2021年の推しコンテンツを好き勝手に語る④『ふたりでみるホロライブ』『SANRIO Virtual Fes』『PROJECT: SUMMER FLARE』


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アニメにゲーム、映画にマンガ、魅力的なキャラクターと関係性を描いたシナリオなど、主に「物語」にスポットを当てて2021年の作品を振り返ってきた、本連載。

ほかにも音楽やPV、クリエイターやVTuberについてもふれようと当初は考えていたのだけれど、さすがにきりがないので……。今回をラストとして、特にインパクトのあった「VR体験」を振り返りつつ、2021年の締めくくりとしようと思います。

映像にも文章にも泣かされてきた一方で、例年以上に刺激的かつ濃密なVRコンテンツが盛りだくさんだった2021年。ゲーム類はあまりプレイできていないので偏りはあるのだけれど(それは2022年の課題としたいところ)、自分が特に衝撃を受けた体験を3つピックアップしてみました。

 

Cinderella switch ~ふたりでみるホロライブ~ Vol.5

初めて目にした「VRライブ」は、2018年夏の輝夜月ちゃんのライブだった*1

映画館のパブリックビューイングで目の当たりにした、「観客がVTuberと同じ空間でライブを楽しんでいる」光景。その衝撃は非常に大きく、「自分もあそこに行きたい!」という思いを強くし、やがてゲーミングPCとVRヘッドセットを買うことになる*2

2019年3月にはKMNZのclusterライブに参加し、5月にはきっかけとなった輝夜月ちゃんの2ndライブにも参戦*3。いずれも「推しの歌声を間近で聴ける」「それどころか目と鼻の先の距離で触れ合える」というあまりにも刺激的な体験で、「VRってやっぱりすげーーー!!」と改めて実感する思い出となった。

でも同時に、あまりにもVRの臨場感と実在感が強かったために、かえって物足りなさを感じてしまう部分もあったんですよね。

「VTuberのパフォーマンスを間近で見られる」「VRならではの派手な演出ができる」という点では、VRライブは現実に負けず劣らず最高だ。それは間違いない。しかし一方で、「周囲のファンとの一体感」という観点で考えてみるとどうだろう。VRには「誰もが最前列で見られる」というメリットもあるものの、客席あるいはフロアの「一体感」という意味では、まだまだリアルの現場には敵わないように思う。

もちろん、VRのライブ会場にいる観客はNPCではなく、自分と同じ生身の人間だ。身振り手振りでお互いにコミュニケーションも取れるし、飛び跳ねられるし、サイリウムも振れる。輝夜月ちゃんのライブ中にあった、ステージから別のステージへとみんなでわちゃわちゃと移動する体験は楽しかったし、一体感も大きかったように思う。

でもやっぱり、歓声が聞こえないのは、ちょっと寂しい。今の技術や環境を考慮すると、実際問題としては「観客は基本、マイクミュート」が最適解になるとは思う。ユーザー各々に異なる通信環境の問題や、発生しうるラグの対処、ボイスチャットの音割れや過度なコールなどの懸念もあるので。それでも「ライブ感」という意味では、歓声がないことに若干の物足りなさを感じている部分もあった。

そんなモヤモヤをかかえていたときに、初めて参加しておったまげたのが、「ふたりでみるホロライブ」だった。

このVRライブでは、自分が求めていた「ライブ感」のある体験が――非常に部分的ではあるものの――見事に再現されていたのです。前々から気になってはいたものの、VR機器が非対応ゆえに参加できなかったイベント。Oculus Quest 2を買って参戦できるようになったので、覗いてみたら……想像以上に楽しかったし、ライブ感がすごかった!

