「全部読まなくていい」けれど、おもしろいから800ページ読めちゃった!『独学大全』はいいぞ


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学び続けることは、うまく学ぶことよりもずっと難しく、また遥かに重要である。

(読書猿 著『独学大全』P.55より)

 前々からたびたび読み返してお世話になっていた、『アイデア大全』

 その著者である読書猿@kurubushi_rmさんの新刊『独学大全』が、この秋に発売されました。迷わずAmazonで購入し、届いた箱をワクワクしながら開けてみたところ……想像以上の分厚さに絶句。

 ……辞書じゃん!!!

 ページ数にして、788ページ。巻末の索引まで含めれば、800ページを超える極厚本でございます。

 手元にあった辞書(『字統』)と比べればまだ薄いものの、それでもこのボリューム感は紛れもなく辞書レベル。しかも必要に応じて項目を探す辞書とは異なり、こちらはれっきとした「読み物」である。ふぇぇ……こんなの読み切れる自信がないよぉ……。

 ――ところがどっこい、読めちゃった!

 そう、この極厚鈍器が届いてから、約1ヶ月。スキマ時間に読み進めていった結果、問題なく読めてしまったのです。少しずつだったので時間はかかったものの、1ページたりとも読み飛ばすことなく、最後まで。これだけ長いと途中でダレてもおかしくないところですが、そんなこともありませんでした。

 言い換えれば、それだけ「 “読み物” としてもおもしろかった」ということ。これは間違いなく断言できる。次へ次へと読み進めるのが楽しくて、いつも本を開くのが本気で楽しみに感じられていたくらい。1冊でこのボリュームの本を楽しく完読できたのは、いつ以来だろう……? ってか、初めて……?

 そんなわけで、今回はそんな『独学大全』について。 全体の感想ではなく、第1部を読んで感じたことをサクッとまとめました。

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飽き性な僕らの敵「三日坊主」を倒すには?

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 そもそも、何かを「学ぼう!」と思い立ったとき、長続きする人と長続きしない人の違いは、どこにあるのだろう。

 性格? 飽きっぽさ? 集中力? 学ぶ対象への興味関心の度合い? ――おそらく少なからずは、そういった部分も影響はしてくるんじゃないかと思う。

 僕自身、どちらかと言えば飽きっぽい性格だと思っているので、「ひとつのことに打ち込める人はすごいなー」と昔から尊敬の念を抱いてきました。「熱意」もある種の才能であり、自分は持たざる者だったのだろうと諦観していた部分もあったんじゃないかしら。

 ところがどっこい。
 「そもそも人は、サボる生き物である」らしい。

 ヒトという生き物は、他の哺乳類と同様に、体温を一定に保つ優れたメカニズムを持っている。

 しかし、その意志を一定に保つための、自己コントロールについては不完全な機能しか持っていないのだ。

 一言で言えば、ヒトは体温は保てても意志は保てない。

(読書猿 著『独学大全』P.54より)

 “ヒトは体温は保てても意志は保てない” ――なるほどな!!(「1時間だけ! 1時間だけだから!」と自分に言い訳しつつ、結局4時間にわたってAPEXを遊んでいたある日の己を振り返りつつ大きく頷く)

 知性のある「人間」である以前に「生物」でもある僕らは、しばしば自分の意志とは裏腹に行動してしまう。頭ではダメだとわかっていても、怠けたり、欲求のままに動いたり、楽なほうへと向かってしまう。言うなれば、それは生物としての「仕様」なのだそうです。

 ……うん! 仕様なら、どうしようもないっすね! しかし同時に、それが「仕様」ならば、こう考えることもできます。

 「サボること、怠けることが『仕様』だとわかってしまえば、対処することも可能である」と。

 人間の性質を理解し、認知の問題を把握し、ひとつひとつ解決していけばいい。内部からコントロールするのが難しいのなら、外部環境から働きかけて、行動せざるを得ない状態にすればいい。動物が生きるために体温を保つように、意志を保つための仕組みを作ってしまえばいいのです*1

 そうすれば、「三日坊主」というにっくき敵をやっつけられる!
 怠惰な自分とはおさらばし、「学び」を習慣にできる!

