VRを知らない人におすすめしたい最初の1冊『VRが変えるこれからの仕事図鑑』


『VRが変える これからの仕事図鑑』要約レビュー

 今、「VR」がむちゃくちゃアツいらしい──。テレビで、ネットで、口コミで、そんな話を聞いたことはありませんか? このブログでも口うるさいくらいに書いていますし! ね!

 メディアではVRに特化したアミューズメント施設が話題になり、都心のゲームセンターにはVRゲームが導入され、イベントや展示会でもVRを使った体験ができるようになった近頃。まだまだ身近とは言えないものの、VRを用いた技術やコンテンツは徐々に広まりつつある──それは間違いありません。

 しかし一方で、「VRがすごい」と言われても、いまいちピンとこない人も多いはず。「没入感の強い360度映像を見られる」とか、「体を動かしながらゲームを遊べる」とか、それがどのようなものなのかはわかる。でも正直なところ、VRの何が「すごい」と言われているのかはしっくりきていない。そんな人。

 僕も最初はそのような認識でした。

 いくら「映像がすごい」とか「おもしろい体験ができる」とか言われても、それは既存の動画やゲームの延長線上にあると思っていたんですよね。どれだけリアルに感じられたとしても、所詮は映像に過ぎない。それならYouTubeでも十分だし、わざわざお金を払って体験しなくてもいいかな、と。

 ところがどっこい。実際にVRに触れてみた結果、その評価は一転。VRのヘッドマウントディスプレイをかぶり、その世界に飛びこんで、見て、聞いて、遊んだものは、映像やゲームの表現力ではどうしても得ることのできない、まるっきり新しい「体験」だったのです。

 大多数の人は知っているものの、まだまだ身近ではない「VR」。そんなVRの魅力を紐解き、まったく知らない人にもわかりやすく説明してくれているのが、今回ご紹介する本『VRが変えるこれからの仕事図鑑』です。

 どちらかと言えば専門書が多いVRの関連書籍の中では、圧倒的に平易でわかりやすい印象を受けました。少しでもVRに興味がある人に最初の1冊としておすすめしたいのが、この本です。

身近な「仕事」の視点から、VRがもたらす変化を紐解く

 本書の大きな特徴は、タイトルにもあるように「仕事図鑑」を謳っていること。「サルでもわかるバーチャルリアリティ」「VR入門の教科書」といったふうに「VR」をメインに据えるのではなく、あえて「仕事」に焦点を当てたタイトルになっています。

 でも、それゆえにわかりやすい!

 どういうことかと言えば、本書では「VR」という技術それ自体の詳しい解説はそこそこに、VRがもたらす「変化」のほうに注目して取り上げているのです。今後、VRが普及すると、ビジネスではどのように活用されるのか。なくなる仕事や、逆に新しく登場する仕事はあるのかどうか。

 ──そして、私たちの生活はどう変わるのか。
 本書では、そのような切り口で「VR」を紐解いているのです。

 言い換えれば、未体験の人には実感するのが難しい「VR」の魅力ではなく、それによって変わる「リアルの生活」を伝えようとしている格好。知らない人にも「VRって、こういうことができるんだ!」とイメージしてもらえるように、身近な仕事や生活と絡めて説明しています。

 それは、パソコンを知らない人に「複雑な計算や資料の作成・管理に使えるよ!」と、インターネットを知らない人に「世界中の人とリアルタイムで話せるよ!」と伝えるようなもの。これまでも新しい技術やツールが登場するたびに、「それを使うと何が変わるか」を示すことでその普及を促進してきたように、VRがもたらす「変化」を中心に据えて取り上げているわけです。

すでに実践されている事例も多数!VRが変える「仕事」

 では、具体的にはどのような「仕事」がVRによって変わるのか。「これからはこうなるだろう」という想像もありますが、本書では、すでに実践されている事例も数多く取り上げています。