より正確に言うなら、個別のVRライブではなく「VARK」というアプリで開催されている、「連番機能」があるライブの話ですね。

リアルライブの「連番」よろしく、隣の席の人と一緒にライブを見て盛り上がれる。しかもその「隣」にいるのが、さっきまでステージに立っていた、あるいはこれからステージに立つ「演者」であるという、リアル目線で考えるとプレミアムな体験。ただしこちらからは話しかけられないので、一方的に「話しかけられる」ような形にはなるのだけれど。それでも、いや、それだけで、ライブ感がむちゃくちゃ強く実感できてしまったのだから、びっくりした。

そのVARKならではのライブ感を初めて味わったのが、4月に開催された「Cinderella switch ~ふたりでみるホロライブ~ Vol.5」だった。「Vol.5」と書かれているとおり、こちらはホロライブ所属のVTuberが2人ずつ登場するVRライブシリーズ。この回では、白上フブキさん&大神ミオさんのコンビが出演していました。

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和み顔でこちらに振り返るミオしゃ。きゃわわ。

ヘッドマウントディスプレイをかぶれば、そこはもうライブ会場。その最前列で、隣の席を見やれば、なんとそこには推しの姿。……リアルでそんなことある~~~??

MCと曲の合間に、「かっこいい系の曲だって! 聞いたことある~?」と話しかけてきてくれたのは、大神ミオ氏。初対面っぽい雰囲気を醸し出しつつ、ちょっと遠慮がちに声をかけてくる様子は、まさしく「たまたま同じイベントに来ていた、初対面のファン同士のやり取り」のよう。初対面のはずなのに、謎の包容力と安心感がある。なぜだ。

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「どう見てもただの“同士”です」としか思えないオタクムーブをかましてくるフブキング。本職の人ですか?

対して、「ミオちゃん好きなんすか? 同士っすね! よっ、よろしくお願いしますね、デュフフww  ……アッ、私もミオちゃん好きで、グッズとか買ってるんすよぉ~」などと、あまりにも見事すぎるオタクムーブで話しかけてきたのは、白上フブキ氏。

というか全体的に、こちらの隣のオタクきーつねが強すぎた。

どの歌でもコールが完璧すぎるし、ミオしゃが『夢見る空へ』を歌う直前、軽く煽りを入れてきたのを聞いて笑った。「コールできる~? 白上できるよぉ~? いい曲っすよねぇ……アッ、ちょっとね、コールうるさいかもしれないっすけどね、ヨロシクオネガイシャッス...」なんて。

いや、「コールできる」も何も、あなた、歌ってるご本人じゃないですかーーー!! 1st fes.で! この曲の! 初披露時に! ステージで歌ってたじゃないですかーーーー!!

(※執筆担当記事です👇(小声))

「今まさにステージ上で歌われている、この曲を歌う本家アーティストの1人であるVTuberが、隣で一緒になってコールをしている……?🤔」って、ふと我に返りそうになったけれど。そういうこともあるのでしょう。だって、VRだもの。

『ETERNAL BLAZE』のくだりで、「どっち派? なのは? フェイト?……なのはかぁ……なるほど……ふんふんふん……あ、そうそう、劇場版いいよね……わかるわかる……」などと語りかけてきた様子は、まさにオタクそのもの。その絶妙な空気感は、マジで「オタク友達と一緒に推しのライブに来ている」かのように感じられるほどだった。それはそれとして、ミオしゃのエタブレは最強だよね……。いつか生でも聴きたいよね……。

あまりにもオタクとしての強度が高すぎるコールつよつよきーつねに、ある種の初々しさを漂わせつつ、ちょくちょくこちらを見ながらサイリウムを振っているミオしゃ。いずれにしても、「横に誰かがいて、一緒に声を出しながらライブを見られる」という体験は、自分が求めていた「ライブ感」に限りなく近いものだったわけです。VARKといえば、歌唱中のアーティストが急に目の前に現れる「ガチ恋距離システム」が魅力だけど、この「お隣さんシステム」のアイデアも天才なのでは……?

そんなこんなで2021年は、まずVARKのこのライブシステムが印象的でした。本当なら全部の回に参加したいくらいなんだけど、タイミングが合わなかったりなんだりであまり参戦できていないのよね……。みこめっと回……見たかった……VRアーカイブ機能...オネガイシャッス...

