「ゲーム」への愛とリスペクトが詰め込まれたエンタメ映画
映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を観てきた。
海外での興行収入がとんでもないことになっているらしい本作。「ゲームの映画化」と聞くと身構えずにはいられないものの、何と言っても任天堂と宮本茂さんががっつり関わっているお墨付きである。一足先に観ていた妹氏も「よかったぞー」と話していたし、Twitterでも興奮の声が散見されていたので、安心して映画館に突入。子供の頃にテーマパークに行くような期待感で……いや、大好きなゲームの最新作を買うためにファミコンショップへと走るようなドキドキワクワクを胸に秘め、立川シネマシティに行ってきた。安定と信頼の極上音響上映でございます。
結論から言えば、すごくよかった。最高だった。期待以上だった。小学校低学年の頃にはすでに触れていた「マリオ」の音楽を、映画館の大音響で味わえる。それだけでもう感動モノだったのに、画面の隅から隅までマリオ愛とゲーム愛に満ち溢れていて、なんだか感極まらずにはいられなかったのです。「所詮はゲーム」と軽んじる気配なぞ欠片たりともなく、空間の細部まで「ゲーム」に対する愛とリスペクトが感じられてもう「好き!!!」としか思えなかった。
現実世界のブルックリンのシーンの時点で、ちらほらと垣間見える「マリオのゲーム」の気配。おなじみのメロディが聞こえてきた地下のシーンで、「Level 1-2」と書かれた看板があってニヤニヤするなど、見覚えのあるデザインやモチーフが盛りだくさん。――とはいえ、自分はそこまでマリオに詳しいわけじゃないので、きっと小ネタの1割も気づけていないんじゃないかと思うけれど。横スクロール的なカメラワークでマリオ&ルイージの兄弟が街中を駆けていくシーンは、「マリオの映画」ならではの表現っぽくもあり、見ているだけでもめちゃくちゃ楽しい。
工具バッグを肩にかけてあたふたと走る弟のために、常に先回りして扉を開けてくれる兄ことマリオ。映画序盤で結構な時間をかけて描かれる「ブラザーズ」の関係性が、最高に尊くて最高でした。だいじょうぶ? 関係性オタク、息してる? 残機足りてる?
スーパー異世界マリオ転生ブラザーズ(※転生ではない)
「マリオ」という世界的にも有名すぎるゲームとキャラクターを、いかにして「映画」の表現に落とし込むのか。当初はまったく検討もついていなかったのだけれど、蓋を開けてみれば、「これしかねえ!」と思えるくらいに自然で、魅力的で、王道のストーリーとして完成されていて、文句のつけようがないほどに楽しめている自分がいた。
現実世界のブルックリンから、不思議な土管を通って、異世界へワープする兄弟。
兄は自己肯定感マシマシキノコの集う王国へ転移し、コミュ力の塊のようなCV.関智一キノコと出会う。そう、もう何年ぶりになるかも覚えていないくらい久しぶりに映画を吹替版で見たのですが、関・キノピオ・智一のはまり役っぷりっすよ。こいつ、本気で戦えば結構な戦力になるのでは? 次回作での活躍に期待。
一方、弟はウラインターネット……じゃなかった、見るからにいかにもな治安ワルワル・ダークランドに落とされ、カロンの群れに襲われてぴえん&ぱおん。ルイージとカロンの追いかけっこシーンはアクションとしてもよかったし、「カロン」という敵キャラの特徴がわかりやすく恐ろしく表現されていて、初めてゲームで出会ったときの記憶がうっすら蘇ってくるほどだった。そうだった……あの骨カメ……苦手だったなぁ……。
土管の先の世界を訪れてからの展開は、少しでも「マリオ」という作品を知っている人なら、もう常時ニッコニコのスーパーエンタメエンジョイタイムだったんじゃないかしら。
なかでも印象的だったのが、ピーチ姫とマリオのトレーニングシーン。本家ゲームのステージである「アスレチック」が、文字通りの「アスレチック」として登場しているので、遊んだことのある人なら「あるある〜〜〜!!」となる要素しかなかったんじゃないかと。ファイアバーの手前でタイミングを見計らって何度も行き来するの、めちゃくちゃやってましたわ〜〜〜!!