 そこでまず取り組むべきは、「気の持ちようでなんとかなる!」などという根性論で意志を保とうとするのではなく、知恵と工夫によって自分自身を学びの道へといざなうこと。本書の第1部では、そうやって「学び続ける」ための技法と考え方を紹介していきます。

世の中、自分だけが意志薄弱で堪え性がない弱虫だと思ってる奴が多いが、意志が強そうに見える誰かは、自分の外に意志を支える「仕組み」を持っている。

(読書猿 著『独学大全』P.170より)

「学び続ける」ための15の技法

 第1部で登場するのは、「学び」の方向性を定め、集中して取り組み続けるための考え方。時間・環境・モチベーションを管理しながら無理なく継続するための、15の技法です。

  1. 学びの動機付けマップ
  2. 可能の階梯
  3. 学習ルートマップ
  4. 1/100プランニング
  5. 2ミニッツ・スターター
  6. 行動記録表
  7. グレー時間クレンジング
  8. ポモドーロ・テクニック
  9. 逆説プランニング
  10. 習慣レバレッジ
  11. 行動デザインシート
  12. ラーニングログ
  13. ゲートキーパー
  14. 私淑
  15. 会読

 ずらっと技法の名称だけを並べられてもピンとこないかもしれませんが、人によっては「あ、これ聞いたことある!」と目に留まる項目があるのではないかしら。

 かく言う僕も目次を見て、「ポモドーロ! ポモドーロじゃないか!」と往年の友人と再会したかのような感覚を覚えました。 “往年” も何も、お世話になり始めたのは最近のことですが。

 「ポモドーロ・テクニック」は、タスクに集中するための時間管理術。「25分の作業時間」と「5分の休憩時間」を繰り返すことで目の前の作業に集中し、生産性を高めることを狙いとしたテクニックです。

 ――というかこれ、まさに今、この文章を書きながら現在進行系で実践している手法だったり。学習に限らず、仕事の原稿やブログを書く際にも日常的に利用している、自分にとっては身近かつ効果的な手法なのです。お世話になってまーす!

 あるいは、15の技法の最後の「会読」に心当たりがある人もいるかもしれない。この技法について本書では、以下の手順で説明されています。

技法15「会読」

① 主催者が会読する書物を選ぶ/参加する人を集める
② 会読する本について参加者は会読の日までに読んでおく
③ 会読に集まり、参加者は自分の読みを持ち寄り、共有する

 これ、大学のゼミでやった経験がある人も多いのでは……?

 またはそれ以前に、似たような形式の国語の授業を受けたことがある人もいるかもしれないし、読書会がこれだと感じる人もいるかもしれない。はたまた、自分と同じような『独学大全』の読者さんがこの記事を読んでいたら、現在進行形で「会読」をしていると捉えることもできそうですよね。

 本書の第1部では、このような技法が目的別にまとめられています。

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 ポモドーロ・テクニックは「時間を確保する」の章に、会読は「環境を作る」の章に、それぞれ他の技法とあわせて掲載されている格好。他にも「動機付けを高める」「継続する」などの章が設けられているので、無理に全部を読まなくても、自分に必要な部分だけを拾い読みしてもOK。

 ちなみに、筆者さん自身も「無理に全部を読む必要はない」と本文やTwitterで説明しているので*2、気になるところだけガンガン拾い読みしていくのもあり。というか、まさにこの「必要なものだけを読み取る」技法が第3部に登場します(技法35:掬読)

技法の説明だけでは終わらない、知識欲を刺激する楽しい「読み物」

 序文と第1部だけでもちょうど200ページほどの文量があり(こんなにあったのか……)、この手の本を読み慣れていない人にはハードルが高そうな本書。

 もちろん、前述のとおり「拾い読む」形でも問題はありませんし、僕自身も当初はそのつもりでした。「とりあえず第1部は通して読んで、その後は気になるところだけチェックする形にしよーっと」なんて。でも、結局は最後まで順々に読んでしまったんですよね……。

