毎日が、忙しない。
生きるためには働かなければいけないし、人並みの生活を送るには家事や雑務をこなす必要がある。仕事の原稿には計画的に取り組まなくてはいけないし、一方では趣味のブログに書きたいことだっていっぱいある。読みたい本や見たいアニメを消化することも忘れちゃいけないし、ソシャゲにだって毎日欠かさずログインしなくてはならない。
──え? 後半は別に必須の活動じゃないし、むしろただの娯楽じゃないか、って?
なーにを仰いますか!
書かなければ自分が何を考えているかも整理できない程度の脳みそしか持ち合わせていない自分にとってブログやTwitterは不可欠だし、遊ばなくっちゃ「生」の実感を持てないんですよ僕らオタクは! コンテンツとはすなわち酸素! 呼吸をして体に取りこまなきゃ死んじゃうんです! すーはーすーはーくんかくんか! ……うーん! 今日も推しがかわいい!!
……いや、そりゃまあたしかに、ぐだぐだと続けてしまっているゲームもあるし、もっと優先順位を考えて生活しなくちゃいけないとも思いますが。特にここ最近は、ハマってしまったVTuberに良くも悪くもを時間を費やしている部分もあるので、我ながらどげんかせんといかんと考えております、はい。
そういえば、『岩田さん』にもそんなことが書かれていたっけ。
人は、とにかく手を動かしていたほうが安心するので、ボトルネックの部分を見つける前に、目の前のことに取り組んで汗をかいてしまいがちです。そうではなくて、いちばん問題になっていることはなにかとか、自分しかできないことはなにかということが、ちゃんとわかってから行動していくべきです。
(ほぼ日刊イトイ新聞著『岩田さん──岩田聡はこんなことを話していた。』P.49より)
「判断とは、情報を集めて分析して、優先度をつけることだ」
(ほぼ日刊イトイ新聞著『岩田さん──岩田聡はこんなことを話していた。』P.26より)
振り返ってみれば、フリーランスとして独立してからの自分は、いつもその場のノリと勢いで動いていた。
なんとなく目の前にある楽しそうなことに飛びついて、なんとなく自分の書きたいことを好き勝手に書き散らして、なんとなく話してみたい人から誘われるままに接してきて。優先順位なんて知ったこっちゃなく(ただし締め切りは厳守!)、判断らしい判断もすべてフィーリングで決めていた。
そうやって「なんとなく」を積み重ねてきた日々はそれなりに楽しく過ごせていたけれど、同時に、いろいろな問題を先送りにしてしまっていたようにも思う。ふわふわとした気持ちを持て余しながら──何度かアホみたいに辛いこともあったけれど──物事にピントを合わせないで接してきた感じ。
辛いことに立ち向かうためには、ある程度のふわふわ感も不可欠。とは言え、常に娯楽を消費して、ふわふわばかりしてもいられない。でもでも、向かうべき方向性を見失ってしまったとき、自分の立ち位置をニュートラルポジションに戻してくれるのも、この「娯楽」だと思うんですよね。
もちろん、一口に「娯楽」と言ってもさまざま。けれど、ふわふわ感を取り除いてくれるものは、実のところはっきりしている。
忙しなく日常を過ごすなかで、ふと読み返したくなる本や、聞き返したくなる音楽。それらは自分を奮い立たせるだけでなく、思考を整理する手助けもしてくれる。芯の通った個人の思想やコンセプトの明確な創作物にふれることが、ブレブレな己の立ち位置を考え直すきっかけになっているのです。
そう、そんな作品のうちのひとつであり、特にここ最近お世話になっているのが、この『岩田さん』という本。発売からまだ半年と経っていないものの、ふとした瞬間に手に取り、ぱらぱらとページをめくりたくなる1冊。電子書籍で買おうか悩んだけれど、こればっかりは紙の本を選んで正解だった。
自分はなぜ、数々のコンテンツの中でも、この本に強く惹かれるのだろう。理由はいくつか考えられるけれど、何と言っても、この1冊には多くの人の思いが込められているから。そして、読むことでその “思い” の強さを実感できるからだと思っています。
収録されている岩田聡さんの言葉のみならず、インタビューに答えている宮本茂さんと糸井重里さん、そして編集を担当した永田泰大さんたちも含めて、多くの人の強い思いがこの1冊に込められている。「岩田さん」という個人について語る言葉は各々に違っていても、その内容はどこか一貫していて、共通してあたたかな気持ちを感じられる。ただ単に「岩田さんの言葉から気づきを得られるから読む」のではなく、本書に携わっている人たちの思いにもふれたいから、繰り返し読んでいる──。そのように感じながら、何度も何度も手に取っている、手に取ってしまっている1冊。それがこの、『岩田さん』という本です。
──で、そんな『岩田さん』の前半部分が無料公開されていると聞いたら、そりゃあおすすめせずにはいられないわけですよ!
「気になってたけれど買うタイミングがなかった」という人にはもちろん、それまで知らなかった人にも、これを機に勧めたい。そう思ってなんとなく書き始めた結果、こんな文章ができたわけです。……また「なんとなく」ですね、はい。でも、この本を勧めることの優先順位が自分の中で高かったことは間違いありません。
2019年の新刊としては、「読む人を選ばない本である」という意味でも、大勢におすすめしたい1冊。まずは公開されている部分から、ぜひぜひ読んでみてくださいな。