お昼すぎ、急に降り出した雨。
こいつはやべぇと慌ててベランダに出て、洗濯物を取り込む僕。雨は嫌いじゃないけれど、さすがにこうも続くと嫌になる──。仕事を中断しやがった雨に内心で舌打ちしていたら、ベランダの下から笑い声が聞こえてきた。
あはははは! 雨だーーーーー!
ほんとだーーー! ぬれた〜〜?
うん! ぬれちゃった!
あたしもー! ほら、傘だよ!!
わーい! ありがとーーーー!!
眼下を見やれば、ピンク色の傘を掲げて歩く、2人の女の子。そんなに振り回すような傘を持ったら濡れるだろうに、気に留めることなく駆け回る。ふらふらと。ゆらゆらと。踊るように。
ただでさえ最近は曇りや雨続きだったのに、それでもなお「雨」を楽しめる無邪気さ。天気が変わる、ただそれだけの出来事を喜び、全力で楽しんでいる子供たちの姿に、なんだか元気をもらえた気がした。
そんな、7月18日。
夜になっても降り止まない雨に誘われるように、やってきました、新宿・歌舞伎町。奇しくも近年稀に見る日照不足が続く現実の東京で、雨が降り続く仮想の東京を舞台にした映画『天気の子』の世界最速上映を観てきました。
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「新宿」という聖地で『天気の子』を観る
というわけで、ついに公開となりました!
新海誠監督の長編映画最新作『天気の子』。
もう10年以上は新海さんの作品を追いかけているファンとしては、待ちに待った最新作でございます。前作『君の名は。』のメガヒットは寝耳に水だったものの、それはそれで楽しめたので、今回も期待に胸を膨らませておりました。
来たぞおおお!
— けいろー🖋バーチャルライター (@K16writer) 2019年7月18日
天気の子、世界最速上映!
10年来の新海作品ファンとして、全力で楽しむ気満々じゃけん!! pic.twitter.com/9cP1e96Tt5
しかも今回は、まさかの世界最速上映! ダメ元で申し込んでみたらまさかの当選。これはもう観終わったら速攻で感想をまとめるしかあるめえと、明け方の新宿の喫茶店でパソコンに向かっている最中でございます。
普段はベッドでぐーすかぴーしている時間なのに、まだ映画の余韻が残っているせいか、お目々はぱっちりで眠くなる気配もない。まだ舞える。朝までにこの熱を言語化するべしと、感情に導かれるまま手の動くままにキーボードをばちこーん! と叩いている次第。楽しい。
こんなにも興奮しているのは、もしかしたらこの「新宿」という街の影響もあるかもしれない。新宿と言えば、『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』などの過去作でもたびたび登場してきた新海作品ではおなじみの土地。今回の『天気の子』でもまた、ピンポイントで描かれていたので。
『天気の子』で描かれる「新宿」は、これまでは遠景や俯瞰する形で描かれていたビル群ではなく、人々が集まる「街」としての歌舞伎町。──というか上映会場となったTOHOシネマズ新宿も映ってたし、そこへ向かう道中がまるっと作中に登場していたから、「こんなんズルいやろー」と思いながら観てた。
いや、ズルいなんてどころじゃない。主人公とヒロインの2人が最初に出会う、新宿の某マクドナルド。その店内が映し出された瞬間、思わず吹きそうになった。……だってそこ、つい30分前に僕がコーヒーを飲んでたところなんだもの! どうやら長年にわたってファンをやってると、聖地巡礼を先取りする能力を身につけられるらしい。やったぜ。
現実に思いを馳せずにはいられない、「世界の形を変えてしまう」物語
「あの光の中に、行ってみたかった」
(映画『天気の子』公式サイトより)
高1の夏。離島から家出し、東京にやってきた帆高。
しかし生活はすぐに困窮し、孤独な日々の果てにようやく見つけた仕事は、
怪しげなオカルト雑誌のライター業だった。
彼のこれからを示唆するかのように、連日降り続ける雨。
そんな中、雑踏ひしめく都会の片隅で、帆高は一人の少女に出会う。
ある事情を抱え、弟とふたりで明るくたくましく暮らすその少女・陽菜。
彼女には、不思議な能力があった。
あらすじやPVからもわかるように、ちょっとしたSF要素のある本作。主人公とヒロインを中心に、その周囲の家族や大人も巻き込みつつ、最後には「世界の形を変えてしまう」物語が紡がれます(※PVのモノローグより)。
雑に括るなら、「ボーイミーツガールのセカイ系」と言えなくもなさそう。物語の中盤くらいまでは『君の名は。』的な明るさとコミカルさが漂っている一方で、作品テーマが強く現れてくる終盤の展開は、セカイ系のそれ。全体で見ると『君の名は。』っぽいものの、いざ終わってみるとそうでもない。
同じ新海さんの作品でたとえるなら……これは、むしろアレです。紛れもなく『雲のむこう、約束の場所』の雰囲気です。『天気の子』の場合は現代日本が舞台だし、空気感としては明るく楽しいエンタメ映画として仕上がってはいるのだけれど……そこかしこに『雲のむこう〜』を感じるというか。
詳しくはネタバレになるので控えますが、新海さん自身もインタビューやパンフレットで話しているように、結末は賛否が分かれるかもしれない。
具体的には、「変えてしまった世界」の姿や、終盤のある登場人物の立ちふるまいといった部分で。実際、自分も見ていて「えええええ!?」と感じましたし。特に後者は、映画を観ている時点ではまったく理解できなかったので。
ただ、少し時間が経って冷静になって振り返ってみると、理解できないように感じたそれが「わかる」ようにもなっていたんですよね。その人物の背景を考慮すると行動が自然であるように感じられたし、それどころか共感すら覚えるようになっていた。2回目は、その点を注意して観てみたいところ。
そしてもうひとつ、主人公とヒロインの2人が「変えてしまった世界」の姿。こちらはぜひ、劇場の大スクリーンで目の当たりにしていただきたい……!
