SHOWROOM社長の『人生の勝算』を読んで自己分析の大切さを思い出す


 “ワケ” あって、SHOWROOMにどっぷりと浸かる生活を送っていた昨年末。

 以前に東雲めぐ*1ちゃんや輝夜月*2ちゃんといったVTuberの放送を見るために利用したことはあったものの、日常を乗っ取られるレベルで張り付くことになるとは思わなんで……。あそこまで生活を投げ打って動画サイトを見ていたのは、ニコニコ動画の黎明期以来だったんじゃないかしら。

 とは言え、それもイベント期間中だけの話。現在は「気が向いたら好きな配信者さんの放送を見る」程度に落ち着き、ほどほどに利用している格好です。冷静になって見ても、視聴者側にもアバターがあるライブストリーミングは新鮮。配信者さんとの距離も近く感じられるから、ふらっと覗きに行っちゃうのよねー。

 そんなSHOWROOMについて、これまた “ワケ” あっていろいろと思うことがあり、新年一発目に読んだのが本書。SHOWROOM創業者・前田裕二@UGMDさんの著書『人生の勝算』です。

 前田さんと言えば、今をときめく若手起業家。陰キャの自分はなんとなく苦手意識を感じていたのですが……いざ読みはじめてみたら、そんな印象は吹き飛んでおりました。紛うことなき努力の人であり、肩書きに関係なく尊敬できる人。SHOWROOMというサービスに対する見方が変わるほど、熱量にあふれた1冊です。

 

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SHOWROOMに至るまでの物語

 本書で語られているのは、主に以下の3つのトピック。

 第一に、前田さん自身の半生と哲学の話。子供の頃から培ってきたビジネス思考と、「お金を稼ぐ」ことの原体験。外資系投資銀行に就職してからは国内外で成功を収め、帰国してDeNAに入社。そのうえで起業し現在に至るまでの流れを、彼自身の価値観と哲学の話を交えながらまとめています。

 第二に、エンターテイメント&コミュニティ論。多彩なサービスとコンテンツが生まれ続けている今、人々を魅了する「エンタメ」とはどのようなものなのか。モノ消費からヒト消費へ、コンテンツ消費からストーリー消費へ。表現者と消費者の関係性も含め、最新のエンタメ事情を整理していきます。

 第三に、SHOWROOMについて。銀行に就職し、先輩に恵まれ、ニューヨークへの転勤もあり、充実した仕事生活を送っていながら、なぜ「ライブストリーミングサービス」で起業するに至ったのか。SHOWROOMに込められた思いと展望について、熱量たっぷりに語っています。

 

 『人生の勝算』は以上のような話題を中心に展開していくわけですが……。もしかしたら、普段からさまざまなビジネス書を読みこんでいる人、かつ前田さんという個人にさほど関心がない人には、本書はあまりおすすめできないかもしれません。

 なぜなら、雑にまとめてしまえば本書は「成功者」である筆者の体験談であり、現在までの流れを追った自伝に過ぎないから。つまるところは一個人の自分語りでしかなく、そこに普遍性はありません。過去に大勢のビジネス観に触れてきた人ほど、「どこかで聞いた話」と感じられても不思議ではないように思います。

 とは言え、路上ライブに端を発する「お金の稼ぎ方」の話はおもしろく読めましたし、すでに年単位でライブストリーミングサービスを運営している当事者によるコミュニティ論も興味深い。僕自身、ぶっちゃけ前田さん個人のことはまったく知らなかったのですが……本書を読んで「実際に講演などで話を聴いてみたい!」と思えるほどには、惹かれる部分がありました。つまらなく感じるかどうかは人それぞれかと。

 それどころか、興味がなかったはずの筆者自身の話が、一番おもしろく読めたまであります。

 と言うのも、後半でまとめられているSHOWROOMの話が、目立った出来事と事実を並べるだけにとどめているようにも読めたので。どちらかと言えばそこに至るまでのエピソードに尺を割いており、前田さんの根本思想と試行錯誤の過程を追うのが本筋という印象です。でも、それがむちゃくちゃおもしろかったんですよね……!

 

就活に挑む大学生にもおすすめ

 「濃い常連客」を作ることの重要性、「コミュニティ運営は村作り」という指摘、「前向きな課金」をユーザーに促すモデルの構築──などなど、サービス運営に携わる人の参考になりそうな話も多い本書。

 他方で、この本の主題は “人生の勝算” の見つけ方にあります。先ほど挙げた3つのトピックではなく、筆者が読者に向けて真に伝えたいのは、人生の幸福度を高めるための考え方。それが「絆の大切さ」「努力の大切さ」、そして「『コンパス』を持つことの大切さ」です。

 正直に言うと、過去のうんざりするような就活の経験もあり、自分には「『絆』や『努力』を掲げる経営者は信用したくない」という偏見があります。ただ、本書で示されていたこれらの言葉については、しっかりと最後まで読み終えたうえで考えてみると、充分な説得力があると感じました。

 なぜなら、前田さんの話もそうですが──何よりも自分自身がSHOWROOMというサービスを実際に使ってみて、「絆」と「努力」の重要性を実感してしまっていたので。

 SHOWROOMに浸かっていた数週間で、まさにこの「絆」と「努力」によってコミュニティが形作られていく様子を目にしてしまったんですよね……。表現者がそれぞれに試行錯誤を重ねながら放送を行い、視聴者とつながり、やがて視聴者同士でも絆が生まれ、価値観を共有した集団が形成されていく──その過程を。

 つまり、本文の指摘そのままに、自分自身もコミュニティを構成する一員となっていたわけです。自分が “当事者” になってしまえば、その重要性は否定しようがありません。

 そしてもう一点、「人生のコンパスを持つ」ことの大切さは、就職活動生にこそ伝えたいとも感じました。言い換えれば「己の理解なくして豊かな人生なし」という自己分析の重要性を説いたものではあるのですが、僕自身、この指摘にはある程度の普遍性があると考えています。

 ただ内定を取るためだけに就活を “攻略” しようとするのであれば、自己分析は不要です。でも当然ながら、その “攻略” で入社した先が最適解とは限らない。それに就活を抜きにしても、将来的に「自分のことをどれだけ理解しているか」が重要になってくるような場面とは、必ずどこかで遭遇します。

 なればこそ、本書は就活生にこそおすすめ。また同時に、社会人生活に慣れつつある20代前半くらいの人にも勧められそうだと感じました。一言でまとめるなら、周囲の大きな流れに翻弄され、自分を見失いそうになったときに、改めて “指針” を考え直すきっかけをくれる本。軸が揺らぎそうなときに読み返したい1冊です。

最も不幸なことは、価値観という自分の船の指針、コンパスを持っていないということ。そして、持たぬが故に、隣の芝生が青く見えてしまうことです。

(前田裕二著『人生の勝算』Kindle版 位置No.1,220より)

 

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