思い返してみると、新海誠さんの作品を追いかけるようになってから、とうに10年以上が経っていたらしい。 昔からその映像美と世界観が大好きだったと同時に、それ以外の面でも、自分に並々ならぬ影響を与えてきたようにも思う。
「映像がすごい」という衝撃から、アニメーションの作画や作り手の存在を気にするようになった。PVやオープニングの構成と作りに惹きこまれ、販促ムービーもひとつの作品として見るようになった。美しい劇中の背景をその目で見たくて、聖地巡礼に趣き、旅が好きになった。
自分は新海さんの作品のどこに魅力を感じ、今まで追いかけてきたのだろう。
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「映像」に対する関心から、「個人製作」と知ったときの驚きへ
新海誠(@shinkaimakoto)さんと言えば、「やたらと背景映像が美麗なアニメ監督」として認識している人も多いのではないかしら(公式プロフィール)。
桜舞い散る『秒速5センチメートル』のワンシーンに、都会のビルを濡らす『言の葉の庭』の雨の描写──。本編を見たことがない人に聞いてみても、「あ、見たことあるかも」と話す人は少なくない。あと最近は、Z会のCM*1も担当していましたね。すぐに「瀬戸内海だ!」とわかって嬉しくなった。
僕がそんな新海さんの作品を知ったのは、確か2004年だったと思う。少し記憶が曖昧だけど、新海さんの監督作品3作目『雲のむこう、約束の場所』の公開前、その予告映像がどこかの個人ニュースサイトで紹介されていて、それを見たのがきっかけだった。
鮮やかな夕景と、抜けるような青空と、耳に残るバイオリンの音色と──あと、一見しただけではよくわからない世界観。わずか2分足らずのその映像に、妙に惹きこまれ、気づけば何周も見返していた思い出。ジブリ作品の「きれい」とはまた別の、不思議な美しさの虜になった。
こんなにも素敵な映像を作る人は、他にどのような作品を世に送り出しているのだろう──。そうして初めてフルで見たのが、2002年公開の『ほしのこえ』であり、およそ3年遅れの新海作品デビューとなった。ダメ元であちこちのBOOK OFFを探してみたらね、あったんですよ。DVDが。びっくり。
それが「ほぼ1人で作った個人製作アニメーションである」ことは、関連作品を調べるなかで知ってはいたものの……それでも驚きまっせ。なんたって、音楽と一部の声を除いた、監督・脚本・演出・作画・美術・編集をすべて1人で担当するという、2002年の「全部俺」的な作品。しゅごい。
その後はネットであれこれと検索し、当時ハマっていたゲーム『イース』シリーズ*2の過去作品の映像を担当していたことを知って驚いたり、美少女ゲームブランド*3のオープニング映像でもとんでもないクオリティを発揮しているのを見て、リピート再生するようになったり。
ef - the first tale. demo movie - YouTube
特に衝撃を受けたのが、2006年の『ef - the first tale.』(minori)のPV。きれいなだけでなく……動きおる*4! 動画をiPodにぶっ込み、それこそ何百回も見返したんじゃないかというレベルで惚れた。同ブランドの過去作品のOPも同時に視聴。『はるのあしおと』の傘を開くシーン、いいよね*5。
他方ではこの主題歌も気に入り、その作曲者である天門*6さんの楽曲も追いかけるようになった。『ほしのこえ』でも劇伴を担当していたために気になってはいたものの、はっきりと意識したのはここから。後に放送されるアニメ版『ef』にもハマり、4枚のサントラは今でもお気に入りです。
「彼女と彼女の猫」 - YouTube/忘れちゃいけない、処女作。現在、 target="_blank"TVシリーズが放映中。
こうして思い返してみると、新海さんの作品と出会ったことで、アニメーションを作っている「中の人」を強く意識するようになった気もする。劇伴担当の天門さんもそうだし、声優さんの名前を覚えるようになったのも、この頃から。
「個人製作」というインパクトもあったのかもしれないけれど、実際にそれを作っているクリエイターさんの顔が、なんとなく感じられるようになった。その一因としては、購入した『ほしのこえ』のDVDに、用語解説も含めた「絵コンテ」が収録されていた点も大きかったのではないかしら。
