ぐるりみち。

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『世界史の極意』“世界史”と“現代”を捉え直したい人の入門書

 

 佐藤優さんの著書『世界史の極意』を読みました。

 著者の本を読むのは初めてで、『国家の罠』で有名な作家であり、BLOGOSに記事を掲載中――くらいのイメージだけで読み始めましたが、非常におもしろかったです。頭がこねくり回され、程よい刺激になった感じ。

 

過去と現在、キリスト教とイスラム教、「類比」による世界の俯瞰

 ヒト・モノ・カネが国境を越えてめまぐるしく移動する現在、ビジネスパーソンには国際的な感覚が求められています。そのためには、外国語を身につけるだけでは十分でありません。現下の国際情勢が、どのような歴史の積み重ねを経て成立しているのかを正確に認識し、状況を見通す必要がある。若いビジネスパーソンには、過去に起きたことのアナロジー(類比)によって、現在の出来事を考えるセンスが必要なのです。

 

 正直なところ、序文を読んだ限りでは「なんか胡散臭い……」という印象が強かった。冒頭部分で語られた、本書の目的は以下の2点。

  • 世界史を通じて、アナロジー的なものの見方を訓練する
  • いまだ終わっていない「世界大戦」を再考し、戦争を阻止する

 アナロジカル――似ている事物を結びつけて考える「類比」の思考法の重要性はわかる。同時に述べられていた、 “世界史” も含めた「大きな物語」の意義にも納得できる。ただ、たびたび「きな臭い」とされる各国の現状は、本当に「戦争」に結びつくものなんじゃろか? という疑問があった。

 

 読後の感想としては、「そういう視点もあるのかー」といった印象。

 第一次世界大戦に至るまでの「帝国主義の時代」と、現代の「新・帝国主義の時代」の比較検討。世界経済史の観点から見た、「帝国主義」が醸成されるまでの過程。そういった “歴史” の視点から見た解説は勉強になるし、読んでいておもしろい。

 ただ、そこから導き出される結論としての「戦争」に関しては、「なるほどー、わからなくもないですねー」といった印象。別にバカにしているわけでも何でもなく、逆に自分が「バカ」だからそのくらいの感想しか持てなかったのです。本書を読んで、論説を追いかけて、そこそこ納得のできる内容として「わかった!」とは思っても、その妥当性を検討する術がない。

 だから、僕個人の感想としては「そういうのもあるのか」と。知識も読解力も足りない自分の頭が恨めしいぜよ……ぐぬぬ。勉強しよ……。

 

資本主義の発展とナショナリズム、宗教紛争を考える

 本書は3章構成。それぞれ、「新・帝国主義」「ナショナリズム」「宗教紛争(イスラム国、EU)」を世界史から読み解き、過去と現在を類比・検討するような内容となっている。

 

 第1章は『多極化する世界を読み解く極意』と題して、帝国主義が誕生するまでの経緯として「資本主義」に焦点を当て、各国の経済史の変遷を概説した内容。絶対王政、産業革命まで遡りつつ、各国の歴史の教科書の比較などもしており、「過去に勉強した世界史だけど、世界史じゃない!」といった読み方ができて興味深かった。

 第2章は、『民族問題を読み解く極意』。「そもそも “ナショナリズム” ってなんぞ?」という基本からざっくりと説明し、現代にまで続く主権国家を確立する節目となったウェストファリア条約などの出来事も整理。最新の世界情勢にまで紐付けて語られており、勉強になった。あと、「沖縄」の視点は意識しないと知る由もないですよね……。

 第3章『宗教紛争を読み解く極意』では、イスラム国とバチカン市国の対比に始まり、イスラム教とキリスト教の前提と比較、そして “戦争を阻止するための方法” として、著者自身の考えをまとめている。数々の「類比」を経て混乱してきたところで改めて各要素を整理した、本書の「まとめ」的な立ち位置の章。

 

 自分の高校レベルの知識と擦り合わせつつ、ほどほどに脳内を回転させつつ、「勉強になりますわー」なんて言いながら読み進めていく中で特に印象的だったのが、「イギリス」の話。

 11〜14歳の中等教育で使われているというイギリスの歴史教科書がたびたび引用されているのですが、日本の網羅的で淡々とした内容とは異なり、限定的かつユニークな切り口で語られていて思わず読みたくなったほど。

 

 

 著者曰く、 “イギリス帝国主義の「失敗の研究」という点に重点が置かれている” というこの教科書では、植民地を「支配していた側」から、その経緯や失敗を徹底的に考えさせる構成になっており、見るからにおもしろそう。

 しかも、その教科書の中で「なぜこの教科書は一面的な視点で書かれているのか」と自ら紹介しているとまであり、なんかもう異文化感MAXでござる。そりゃあ確かに、一国の教育方針だけで「世界史」を判断するなんて不可能でしょうしね……。

 

高校の「世界史」の知識を発展させるために

 個人的には、序文で書かれていた「ビジネスパーソンは読むべき!」という言説は後付けのように見えて、当たらずといえども遠からず、といった印象。本書の想定読者として勧められそうなのは、どちらかと言えば以下のような人たちだと思う。

  • 高校時代に「世界史」が好きだった人
  • 社会人になって“勉強欲求”が高まりつつある人
  • 現在の世界情勢に関心がある(けどよくわからない)人

 一口に言えば、「知識欲がある人」「時事問題をニュース以外の視点で捉えたい人」あたりでしょうか。確かに、こうした人たちを統合すれば「ビジネスパーソン」に当てはまるのかもしれない。そういう意味では、「新書」という媒体もストレートど真ん中っぽい。

 

 ただこうやって書くと、「世界史の知識がない人はお断りっすか、日本史選択ですんませんね」なんてツッコまれるおそれも。でもその点はまったく問題なく、少なくとも高校の「世界史A」を人並みに勉強していた人であれば、「ぜんぜんわからん!」ということにはならないはず。

 僕自身、「 “囲い込み(エンクロージャー)” ってなんだっけ……」「 “ウェストファリア条約” ってどこのいつの戦争の講和条約だっけ……」などなど首を傾げ傾げ進めていたけれど、特につっかえることなく読めました。うろ覚えでも単語さえ記憶に残っていれば、きっと問題なく読めるはず。むしろ、世界史の復習になっていいかもしれない。

 

 加えて、各章ごとにブックガイドが掲載されているのもありがたい。本書で書かれた「著者の視点」について理解を深めるのに読むも良し、それぞれの話題に関して自分で学び直すのに使うも良し。

 いずれにせよ、本書が対象としている読者層には “ハマる” 本のリストになっているように感じました。文中で取り上げた、経済史、ナショナリズム、宗教紛争を再考する道標として。『想像の共同体』『民族とナショナリズム』『ナショナリズムの生命力』はいつか読もう。

 新書としても薄すぎず、厚すぎずという程よい文量であるように感じたので、過去に学んだ「世界史」の授業の横文字が懐かしいという人は、手に取ってみてもいいんじゃないかしら。Kindle版でもさくさく読むことができました。よかったらどぞー。

 

 

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