そういったアスレチックコース自体のあるあるもだけど、それ以上に見ていて「ウワーーーッ!!!」となったのが、クリア後の2人のやり取り。「何度もトライアンドエラーを繰り返して、ようやくクリアできた」という体験もそうだし、そこで「自分の場合はこうだった」と話すピーチとのやり取りもそう。この一連の会話それ自体が僕らの「ゲーム体験」とそのまま重なるやり取りであるように感じたし、それこそ世界中のゲーム画面の前で繰り広げられてきた光景なんじゃないかと思えて、なんだか感慨深い気持ちになった。
それと、ドンキーコングをはじめとするDKファミリーがなにげにたくさん登場していたのと、スポットの当たるシーンが多かった点もすごくよかった。
何と言っても、マリオ&ドンキーのバディ感がたまらん……! 最初はマリオの前に立ちはだかり、拳を交えたことでお互いにある程度は認め合うようになり、やがて共にピンチを切り抜けて、信頼し合える「タッグ」になっていく感じ。2人の横スクロール風アクションシーンが最高すぎたので、次回作があったらあの手の表現をもっとやってくださいお願いします。マリオがシンプルにキノコでパワーアップする一方で、ドンキーにファイアフラワーを取得させる展開、ナイス采配&ナイス解釈すぎません?? そういうのもっとくれやがれください!!
あ、「解釈」といえば、「トゲゾーこうら」のアレはめちゃくちゃ笑ったしアツかった。「ちょっと優秀なノコノコ戦士」的な立ち位置の敵キャラかと思いきや、まさかトゲゾーになるとは思わないじゃん……!
たしかにマリオカートにおいては外せない存在だし、それまでのカーチェイスでもアイテム使用やミニターボの演出はあったけれど、一連のシーンの決め手として登場するとは思ってもいなかった。それでいて、マリカーを遊んだことのある人ならおなじみの、そしていつだって苦しめられてきた象徴的なアイテムの1つとして、これ以上にないほどのキメの一手だったように思う。「トゲゾーになるんかーい!?」で笑いつつ、でも同時にアツいシーンでもあった。
行って、帰ってきて、世界を救う物語
そして言わずもがな、最後のブルックリンでの決戦シーンは外せない。
作中で「スター」の存在が出てきた時点で、なんとなく「最後はスターを取って無双するのかな」という予感はあったものの、それが期待通りに――ただしアクション面では期待以上のクオリティで――スクリーン上で展開されたのを見たら、興奮せずにはいられないじゃん?
ってかまず、この「勝利確定BGM」感がすごすぎる。最初のワンフレーズで「あ、勝ったわ」ってなるやつ。土壇場で勇気を振り絞って飛び込んできたルイージと、ついに兄弟2人でクッパに立ち向かう激アツ展開、からのこれだもん。勝ったわ。ところで、ラストの兄弟パンチと兄弟キックで、「瞬間、心、重ねて」が思い浮かんだオタクは僕だけじゃないと思うんですが、いかがでしょうか。
改めて全体を通して振り返ってみると、良くも悪くも「展開が想像できた」「ストーリーがシンプルすぎる」という側面はたしかにあったとは思う。実際、その点が映画評論家のあいだでは批判ポイントになっているらしいし。とはいえ、「マリオ」という作品に深みを与え過ぎたら、それはもはや別作品になっちゃう気もするのだけれど。
ただ、個人的にはそのシンプルさというか、「素直さ」がすごくよかったなと。めちゃくちゃ素直にエンタメしてたし、そうやって変化球を狙わないことで「マリオらしさ」が担保されていたようにも思う。おそらくその結果がこの記録的な興行収入なのだろうし、自分が行った映画館も本当に老若男女が観に来ていて、エンドロール後はみんな笑顔だったから。
あとは、作品としては王道の「行って、帰ってくる」という物語構造でありつつ、同時にそれが「次元」を超える行き来になっていたのが、自分にとってのお気に入りポイント。
ブルックリン(現実世界)から、キノコ王国(ゲーム世界)へ。しかし異世界での冒険を経て、最後はゲーム世界が現実世界に侵食してくる。そうしてマリオは、弟だけのためではなく、自分たちの世界を守るために立ち上がるヒーローになる。それすなわち、「スーパーマリオ」。そして「スーパーマリオブラザーズ」として、2人でクッパに立ち向かっていく――。
ありがちと言えばありがちな展開なのかもしれないけれど、個人的には大好物なんです、これ。それもただ単に「行って、帰ってくる」だけじゃなく、「行って、帰ってきて、自分たちの世界を守るために戦う」という、ここまでの流れがあるとなお良し。映画館でこの大好物展開が繰り広げられ、「Superstar」が流れるのを聞きながら、「『シャンバラを征く者』で観たやつだ……!」とちょっと思っていたのはここだけの話。エモエモのエモだ……。
そんなこんなで以上、映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の取り留めのない感想でした。最後にひとつだけ付け加えると、三宅健太さんが歌う吹替版「Peaches」の配信が楽しみでなりません。あからさまにギャグなんだけど、普通にメロディが良くてけしからん……!
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