※本記事は、2015年に開催された企画展の感想となります。
国立新美術館の企画展『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム展』に行ってきました。前情報で展覧会の構成を見た限りでは、テーマ別に人気作品を並べるだけの内容なのかとも思ったけれど……正直、めっちゃおもしろかった!
懐かしの作品から未発売の最新作までゲームがプレイ可能だったり、あの名作の台本やら絵コンテやらを真近で見れたり。「こんな作品まで取り上げるのか!」といったポイントも押さえられていたり、作品の製作過程も展示されていたりと、非常に盛りだくさんの内容でした。
「1989年」の“その後”を一挙にまとめた、文化の記録
企画展『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム展』の主題は読んで字の如く、日本のマンガとアニメとゲーム。手塚治虫が亡くなった1989年以降の25年間に焦点を当てて、テクノロジーの進化や、社会と価値観の変化を鑑みた上で、その作品傾向の変遷をまとめた内容です。
- 現代のヒーロー&ヒロイン
- テクノロジーが描く「リアリティー」―作品世界と視覚表現
- ネット社会が生み出したもの
- 出会う、集まる―「場」としてのゲーム
- キャラクターが生きる=「世界」
- 交差する「日常」と「非日常」
- 現実とのリンク
- 作り手の「手業」
展覧会は、上記の全8章構成。それぞれ異なる切り口から、各ジャンルに連なる作品群をまとめ、発表時期の時代背景や技術の進歩とリンクさせるような形で解説しています。「マンガ」「アニメ」「ゲーム」の文化全般ではなく、一部の特定ジャンルが好きな人に関しても、いずれかの展示は楽しめるのではないかしら。
これら文化のファン、あるいは創作に携わっている人ならば言うに及ばず、全て味わい尽くした上で、思わず声が漏れそうな展示も。「懐かしー!」とか、「これもあるの!?」とか、「オウフwwwww」とか。
以下、展示内容についてざっくりと内容と感想をまとめました。展示されている順序の「ネタバレ」とも言えるので、気になる方はご注意を。念のため。
1. 現代のヒーロー&ヒロイン
『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989』より
「現代のヒーロー&ヒロイン」と題した最初の展示は、90年代から現在に至るまで人気であり続けている、主に「アニメ」を中心とした内容。
大人の高さほどある三角柱のパネルの側面にそれぞれ、スクリーン、作品のキービジュアル、文字による解説が掲示されています。スクリーンでは各作品の名場面などが流されており、遠くから見るとわちゃわちゃしていておもしろい。
こちらでまとめられている作品は、『NARUTO』『七つの大罪』『名探偵コナン』『鋼の錬金術師』『魔法少女まどか☆マギカ』『美少女戦士セーラームーン』『少女革命ウテナ』などなど。昔ながらのバトル漫画の男主人公や、戦う女の子たちですね。
各作品の解説もざっくりとあらすじをまとめたようなものではなく、関連作品とのつながりや製作陣に関しても言及した文章となっています。例えば『Fate/stay night[Unlimited Blade Works]』だったら、過去の映像作品や原作との関係性まで。
目の前で『プリキュア』の日常シーンが流れているかと思えば、あっちでは『天元突破グレンラガン』の最終決戦の場面が流れているというカオス具合。というか、『グレンラガン』と『キルラキル』に関してはちょっと離れても音声が聞こえてくるくらい。カッキー*1の声はよく通る。
2. テクノロジーが描く「リアリティー」
続く第2章のスペースに移ると、真っ先に目に入るのは『攻殻機動隊』シリーズの映像。ここ、やはり足を止めて見入っている人が多かったですね。
本章に関しては作品名だけを見れば、そのコンセプトがなんとなく伝わるかもしれません。『イノセンス』『機動警察パトレイバー』『イヴの時間』『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』『サマーウォーズ』『電脳コイル』『ソードアート・オンライン』など。
ネットワーク社会、ロボット、あるいは電脳世界。昨今、徐々に現実化しつつある「テクノロジー」を描いた作品ですね。
他方では、『METAL GEAR SOLID』『ファイナルファンタジーⅦ』『バイオハザード』といったゲーム作品も取り上げられており、こちらは「映像」を切り口にしている格好。
同じく、3Dアニメとして『青の6号』『APPLESEED』なども並列して展示されています。『シドニアの騎士』に関しては、3Dモデル作成の過程を解説したパネルなども。あと、近くに某バスターソードも突き刺さってました。
3. ネット社会が生み出したもの