 というのも、純粋におもしろかったから。

 冒頭で書いたとおり、割と序盤の段階で、読み進めるのが楽しくなっちゃったんですよね。この技法の次にはどんな説明がくるんだろう、今日はどんな「学び」の種と出会えるんだろうと、ページをめくるのが楽しくなってしまった。それほど、「読み物」としても魅力的に感じられたのです。

 たとえば、先ほどの「ポモドーロ・テクニック」の項目。

 自分にとっては勝手知ったる技法であり、改めて読むまでもない――かと思いきや、あわせて説明されていた「GtG(greasing the groove)」なる手法は初耳だったので、興味深く読めました。

 だって、「ソフトウェア開発者が発想した時間管理術(ポモドーロ・テクニック)」の項目で、いきなり「旧ソ連軍特殊部隊の元教官であるフィットネス・インストラクターの著書に登場するエクササイズ法」なんてものが出てきたら、そりゃあ面食らうし、おもしろいじゃん! それでいてアプローチには類似点があり、参考になるんだもの。おもしろ!

 また、「会読」の項目についても同様。

 ただ単に「会読はこういうふうにやります!」と説明して終わるのではなく、「なぜ会読が効果的なのか」「会読する仲間が見つからない場合はどうするか」といった切り口からも言及。

 加えて、脚注に「全国の私塾、藩校で広がった読書会=会読での経験とそこで培われた精神が、明治維新を準備した*3」なんて豆知識が参考文献とあわせて書かれていたら、そりゃあ気になるってもんですよ! おもしろそうなので買って読みます!*4

『独学大全』はいいぞ

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 以上のように、第1部だけでも刺激的で、興味深く、楽しみながら読むことのできた、『独学大全』。

 続く2~4部の内容も期待以上におもしろく、最後までダレることなく読むことができました。いやー、本当に長いようで、分厚いようで、あっという間だった。――あ、いえ、もちろん読むのに時間はかかっているし、間違いなく分厚いのだけれど、それを思わせないほどにすいすい読めた、という意味で。

 そんな自分が本書を読んでまず取り組んだのが、「行動記録表(技法6)

 途中ちょっとサボってしまった日もあったけれど、もう1ヶ月以上にわたって日々の行動を記録し、生活と学習の改善に生かしています。続けていたら楽しくなってきちゃったので、今は内容を少しずつアレンジしつつ取り組んでいる格好。びっくりするほど怠惰な自分に気づけてたーのしー!(目ぐるぐる)

 そのような読了後の変化もありつつ、まだ具体的な「独学」には活かせていない今。いろいろと勉強してみたいことはあるので、時間を確保しつつ取り組んでいこうと考えております。

 ――ってか今更になって思い出したんだけど、そういえばこれ、第1部の感想だった! すっかりまとめに入ってましたわ! つらつらと書いていたら長くなってしまったけれど、気が向いたら第2部の感想も書こうかな。

 ともあれ、2020年に読んだ本の中では特に強く印象に残った1冊であり、今後ますますお世話になる予感しかない『独学大全』。気になった方は一度、書店で手に取って――手に取るには重すぎるかもしれないけれど、ぜひ試しに読むことをおすすめしたい1冊です。

 これで税抜き2,800円は破格でしょう……!

 この本は確かにあまり賢くなく、すぐに飽きるしあきらめてしまう人たちのために書かれた。

 独学の凡人である私には、これが精一杯である。

 しかし独学の達人が書いた書物よりもきっと、繰り返し挫折し、しかしあきらめきれず、また学ぶことを再開したような、独学の凡人であるあなたの役に立つだろう。

(読書猿 著『独学大全』P.32より)

 

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*1:余談ですが、このあたりの話は「『ファスト&スロー』でやったところだ!」なんて興奮しながら読んでました。

*2:参考:https://twitter.com/kurubushi_rm/status/1324893739794378752

*3:P.189

*4:前田勉 著『江戸の読書会』平凡社