「2023年の上半期にハマったあれこれの話をするぞ〜〜〜!!」と思っていたら、いつの間にか7月も下旬に差し掛かっていた。すっかり夏である。暑である。なんなら夏コミまで1ヶ月切っている……って、え? まじ??
そんなわけで時期を逃した気もしますが、せっかく書いたものをお蔵入りにするのもアレなので。この半年間でハマったもの――のなかでも、特に自分に深く深くぶっ刺さったコンテンツをゆるっと紹介してみます。対戦よろしくお願いします。
そんな話を彁は喰った。
第一回AIアートグランプリの準グランプリ、かつ急遽その場で新設された審査員特別賞を受賞した作品。「その場で急に賞を作るほどの作品とは……?」と気になって見てみたら、納得の内容だった。というか自分好み過ぎて爆ぜた。作者は機能美pさん。
「創作支援生成AI BAVEL」なるYouTube広告風の動画からスタートし、そのアプリ画面上で展開するストーリー。展開に合わせて都度変化していくBGMが軽快で楽しい。思わずクスッと笑ってしまう箇所や、ネット広告を皮肉ったネタもあっておもしろく見ていたら、実はそこまでがチュートリアル。幽霊文字「彁」の登場によって、徐々に不穏な空気が流れ始める。と同時に、ワクワク感も込み上げてくる。
「そんな方法、あり〜〜〜!?」と思わず笑っちゃうような展開を経て、「彁」を発端とした創作は結末を迎える――かと思いきや。
この動画、よくよく見ると、「前編」である。
なんなら、ここまで“も”チュートリアルである。
後編では、また新たな物語が、最適化された世界で紡がれる。淡々と、明快に、しかしどこか軽妙な口調で、何者かによって語られる、生成AIの普及によって行き着いた世界のお話。そして始まる化物退治と、自分殺しの物語。
――この映像は、どれだけ視聴者をアツくさせれば気が済むんだ?
これ以上はネタバレになりそうなのでやめておきますが、自分にとってはこれが、この半年間で最もモチベーションをもらえた映像だったかもしれない。別に作家やイラストレーターといったクリエイターではない自分ですら、後編のエンドロールと動画のラストにはやられた。こんなクリエイター讃歌を見せられたら、手を動かさずにはいられないじゃないか。
それに何と言っても、物語の創造主ではないものの、一応は「ライター」の肩書きを掲げて生きてきた1人として、あの「音」はズルすぎる。生成AIフィーバーが続く2023年の今だからこそ見てほしい映像であり、次の半年も歩みを止めないための活力となる一作。――やってやろうじゃん。
ハジマルイオン「遊覧空間」
上半期ベストMV。ボカロP×歌い手ユニット「ハジマルイオン」が4月にリリースした3rdシングル。
「新曲のMVをVRChatで撮影したよー」くらいの温度感で作られた映像かと思いきや、想像以上にガチだった。いや、映像制作を担当したVisitoRのみなさんの仕事ぶりは以前から存じていたし、「そりゃあ今回も素敵なMVなんだろうなー」とワクワクしながら見に行ったのだけれど。
はたして公開された映像は、よかった。すごくよかった。最高だった。「VRChatなら良い映像が撮れそうだからそうした」とかじゃなくて、「バーチャル/リアル讃歌」とすら言えそうな歌詞と映像がぶっ刺さり、耳に残るメロディアスなサビがこれまた好みかつ素敵すぎて、ちょっと泣きそうになっちゃった。もとい、ちょっと泣いた。
しかも、VRChatの公式MVと言われても信じてしまいそうなくらいの歌詞と映像なのに、「楽曲自体は別にVRChatありきで制作されたわけではない」らしいと聞いて、さらにびっくり*1。それは、VRに限らず、現実ではできないことができる、「リアル」な空間のお話。すなわち“遊覧空間”を歌った歌――とのことで……いや、でもたしかに、ソーシャルVR以上にしっくりくる場所はそうそうないよな、とも。
たびたび目に入る見覚えのあるワールドの景色と、いつだって刺激的で楽しいぶいちゃの空間を描いた映像、そして心地の良い歌と音楽を、何度も何度も味わいたくなってしまう。実際、もう何回再生したかわからない。Cメロ部分の畳み掛けるような映像と、サビの「何処へ行こうか? 何処へでも」のフレーズが大好き。
kinu 5th live "はじまりのおわり"
先ほどの『そんな話を彁は喰った。』とはまた違った意味で、並々ならぬモチベーションとエネルギーを充填させてくれた体験。それが、年始のサンリオバーチャルフェスで披露された、キヌさんの5thライブだ。