次の展示が目に入った途端、思わずニヤついてしまった自分。キモい。当時、何十回とリピートして観ていた『ほしのこえ』の予告編映像に始まり、インターネット発のコンテンツに絞って取り上げられているのが、第3章になります。
アニメならば『ほしのこえ』、ゲームならば『ひぐらしのなく頃に』など、個人が制作・発表して話題となった作品をここでは話題としていました。やはりと言うか、『Fate/stay night』は大きなパネルを使って掲示されていた様子。我様*2もゴキゲン。
他方、その裏側には『東方紅魔郷』とゲームがプレイ可能なPCが鎮座しており、その横には『ぐんまのやぼう』の展示が。近くには『CRIMSON ROOM』のパネルもあり、その続編のデモも先行展示されていました*3。Oculus Rift、初めて見た。すげえ。
4. 出会う、集まる―「場」としてのゲーム
一般的なコンシューマーゲームは、こちらの第4章で集中的にまとめられていた様子。『ドラゴンクエストⅨ』『モンスターハンターポータブル2nd』『ストリートファイターⅡ』『ポケットモンスター』など、同じ場所で友人と、あるいはネットを通じてプレイする作品ですね。
過去の任天堂ハードがずらっと並べてられているのも圧巻だったけれど(バーチャルボーイもあるよ!)、その先に未発売の『スーパーマリオメーカー』の試遊台が置いてあるのはズルいと思うんだ。結構な歳のおじさんと、黄色い帽子を被ったチビッコが並んで『マリオ』をプレイしているのは、なんだか感慨深い光景でした。
スーパーマリオブラザーズ30周年|スーパーマリオメーカーより
他にもアーケード版『太鼓の達人』も設置されており、土日にプレイができるそうです。その隣ではおばちゃん2人組がコントローラーを持ち、『シーマン』の画面に向かっていましたが、係員の方に「まだ幼生なんで……ほらここに」と説明されて笑い合うという、和やかな様子でした。
5. キャラクターが生きる=「世界」
プロ野球選手、アイドルの卵、歴史上の人物、クラスメイトの女の子――などなど、作品中の「キャラクター」と、彼ら彼女らの住む「世界」を表現した作品を紹介しているのが、この第5章。
『アイカツ!』と『アイドルマスター』に挟まれるようにして流れる『初音ミク』のライブ映像と、その存在感たるや。その背後には『うたの☆プリンスさまっ♪』のシリーズをまとめた展示があり、ゲームプレイも可能。『アイマス』に関しては、10周年のキービジュアルに採用されている3人のサイン色紙や映画の台本もありました。
アイドルゾーンとはまた別に、『ときめきメモリアル』『ラブプラス』『Free!』『けいおん!』『艦隊これくしょん』『戦国BASARA』といった作品も。『けいおん!』は部室をイメージした展示になっていました。写真撮影したい。
6. 交差する「日常」と「非日常」
展示作品の“対象性”が際立っていた、第6章。具体的には、一面真っ黒の壁に埋め込まれた26個のスクリーンでテレビ版『新世紀エヴァンゲリオン』の全話が再生されている傍ら、背後では『あずまんが大王』の「空耳ケーキ」*4が流れているくらい。カオス。
「セカイ系」の単語は目にしなかったと思いますが、「日常」と「非日常」をキーワードに、昨今の「日常アニメ」の系譜にもそれとなーく触れていました。
展示されているのは、『最終兵器彼女』『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』といった、それぞれ異なる「日常」の描き方をした作品たち。久しぶりに『最終兵器彼女』を目にして、読み返したくなった。
7. 現実とのリンク
学校生活、食事、音楽、スポーツ、芸能――そして、震災。完全な想像上のフィクションではなく、どこか現実世界とのつながりを感じられるマンガ作品を取り上げているのが、第7章。大量のマンガのパネルが一面に並んでいて、なんとなく絵画展のような趣きです。
展示されているマンガは統一性があるようでいて、多種多彩。『いちえふ』のようなルポルタージュあり、『編集王』『め組の大吾』『鉄子の旅』『モンキーターン』などの特定の職業・趣味をテーマにした作品あり、『銀の匙』『坂道のアポロン』といった青春モノあり。
ただ、少女マンガの割合が高いような印象は受けました。他のブースでは「こういうのが流行ってるのよ〜」「今度実写化もするんですってね〜」といった、“知識としては知ってる”ような体で話していたおばちゃんグループが、このスペースに来た途端すんごい饒舌になっているのを見て驚いたくらい。
個人的には、全く知らない作品が多い中でも、解説を読んで興味を持つようなマンガも数多くあったため、ある種の「ブックガイド」として眺めていておもしろかったです。
一方で、『好きっていいなよ。』『イタズラなKiss』『花より男子』といった少女マンガに囲まれるようにして異彩を放っていた『ジョジョリオン』が、妙に異彩を放っていたような印象も。……これ、展示の順番、入れ替わってません?