 

SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland

そんなVARKのライブがあった一方で、VRライブといえばこちらも外せない。というかぶっちゃけ「2021年」という枠にとどまらず、「これまでに体験したVRライブ」のマイベストに挙げちゃってもいいレベルかもしれない。

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「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」

あのサンリオさんが主催する、リアルとバーチャル、アーティストとキャラクターが入れ代わり立ち代わりステージに登場する、一大VR音楽フェスでございます。

VTuberはもちろん、アイドル、歌い手、VTuber、DJなど、肩書きもジャンルも十人十色な豪華出演者陣が名前を連ねるフェスイベント。キズナアイちゃんにAKB48、初音ミク+ピノキオピーにCHiCO with HoneyWorks、ぐるたみんさんに少年Tさんなどなど、もうてんこ盛りすぎてすごい。さらにはキティちゃんやシナモロールといったサンリオキャラクターズたちに、VRChatのアーティストも加わるというごちゃまぜっぷり。もうわけがわからないよ!

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そしていざフェスが開幕してみれば、現地会場のライブ感がこれまたすごかった。というのも、VRChat会場では数十人が同じワールドに入って、しかもマイクONの状態で、一緒になってステージを見ることができたのだ。

先ほども書いたように、「横に誰かがいて、一緒に声を出しながらライブを見られる」という体験ができるだけで、ライブの臨場感はかなり違ってくる。しかもそれが大勢ともなれば、周囲の熱量と盛り上がりもより強く感じられる。なかでも、有料チケットなしで見ることのできたサンリオキャラクターズのライブには海外のサンリオファンも集まっており、思い思いに推しの名前を叫んでいて大盛りあがりだった*4

このイベントについては、ブログでチョット長め(約18,000字)の感想を書いているので、詳しくはそちらを読んでいただけますと幸いです。マジマジのマジで最高だったので、毎年開催してくれーーーーーッ!!!

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PROJECT: SUMMER FLARE

この世界に飛び込んだのは、2022年1月1日のこと。なので「自分がふれたコンテンツ」としては2022年にふれたことになるのだけれど……ロスタイムとして入れさせてください! 公開されたのは2021年ですし!

「PROJECT: SUMMER FLARE」は、2021年9月にVRChatで公開されたワールドだ。そう、“ワールド”。個別にリリースされているVRゲームのタイトルではないし、前述のような音楽ライブでもない。個人のユーザーさん*5が制作し、VRChatというサービス上で無料で公開している、「誰でも訪れることのできるVR空間のひとつ」に過ぎない。

ところがどっこい。いざ足を運んでみたところ、元日からとてつもない体験をさせられてしまい、「ウオオオオオオオオオオ!!!」「マジかぁぁぁぁぁ……」「それはズルいでしょバカーーーッ!!」などと自室で叫びまくることになった。マジで。誇張表現でもなんでもなく、本当に声に出して叫んでいた。そのくらいすごかった。

そもそも公開当初から、「とにかくヤバい」とTwitterで話題になっていたこのワールド。

「ちょっと、夏に行ってくる」と呟いた人が、数時間後には「夏、ヤバかった……」などと茫然自失ぎみに、あるいは「すごい体験してきた!!!」などと興奮ぎみにツイートしている光景が、何度も何度も見られていた。そんな前評判を聞いていたこともあり、いつかは行きたいと思っていたのだけれど……結局、2022年までズレ込んでしまった格好です。

とはいえ、「絶対に体験してやる!」と考えて、事前情報を完全にシャットアウトしていたことが功を奏した。というのも、1月1日、初めてあの世界にアクセスした時点で自分が持っていた情報は、「とにかくヤバいらしい」「夏を舞台にした謎解きゲーム……っぽい?」という、非常にふんわりとした印象のみだったので。

その結果、マジで叫ぶことになったわけです。

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実際に「夏」の空間に足を運んでみると、まず目に入るのが「ミッション」らしきイラスト。そこは夏の日差しが照りつける砂浜で、目の前には住宅街でよく見かける掲示板。「PROJECT: SUMMER FLARE」というワールド名と注意書きとクレジットに加えて、意味深……と表現するにはゆるすぎるイラストが掲示されている。「どうやら3つの物を探して、箱か何かに入れればいいらしい」と認識し、いざ夏の世界へ。やっぱり謎解きワールドじゃん!

