「四の五の言わずに読んでおけ」と。
たびたび話題に挙がる本が、いくつかある。
特にビジネス書の分野ではそれが顕著であり、『道をひらく』『七つの習慣』といった本はある種の必読書として、多くの人──特に経営者や意思決定に携わる立場の人間──が勧めている印象がある。必ずしも平社員が読むものではないものの、それでもビジネス系の雑誌やネット記事では書名を見かける機会が多い。
──まあ、僕は読んでいないんですけどね!*1
さて、今回読んだのは、そんな「四の五の言わずに読んでおけ」という声が挙がるロングセラー本のひとつ。ジェームズ・W・ヤング著『アイデアのつくり方』です。意識の高いビジネス界隈のみならず、さまざまな分野で勧められているのが目に入る1冊。どのようなものなのか、さくっと読んでみました。
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知的発想法の本質を、60分で学ぶ
書店のビジネス書コーナーに行けば、そこそこ目立つところに陳列されていることが多いこの本。パッと目に入った帯の文句が記憶に残っている人もいるのではないかしら。
曰く、「60分で読めるけれど一生あなたを離さない本」。
「いやいや、60分とか、どんだけ短いんすか!」とツッコみたくなるものの、これがマジで短い。解説や訳者あとがきを除けば、本文はなんとわずか52ページ。書店で手に取ると、まずその薄さに驚くはず。だって、マンガよりも新書よりも薄いんだもの。絵本なんじゃないかと思えるくらい。
その薄さゆえ本当に60分以内で読めるので、忙しいビジネスマンにもおすすめ。読書の時間をなかなか取れず、「通勤時間に新書を読むのでいっぱいいっぱいだよ~」と嘆いている人でも、本書ならあっという間に読み終えることができる。なんたって、たったの52ページ。下手したら、プレゼン資料を読みこむよりも早い。
しかしその内容は、新書やプレゼン資料よりも濃密。いや、「本質的である」と言ったほうが正確かもしれない。本書に書かれているのは、難解な表現や専門的な話ではなく、平易で一般的なことばかり。あまりにもサクサク読み進められるので、「え? 当たり前のことでは?」という感想を抱く人も少なからずいる。そのくらい簡単な内容です。
とは言え、その「当たり前」が、一番難しい。難しいからこそ、出版から数十年が経った今も本書が読まれているのだろうし*2、時代を問わず評価を集め続けてきたのではないかしら。現代においても数多く出版されているアイデア本、その中でも発想法の「本質」を凝縮し、明快にまとめ上げている1冊です。
アイデアとは、既存の要素を組み合わせたもの
まさに書名が示すとおり、「アイデアのつくり方」を簡潔明瞭にまとめている本書。本文ではそもそも「アイデアとはなんぞや」という話に始まり、アイデアをつくるための原理を確認。そのうえで、アイデアを生み出すための技術を5段階に分けて説明していきます。
曰く、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない(P.28)」。そしてその “組み合わせ” を導くにあたっては、「事物の関連性をみつけ出す才能に依存するところが大きい(P.28)」との話。
──これだけでも、ピンとくる人は多いのでは?
どういうことか整理するために、ある特定の事物について、それが「複数の要素(≒アイデア)の組み合わせ」であると考えてみましょう。たとえば、ここ数年の流行について。人気のコンテンツやサービスを分解すると、それが次のような「組み合わせ」で成り立っていると捉えることもできます*3。
- 『ポケモンGO』:位置情報ゲーム×AR×人気キャラクター
- 『君の名は。』:美麗な映像×都会と地方の描写×人気バンドによる劇伴
- バーチャルYouTuber:キャラクター×YouTuber(×VR)
あるいは、定期的にブームになるタピオカミルクティーについても、同様のことが考えられるかもしれない。
そもそもが「タピオカ×ミルクティー」の組み合わせだし(それ自体は食材の組み合わせ=料理ですが)、そこに近年のInstagramの流行がうまくマッチしたような印象もある。以前のブームを知らない若者にとっては「一風変わった甘いスイーツドリンク」であり、そこに「SNS上で写真を共有する文化」が合わさって流行したと見ることもできそうです。……事実かどうかはさておき。
日々の積み重ねと教養が、優れたアイデアを導き出す
では、そのような組み合わせを導き出すには、どうすればいいのか。本書では「アイデア作成の技術の5段階」として、次のような手順を示しています。
- 資料を収集する
- 資料を咀嚼する
- 問題を放棄して、想像力や感情を刺激するものに心を移す
- 休憩中にアイデアが生まれる
- アイデアについて批判を仰ぎ、具体化する
ざっくりと一言でまとめるなら、「収集した情報を選別し、合間にリラックスしつつ複数の組み合わせを検討し、批判的視点も考慮しながら形にしていく」──といった感じでしょうか。
これまた「当たり前では?」と感じる人もいるかもしれませんが、①の収集対象として「特殊資料」と「一般資料」の2種類を挙げている点がミソ。
生み出したいアイデアに関連する情報を集めるのは当然として(=特殊資料)、それ以外の多種多彩な事柄についての知識を有している(=一般資料)ことも重要である、と。ただしそのためには、日頃から好奇心を持って、積極的に学び、体験している必要があります。これは、いわゆる「教養」の必要性を説いているようにも読めますね。
加えて、作業の合間に設定してある「休憩」も不可欠。
これも多くのアイデア本に書かれていますが、時間をかけて検討したからといって、インスピレーションを得られるとは限らない。時にはリラックスし、程よい余白を設けることで、ふとした瞬間に天啓を得られる。これは「入浴中や就寝前にアイデアが降ってくることが多い」といった実体験として、なんとなくピンとくる人も多いかもしれません。
以上のような段階において、具体的には情報をどのように整理するか、なぜ休息が重要なのか、いかにして批判的な視点で検討していくか──といった部分についても、本書では簡潔に説明しています。そちらは、ぜひ実際に読んで確認してみてください。
この『アイデアのつくり方』は、普段からあれこれとアイデアを考え生み出している人からすれば、今更感のある内容かもしれません。ただ、「当たり前」の考え方だからこそ折に触れて再確認する必要もあるだろうし、ありふれたことほど、実践し続けるのは難しい。そういう意味でも、本書はきっと幅広い人の役に立つはずです。
60分でサクッと学ぶ、アイデアの本質と極意。
気になった人は、ぜひ書店で探してみてくださいな。
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*1:いや、正確に言えば、どちらもパラ読みはしているんです。『道をひらく』は新入社員時代に、『七つの習慣』はオーディオブックで、どちらもかるーく触れてはいる。でも、『道をひらく』を読んだ時期は肉体的にも精神的にも疲弊していたため、ろくに頭に入らなかったんですよね……。「なんか為になりそうなことが書かれているぞ!」と感じた記憶はおぼろげにあるものの、日々のお仕事でそれどころじゃなかったのだ。わぁい。一方、オーディオブックで読んだ『七つの習慣』については、聴くのを途中でやめてしまった。別につまらなかったのではなく、理由としてはむしろ逆です。「これは集中して読まなきゃあかんやつだ!」と早々に考えるに至り、「聞き流す」スタイルのオーディオブックで読むには向いていないと感じたので。だから、いずれしっかりと読むつもりではございます。それはそれとして、オーディオブックはいいぞ。おすすめだぞ。
*2:原著の出版は1940年、日本語版は1988年。
*3:ヒットの要因を探ろうとするのなら、さらに細かく要素を分解する必要があるとは思いますが。