 たとえば、「VR」と聞いて真っ先に思い浮かべる人も多いだろう、エンタメ分野。

 昨年夏、わずか10分でチケットが完売した輝夜月ちゃんのVRライブはエポックメイキングな事例と言えるでしょうし、今やVTuberのライブは月に複数回の頻度で開催されています。また、VTuberに限らず、宇多田ヒカルさんのVRライブ映像、VRミュージカル『リトルプリンスVR』など、エンタメ分野では多彩なVRコンテンツが登場しています。

f輝夜月VRライブ

2ndライブはVRで!輝夜月LIVE感想と「仮想空間で推しと会う」体験 - ぐるりみち。

 他方で、さまざまな活用が考えられるのが、教育分野。

 最近は「スタディサプリ」のようなオンライン予備校も人気ですが、いずれはそのVR版が出てくるかもしれません。勉強に集中できる環境を仮想空間に再現したり、人気講師の授業をVR動画で繰り返し流したりすれば、より実際の “塾” に近い感覚で学ぶことが可能です。教室はVR空間にあるため、運営会社は駅前に教室を用意する必要がありません。

 さらに、戦国時代の合戦や中世ヨーロッパの街並みをVR上に作れば、世界各地の「歴史」をリアルに体験できます。歴史以外にも、たとえば危険な化学実験だって、VRでなら安全に再現することが可能。「VR入学式」を行ったN高等学校の例もありますし*1、教育分野ではいち早くVRの導入が進むかもしれませんね。

 VRならではの臨場感は、あらゆる分野のトレーニングにおいても一役買っています。

 アメリカのNFLではVRを用いたトレーニングがすでに一般化していますし、消防・警察・医療などでも活用が始まっています。特に、危険と隣り合わせの職業は訓練にもリスクが伴いますが、VRなら失敗しても大丈夫。災害現場で救助訓練を行ったり、特定部位の手術を反復練習したりすることも、リスクゼロで実現できます。

 それ以外にも、VR活用の切り口は多種多様。

  • 賃貸のバーチャル内覧
  • VRを用いた予習観光
  • VR企業研修(ウォルマート)*2
  • アパレル分野のVR試着
  • シチュエーション自由なVR結婚式
  • 心理療法やPTSDの治療
  • VRエクササイズ
  • 低コストで作れるVRドラマ(『四月一日さん家の』)*3

 本書ではこのように、すでに実践されている事例も含め、VRが仕事や生活にもたらす変化を数多く掲載しています。その活用方法は多岐にわたるため、「こういう使い方はできないかな?」「自分の仕事だったらこう使えそう!」などと、考えるきっかけや参考になるのではないでしょうか。

読者を魅力的なVRの世界へと誘う“教科書”的な本

 以上のように、「VRが変える仕事や生活」について幅広く説明している本書。ですが身体感覚の伴う「体験」としての要素が強いVRは、結局のところ「実際にふれてみないとわからない」という問題も抱えており、筆者はその問題についても言及しています。

 私が一番危惧しているのは、文化の課題です。VRを身に着ける習慣は、まだ一般の人に根づいてはいません。習慣化されない理由は、そもそもVR機材を持っていない、買ったけれどコンテンツが少なくて飽きてしまった、ソーシャルVRにログインしても知人が少なくてプレーできない、など、さまざま挙げられるかと思います。

 この文化の課題を突破しないことには、VRの未来は開かれません。新しい技術ですので、機材が普及する、コンテンツが充実する、といったところまでは、それなりに時間がかかると思います。

(赤津慧・鳴海拓志著『VRが変えるこれからの仕事図鑑』P.217より)

 必要なのは、「実際にふれてもらう」こと。そしてそのためには、少しでもVRに興味を持ち、「試してみようかな」と思ってもらわなければなりません。その点、技術面の説明は最小限に、専門用語も少ない平易な文章で書かれた本書は、読者を魅力的なVRの世界へと誘う “教科書” 的な立ち位置にあると言えます。

 ちなみに、類書としてはGOROmanさんの『ミライのつくり方2020-2045』が挙げられるでしょうか。未来の展望とVRへの期待を「世界」の単位で熱量高く語っているそちらに対して、『VRが変えるこれからの仕事図鑑』は、2019年現在のVR事情を身近な「生活」の目線で説明している印象を受けました。

 どちらもおすすめの本ですので、よかったら書店で手に取って読んでみてください。

 

余談

こちら、講演レポートを書かせていただきました! VRアニメがくるぞおおおおお!

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