「分かりやすい説明」には何が必要?文章にもプレゼンにも使えるルールブック『“分かりやすい表現”の技術』

藤沢晃治著『「分かりやすい表現」の技術』要約サムネイル

 20年以上読まれている本には、読まれ続けている理由がある。

 「読んでおいて損はないよ!」と、ネット上での評判が前々から目に入っていた、『「分かりやすい表現」の技術』。しかもこの本、不思議なことに、「新入社員におすすめ」「レポートを書く大学生にこそ」「ブロガーは読むべき」などと、ありとあらゆる分野で勧められているのです。

 年齢や肩書きを問わず、幅広い層におすすめされている1冊。

 なぜ本書は、さまざまな分野の人から支持を集めているのだろう。理由を一言で説明するなら……多分、こうだ。仕事や生活はもちろん、場面に関係なく有用な「分かりやすい表現」のエッセンスがまとめられているから。実際に読んでみた感想としても、以下のような人におすすめできると感じました。

  • レポートや研究に勤しむ学生
  • 入社間もない新入社員
  • プレゼン作成に追われる会社員
  • これからデザインを学ぼうという人
  • 日常的に情報発信を行うブロガー
  • 書き物を生業とするライター
  • 数多くの動画を投稿するYouTuber

 ざっと思い浮かぶかぎり挙げてみましたが……ぶっちゃけ、ほとんど誰にでも勧められる本なんじゃないかとも思ってます。……うん! 読み物としても純粋におもしろいし!

 そもそも「分かりやすい説明」を求められるのは、何も仕事に限った話ではありません。普段の会話やSNS上での交流において、誤解や誤読を避け、スムーズにお互いの意図を伝え合うには、説明力が不可欠。そのためにも、「分かりやすい表現」の仕方を身につけておいて損はないはずです。

ジャンルに関係なく使える、「分かりやすい表現」のルールブック

 一口に「分かりやすい表現」と言っても、世の中には多種多彩な「表現」がある。それは言うまでもありません。

 いま書いている「文章」ひとつ取っても、ニュースサイトのようにまとまった文量の記事もあれば、Twitterに代表される短い呟きもある。個人的な手紙もあれば、プレゼン資料のようなものもあり、それぞれに性質は異なる。もしも街中の広告すべてが契約書のような文面で書かれていたら……どうだろう。きっと、誰も目に留めようとしないんじゃないかしら。

 目で読む「文章」だけでなく、耳で聞く「会話」だって同様だ。

 友人との雑談と、顧客相手の営業とでは、当然ながら伝え方は異なる。ゆえに、「何にでも使える万能な会話術」なんてものはないはず。書店の棚を見ても、「人付き合いを円滑にする雑談術」や「トップセールスが紐解く営業トーク術」といった形で、分野ごとにカテゴライズされたハウツー本が並んでいることがわかる。

 つまり、「分かりやすい表現」は、ジャンルによって異なる

 ところがどっこい。異なる……はず、なのだけれど、本当にそうなのだろうか。巷にあふれる「分かりにくい表現」を集め、分類し、分析してみたら──実は、共通点が見出せるのではないか。その共通する問題点を整理できれば、「分かりやすい表現」のルールが導き出せるのでは──?

 業界別に蓄積してきた「分かりやすい表現」の技術にも、そのジャンルを超えた普遍的共通項があるはずです。そうした共通項から「分かりやすい表現」の純粋結晶を抽出できれば、表現の品質管理の重要なガイドライン(基準)になるでしょう。

(藤沢晃治著『「分かりやすい表現」の技術』P.5より)

 ジャンルに関係なく、時代も問わず、あらゆる情報発信において当てはまり活用できる、「分かりやすい表現」のルールブック。それが、本書です。

 もちろん、本書の説明はあくまでも「基準」に過ぎないだろうし、さすがに万能なんてことはないはず。ただ、20年以上にもわたって多くの人から支持を集め、読まれ続けている実績を考慮すると……その有用性は、それなりに信用に足るものなのではないかしら。

「分かる」とは、「分ける」こと

 本書ではまず、駅の案内板、道路標識、家電の説明書、マンションの管理規約など、生活に存在するいくつもの「分かりにくい表現」を例示。なぜそれを「分かりにくい」と感じるのか、どのようにすれば改善できるのかを考えていきます。関係ないけど、事例に挙がっている「フロッピーディスク」に時代を感じますね……。

 ところで、そもそも「分かりやすい」とは、どういう状態を指すのだろう。文字の読みやすさとか、地図のデザインとか、パッと見たときの「見やすさ」が関わってきそうなのは、なんとなく理解できる。でも一方で、ある事柄について「分かる」かどうかは、その人の知識量や理解力といった「主観」の要素も大きいのでは──?

