壁越しのゆるーい関係性がてぇてぇラブコメ『おとなりボイスチャット』【PR】


『おとなりボイスチャット』要約サムネイル

 自分は思いのほか、人の「声」が好きらしい──。
 そう強く実感するようになったのは、ここ最近のこと。

 考えてみれば、昔から歌声については漠然とした好みがあったし、キャラクターを演じる声優さんの声も好きで聞いていた。けれど、歌でも演技でもない、人が発する素の「話し声」に惹かれるようになったのは、割と最近のことのように感じる。

 きっかけとなったのは、バーチャルYouTuberの存在。

 日常的にVTuberの配信を視聴するなかで、ある日ふと、彼ら彼女らの「声」に魅力を感じ、意識的に聴いている自分に気がついた。それも純粋な声色だけでなく、話す速度や口調や呼吸も含めた「声」を。配信内容のみならず、画面越しに聞こえる十人十色の「声」を聴いて、時に癒やされ、時に元気づけられるようになっていたのです。その結果、ASMRやら何やらの新世界を覗きこむことになってしまい誠にいろいろと捗り癒やされ助かるうふふ。

 さて、そうやって声フェチとしての道を歩み続けることになった──もとい、「声」がもたらす魅力を己の耳と体と心で存分に理解してしまった自分にとって、今回読んだ漫画はなかなかにクリティカルな作品でした。「『声』だけの関係性っていいよね……」と共感できる、ほっこり楽しい漫画。

 タイトルは、『おとなりボイスチャット』

 ぼっちの大学生が、顔の見えないお隣さんと、言葉を交わし、少しずつ関係を育んでいく物語。ゆったりと進行する正統派ラブコメでありながら、優しいキャラクターたちのやり取りにもほっこりさせられる。ちょっとした癒やし要素もある漫画です。完結済み。全4巻。

ぼっちの大学生を中心に綴られる、アットホーム型青春ラブコメ

 『おとなりボイスチャット』は、2014年から『COMICリュウ』にて連載されていたラブコメ漫画。作者のこじまなおなり@kojimanaonariさんは本作がデビュー作品とのことで、あれこれと試行錯誤しながら描いていたと後書きで触れていました。後にドラマ化もされたそうな*1

 本作の主人公は、大学1年生の田力くん。実家を離れて一人暮らしを始めるも、入学直後に交通事故に遭って入院。退院して大学に通い始めるも、その頃にはすでにグループができあがっており、ぼっちのキャンパスライフを送る羽目に。ぼっち……その単語はワシに効く……。

『おとなりボイスチャット』プロローグ

こじまなおなり著『おとなりボイスチャット』1巻 P.12より

 しかし一方で、そんなことも気にならないくらい、田力くんの生活は充実していた。それもこれも、アパートのお隣さん・大神さんの存在があるから。ひょんなことから薄い壁越しに会話をするようになったことで、徐々に大神さんに惹かれていく田力くん。なんとうらやまけしからん。

 そんな2人と、後に登場する大学の女友達や周囲の人間も関わりつつ展開する、アットホーム型青春ラブコメ。それがこの、『おとなりボイスチャット』です。

ヒロインの顔がまったく描かれない!?

 全体の話の流れを見るかぎりでは、「正統派ラブコメ」と言えそうな本作。極端にシリアスなシーンはなく、全体的にゆるーい雰囲気で展開する物語と、親交を深めていく登場人物同士のやり取りが魅力。そんな作品です。

 そしてラブコメと言えば、魅力的なヒロインの存在が不可欠。

 ツンデレな幼なじみ、素朴ながら可愛らしい小動物系後輩、高飛車な生徒会長、学校中の男子生徒の憧れであるマドンナ系先輩──などなど、いろいろな属性・性格を持ったキャラクターが考えられますよね。挙げた例がことごとくハーレムものの少年漫画っぽいのはスルーしてください。はい。

 ところがどっこい。本作におけるメインヒロインは、一風変わった属性を持っているのです。もちろん「お隣さん」として登場するヒロインは普通にいるし、それが「大家さん」であっても不思議じゃない。「ひきこもり」のヒロインも今や珍しくないし、キャラクターとしての属性には何も変な部分はありません。

 ──ただ一点、「顔がわからない」という部分を除けば。

 そう、本作のメインヒロインである大神さんは、「お隣さん」で「ひきこもり」であるという立場上、徹底してその素顔が描かれていないのだ!

『おとなりボイスチャット』田力くんと大神さん

こじまなおなり著『おとなりボイスチャット』1巻 P.16より

 序盤はもちろん、2人の関係が進展し過去が明らかになった中盤を過ぎても、その容姿が一切示されないという徹底ぶり。他の漫画では被り物をしたヒロインが登場するケースも稀にあるけれど、大神さんのミステリアス度はそれ以上。……だって、姿形すらわからないんだもの!

 序盤~中盤にかけての作中ではっきりと描かれたのは、大神さんの「手」だけ。具体的には、庭に面した窓の隙間から覗く手と、浴衣の袖口くらい。それ以外は、田力くんの妄想の中でしか姿が描かれることがないのです。しかも彼の妄想はそのときどきで容姿が変化するので、実際の姿は謎&謎なのだ。

「大神さん(壁)」がかわいい

 さて、ここまでの話を読んで、次のような疑問を持った人もいるのではないかしら。

 「声だけで惚れることなんてある?
 「感情表現とか、どうやって描いてるの?
 「屋内の会話劇って、変化がなくて退屈では?

 ひとつめの問いについては、「ある!」と断言できる。いや、正確には、自分の立場からは「そういうことがあってもおかしくないじゃない!」と言い切れる。

 なぜならば拙者、声フェチでござるがゆえに。

 文字だけのやり取りならばまだしも、「声」がもたらす情報量は舐めたらいかんぜよ。もしかしたら、ネトゲでそういう経験がある人もいるのでは?

 一方、「顔がわからないキャラクターを漫画でうまく表現できるの?」といった疑問については、実際に漫画のワンシーンを見てもらったほうが早いかと。たとえば、以下のシーン。田力くんが在宅中とは思わず、自室で鼻歌を歌っていた大神さん。鼻歌を聞かれて彼女が慌てふためく場面が、こちらです。

『おとなりボイスチャット』照れる壁

こじまなおなり著『おとなりボイスチャット』1巻 P.46より

 壁が……照れてる……(かわいい)。

 なかなかにシュールな絵面ではあるものの、しばらく読んでいると自然に感じられるようになるから、慣れってすごいよね……。

 本作においては、壁が、照れたり、焦ったり、落ちこんで縦線が入ったりする。さらには、壁に向かって集中線が描かれることも珍しくなく、そのたびに「大神さん(壁)」にキュンとさせられる過去に「壁になりたい」と思うことは多々あったけれど、まさか壁に萌えるとは……壁萌え……。

 このような壁越しのやり取りはおもしろく、2人の様子も微笑ましい。とは言え、さすがに屋内だけで物語が進むわけではありません。物語は大学の女友達を交えた三角関係に発展し、やがて大神さんの過去を知る人物も登場。キャラクター各々の思いが交錯するなか、徐々に変化していく2人の心境にも注目です。

 4巻完結でサクッと読めるので、スキマ時間にでも手に取って読んでみてくださいな!

 

©こじまなおなり

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