2015年上半期発売!読んで面白かったおすすめの新刊本19冊


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 2015年上半期の「Amazonランキング大賞」が発表されました。その中で「和書総合」のカテゴリーを見てみると、上から修造、アドラー、ピケティという、ツッコめそうでツッコミづらいランキング。『嫌われる勇気』のロングセラーっぷりがすごい。

 他方ではオリコンのランキングを見てみると、妖怪ウォッチ、年賀状、ポケモンとさまざま。Amazonと同様に『フランス人は10着しか服を持たない』が上位に入っている辺り、節約・シンプルライフ・ミニマリスト的な価値観への関心が高まっているのは間違いなさそうですね。

 

 そういった「流行りの本」は置いといて、本記事では個人的におすすめの本をご紹介します。2015年前半、この約半年間(2014年12月〜2015年6月)に発売された「新刊」に絞って、実際に読んでみておもしろかった作品をまとめました。

 ジャンルは絞らず雑多に羅列した格好なので、割と偏りあり。ビジネス書と新書が多めで、あとはエッセイ、ラノベ、コミック、同人誌などでござる。

 

なぜ、この人と話をすると楽になるのか/吉田尚記

 世の中に会話術の本は多々あれど、「コミュ障」の視点から「コミュニケーションとは何ぞや」を語った本は聞いたことがない。本書は自分を「コミュ障」だと考えながらもアナウンサーになってしまった著者の視点から、柔らかな語り口調で「やさしいコミュニケーション論」をまとめた内容となっている。

 「誰よりも悩んでいる『コミュ障』だからこそ、最高のコミュニケーターになれる」という言説には勇気をもらえた。単に勇気づけるだけでなく、具体的な手法と考え方も文中で示しており、なかなかに濃密な一冊。筆者が最後に書いているように、「コミュ障」な自分を許せないと考えている人、そんな自分をどうにかしたいと考えている人に対して、全力でおすすめしたい良書。

 

持たない幸福論/pha

 おなじみ、プロニートの著者による「生きづらさ」を緩和するための考え方。「僕はこういう風に考えていますよー」くらいの感覚で受け止められる口調で、とてもゆるゆると読み進められる文章と構成。

 「それはおかしいからこうするべき!」と断言するようなことはせず、「普通」の価値観の優位性や歴史に関しても客観的に分析しつつ、「それでも辛いなら、逃げ出せばいい」と別の選択肢を示すような言説。日々をあくせく過ごしている人に大小さまざまな感慨をもたらすであろう、若い世代から上の世代まで、どんな層にでも勧められる一冊。

 

傷口から人生。/小野美由紀

 「エッセイ」というジャンルは「自分語り」という自意識の高さが前面に出てくることもあり、人を選ぶ印象が強い。ところが本書は、著者が過去の自分をどこか“別人”として客観視しつつ描き出しているような印象を受けるものであり、非常に読みやすかった。

 勧めるならば就職活動生、あるいは仕事や働き方に悩んでいる20代若手社員。就活を辞めろと諭すのではなく、曖昧模糊な「夢」を追いかけることを勧めるでもなく、「こういう選択肢もあるんだよ?」を示すことで、日々の生活を再考するきっかけにできそうだ。

 

読書で賢く生きる。/中川淳一郎、漆原直行、山本一郎

 ビジネス書や自己啓発書への違和感を痛快にぶった斬った内容でありながら、そもそも「本」とは、「読書」とはなんぞや、を各々が自由闊達に論じた一冊。三者三様の「読み方」と「おすすめ本」が提示されており、現代日本における最新版の「読書論」として広く勧められそうな本。

 ポジティブ過ぎるビジネス書とその読者をネガティブにこき下ろしつつ、でもその切り口は前向きで示唆に富んでいるような、絶妙なバランス感覚の下で構成されているように読めた。“思考・知識体系を立体化させる”ツールとしての「本」と、これからも付き合っていきたい。

 

世界史の極意/佐藤優

 「新・帝国主義」「ナショナリズム」「宗教紛争(イスラム国、EU)」をそれぞれ世界史から読み解き、過去と現在を類比・検討する内容。一口に言えば、「知識欲がある人」「時事問題をニュース以外の視点で捉えたい人」などが対象読者として挙げられそう。

 少なくとも高校の「世界史A」を人並みに勉強していた人であれば「ぜんぜんわからん!」ということもなく、むしろ復習がてら読み進めることができると思う。個人的には、イギリスの教科書の話がおもしろかった。「歴史を考える」ことの大切さ。

 

シカゴ・スタイルに学ぶ論理的に考え、書く技術/吉岡友治

 全体としては、“論理的文章”の代表格である「論文」に焦点が当てられているが、ブログをはじめとするあらゆる文章、さらには普段の生活の考え方にも当てはめられる“技術”をまとめた内容。