 筆者曰く、「分かりやすい」とは、「分かっている状態になりやすい」ということ。そのうえで、「分かっている状態」と「分かっていない状態」の違いはどこにあるのかと言えば、それは「情報の定着」にあるのだそう。ここでは脳を “棚” にたとえて、「分かる」とは、「情報が脳内で整理されている」ことだと説明しています。

藤沢晃治著『「分かりやすい表現」の技術』より「脳内整理棚」

藤沢晃治著『「分かりやすい表現」の技術』P.39より

 一時記憶はいわゆる「短期記憶」であり、二次記憶は「長期記憶」。どちらもしばしば耳にする単語ですよね。一夜漬けで覚えた単語は短期記憶としてしか記憶されず、知識として長期記憶に定着させるには、予習復習に代表される反復学習が欠かせない──みたいな。

 この長期記憶は1つの “箱” のような入れ物ではなく、情報をその構造・分野ごとにグループ分けして保存する、 “仕分け棚” になっているのだとか。本書では、それを “脳内整理棚” という言葉で説明しています。たとえば、英単語は英語の棚、公式は数学の棚──というように、教科別に知識が保存されているイメージかしら。

 一夜漬けで詰めこんだ知識をすぐに忘れてしまうのは、インプットしようとした情報が一時記憶域を通り過ぎるばかりで、うまく “棚” へと分類されなかったから。長期記憶として定着させるには、脳内に入ってきた情報を分析し、どのような構造(意味)を持つかを判断し、同じ構造を持つ “棚” へと分類して入れる必要がある。この分析・判断・分類を経て情報が “棚” へと入れられた瞬間こそが、「分かった!」状態なのだそう。

「それって、どういう意味ですか?」と言っている人は、その情報を整理棚のどの区画にしまってよいかが決定できず「分からない」状態にあるのです。一方「ああ、そういう意味ですか!」と言う人は、その瞬間に、どの区画かが決定され「分かった!」となったのです。

(藤沢晃治著『「分かりやすい表現」の技術』P.40より)

 「分かる」こととは、「分ける」こと。そして「分かりやすい表現」とは、「受け手の脳内整理棚にしまいやすいように情報を送る」こと。

 つまり、「分かりやすい表現」を用いて説明するには、情報を「分けやすい」ようにあらかじめ整えて発信することが、情報の送り手側に求められるわけです。

現代にも通じる「表現」のルールブック

 以上が、本書の冒頭約50ページの内容となります。以降の本文では、「『分かりにくい表現』の主犯たち」と題して、16の問題点を提示。それぞれに事例を挙げながら、

  • なぜそれが分かりにくいのか
  • どのようにすれば分かりやすく改善されるか

をひとつひとつ説明していきます。実際に街中で見かける例も数多く示されているので、「あー! たしかにこんなの見たことある!」などと、共感しながら読み進めることができました。高速道路の標識で戸惑った経験とか、ごちゃごちゃしたショッピングモールの地図とか、心当たりがありすぎる……。

 でも正直に言えば、読み始めた当初は、「さすがにどんな分野にも当てはまるなんてことは……」と疑っていた部分もありました。ですが、読み終えた今となっては、「マジで、それなりに普遍的な内容になっているのでは?」と感じています。万能ってことはないだろうけれど。

 だって、自分にとって最も身近な「文章」に当てはめてみても、その指摘の多くが当てはまるんだもの!

 ルール2「受け手のプロフィールの設定」は言うまでもなく、ルール4「大前提を説明する」ことの重要性や、ルール6「複数解釈をさせない」こと、ルール8「取捨選択」の考え方、ルール10「情報の優先順位の付け方」やルール11「共通項の括り方」など、どれもこれも心当たりのある指摘ばかり。

 僕自身、なおざりにしている項目も多かったので、今日から意識して改善に取り組もうと思います。

 

※新装版が発売されていたようです

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