砂浜近くの水族館の建物を巡り、「ここはワイが少年時代を過ごした埼玉県某市かしら?」と疑いたくなるくらい“しっくりくる”佇まいの住宅地を通って、高台にある神社を散策していく。それはまるで、夏休みの昼下がりに「探検」と称して町中をチャリで巡っていた、少年時代の思い出を辿るように。……もちろん、チャリには乗っていないし、周囲に友達はいないし、はなたれ小僧だった自分は、すっかりかわいいケモミミっ子になっていますが。

ともかく、そんな「夏休みの探検」気分で夏の世界を歩きまわっていた自分。どのくらい子供の気分になっていたかというと、先ほどの掲示板に描かれていた「鐘」をなぜか「電柱の上部に設置されている町内スピーカー」と勘違いしたうえで、「自動販売機から出てきた缶を投げて、あのスピーカーにぶつけて落とす……ってコト!?」などと、斜め上すぎる思いつきをしていたほどだった。完全に悪ガキの発想である。迷惑この上ない。物騒。狂気。

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今になって振り返ってみれば「どうしてそうなった」な勘違いではあるものの、それでもなんとか自力でミッションを進行。夏休み気分&悪ガキテンションで謎解きを終わらせたところ…………突如として、冷や水を浴びせられることになる。

あの瞬間は、比喩でなく本気で鳥肌が立ったし、体感温度が下がったような感覚すらあった。……だって、本当に知らなかったんだもの! マジで「夏の風景」くらいしか事前に情報を知らず、PVすら見てなかったし! 「そんなの聞いてないよ!?」という気持ちになると同時に、「そういうことかこんちくしょォ!!」と理解し、大喜びすることになった。めっちゃ好き。

そこからは謎解きにとどまらない、複数のゲームの要素を含んだ展開をしていく……のかと思いきや、それすらもあくまでも一要素。それよりも、あの体験を構成する骨太の世界観にいつしか没入させられ、VRならではの演出やギミックも盛り込んだ展開に興奮させられっぱなしだった。あとついでに、両腕が鍛えられた。

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初めてワールドにアクセスしたときは、ただのVRChatユーザーとして。「夏」の世界を探検していたときは、少年時代の思い出を辿るような気持ちで。尋常じゃない衝撃を受けたあとは、1人の「プレイヤー」として。そして辿り着いた後半は……「自分」とは何者なのか、この世界は何なのかを、考えさせられながらプレイすることになった。

結局、プレイ中にすべてを理解することはできなかったのだけれど……それでも、あの「夏」の風景のその先の体験は、間違いなく自分の心に刻まれるものだった。終盤の展開と■■たちのやり取りに『UNDERTALE』終盤のような感動を覚えつつ、ラストに■■■■■■を打ち込んだ瞬間は、これまでのゲーム体験では覚えがない、不思議な気持ちにさせられてしまった。

やり遂げたことの達成感も大きいのだけれど、なんだか切ないような、寂しいような……悪いことをしてしまっているような。

興奮冷めやらぬまま、設定や解説が書かれた「文書」をざっと読んで、さらにあれこれと思いを巡らせることになってしまった、「夏」の体験。遅ればせながらのプレイになってしまった気もするけれど、「元日」という1年の最初にこれを“喰らえた”のは、タイミングとしては逆によかったのかもしれない。

最高の体験と、最良の狂気と、最上の呪いを、ありがとうございました。

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初詣は、壊した「夏」の神社にて。

2022年も、たくさんのすてきなコンテンツと出会えたらいいな。

 

連載「2021年の推しコンテンツを好き勝手に語る」

  1. 『PUI PUI モルカー』『オッドタクシー』『ウマ娘プリティーダービー』
  2. 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『ルックバック』
  3. 『ボクのあしあと キミのゆくさき』『妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ』
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