サンリオバーチャルフェスといえば、2021年末の初回開催時の感想をこのブログでもまとめていて、その時もキヌさんのパフォーマンスについて「本気でガチ泣きした」なんて書いていたわけですが……いやー、今回も案の定ね、泣いちゃったよね。そりゃまあ泣くってもんっすよ。ただでさえ大迫力かつ見たことのない体験ができるVRライブで、前回にも増して「言葉」の力強さとメッセージ性が強くなっているんですもの。
前回のブログでは「ヤバいものを見せられた結果、感情が臨界点を突破してしまった」と書いていたけれど、今回も「想像を超えるすごいものを見て、複数の感情がまとめて表に出てしまった」と記録している自分。開始数分で期待以上のものを見せられた結果、情緒がしっちゃかめっちゃかになり、「感激の涙を流しつつ、同時に笑いも込み上げてくる」という、わけのわからん状態になっていたわけでございます。狂う。
序盤のギターサウンドと光の奔流に感情をぐわんぐわんと揺さぶられ、何度見ても聴いてもたまらない『バーチャルYouTuberのいのち』を味わい、そして終盤の急展開に魅せられる。『はじまりのおわり、』と題した楽曲で紡がれる言葉と、目の前で幾重にも展開していく空間表現に、口をぽかーんと開けて見入るしかなかった数分間。その数分間は、この半年間のなかでも、唯一無二にして至高の時間だったと言ってしまっていいでしょう。
あ、それと、この文章を書いていて、初めて気がついたことなのですが。先ほどの『そんな話を彁は喰った。』とキヌさんの『はじまりのおわり、』において、いずれも「読点」が象徴的に使われていることに思い至り、頭を抱えております。――この半年間でも特に深くぶっ刺さった2つの作品に共通するモチーフが登場するの、なぁぜなぁぜ?
映画『BLUE GIANT』
原作がジャズ漫画であることは知っている。しかし、それ以外は何も知らない。ただ、あまりにもTwitterやPodcastで勧められているから、その声に従って観に行ってみた映画。
この手の「ネットで話題になっていたので、言われるがままに観に行ってみた」というタイプの映画は、高確率で自分に刺さる傾向にある。遡れば『バーフバリ』がそうだったし、一見すると子供向け劇場アニメである『すみっコぐらし』や『若おかみは小学生!』もそうだった。どれもほぼ事前知識なしで映画館に行って、それでも100%問題なく楽しめた。あ、でもバーフバリは、例の「人間弾丸盾」などの映像を見ちゃっていたかもしれない。
そんなノリで観に行った『BLUE GIANT』もまた、多分に漏れずぶっ刺さり映画だったわけです。
胸の奥底にしまい込んだ青春の残り火を、「おらおら、まだ燃えられんだろ」と焚き付けられるようなストーリー。初期衝動に促されるまま、ひたむきに、愚直に、青臭く、感情の火を燃やし続ける若者たち。三者三様の挑戦と挫折、交錯する人生が、わずか2時間のあいだに詰め込まれている。濃縮還元100%の青春模様に酔いしれることのできる、極上のセッションだった。
それに何と言っても、玉田である。
俺たちの玉田が、とにかくカッコいい。
サックスに、ジャズに、音楽に、一所懸命に向き合う友達の姿を目の当たりにして、「オレも……!」と焚き付けられるも、当然ながら一朝一夕でステージに立つレベルになれるわけもなく、己の力不足と不甲斐なさを自覚し、うなだれ、しかしそれでも、自分の感情にひたむきに、投げ出さず、「オレがやんだよ!」と立ち上がる。そりゃあおじいちゃんもファンになるってもんよ。俺が、俺たちが、玉田ファンのおじいちゃんだ。
あと映画を観て思ったのが、「そういえば『音楽』って、カジュアルに聴きに行ってもいいんだよね」ということ。知識や経験がなくったって、お店やライブハウスにふらっと入ることはできる。あるいは、普段は通り過ぎる路上ライブの歌声に足を止めて、聴き入ってみてもいい。
もしそこで、ちょっとでも心を動かされたなら、応援の気持ちを込めて投げ銭をしたり、CDを買ったりするのもいい。ネットでは当たり前にやっている応援を、そういえばリアルでは最近やっていないことに気づいた。たとえその場限りの出会いだとしても、がんばる人を素直に応援するような大人でありたい。ひたむきな若者たちと、それを見守る大人たちの姿を目の当たりにして、そんなことを思った。
【推しの子】第1話「Mother and Children」
完璧で究極の第1話。「原作1巻まるまる1冊の内容を82分の超拡大版『第1話』に詰め込む」というパワープレイ。これ以上ない、最高の映像化だったように思う。関係各所に「よくぞやってくれたビーム」を撃ちたい。よくぞやってくれたビーム!!
