「"新海誠 集大成にして最高傑作"って本当でござるか〜?」と観に行った『すずめの戸締まり』がマジで集大成じみていて最高だった(ネタバレなし)


 新海誠監督の作品が好きです。

 2016年の『君の名は。』は、すごくよかった。

 コミカルな要素や耳になじむRADWIMPSの音楽が加わり、大衆向けのエンタメ映画として大ヒットしたのは言わずもがな。個人的にも爽快かつ痺れる作品で、一言でまとめるなら「エモい」映画だった。

 2019年の『天気の子』も、めちゃくちゃよかった。

 前作の魅力を形作っていた諸々の要素を引き継ぎつつ、それでいて過去の新海作品の雰囲気を感じられる展開と結末。往年のファンが後方で腕組みをしながら大きく頷いていた横で、自分もまた「ありがてえ……!」と手を合わせて涙していた。

 そして迎えた、2022年。

 「どうせ初日に観に行くんだし」と考えて、なるべく事前情報はチェックせずに映画館へと向かうことにした自分。予告編くらいは見ておこうと確認し、ついでに公式Twitterも覗いてみたら……次のようなツイートが目に入った。

 “集大成にして最高傑作”

 このフレーズが目に入った瞬間、「さすがに言い過ぎでは?」と正直思った。業界的に煽り文句が過剰になるのは仕方ないにしても、そこまで言っちゃって大丈夫なんだろうか。ただでさえ「『君の名は。』と『天気の子』が大ヒットした新海誠監督!!!」として何も言わなくてもハードルが爆上がりしているのに、そんなに煽ってだいじょうぶ……?

 

 ――結論から書きます。

 

 集大成でした。

 

『星を追う子ども』以降の新海誠映画の集大成

 珍しく太字BIGで書きたくなるくらいには「たしかに集大成でしたわ……」という気持ちで劇場を後にした、新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』

 ただ、たしかに「集大成」ではあるのだけれど、往年のファンからすれば違和感もあるかもしれない。自分としても、やっぱり『秒速5cm』への思い入れが強すぎるので。そこでふと思ったのが、これは「『星を追う子ども』以降の新海映画の集大成」と表現すればしっくりくるんじゃないか、と。

 圧倒的な映像美によって描かれる日常の世界。複数のキャラクターが織りなす物語。情緒的で淡々としたモノローグ。そのような要素が色濃かった『言の葉の庭』以前までの作品群ではなく、『星を追う子ども』以降の新海映画に盛り込まれていった、諸々の要素の集大成。

 明るくコミカルなキャラクター。ポップで耳慣れた音楽。民俗学的な要素が垣間見える世界観。少年少女が立ち向かう世界の謎。天変地異や異形の怪物。世界を変える選択。2011年の『星を追う子ども』以降の作品内に取り入れられ、時に挑戦的に、試行錯誤を重ねつつ、実際の映画に実装されてきたいくつもの要素が噛み合い、整理され、今回の『すずめの戸締まり』で結実した――。そのように感じられた。

 あとで書くけれど、『すずめの戸締まり』のストーリーはぶっちゃけ重いし、しんどい。テーマからしてそうだし、過去の作品とは比にならないくらいメッセージ性も強い。でも、それでもエンドロール後は明るい気持ちで劇場を出て、「すごく良い映画だったなあ」と今こうして振り返れているのは、間違いなくこれまでの作品の積み重ねがあったからだと思う。

 というのも、日常パートが「ロードムービー」として純粋に楽しいんすよ!

 呪いによって椅子に姿を変えられたイケメンと、快活系ポニテ女子高生の2人(?)が、日本列島を駆けるロードムービー。九州をスタートして、2人で東へと向かうドタバタ旅行。途中で出会う人たちがこれまた魅力的で、あったかくて、見ていて本当に楽しい。

 そうそう、キャラクターに関して言えば、メインの2人がかわいいのもポイント。

 主人公・鈴芽の魅力は言うまでもございませんが、彼女と旅を共にする青年・草太がすごくいい。長髪! 長身! イケメン! 泣きぼくろ! などという「は〜〜〜〜〜!?(好き)」と叫ばずにはいられないビジュアルを持つ好青年が、しかし作中ではほとんどずっと「椅子」の姿でコミカルに駆け回っている。まず登場時とのギャップがたまらんし、ちょくちょくポンコツの味も出してくるから、「は〜〜〜〜〜!?(LOVE)」ってなりますよそりゃあ。

 しかもしかも、このメインの2人を演じるのは、いずれも声優初挑戦の俳優さん。1人は1,700人を超えるオーディションから大抜擢された元子役の女優さんで、もう1人は……なんとびっくり。ジャニーズ事務所所属の現役アイドルさんなのだそう。

