日本語は“誤読”と“造語”で作られている?言葉を考えるヒント集『魔法の文章講座』


『魔法の文章講座』要約レビュー

文章は、言葉のサンドイッチです。パン(主語)と具(述語)の組み合わせ次第で無限の表現が可能な、魔法なのです。

(ナカムラクニオ著『魔法の文章講座』P.3より)

 本書『魔法の文章講座』は、このような書き出しから始まります。──なるほど、たしかにそのとおりかもしれない。文章を書くにあたってどのような言葉を選ぶかは、言うまでもなく大切だから。

 たったひとつの言葉選びで炎上しかねないSNS社会においては、言語感覚を鍛えておいて損はない。発した言葉が、意図せず炎属性の魔法となって燃え広がり、やがて自分をも焼き尽くしてしまわないように。もちろん攻撃魔法ばかりではなく、書いた文章が誰かの役に立つ補助魔法になったり、人の心を癒やす回復魔法になったりすることだってあるはず。

 本書は、そんな「魔法」の使い方を学べる魔道書──ではありませんでしたが、「言葉」についてのヒントを得られる本でした。

割とタイトル詐欺、でも結構おもしろい

 重要だと思うので先に書いておくと、本書の内容は、どこからどう読んでも「文章講座」ではありません。「文章の書き方」に関する知識は、一切書かれていないのです。

 なので、もしタイトルに惹かれて読もうと考えている人がいたら、ご注意を。先に書店などでパラ読みし、内容を確認してからレジに持っていったほうがいいと思います。

 では、この本では何が取り扱っているのか。それは、一口に言えば「言葉づくりのヒント集」。新しい造語の作り方や、商品やキャラクターのネーミング、書籍や映画などのタイトルに見られる法則など。「言葉」を考える際のヒントとなる視点と知識が散りばめられている。それが、この本です。

 さすがに「タイトル詐欺じゃん!」と思ったのですが……どうやらこのタイトル、筆者さんが自らのブックカフェで主催している、講座の名前を持ってきたものなのだとか。なるほど、それならまだ納得できる……かも。「言葉」について書かれた本のタイトルを、必ずしもその内容とは合致しない講座名と同じにするのは、ちょっと安直な気もするけれど。

日本語は「誤読」と「造語」で作られている

 本書は全10章構成。さまざまな切り口から、「言葉」がもたらす印象について説明しています。以下、目次を引用させていただきます。

  • 「足し算言葉」の作法
  • 「引き算言葉」のアレンジ力
  • ガギグゲゴロジーの魔法
  • パピプペポロジーの妄想力
  • アナグラミングの遊び方
  • 「商品造語」の裏技
  • 「流行言葉」の破壊力
  • 「肩書」の作り方
  • 「ゆるキャラネーミング」の秘密
  • 新しい「タイトル術」

 パッと見ただけでも、興味を惹かれる項目が結構あるのではないかしら。本文では、事例も数多く挙げつつ「言葉」の使い方と選び方について説明しており、「そういう意味があったのか!」と驚かされる場面も何度かありました。

 ただし、各章の内容はそれぞれ数ページ程度。思いのほかあっさりしており、印象論に終始しているように読める章も少なからずあった点は、少し残念でした。

 たとえば、10章。「『の』が入るタイトルは大ヒットする法則がある」と指摘していますが、「の」の文法的な意味合いや、なぜ「の」が良いのかについての具体的な説明はなく、ただ作品名を並べているだけ。「『の』が入らないタイトルはどうなのか」「『の』が逆に悪印象につながる例はあるのか」などの分析もなく、説得力に欠けるように感じます。

 一方でおもしろかったのが、「日本は、『誤読』と『造語』で作られていると言ってもおかしくないほど、独創的」だという指摘。

 外来語をアレンジしたり、ローカライズして耳に馴染むようにしたり、ダジャレっぽい表現で覚えやすくしたり。日本語の自由なゆるさと独創性について数々の事例を挙げて説明している前半は、なかなかおもしろく読めました。独特な組み合わせによって言葉が生まれ変わるのは、まさしくタイトルが指し示す「魔法」のようにも感じられます。

 最後まで読んでも文章についての知識は得られませんし、具体的なハウツーが学べるわけでもありません。ですが、さまざまな視点から「言葉」を捉えて整理している本書は、ある種の「ヒント集」として、言葉や文章にかかわる人の参考になるのではないでしょうか。各章の最後にはワークブックもあり、それを読者自ら実践することによって、本書は意味を持つようになるはずです。

 

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