新海作品ではおなじみの緻密さと美麗さでもって描かれる “世界” の姿。現実味にあふれているのに、非現実的。非現実的であるのに、それが自然であるかのように感じられる。「現実」と「虚構」と「自然」とが綯い交ぜになったその “世界” は、自分たちが暮らす街についても思いを馳せずにはいられない、大きなインパクトをもたらしてくれるものでした。
魅力的なキャラクターと、作品を彩るRADWIMPSの楽曲
──なーんて書くと大衆受けしなさそうな気もしてきますが、そんな小難しく考える必要はなく、『天気の子』は普通にエンタメ映画としても楽しめるんじゃないかしら。
なんたって、登場人物がみーんな素敵! 「男女2人の関係性を中心に物語が展開する」という点はこれまでの作品と同様ですが、2人を取り巻く登場人物が個性豊かで、しかも各々のキャラが立っていて魅力的なんですよね。どのキャラに感情移入するかも、観る人によって結構分かれてくるんじゃないかしら。
一人ひとりの背景と立ち位置が作中で描かれているので共感しやすいし、ただの舞台装置ではなく「生きている」ように映る。特に小栗旬さん演じる須賀の “立ちっぷり” がすごい。『天気の子』を観て泣く人の何割かは、彼に共感して泣くんじゃないだろうか。小栗旬さんの演技がね……またたまらんのですよ……。
そして忘れちゃいけない、RADWIMPSが手がける楽曲の数々。サウンドトラックをまだ開封していないので、具体的な曲名を挙げてどうこう言うことはできませんが……ボーカル曲のインパクトはさっすが!
劇伴としても何度もリフレインされる主題歌『愛にできることはまだあるかい』のメロディは言わずもがな、物語の象徴的な場面で聴こえてくるピアノ曲が耳に心地よい。場面場面の “天気” をなぞるように、地面を叩きつける雨音や街中に差し込む陽光の描写に合わせて響き渡る音色が、まっこと素敵でした。
特に終盤のあるシーンで流れるボーカル曲は、その声が耳に入ってきた途端、思わず「ふぉぉぉおおお……」と変な声が息と一緒に漏れそうになったほど。テンションの上がる曲でなく、感動的なバラードでもなく、重厚な「音」の奔流に押し流されるような感覚を覚えました。あのシーンは、極上音響上映で聴くとすごいんじゃなかろうか……! 行かなきゃ……!
切実で、ささやかな、「願い」の物語
──とまあ、これ以上書くと長くなりそうなので、とりあえずはこのあたりで。
前作が大ヒットしたこともあり、どうしても『君の名は。』と比べられることになるのだろうし、ここでも比較してしまったのだけれど……。どちらのほうが優れているというものでもないだろうし、つまるところは個人の好みの問題になるのかなーと。
『君の名は。』と『天気の子』。似ているようで方向性が違うように自分の目には映ったけれど、同時に、作中のキャラクターたちが抱いた思いはどちらも本質的には同じなのかもしれない。というのも、そこには、大人も子供も関係なく、どうしようもないほどに切実な「願い」があるのではないかと。
「神様、お願いです。これ以上僕たちに何も足さず、僕たちから何も引かないでください」
ともすれば変化を否定しているようにも聞こえるこの言葉は、叶えようがないとわかっていながらも願わずにはいられない──きっと多くの人が抱いたことのある──ささやかな希望の欠片。
最後はすっきりエンディングを迎えつつ、それでも席を立ってしばらくすると、あれやこれやと思いを馳せずにはいられない。『天気の子』は、きっとそんな作品です。
『君の名は。』ではあまり強く感じられなかった “それ” を噛み締めつつ、早くも「いつ2回目を観に行こうかなー」と考えている自分がいる。そして、『言の葉の庭』の鑑賞後とは違った意味で、また雨が好きになった自分も。
朝を迎えても、なお降り止まない雨。
新宿の曇り空を見上げつつ、今は笑っている自分がいた。
© 2019「天気の子」製作委員会