 実際、一例としてブログの記事も取り上げられており、「そういう風に書き直せるのか!」と面白く読めた。ブログを書くに当たっては各々の考える「文章術」を身につけたいと考えている人は多いと思うけれど、その誰にでも勧められる。

 

声優魂/大塚明夫

 帯に始まり、本文のあとがきに至るまで、徹底的に繰り返し「声優だけはやめておけ」と語る声優・大塚明夫さんの著書。ハイリスク・ローリターンである声優は「職業」ではなく、「生き方」である、と。声優に限らず他の仕事にも共通しているように思い、個人的には耳が痛かった。

 声優を目指す若者に対して書かれた本かと思いきや、一冊を通して語られているのは「一人の大人」が経験して得た人生訓であり、役者としての生き様。「なぁ小娘よ。いい加減にその痛ましい夢から醒めろ」と、イスカンダルの声が聞こえてくる。働く若者、もしくは働く前の学生に向けた応援本。

 

内定童貞/中川淳一郎

 ざっくり言えば、「凝り固まった就活生に対する劇薬」。現代の就職活動の「ウソ」に対してツッコミを入れつつ、それを乗り切るための具体的なアドバイスを示した内容。

 就活生はもちろんのこと、就活を終えた新社会人にも勧められそうな一冊。双方に判断基準はあれど、最終的には“なんとなく”で決まる内定と会社。どうせ人生なんて軌道修正の連続なんだから失敗したっていいじゃないか、と語る論調は、意外にも優しい。

 

ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!/4Gamer.net編集部、川上量生

 4Gamer.netで連載されていた記事をまとめて書籍化したもの。株式会社ドワンゴ会長・川上量生さんと、プログラマー、将棋棋士、経営者、ジャーナリストなど各界の“ゲーマー”との対談企画。ユルい「懐かしのゲーム語り」かと思いきや、内容は濃厚。

 563ページという分厚さだけあって、他のどの既刊よりも「川上量生」という個人の思想とキャラが現れているような印象を受けた。ドワンゴという会社ができるまでの過程や、ニコニコ動画の根本にある考え方、ニコニコ超会議の意義などが語られているかと思えば、コンテンツ論に経営論に物語論など話題は多岐にわたり、ボリュームたっぷりの一冊です。

 

「メジャー」を生みだす/堀田純司

 サブタイトルに「マーケティング」という言葉が大きく踊っているが、どちらかと言えば文化論、あるいは世代論としての言説が色濃い。現代の若者に寄り添ったコンテンツを創り出し続けているクリエイターにインタビューし、その思想を紐解いた内容。

 本書で登場するのは、バンドマン、マンガ家、小説家、アニメ監督など「最近の若者」から支持されるクリエイター陣。おもしろいのは、彼ら彼女らの大半が自分を「普通」であると自認し、世間の「普通」を否定したうえで「普通」に寄り添う表現活動をしているという点。「最近の若者の流行りはよくわからん!」という上の世代の人にも、興味深く読んでもらえるのではないかしら。

 

ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989

 国立新美術館で開催されていた『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム』展を記念して発売された図版。中野晴行さん、氷川竜介さん、さやわかさんの3人によって、およそ25年間のマンガ・アニメ・ゲームから150作品を取り上げ概説した一冊。

 企画展の内容に沿った作品紹介がメインとなっているが、展示では取り上げられなかった作品も数多く掲載されている。他にも、三輪健太朗さん、石岡良治さん、宇野常寛さんなどがコラムを寄せており、読み応えたっぷりの保存版。

 

ちょっと今から仕事やめてくる/北川恵海

 職場のあれこれに翻弄されているであろう新社会人に向かって、ド直球のストレートをぶん投げた感じ。ともすれば視野狭窄に陥り、自らを殺しかねないブラック企業においてひとつの「選択肢」を示さんとする、優しい物語。

 本書の主人公は、「その辺にいそうな最近の若者」として描写されているように見える。ちょっとヒネたところがあり、上司に対して独り言で毒づきはするものの、根は真面目。プライドは高く外部からの揺さぶりに弱いが、やる時はやる。そんな“普通の若者”が追い込まれるどうしようもない過程を描きつつ、「救い」として赤の他人を持ってきているのがおもしろい。一箇所に自分の思考や思想、存在そのものを縛られることの怖さと、その対策を教えてくれる。

 

文句の付けようがないラブコメ/鈴木大輔

 「ラブコメ」と書いて“愛の喜劇”と読む。あまりに繰り返され続けた「悲劇」は、もはや「喜劇」的な滑稽さをはらんでいるんじゃないかと言わんばかりの世界観とタイトル。神様の気まぐれによって定められたシステムは文字どおり、“文句の付けようがない”。

