「SNSで人生が変わりました!」
こんな言葉を、少し前まではたびたび耳にしていたような気がする。Twitterでバズったことで自著を出版できた。Facebookで古い友人と再会して事業を立ち上げた。趣味のSNSきっかけで交流を始めた相手と結婚した──。そんな輝かしい機会と出会いを、SNSはもたらしてくれる。
しかし一方では、「そのような大きな『成功』を得られるのは、ほんの一部の人に過ぎない」という見方もある。
もともと能力を持っていた人が、SNSきっかけで注目され、正当に評価されるようになっただけ。注目されるにはバズる必要があり、バズるには才能やスキルが欠かせない。ゆえに僕ら一般人は何をしようと注目されることはないし、「成功」することだってない──。そんな、諦めにも似た見方。
……いやいや、その見方はあまりにも極端すぎるのでは!?
そう、別にバズらなくたっていいんです。淡々と発信し続けるだけでも意味はあるし、ちょっとした出会いやきっかけにつながることだってある。普段は目立つことのない一個人、特別な才能やスキルを持っていない「普通」の人だって、SNSの恩恵にあずかれる。それは間違いない。だって、僕もそうだったから。
そんな「普通」の人がSNSを活用するための方法をまとめた本が、ついに出ました。
タイトルもずばり、『「普通」の人のためのSNSの教科書』。ビジネスパーソン──特にSNSについて詳しくない人──向けにSNSの活用法を紐解いた本としては、ぜひ最初の1冊としておすすめしたい “教科書” です。
「プルのコミュニケーション」っていいよね
本書を読んでいて特に共感できたのが、「プル(pull)のコミュニケーション」という考え方について。
筆者によれば、「プルのコミュニケーション」とは、情報を求めている人が向こうからやってきてくれるコミュニケーションのこと。自分から会いに行ったり、話しかけたり、電話をかけたりする「プッシュ(push)のコミュニケーション」ではなく、向こうから来てもらうコミュニケーションを指します。
メーリングリストのように相手に直接情報を送りつけたほうが一見、大勢が読んでくれそうに思いますが、実際は逆です。情報をネット上に置いておくほうが、心からその情報を求めている人が少しずつ増えていくのです。これがプルのコミュニケーションのメリットです。
(徳力基彦著『「普通」の人のためのSNSの教科書』P.50より)
自分のほうから「見て見て!」と突っ込んでいくのではなく、相手のほうから「なんかおもしろそうなものがあるぞ……?」と見つけてもらうスタイル。このSNSならではのスタイルは、僕のような内向型人間にとっては非常にありがたいコミュニケーション方法なんですよね。
そう、SNSでは、電話営業や飛びこみ営業なんていらないんです。
ただでさえ迷惑電話やスパムメールなど、「プッシュ」型の連絡に辟易している人が少なくない今。興味を持った人に見に来てもらう形のほうがお互いに楽だし、効率的だし、コミュニケーションにつながりやすい。そのような、僕自身もずっと感じていたメリットがわかりやすく言語化されていたので、めちゃくちゃ頷きながら読み進めることができました。
フリーランスにも当てはまる、SNSの活用方法
バズを狙うのではなく、「プルのコミュニケーションを前提に、アウトプットを継続することで仕事につなげよう!」という論調で書かれた本書は、これからSNSを始めようと考えている人にぴったり。
具体的には、次のような章立てでSNSの使い方を説明しています。
- 0章:ぼくはSNS発信に人生を救われた
- 1章:SNS発信で「わらしべ長者」になる
- 2章:「アウトプット・ファースト」でいこう
- 3章:アウトプットを、したたかにズラす
- 4章:ビジネスパーソンは「逃げるが勝ち」
筆者の体験談に始まり、1章ではSNSが僕らにもたらしてくれる3つのメリットを説明。
SNS発信で意識するべきポイントを2章で整理し、3章ではその応用編として、アウトプットをコミュニケーションにつなげやすくするための考え方を提案。
そのうえで、SNSを使うにあたって避けては通れない「炎上」のリスクと対策を4章で説明し、読者へ向けたメッセージで1冊の締めくくりとしています。
ぼくは、一部の過激なインフルエンサー的な発言や行動をしなくても、「普通」の会話をSNSでしてみるだけで、多くの人にメリットがあると信じています。
(同著 P.219より)
そもそもが「『普通』の人」や「SNSに不慣れなビジネスパーソン」を対象読者としているため、SNSを使い慣れている人はあまり真新しさを感じられないかもしれません。ただ、その中でも「SNSをうまく仕事に活用できていない人」については、3章の内容がきっと参考になるはずです。
──というか、自分が意識していることとあまりにも共通点が多くて驚きました。
3章で紐解かれるのは、「プルのコミュニケーション」を生み出すコツ。自分から「読んで読んで」とアピールするのではなく、相手を引き寄せて「読んでもらう」ための考え方。自分のアウトプットを意中の相手の視界に入れ、読んでもらい、向こうからコミュニケーションをしたくなるように仕向けるテクニック。
その内容が、僕がライターとして依頼をもらうために実践していることと、驚くほどに一致していたんです。いやーびっくりした。読みながら「これ、知ってるー!」って叫ぶところだった。
以前に「実績ゼロ&営業ゼロで依頼をもらうには?」という、端から見れば怪しいnoteを書いたことがあるのですが、そこで当時の自分が説明している【積極的受け身】の考え方とかなり近い。なので、「僕と同じ考え方の人がいた~~~!!」と、思わず嬉しくなってしまった格好です。
そうなんすよ……! バズらなくたって、目立たなくたって、淡々と続けるだけで良いことがある。それがSNSであり、ブログなんすよ……! 「SNSの活用法」として僕が周囲に勧めたい方法そのものが書かれている3章は、あわせて掲載されている23人の事例も含めて、ぜひ多くの人に読んでほしい内容です。
そんなこんなで、本書の対象読者(組織で働くビジネスパーソン)ではないフリーランスの自分目線でも、思わぬところで「めっちゃ共感できるし、おすすめできる!」と感じた本書、『「普通」の人のためのSNSの教科書』。
古くからのネット民やブロガーには不要かとも思いますが、「これから何かを発信していきたい!」と考えている人にはおすすめ。あくまでも「組織で働いている人」、そして「実名での発信」を前提とした本ではありますが、自分のようにフリーランスかつハンドルネームでSNSを使っている人の参考にもなる “教科書” だと感じました。