2時間で読める文化人類学の入門書!『はみだしの人類学 ともに生きる方法』感想

『はみだしの人類学 ともに生きる方法』を読んだ。――前々から気にはなっていたのです。本やPodcastで見聞きする機会の増えていた、「文化人類学」なる分野の存在は。

民俗学は大学でちょっとだけ齧ったことがあったものの、文化人類学はほぼノータッチ。でも最近、Podcast『a scope』の文化人類学回*1で「なるほどおもしれえ〜!」などと興奮したり、同じくPodcast『コクヨ野外学習センター』*2をつまみ聞きしたり、ほかにも関連する話題をネット上で目にしていたりと、ここ1〜2年は特に興味をひかれていた分野だったんですよね。

そんな折、Twitterでおすすめしていただいたのが本書だったわけでございます。

NHK出版の「学びのきほん」シリーズから出ている本ということで、読みやすさと理解のしやすさは折り紙つき。「文化人類学なんもわからん」という自分でも楽しく読むことができ、さらに最後には「このブログとも通じる話じゃん!」と共通点を(勝手に)見出すなど、まっこと興味深い1冊でございました。

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メタバースの説明はこれ1冊でOK?伏線回収もアツい『メタバース さよならアトムの時代』

 『メタバース さよならアトムの時代』をじっくりと時間をかけて読み終えて、こう思った。

──「メタバース、なんもわからん」という人に1冊だけおすすめするなら、この本だけでもだいたいカバーできてしまうのでは……?

 いや、もちろん、まだ他の本を読めていないので断言はできない。

 けれど、まだまだとっちらかっている印象を受ける「メタバース」の定義とその周縁の説明に関しては、自分の知るどの本や記事よりも整理されているように読めた。XR業界、クリプト業界、SNS業界など、論じる人がどの業界に属するかによってポジショントークになりがちな「メタバース」の説明。それを本書では中立的な目線に徹しつつ、全体を俯瞰して紐解いてくれている。

 かと思えば、筆者自身の思想がバチバチに盛りこまれた、「そういうおもしろい話が聞きたかったんだよ!」とワクワクさせられる話題もあってたまらない。知的好奇心をツンツンされたい読者の需要も満たしてくれるため、そんな目的で本を読みあさっている人にもおすすめできる。

 表紙の「メタバース」の文字の横にちょこんと添えられた、「さよならアトムの時代」のサブタイトル。この言葉が指し示すものを理解した瞬間、なぜこれほどに「メタバース」が騒がれているかがわかるはず。まるで物語の伏線回収のような気持ちよさがあり、読後感もすばらしい。そんな本書の感想を、ざっくりとまとめていこうと思う。

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『メタバース進化論』を読んだ結果、物理現実の価値観についてあれこれ考えることになった

 「メタバースってなんぞ?」と、まだいまいちピンときていない人に、まず最初におすすめしたい。そんな本が、ようやく出た。

 その名も、『メタバース進化論』

 本書は、仮想空間で長年にわたって生活し、大勢と交流しながら創作と研究に取り組んできた筆者による、「メタバース」の概説書である。数あるメタバース関連書籍の中でも、本書以上に「ユーザー」の目線に立って書かれたものは他にない。そう断言してしまってもいいくらいの1冊だ。

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「推し活」は消費じゃなくて表現?『推しエコノミー』がおもしろい

「推し」の存在は、人生を豊かにしてくれる。

アイドル、俳優、アーティスト、YouTuber、VTuber、アニメ、マンガ、映画、小説、食品、絵画、歴史人物。「推す」対象はなんでもOKだ。他人に強く薦めたいほどの熱意をいだき、夢中になって何かを「推す」行為は、その人の日常を彩り豊かにしてくれる。

もともとはアイドルや俳優を指して使われていた「推し」という言葉が、幅広い対象に向けて使われている昨今。この現状は、「推す」という表現の普遍性を物語っているようにも思われる。もちろん流行り言葉の一種ではあるし、「応援する」「特に好きな対象」と言い換えることもできるだろう。

とはいえ、「応援」あるいは「好き」の言葉だけでは表現しきれないほどの熱と感情が、「推し」の一言には間違いなく内包されている。それでいて、2000年代によく見かけた「萌え」や「俺の嫁」といった表現ともまた違う、独特な感覚が「推し」には含まれているようにも思われる。

これはいったい、なんだろう。

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