そんな感じで「クリエイター」の存在を意識しつつも、当時はまだ「映画」というよりも、「短くて半端ないアニメ映像」として、新海さんの作品を楽しんでいた自分。それがしばらく後に一転、物語のメッセージ性や、美麗な映像中で感じられる息遣いのようなものに惹かれるようになる。
映画『秒速5センチメートル』の封切りです。
転勤族の心臓を狙い穿つ映画/メディアミックス、聖地巡礼もいいぞ
「秒速5センチメートル」予告編 HD版 (5 Centimeters per Second) - YouTube
2007年公開の『秒速5センチメートル』は、3つの短編で構成された連作映画。転勤族の親を持つ主人公を中心に、容易には抗えない「距離」と、過ぎ行く「時間」の切なさを、恋愛に絡めて描き出した作品──で、間違ってないかしら。
本作の評価としてよく耳にするのが、「遠距離恋愛」をテーマにした物語であり、あるいは「男女の恋愛観の違い」の描写が印象的だった、という感想。いわゆる「男は名前をつけて保存、女は上書き保存」的なアレ。だいたい合ってる、とは思う。山崎まさよしさんの主題歌*7も話題になりましたね。
封筒っぽくておしゃれなパンフレット。初めて1人で渋谷に行き、映画館を探した思い出。
けれど自分の場合、これほどまでにガツンと心を震わされ、映画も小説も10回以上は読み返し、果ては聖地巡礼に行くくらいまでに好きになってしまった理由は、ほぼ一言で言い表せてしまうのです。畢竟、「転勤族だから」。ゆえに主人公にこの上ないほど共感し、悶絶し、死に至る。
のちに監督自ら執筆した小説版が発売され、これまた好みな文体に惚れ、2度目の死を迎える。コミカライズではラストに「救い」のある描写、オリジナル展開が加筆され、転勤族は3度死ぬ。そして最後に行き着いた先は、栃木県下都賀郡岩舟町*8。──日帰りの、「聖地巡礼」でござる。
元データは残ってなかったものの、mixiから比較写真をサルベージ。
劇中第1話『桜花抄』の舞台を実際に訪れたのは、公開からちょうど2年後の、2009年2月。大学生最初の春休み某日、「北関東で雪が降るらしい」との予報を聞き、映画本編を入れたPSPと小説版をリュックに詰め込んで、ノリで大宮へ。宇都宮線に飛び乗り、北上したのでありました。
主人公が走った道をなぞりつつ、岩舟駅を下車したものの、雪は降らず。結局は聖地巡礼ついでに、岩船山を登り、とちぎ花センターを散策し、普通に日帰り旅っぽいことをしていたのでした。──そういえば、ふらっと目的なき「ぶらり旅」をしたのも、これが初めてだった*9。
要するに、『秒速5センチメートル』でもって自分は、確固たる「新海作品ファン」になり、ついでに、旅の楽しさをも知ることになったのです。『ほしのこえ』から漠然と感じていた作中の魅力、物理的・精神的な「距離」について考えるようになり、深みにハマっていった流れ。
『秒速』を見ている人はおそらく結構いると思われるので、今更感もありますが……小説版もいいぞ。映画では知ることの叶わなかった、明里の手紙の全文を読んで悶えるがいいさー! ふーははは……はぁ……もっかい読も……。というか時期が時期だし、まさよしを聴きながら小田急線へ向かおう。
『星を追う子ども』『言の葉の庭』──そして2016年夏
2011年に公開された『星を追う子ども』は、少年少女の冒険譚として普通に楽しめた一方、やっぱり少し物足りなかったことも否めません。ジブリ作品へのオマージュがあまり強く感じられたせいなのか、周囲の話を聞いても賛否両論だった覚えもありますし。
『言の葉の庭』 予告篇 "The Garden of Words" Trailer - YouTube
その点、2013年発表の『言の葉の庭』は、『秒速』と本作とで人気が二分されるくらいには “大成功” だったという印象。「音楽が天門さんじゃないのかー」と当初の自分はしょんぼりしていたものの、実際にスクリーンで見たら、「これだよ……」と恍惚の表情を浮かべていた模様*10。
その興奮はすさまじく、週末に映画を鑑賞した翌週の水曜日には、雨が降ったと見るやいなや、千葉のド田舎から新宿御苑まで巡礼に行くほどの勢い。いやー、有給でラッキーだったでよー。「会社員」としての作中人物への共感がマッハだった。サボりたい。