 まったく何も知らずに「この2人に声を当てている声優さん、めっちゃ良い演技するな……」と惚れ惚れしながら見ていたので、さっきパンフレットを広げて「マ!?!?」ってなった。草太役の松村北斗さん、声色からして自分好みすぎてマジ好きっす。立川シネマシティの数千万円するつよつよスピーカーで聴くイケボ、たまらん。

現代日本の現実と、拭いきれない痛みを、エンタメの力で昇華する

 「集大成」という表現については、入場者プレゼントの『新海誠本』に書かれていた指摘も個人的にはしっくりきた。監督インタビューのインタビュアーさんが話していたことなのですが……おそらくこれはネタバレにならないはずなので、一部引用させていただきます。

――『君の名は。』も『天気の子』も災害を扱っていて、『君の名は。』では災いを食い止めようとして、『天気の子』では災いを受け入れてしまうことになる。一方で企画書にもあるように、『すずめの戸締まり』は災いが日常に貼りついた週末後の世界である、と。

(入場者プレゼント『新海誠本』P.10より)

 たしかに〜〜〜!?

 直近の3作品は一貫して「災い」を描いており、その向き合い方もさまざま。エンタメ映画として正面から立ち向かった『君の名は。』から、それを日常のものとして受け入れていった『天気の子』。そして今回、『すずめの戸締まり』では過去から地続きのものとして描かれていて、ある意味では時代背景を反映した作品になっている――と捉えることもできるのかもしれない。

 そのうえで、「災い」との向き合い方としても、本作の展開と結末は「集大成」的であるように感じた。そもそも、公開前の時点で以下のような注意喚起が出るくらいだったので。

 緊急地震速報の音といえば、テレビでも普段から慎重に扱われている。聞くことで過去の記憶が呼び起こされる人もいるかもしれないため、ニュースで流す際にはアナウンサーから事前に注意がある。なので、「似た音を使う以上は当然の注意喚起なのかな」くらいに思っていた。

 実際、映画本編ではたびたび地震が発生し、そのたびに警報音が鳴り響く。ただ、それ以上に衝撃的なのは、「地震描写」のほうだった。固有名詞こそ出さないものの、作中では想像以上にはっきりと「あの日」を描いている。あの時あの瞬間を直接的には描写していないものの、演出によって生々しく表現しているのだ。

 当時は埼玉県に住んでいて直接的な被害にあったわけではない自分ですら、観ていてしんどくなる場面があったくらい。辛い経験をされた方は、こちらの公式ツイートを文字どおりの「注意喚起」として受け止めつつ、劇場に観に行くか決めたほうが良いように思います。

 しかし同時に、現実と地続きにある「災い」と本気で向き合いつつ、本作においては不可欠な要素として「映画」の表現に落とし込んでいるように感じられたのも事実。テーマとしては重すぎるし、観ていてしんどいのも確か。でも、だからこそ現実のことのように感情移入してしまった部分もあったし、最終的には前向きになれる「映画作品」として気持ちよく映画館を後にすることができた。

 そう、しんどくてつらい、心が痛む部分もあるのだけれど、やっぱり「エンタメ映画」なんですよね。それは決して不幸を娯楽として消費しようとするものではなく、現実の痛みや苦しい体験を「コンテンツ」の文脈にのせて、何か別のものへと昇華してくれるような体験。特に「2021年末くらいに思いついた」*1という関連シーンは、しんどいのだけれどあったかくて、切ないのだけれど心に響いて……個人的には、「映画」の枠を超えた「体験」として、記憶に強く刻まれるシーンになりました。

 新海映画としてはずば抜けてメッセージ性が強い一方で、でも説教臭くはないし、「現実」を軽々しく扱っているわけでもない。2020年代の今だからこそ、『君の名は。』と『天気の子』を経たからこそ描くことのできる、そしてそれを観る僕らにも刺さる、「明日」への願いが込められたエンタメ作品だと思います。

 それと、最後にもう一点。新海作品と言えば「物語の結末」や「ラストシーン」を取り上げて語られることも多いですが……本作はどうだったかと言うと。個人的には、これ以上ないほどに納得感の強い、最高にしっくりくる終わり方でございました。

 あまり書きすぎるとネタバレになりそうなのだけれど、最後の一言があまりにも美しすぎた。「映画のラストシーン」としても美しいし、「本作の物語を踏まえての結末」として考えても、最高の締めくくり。そして何と言っても、2022年を今を生きて「この映画を観ている僕ら」の視点から見ても、あの一言は大きな意味を持ちすぎている。

 明日を生きるための活力を分けてもらえる、2022年の今この瞬間にこそ味わってほしい、エンタメ作品。本当に“最高傑作”であるかどうか……と言われると、僕の中の面倒なオタク心が山崎まさよしの歌声を響かせながら抵抗し始めるのですが、“集大成”の一言には大きく頷きたいところ。往年のファンも、『君の名は。』『天気の子』でハマった人も、(前述の理由もあり万人には勧められませんが)ぜひ映画館で味わってみてください。

 

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*1:『新海誠本』P.13より