というのも、通常の「テレビアニメ」の構成でやっていたら、少し駆け足ぎみの展開で、おそらく3話あたりでアイの死が描かれていたはずだから。もしそうだったとしても話題にはなっていただろうけれど、この「第1話でドーーーン!!」のインパクトには遠く及ばなかったんじゃなかろうか。コンテンツの供給過多によって「アニメ」の優先順位が下がっているようにも感じる昨今、よく言われる「とりあえず3話まで見て判断」すらも、最近は通じにくくなっている印象があるから。
それと、この作品の特性を踏まえても、「プロローグを最初にドカン! とまとめて描き切る」のは最適解だったように感じる。通常の30分アニメとして放送していたら、おそらくは第1話ラストで「推しアイドルの子供に転生してびっくり!」という引きになっていたはず。それはそれでインパクトがあるものの、『【推しの子】』という作品の肝はそこにはない。
「アイドルであり、母親であり、作品タイトルでもあるはずの“推し”が、早々に退場してしまう」というところまでがセットであり、そこで生まれる復讐心とサスペンス色のある展開が作品の主軸なんじゃないかと。そう考えると、「作品の方向性を第1話で示し、プロローグ部分を描き切る」というまとめ方は、ベストな選択だったのではないかしら。
あとあと、忘れちゃいけないのが、アイ役の高橋李依さんの演技。最高にかわいらしく、それでいてどこまでが演技かわからない――でもそれが嘘であるようにも見えすぎない――二重の意味での「演技」の絶妙さ加減がすんばらしかった。
いうなれば、「それが演技かどうかも不明瞭なキャラクターの演技を“演技”する」という演技。嘘を嘘で塗り固めたような挙動を演じるにあたって、それを自然に「声色」で表現している感じ。不自然じゃないし、不快でもない。「唯一無二の絶対的なアイドルであるアイの愛らしさ」はまったくブレず、でもその声色から、愛らしさの周縁に漂う「嘘」と「演技」の香りがそこはかとなく感じられていたのがすごい。
そのうえで、あのラストがあるわけですよ。刺されてもなお己の“ファン”に向けて手を伸ばしながら語りかける優しげな声と、遺される2人に自身の想いを伝えようとする最後の言葉。徐々に弱々しく小さくなっていく声色の変化と、心の底から嬉しそうな、安堵するような「やっと言えた」の一言でぶるっときた。
からのエンドロール~!!
俺たちのYOASOBI〜〜〜!!
