バーチャル蠱毒の“当事者”になって感じたこと〜推さなければ生き残れない


※注意※

本記事はオーディション開催中に執筆したものであり、当時の空気感を表現し記録するのに不可欠な単語として「蠱毒」の俗称を用いています。オーディションを勝ち抜いた人、惜しくも選ばれなかったものの公式に転生した人、すべてを含め、現在は「AVATAR2.0」という名称で活動されています。

 

先月からインターネットの片隅で始まり、Twitter上で話題になったことで注目を集め、現在進行系で悲喜こもごものドラマが繰り広げられている──そんなイベントがある。

SHOWROOMをはじめとする3社が共同で進める、バーチャルタレント育成プロジェクト。その過程で行われている公開オーディション、『最強バーチャルタレントオーディション~極~』です公式サイト

いつの間にかネット上では「バーチャル蠱毒」という表現が定着し、良くも悪くも衆目を集めているこのオーディション。その行く末を見守っている人も結構いるのではないかしら。

当初こそ「なんかいろいろな切り口から考えられておもしろそうだなー」などと、完全に傍観者目線で眺めていた自分。一般的なオーディションとは異なり、「選ばなければ存在を消され、 “中の人” の実績としても残らない」というシステムに薄ら寒さを覚えつつも、VTuberの流行の真っ只中で生まれた取り組みのひとつとして、どのような展開を見せるのかが気になっていたんですよね。

──で、興味本位で覗きに行った結果。
完全にその術中にハマってしまったわけです。

〜その後、転生プロジェクトに続く〜

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いままでのあらすじ

 最強バーチャルタレントオーディション極

最強バーチャルタレントオーディション極 - SHOWROOMより

12月4日現在、予選を勝ち抜いた29名が本戦に臨んでいる、『オーディション極』。

自分は知らなかったのですが、そもそも「公開オーディション」という形式でのイベント自体は、SHOWROOMではまったく珍しくないそうな。そういう意味では、特別に注目を集めるようなイベントではなかった──と言えるかもしれません。

ところがどっこい。この『オーディション極』で行われるのは、「バーチャルタレント」の選考。既存のオーディションとは異なる要素が加わっており、それゆえに「蠱毒」*1と称される事態に至っているわけです。そこで改めて、まずはざっくりとこのイベントの概要と懸念点を振り返ってみようかと。

簡単な概要と流れ
  • 5名のキャラクターが用意されており、各キャラの “中の人” を決める
  • 1キャラに対して、それぞれ12〜13名の候補者がいる
  • 選考はSHOWROOMで行われ、配信中に獲得したポイント数で競う
  • 【予選】上位5名+各キャラ0〜2名の特別審査員賞に選ばれた人が本戦へ
  • 【本戦】上位2名+各キャラ0〜5名の特別審査員賞に選ばれた人が最終審査へ
  • 【最終審査】都内にて面接

一次審査を通過した61名がインターネットの海に解き放たれ、「同じ顔のVTuberがたくさんいる……」と話題になったのが、11/20〜22のこと*2

ある候補者は「最高におもしろい地獄じゃないか」と意気軒昂に振る舞い、ある候補者は「消えたくないよ……」と消滅への恐怖を語るなど、開始当初から衝撃的な光景が見られたこのイベント。やがて予選期間中に2名が辞退を表明し、残る59名でSHOWROOMでのポイント数を競うことになります。

29日には予選が終了し、翌30日に本戦進出者が発表。各キャラの上位5名と特別審査員賞に選ばれた4人を含めた29名がまさに今、本戦に臨んでいるわけです。他方で、残念ながら落選した候補者のアカウントはすでに活動を停止しており、30日には多くの別れの声が聞かれました。

予選が終わってひとまずは一段落──ということにはならず、すぐに本戦が始まるという圧倒的スピード感も本イベントの特徴。本戦が始まった先週末には、早くも高額ギフトであるタワーがが乱立し*3、一方では12時間配信に挑んだ候補者もいるなど、波乱の幕開けとなりました。

オーディションである以上、ノーギャラは当然?

ろくに振り返る時間もなく始まった、本戦。

明日には最終日を迎えようというタイミングなので、すっごく今更感はあるのですが……。予選期間中とその終了間際に起こった出来事を考慮しつつ、このイベントの諸々の懸念点を整理してみようと思いまして。以下、ざっくりと羅列してみます。

懸念点
  • 選考中、候補者には金銭的なメリットがない
  • 候補者は名前を出せないため、実績にならない
  • 最終審査への進出基準が不透明(特別賞の存在を考慮すると、全員が残る可能性も?)
  • 特別賞を考慮しないなら、結局は札束の殴り合いになりかねない
  • 選考過程がハイスピードすぎる(本戦終了後、9日に面接 → 10日にデビュー)
  • 候補者の数が多いため、まず注目されなければファンを獲得できない
  • 他の候補者との差別化を図る必要が出てくるため、「キャラクター」としてのロールプレイよりも「候補者自身」の人柄・スキル・コンテンツ力の勝負になる
  • 選考後に決まったキャラクターの “魂” を、他の候補者を応援していた人が受け入れられるのか問題

