった「作文」の基礎を網羅した本としても、本書は万人に勧められる指南書だと感じた。

『語彙力を鍛える~量と質を高めるトレーニング』石黒圭

 文章力同様、「語彙力を鍛えたい!」「語彙を増やしたい!」といった声はよく耳にするものだ。でも、「語彙力」とはそもそもなんだろう。英語の「ボキャブラリー」的なニュアンスが真っ先に思い浮かぶものの、他人にうまく説明できる自信はない。

 本書曰く、「語彙」とは、「意味のネットワークによって無数の語がつながる語のリスト」のこと。数多くの語を知っていることはもちろんのこと、個々のつながりも無視できない。さらに、ただ知っているだけでは意味がなく、言葉を正しく使うことができるかどうかも重要になってくる。

 そこで登場するのが、「語彙力=語彙の量(豊富な語彙知識)×語彙の質(精度の高い語彙運用)」という等式だ。本書では「量」と「質」の2つの側面から語彙を考えることによって、語彙力を鍛えることを目指す内容となっている。

 たとえば、語彙の「量」を増やすにあたっては、11のメソッドを紹介している。「類義語」や「対義語」をはじめ、「文字種」「語種」「日常語と専門語」「書き言葉と話し言葉」といった視点から言葉を考えることで、語彙のバリエーションを増やしていく。身近な事例や練習問題も豊富なため、読み終わるころには自然と語彙の鍛え方が身についているはずだ。

 同じく、語彙の「質」を高める考え方についても、11のメソッドを紹介。特に「質」の部分については、自分がどれだけ感覚的に言葉を選んでいたかを思い知らされ、考えを改めるきっかけになった。正しい言葉選びの仕方は当然として、表現の幅を広げるという点でも参考になる指摘が多く、今もたびたび読み返しているほど。先ほどの『理科系の文章技術』とあわせて、心底から読んで良かったと感じた。

 他方では、そこまで肩肘張って読まずとも、日常生活の中で自然と「語彙」を身につけ、鍛えるための考え方もまとめられている。新書サイズの本ではあるものの、その内容は濃密。多彩な「言葉」に思いを馳せ、着実に語彙力を鍛えるにあたっては、本書が力になってくれることだろう。

 

『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』吉田尚記・石川善樹

 アナウンサーと予防医学研究者、2人による対談本。

 「科学的」というタイトルが踊るものの、対談形式ということもあってか、内容は思いのほかゆるい印象。感情・学問・恋愛といった切り口から2人の考え方を整理しつつ、後半では「幸せになる方法」に迫っていく。

 話題がとっ散らかっているように見えて、最後には「幸せ」の在り処へと帰結する構成はおもしろく読めた。読み切って終わり――ではなく、本書の内容を自分なりに考え、誰かと話し合ってみるのにも適していそうな問題提起が多い。現代ならではの「幸せ」を再考する道標に。

『無敵の思考〜誰でもトクする人になれるコスパ最強のルール21』ひろゆき

 「日常生活の『ルール』を定めることで、精神的な負担を減らす」「精神的なお金の使い方をやめて、役立つスキルを身につける」といった主張を軸にまとめられた、ひろゆき流「幸福論」。

 日々、目の前に現れる大小の選択肢を選ぶのは、想像以上に疲れる作業。それならば、自分で決めた「ルール」に従ったほうが楽に幸せに生きられるのではないだろうか――そんな考え方がまとめられている。

 多種多彩な「ルール」の中には、少なからず共感して「実践しよう!」と思わされるものもあるはず。何かしらの生きづらさを感じている人におすすめ。

『人生を面白くする 本物の教養』出口治明

 筆者が長年にわたって培ってきた、「教養」を身につけるための方法・考え方をまとめた1冊。

 全体的に筆者の経験談を軸に話が進んでいく印象を受けるものの、その内容は想像以上に実践的。人生における「ワクワク」をもたらしてくれるものであり、「自分の頭で考える」ことが本質である「教養」の培い方のみならず、多彩な視点から日常面白くするヒントを与えてくれる。

 ビジネスパーソンはもちろん、社会に出る前の学生さんなども含めた、「教養」とは何たるかを改めて考えたい人に広く勧められる1冊。

『ネットメディア覇権戦争〜偽ニュースはなぜ生まれたか』藤代裕之

 世界を騒がせるフェイクニュースの問題と、日本国内のネットメディアの最新事情を紐解いた1冊。

 「偽ニュースがいかにして生まれたか」を、これまでのメディアの変遷と共に知ることができるため、門外漢でも興味深く読めるはず。取り上げられているサービスについては、どれも綿密な取材を経てまとめられているので、説得力も抜群。

 誰もが「発信者」であり、偽ニュースの拡散に加担しかねない今、ブログでもTwitterでも、日頃から何らかの情報発信をしている人におすすめしたい。

『任天堂ノスタルジー〜横井軍平とその時代』牧野武文

 1960年代〜90年代にかけて任天堂に所属し、開発第一部の部長として『ゲーム&ウオッチ』『ゲームボーイ』『バーチャルボーイ』などを手がけてきた伝説的な開発者・横井軍平さんの生涯を紐解いた1冊。

 ただ、本書で語られるエピソードや横井さん本人の言葉を読んでいると、「すごい人」であると同時に「手先が器用でやんちゃなおじちゃん発明家」のような印象もわきあがってくるからおもしろい。

 ものづくり哲学「枯れた技術の水平思考」を携えて、ゲームだろうが玩具だろうが、とにかく「遊び」の魅力を突き詰めた人の魅力が詰まっている。折に触れて読み返したい。

『TYPE-MOONの軌跡』坂上秋成

 TYPE-MOONの魅力に迫る1冊。長年のファン向けの歴史書的な本かと思いきや、『FGO』から入った新規層にも勧められる「型月指南書」とでも言えそうな内容だった。

 奈須きのこさんと武内崇さんの出会いに始まり、主に4つの代表作が発表されるまでの経緯と魅力を概括。特に「テーマ性」を切り口として各作品を取り上げることで、未読者にはその特徴と楽しみ方を、既読者には読んだ当時の記憶の想起と別視点からの気づきを、それぞれに与えてくれる印象を受けた。

 少しでも型月作品に触れたことのある人に、ぜひともおすすめしたい。

『頑張ってるのに稼げない現役Webライターが毎月20万円以上稼げるようになるための強化書』吉見夏実

 初心者向けのハウツー本とは一線を画した、Webライター向けの「仕事のやり方」をまとめた1冊。

 一口に言えば「すでにWebライターとして活動している人のためのヒント集」といった内容で、クラウドソーシングを中心にライティングをしている人の助けになること間違いなし。それ以外のライター・ブロガーにとっても参考になる知識・考え方が多く、その多くがネット上では得られない情報であるように感じた。

 Webライターとして仕事のやり方に困っている人、活動の幅を広げたい人に。

 

過去の年間おすすめ本まとめ

*1:「実用書」の定義も不明瞭ではあるけれど。