作品に寄り添う最高の楽曲を仕上げてくるYOASOBIの仕事ぶりは言うまでもございませんが、MVでフルを聞いて、見て、二重に「うわ~~~!!」ってなった。その後、MVの原作小説を読んでさらに「その主観で描くんか~~~!!」ってなった。そして、MVのラスサビで、今度はちゃんと泣いた。原作でも見たかった絵面。ズルい。
#12「アニメ【推しの子】第1話とYOASOBI『アイドル』のMVが最高すぎた件について」【すきがたり】 - YouTube
HUMANITY
例年と比べると、上半期は結構いろいろなジャンルのゲームをプレイした半年だった気がする。パルデア地方の広い世界を冒険し、バンカラ街でバイトに精を出し、今年も安定のニーゴシナリオに悶絶し、ついにリリースされたMMORPGで「下僕〜!」と罵られながら時間を溶かす。
ゲーム性も世界観も物語もさまざまな作品で遊んできて、そのなかでも特に印象深く感じられたタイトルはなんだったか……と振り返ると、思い浮かぶのは白いシルエットだった。四足歩行で、キュートな耳と尻尾を持ち、天高く吠える姿は勇ましい、白く輝くシルエット。
――そう、犬である。
ゲームのタイトルは、『HUMANITY』。メディアでは「柴犬になって無気力な人々を導くアクションパズルゲーム」と説明されている。自分にとって「パズル」はほとんど縁のないジャンルだったのだけれど、たまたま目に入った本作の開発者インタビューが気にかかり、手を出してみた格好です。
きっかけは興味本位だったものの、得られたゲーム体験は極上。多種多彩なパズルを解き始めたら想像以上に楽しくなっちゃって、攻略情報は一切見ず、ゲーム中のヒント機能すらも使わず、最後まで自分の力だけで遊び尽くすほど夢中になってしまった。
というか振り返ってみると、「自分の力だけでトライアンドエラーを繰り返す」というゲーム体験、それ自体が本当に久しぶりのものだったかもしれない。
効率を求めがちな昨今のソシャゲは言わずもがな、RPGや対戦ゲームでも少なからず攻略法をチェックしていた昨今。情報の海から離れ、まっさらな状態でゲームと向き合った。それはまるで、幼少期に初めてマリオブラザーズをプレイしたときのような体験。ゲームの根源的な楽しさを久方ぶりにフルで味わえた、思い出のタイトルになった。何度も何度も失敗を繰り返したあとの成功が、本当に気持ちいいんだ……!
ちなみにこの『HUMANITY』、ジャンル表記は「アクションパズル」となっていますが、それだけではございません。
少なくとも「シューティング」「ステルス」「ストラテジー」といったジャンルのゲームの諸要素が盛り込まれており、遊び始めて最初の30分と3〜4時間後とでは、得られるゲーム体験がガラッと変わります。これは公式PVにも映像があるので書いちゃいますが、弾幕STGっぽいステージもあります。なんでや。
あとあと、本作を取り巻くストーリーも自分好みだったことをお伝えしたい……! このタイトルで語られる「人間性」とは、いったいどのようなものなのか。徐々に明かされていく世界観に惹かれる一方、演出もまた魅力的。アニメやマンガでも王道の演出があり、「パズルゲームでそれやっちゃう!?」と驚きつつ、激アツ展開に燃えておりました。感情を揺さぶる演出が本当にうまいんだ……!
さなのばくたん。-ハロー・マイ・バースデイ-
期待以上だった。半端なかった。ぶん殴られた。「名取さな」という存在の5年間をぶちかまされた。2018年からじわじわと積み重ねられていた(普段の活動を含む)物語からのアツい一撃をもろに喰らって、マジ泣きしちゃった。
「さなのばくたん。」は、VTuber・名取さなの誕生日イベントである。2021年から毎年3月に開催されており、今年が3回目。すっかり定番イベントのひとつになりつつある……のだけれど、冷静になって考えてみると、これはすごいことである。なんたって、企業運営でもなんでもない、いち個人にして古のインターネット住民が、3年連続で、映画館を使って、バースデーイベントを開催しているのだから。
今年のお誕生会は、パラレルワールドの名取さなの悩みを解決することで展開していく、ミュージカル仕立てのイベント構成。年に一度のお祭りイベントであると同時に、普段の配信でのせんせえ(リスナー)たちとのやり取りがそのままリアルワールドに持ち込まれたかのような、会場の雰囲気も楽しい。自分はオンライン配信をアーカイブ視聴したのですが、それでも伝わってくる熱気があった。いいないいな。
そのハチャメチャな楽しさを具現化したかのような『パラレルサーチライト』に始まり、次々にステージ上で披露されるお歌とパフォーマンスも見事。いわゆる「VTuberの音楽ライブ」としても楽しむことができ、会場のせんせえたちを巻き込んでのゲームにガハハと笑い――しかし最後には、その裏で散りばめられていた伏線が眼前に現れる。それも、「5年」の重みを持つ伏線が。そりゃ泣くわ。
「もしアレがコレでそうなるなら、ちょっと涙ぐむくらいはあるかもなー」とは思っていたけれど、マジ泣きさせられるのは完全に予想外。経験上、VTuberのライブやイベントで泣くときはいつも「音楽+歌唱」のパワーによって涙腺がぶっ壊されていたのだけれど、今回は「バーチャル」の文脈と物語性にやられた。いや、もちろん、音楽に泣かされた部分もございました。でもそれ以上に、「5年」の活動の積み重ねと、「ずっと見たかったもの」と出会えたことによる嬉しさが勝っていたように思う。
ねえ あなたはどんな時の私が好き? 私はどんな私が好き?