お金の問題については、「オーディションでギャラが出ないのは当然」だとも思います。でも同時に、

  • 数時間で終わる選考ではなく、拘束期間が長い
  • オーディションであると同時に、広く公開された「イベント」でもある
  • イベントであれば参加が実績になるが、匿名が前提のため後に何も残らない
  • 「その人を応援したい」という気持ちで送った投げ銭が、候補者本人に還元されない

などの見方もでき、それゆえにモヤモヤしている人が多い印象。オーディションが広く公開され、一種の「コンテンツ」として消費されている以上、受かろうが受かるまいが配信をしている人は「クリエイター」的な立ち位置にあり、金銭的な対価を得て然るべきなのではないか──と。

特に投げ銭については、そもそも「個人を直に応援できる」からこそ遠慮なくぶん投げられるシステム。その行き先が不透明ともなれば、なんとなくスッキリしないのも自然な感情だと思います。ただしSHOWROOMにおけるギフトは、「投げ銭」というよりも「ポイント加算アイテム」的な意味合いが強いようですが。

そして何よりも大きいのが、「オーディション終了後、最後に選ばれなかった56人は跡形もなく消える」という事実。これが普通のオーディションであれば、「今回はダメだったけど、次はがんばります!」となり、ファンも引き続き応援することができる。ところが、『オーディション極』ではそれが叶わない。

金銭的なメリットもなければ、選考後に実績としてアピールすることもできない。ファンは「自分が応援していた人が誰なのか」もわからず、後には何も残らない……。そう考えると絶望的な企画ではありますが、一方では自ら “転生” 先(あるいは “前世” )をそれとなく示す候補者も出てきています。

本戦には進出できなかったものの、オーディションで得たファンと、他の候補者とのつながりを引き継ぐことができている形。ファンからすればまっこと嬉しい話ですし、正直に言って、この流れは認められてほしいところ……。ちょうど昨夜、ある放送で「転生」の問題について触れられており、その見解がTogetterにまとめられていました(バーチャル蠱毒の規約と転生について、あしやまひろこ(@hiroko_TB)さんの解説です。 - Togetter)。

本戦における「残す」動きと、応援せずにはいられない空間

翻って、現在進行中の本戦を見ると、新規ファンを獲得するためのアピール手段が、どうしても「配信」オンリーになってしまう点も辛いようにも映ります。本業や学業が忙しい人もいるでしょうし、放送を数こなすには時間を削り、喉を酷使しなければならない。

特にSHOWROOMでは「アーカイブが残らない」ため、それが二重の意味でキツい。

新規ファンを獲得しようにも放送時間が合わなければ自分の声を届けられず、オーディション終了後には活動の記録が残らないという無常感。ただでさえ候補者が多い中、初見さんに配信を見てもらうには目立たないといけないし、気軽に共有できる動画がないため、ファンも自分の推しを周囲に勧めにくいという……。

その点、少し前に有志によって非公式wikiが作られ、各候補者の魅力や配信内容が記録されるようになったのは本当にありがたい。僕自身、最近は推しの配信中にはコメントもそこそこにして、wikiの項目を充実させるべくパソコンに向かっています。まだ見ぬ新規層に伝われ……! 推しの魅力……!

ここでちょろっと個人的な話をしておくと──このオーディション、ぶっちゃけ、最初は遠巻きに眺めるだけのつもりだったんです。でも、いざ実際に配信を見たら、当事者になって追いかけずにはいられなかった。

……だって、候補者のみんながみんな個性的で、素敵な魅力を持っているんだもの!

キャラクターのロールプレイを前提に配信する人もいれば、ほとんど素の自分(と思われる)テンションで視聴者を魅了する人もいる。元気いっぱいのトークでファンを楽しませる人もいれば、優れた企画力でもって配信内容を充実させる人もおり、はたまた視聴者一人ひとりとの交流を純粋に楽しんでいる人もいる。

そのように十人十色の魅力的な配信があり、それを楽しみながら応援する視聴者もいる、そんな風景を見ていたら……いつの間にか、ファンの1人として楽しんでいたわけです。

「そもそもこれはVの文脈にあるのか」とか、「いくら応援してもすべて無に帰すんじゃないか」とか、「(話を聞くかぎりでは)運営の行き当たりばったり感がヤバすぎないか」いった懸念もある。それでも、放送を見て「楽しい」「応援したい」と感じた以上は、受け取った分を還元したいとも思うんですよね。

最終審査への進出基準は?