お昼前の新宿御苑に行ってみると……いるわいるわ。例の東屋には、「金麦」の代わりなのかキリンの「米茶」を片手にチョコをもぐもぐしてるお姉さんがいるし*11、周囲にはカメラ片手にうろうろしてるお兄さんも多いし……。自分も含め、入り込み過ぎ&影響され過ぎなのでは?(楽しい)
そして本作もまた、ぜひ小説版と一緒におすすめしたいのです。あくまで「映像の文章化」あるいは「原作」として書かれているようにも感じた『秒速』とは異なり、小説版『言の葉の庭』は、映画の世界観を大きく拡張した「別作品」としても読めるほど。
具体的には、映画でメインだった2人に加えて、その周囲の身近な4人も含めた「群像劇」の構成を採用している格好。物語終盤にビンタされるだけだった女子生徒目線の物語も展開され、作中の人間関係と出来事のほとんどに納得できる、「完全版」と言っても過言ではないかもしれない*12。
これら新海作品の特徴としては、『言の葉』にも『秒速』にも共通することとして、ラストが曖昧ゆえに「モヤモヤが残る」という感想を持つ人が少なくない点が挙げられる。登場人物全員にとっての大団円とはならず、だいたいは「別れ」でエンディングを迎えるため、否定はできませぬ。
この “モヤモヤ” に対する処方箋としては、小説版をはじめとするメディアミックスで補完するのも一手。作品によっては、先にも書いたような「別視点」と「新規エピソード」が収録されているものもあり、映画のあとに読めば、「なるほど」と納得できる読み物が多いように思います。
けれど一方で、自分にとっては、映画版のエンディングも悪くない。というかむしろ、「それが良い」と断言できるほどでもあります。ひとつの区切りを示す「別れ」で終わり、決して幸せになったとは言えなくとも、前を向いて新たなスタートを切る意欲の感じられる結末。……好き。
物語としては本当はハッピーエンドでもいいし、そこからまた物語を広げていってもいいのかもしれないけれど、自分がやるんだったらと考えて、ああいう形にしました。映画には明確な結論が必要かもしれないですが、人生には明確な結論なんてない。なるべく現実の今の社会を生きている人たちに対して誠実にものを作りたかったんです。ただその中で、確かに偶然の再会という奇跡はあり得ると思うんですよ。その程度には世界は美しく幸せなものであると。そこは自分としても描きたい部分でした。
(『秒速5センチメートル』パンフレットより)
監督ご自身は、このように考えておられる様子。現実に即した(でも “リアル” とは違う美しさもある)風景をアニメーションで表現するからこそ、その中で紡がれる物語には、創作物としての「ご都合主義」と「リアリティ」との絶妙なバランスが重要になってくるのかな、と自分は感じました。
──そんなこんなで、新海誠監督の作品と、自分にとっての思い出を、至極好き勝手に書き連ねてみました。いやー、今年もまた岩舟へ行きそびれたのと、夏には新作の公開が待っているということで、たまっていたものを吐き出してみた感じ。めくるめく新海ワールドへ、今年もいざ。
2時間でも足りない!『新海誠展「ほしのこえ」から「君の名は。」まで』の4つの見どころ
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*1:Z会 「クロスロード」 120秒Ver. - YouTube
*2:1987年から続く、日本ファルコムのARPGシリーズ。大学卒業後に同社に勤めていた新海さんが『イースⅡエターナル』のオープニングムービーを制作(参考:新海誠 - Wikipedia)。
*4:「七尾奈留さんのイラストがそのまま動いてるうううう!?」的な驚きもあった気がする。
*5:minoriブランドの各作品のムービーは、公式サイトからDLできるよ!
*7:One more time, One more chance - Wikipedia
*8:当時。2014年、栃木市に編入合併された。
*10:本筋とは関係ないけど、同時上映の『だれかのまなざし』で泣いた。ズルいっしょ、アレ。
*11:新宿御苑は酒類の持込禁止です。
*12:逆に映画が完成されすぎているがために、「蛇足」と感じる人もいるでしょうし、その辺は好みかと。