ここで涙をこらえきれなかった。……我慢できるわけないじゃんばーかばーか! うんこ!!
楽曲の1番と2番、それぞれを2人の「名取さな」が歌う、その声色の違いと演出に、まず涙腺を刺激させられる。そして、2人が同じ場所に並び立って歌う光景に、「ずっと見たかった“バーチャルYouTuber”のライブ」の形を見て、感極まって泣いた。それになにより、この歌詞である。「私はどんな私が好き?」と優しく問いかける歌声に、彼女がなりたかったかもしれない「ナース」の姿を見た。
この最後のパフォーマンスを終えたあとは何も語らず、そのまま終幕となる流れもすごくいい。こんなに心地の良い余韻を感じられるイベント、そうそうない。そのうえで、終演後の挨拶が「名取さな」としてではなく、「さなちゃん、お誕生日おめでとう」と語りかける形だったのもいい。……って書いてて、なんか知らんがまた泣けてきちゃった。お誕生日、おめでとうございました。
Epilogue․ Chapter 2
この夏、一番楽しみにしていたコンテンツ。「2023年初夏公開予定」と聞いて「7月頃には行けるようになるのかなー」と思っていたら、まさかまさかの5月下旬公開。待ち望んでいた夏が、一足早く始まってしまった。
Epilogue․ Chapter 2は、VRChat上に存在するワールドだ。2022年5月に公開されたワールド「ORGANISM」から続く三部作の1つで、今回がその完結編にあたる。
ORGANISMシリーズの特徴は、その独特な世界観と、細部まで作り込まれた広大な空間、そして、そこかしこに散見される「ロシア」的な情景とモチーフにある*2。
集合住宅、病院、教室、遺跡、電車といった多彩な空間がシームレスに繋がっており、「扉を1つくぐったら、まったく別の空間に出る」ような場所が数多く存在している……というか、ほぼそういう場所しかない。『ゆめにっき』ほど混沌としているわけではないけれど、雰囲気としては近しいものがあるかもしれない。
パッと見たかぎりでは、無関係な空間が脈絡なく数珠繫ぎになっているようにも思える、不思議な世界。しかし、その世界を散策すればするほど、そこはかとなく感じられる物語性があることに気づく。言葉で語られる「お話」は一切ないのに、繰り返し登場するモチーフが、空間が、世界全体が、何かを言外に語っているかのような。
最初のワールド「ORGANISM」単体でも漂っていた物語性が、次の「Epilogue․ Chapter 1」でさらに色濃く感じられるようになり、今回の「Epilogue․ Chapter 2」を三部作のラストとして、締めくくられることになった――というわけです。
そんなORGANISMシリーズの何がぶっ刺さったのか、もといぶっ刺さり続けているのかを問われると、言葉にして説明するのはちょっと難しい。
作り込まれた空間や、独特な世界観、それをVRならではの胸躍る体験として味わえることの魅力。そして、具体的なお話を語っているわけではないのにもかかわらず、あれこれ考えずにはいられない物語性の存在。――端的に伝えようとするなら、だいたいそんな感じかしら。
あるいは、そのような唯一無二の「体験」を、複数人で一緒に共有できたことも大きかったかもしれない。自分と同じくこの世界に魅了されていたVRChatのフレンドたちと一緒に、ワイワイ楽しく、あれこれ考察しながら巡った、ある日の深夜。それは、もともと刺激的な空間の多いVRChat体験のなかでも、特に記憶に残る思い出になったように思う。ちなみに、その時の様子の一部をYouTubeで公開予定なので(Chapter 1の散策動画は公開中)、ご興味のある方は見てみてくださいな。
今週のお題「上半期ベスト◯◯」