 Amazonのレビューに“「起承転結」の「起」だけを薄めて一冊分の分量にのばした”というツッコミがあったけれど、割と的を射ているように感じた。「用意してやった」と言わんばかりにゲームのチュートリアルを示され、「さあ、存分に踊れ」と続刊に“無理ゲー“を丸投げした感じ。まだ2巻以降を読めていないので、どういった“攻略”をしていくのかが気になるところ。

 

終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?/枯野瑛

 ライトノベルの1巻としては、何とも言えない不思議な読後感。でも、すっごい好きな世界観と物語。あらすじだけ読んで、「滅亡した世界で主人公とチビッコ妖精たちがキャッキャウフフしながら外敵と戦うサバイバル」かと思いきや、全く見当違いだった。

 実は本作は“アフターストーリー”で、本当は別の「物語」があるんじゃないかと(バッドエンドだけど)、そう思えてしまうような世界設定。ただ一人残され、“終わってしまったセカイ”を絶望の中で生きる主人公と、ただただ消費されるだけの妖精たちの関係性もどこか切ない。現在、3巻まで刊行済。個人的に今、特に先が気になるラノベです。

 

四月は君の嘘/新川直司

 今年発売の11巻で完結。ピアニストとヴァイオリニスト、最終的には一人で戦う「独奏者」である2人に焦点を当てつつ、その周囲を取り巻く青春と音楽と恋愛を見事に描き切ったという印象。アニメも含めて、本当に好きな作品になりました。

 言ってしまえば、各々が影をまといながらも圧倒的な才能を持っている「天才」の物語ではあるのだけれど、幼なじみ、悪友、ライバル、師匠、後輩と、彼・彼女を構成する“人間関係”が丁寧に描かれいて強く共感できた。見開きページをふんだんに使った漫画の表現はもちろん、アニメの作画と演奏も素晴らしく、作り手に愛される作品なんだなあ、とも。

 

ダンジョン飯/九井諒子

 2015年上半期、各所で「おもしろい!」と語られていた本作。ありきたりなRPGの「モンスター」に対して、具体的な「性質」や「特徴」を付け加え説得力を増すことによって、調理における“それっぽさ”を演出している点が魅力的。

 “それっぽい”解説を挟み、僕らもよく見る“それっぽい”クッキングコーナーを経て、“それっぽい”料理ができあがってしまえば、「なるほど!そうやって喰えるのか!」と納得してしまう、ダンジョンマジック。なにこれこわい。「騙されるな!元はゲテモノだ!」を思い出させてくれる、「うへ〜」だの「あぁ〜」だのといった効果音(悲鳴?)に味がある。

 

亜人ちゃんは語りたい/ペトス

 なんだこのかわいい生き物は……。「亜人」という単語からちょっとダークな世界観を想像していたら、むしろ社会的にもその存在が認められ保障もあるという“優しい世界”。

 バンパイア、デュラハン、サキュバス、雪女――登場する「亜人」こと“デミちゃん”たちも非常にかわいらしく、あたたかみのある絵柄が好み。彼女らが抱えている悩みに特殊性はあれど、「思春期特有の、多感な時期を過ごしている女子高生の悩み」と考えれば、普通の学園モノと変わりない。少数派ゆえの問題点などのテーマ性が見え隠れしつつも、基本的にはほんわかほっこりと読めそうなストーリー。続刊が楽しみ。 

 

ヲタクに恋は難しい/ふじた

 pixivで130万PV、オリジナルコミックのブックマーク数でも歴代1位を記録し、一迅社から書籍化された。テンションとノリ的に、人を選ぶ作品であるのは間違いない。けれど、いい歳した成人男子の自分でもクソ笑えたので、ハマる人はハマる(世代ネタがドンピシャだったせいかも)。

 何より、登場キャラが男女関係なくみーんな“かわいい”。「こんな奴ら、絶対にリアルではいないんだろうなあ……」と知りつつも、「でも割と似たようなノリの会話もなくはないし、いてもおかしくないんじゃね?」と思えてしまうようなバランス感覚。仕事後に家に集まって缶ビール飲みながらマリカーとか最高か! ちくしょう! 俺も混ざりてえ!

 

BlogArts: 書評記事の書き方/倉下忠憲

 ブログ「R-style」を運営する、倉下忠憲さんの電子書籍。読んで字の如く、ブログにおける「書評記事の書き方」を解説した内容。

 アクセスアップなどの“数字”を重視したものではなく、「書評を書きたいけれど、取っ掛かりが見つからない……」といった人へ向けた、書き方の指南・ノウハウ本。「こうすべき!」と断言するのではなく、「このようなやり方もあるから参考にしてみては?」と提案するような書き口で、とても好感の持てる内容でした。

 

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