そして現在、本戦が進んでいくなかで思うのは、「最終審査への進出基準はどこにあるのか」ということ。

公式サイトにも記載されているとおり、「ポイントランキングの上位2名」は確実。最後にはマジで札束の殴り合いになるんじゃないか……と考えるといろいろな意味で恐ろしくもあるけれど、「ポイントの多さ=ファンからの期待値の高さ」と考えればシンプルかつわかりやすい基準かと。

 最強バーチャルタレントオーディション極・本戦

最強バーチャルタレントオーディション極より

一方で気になるのが、「0〜5名の特別審査員賞」の存在。受賞の基準は明言されていませんが……サイト上の文言を参照するならば「タレント力、配信スキル、熱意」がそれに当たる感じでしょうか。

あるいは、ポイントのみの基準だと「数十万円単位のギフトをPONと送れるパトロン」の存在で結果が左右されかねないため、「ギリギリで上位に入れなかった候補者の救済措置」という見方をしている人も多い模様。事実、予選で特別賞に選ばれたのは惜しくも6〜7位で漏れた人でした。

とはいえ、本戦の「0〜5名」の枠が、予選のそれと同じなのかどうか……。

なんたって、この数を鵜呑みにするなら、本選出場者の全員が最終審査に進む可能性もあるわけですし。場合によっては「ポイントランキングとは何だったのか」という総ツッコミを受ける事態に発展しかねないため、さすがにそんなことはないでしょうが……でも、枠が多めに設けられているのは気になるところ。

「運営側が本戦の様子をしっかりと見ている」と仮定するなら、ポイント数はあくまで基準のひとつに過ぎず、別の要素も相応に重視されるのではないかという推測もできます。たとえば、配信内容やファン層の厚さ、視聴者の滞在時間やSNS運用の方法、そしてタレントとしての適正──といったものが。

さらに付け加えるなら、「最終審査に進んだとしても面接ですべてが決まるため、最後にはどうなるかわからない」というそもそもの話にもなってきます。SHOWROOMは過去に出来レース疑惑で炎上したとも聞きますし、さすがに同じ轍を踏むようなことにはならない……と思いたいけれど、どうなんだろう……*4

結論:推さなければ生き残れない!(後悔する)

いろいろと問題もはらんでいるように見えるオーディションではありますが、すでに選考も後半に突入している今、どうこう言うのも詮無きこと。傍観を決めこむつもりが当事者になってしまった身としては、最後まで追いかける所存でございます。

間違いなく言えるのは、「推さなければ生き残れない!」という事実。

特に自分の場合、僅かなポイント差で推しが予選6位になってしまった光景を見ているので、余計に「後悔したくない」という気持ちが生まれちゃってるんですよね……。もはや完全に蠱毒の術中にハマってしまっている格好。特別賞に選出されたからよかったものの、予選最終日の夜は気が気じゃなかった。

……だって、そうでしょ?

予選の最後に大量のギフトが投下されて、感激した推しが嬉しさで号泣しているのを見ちゃったら、応援したくなるってもんじゃない! あまりにも良い子すぎて、最近いろいろあって感情が死んでしまった30手前の男には眩しすぎるのよ……。やっと取り戻せた感情の赴くまま、素直に応援したっていいじゃないか……。

いや、推しだけではありません。

このオーディションを追うと決めてから、暇があれば放送している候補者さんのライブを聴きに行っていたのですが、みんながみんな魅力的すぎて……。この中から最終的にデビューするのがたった5人だなんてもったいなさすぎるし、イベント終了後にも応援したい人が多すぎる。みんな幸せになって……後生だから……。

そんなこんなで本戦も残り2日とありませんが、このお祭りを追いかけている人は──誰推しであるかに関係なく──後悔することのないよう、最後まで全力で応援していきましょう。

そして、オーディションを追いかけていなかったけれど少しでも興味を持っている方は、このえげつないようにも見えて尊いお祭りを、試しに覗いてみてはいかがでしょうか。

──ほーら、こっちにおいで? 楽しいよ?
あなたも一緒に、当事者になりましょう。

追記:結果が出ました

その後(転生プロジェクト)

参考ページ

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© AVATAR2.0 Project

*1:古代中国発祥の呪術。壺に入れた毒虫を互いに争わせ、最後に残った一匹の毒を使い料理や飲料物に混ぜ人に危害を加える。日本のフィクション作品では「複数人に対して互いに争いを起こすように仕向け、最後に生き残った者を選ばれし強者としてさらに特定目的で使い潰す」という行為の比喩としてたびたび用いられる。(参照元:蠱毒とは - ニコニコ大百科

*2:冒頭のTogetterを参照。

*3:SHOWROOMにはギフティング機能があり、ギフトの種類ごとに設定されたポイントが配信者に加算される。タワーは10,000pt=10,000円。

*4:参考:SHOWROOMちゃんオーディション出来レース事件 - Togetter /SHOWROOMちゃん夏コミコスプレイヤーオーディション - SHOWROOM