8. 作り手の「手業」
最後の展示となる第8章は、クリエイターに注目してその「手業」を作品と共に解説した内容。この部分が本命という人もいるのではないかしら。
『GANTZ』に見る作画技術、『マクロスプラス』の約5秒をハチャメチャに動かした板野サーカス、車体とその動き・コースにまで拘り徹底的に取材をした『グランツーリスモ6』、独自の解釈と独特の演出に富んだ『パプリカ』、そして、手塚治虫原作の映画『メトロポリス』で幕を閉じる。
個人的にも一番見応えがあったのは、間違いなくこの展示。横にながーく壁面に敷き詰められた板野サーカスのコマ送り画像と原画、設定に驚き、最後にまた動画で見てあんぐり。一方では、背景まで徹底的に細かく書き込まれた線画資料にドン引き。知識も技術もない自分には理解できず、ただただ「すげえ」の一言。
思わずまじまじと時間をかけて眺めてしまったのが、『メトロポリス』の設定資料ノート。創作者にとっては当たり前なのだと思いますが、社会思想や時代背景も鑑みて、細部までしっかりと定めた上で作品に反映させているとわかって感動。純粋に「ノートの書き方」として読むこともでき、コピーして持ち帰りたい衝動に襲われるくらいでした。
もう一度、あの作品と出会いたい
『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989』より
そんなこんなで、2時間近くかけて周った企画展『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム展』の内容と感想でした。展示されている文字を9割方読みながら周ってこのくらいだったので、早い人ならもっと早く、各所のゲームをプレイすれば逆に長く楽しめると思います。
企画展中で特に印象的だったのが、作品同士のつながりが可視化されていてわかりやすい、という点。
知っている作品はもちろん、未読・未視聴・未プレイの作品に関しても、他のマンガ・アニメ・ゲームとの関連性を示す解説がされているため、一度足りとも「つまらない」と感じることなく、最後まで楽しみながら展示を追いかけることができました。
あとは言うまでもなく、「あの頃好きだった作品と再会できる空間」としてのすばらしさ。小さな頃に読んだ・観た・プレイした作品と数年ぶりに“再会”するに留まらず、貴重な資料も一緒に見ることができて最高です。それぞれの文化を振り返ると同時に、自分が触れてきた作品遍歴も振り返ることができるような感じ。
個人的な話ですが、『ほしのこえ』の絵コンテを目にして、ひとりで感動していました。もう何年も見ていないのに、台詞とイラストを目にするだけでBGMと声が聞こえてくる……!
正直なところ、期間中にもう一回くらいは訪れるのもありかなー、と考えるくらいに楽しめる、素敵な企画展でした。今回は一人だったので、友人とあれこれ話しながら周れればもっと楽しいかもしれない。もしや、デートコースにもありと言えばありなんじゃ……?
とりあえずは、帰りにショップで買った図版がボリュームたっぷりなので、そちらを眺めつつ好きな作品に思いを馳せようかと。展示中では取り上げられていないものも含め、こちらでは150作品が掲載されているという話。しばらくは楽しめそうですね。