神保町『エチオピア 本店』で辛い食べ物が得意じゃないのに「5倍」を頼んだら軽く後悔したけれど最後は満ち足りた気持ちでお店を後にできた話


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 辛い食べものを好む人が話す「辛くない」は、当てにならない。

 なぜ僕は、そんな当たり前のことを忘れてしまっていたのだろうか。

 考えてみれば、至極当然である。普段から辛いものを食べ慣れている彼らと、食べ慣れていない自分。両者の味覚が同じであるはずがないのだ。「このくらいじゃぜんぜん辛くないし余裕だよ〜」と話す人の「余裕」とは、「普段から食べているから」こその感覚であって、決して一般的なものではない。

 なればこそ、辛い食べものを好む人の「辛くない」という感想は、絶対に参考にしてはいけない。たとえそれが、口コミサイトで評価を集めているコメントだったとしても、である。なぜなら、「評価を付けている人たちも辛いものが好きである可能性が高い」からだ。

 そう、スタンド使いが引かれ合うように、辛いもの好き同士は引かれ合う。

 そして僕ら素人は、スタンド使い同士の戦いに割って入ることなどできない――。そんなことを、改めて学んだ1日だった。辛味の高みを目指すには、圧倒的に “”“覚悟”“” が不足していた……。

 

入国してみたかったカレー専門店『エチオピア』

 『エチオピア』というカレー屋さんがある。

 言わずと知れた古本の街・神保町に数あるカレー屋さんの中でも、名店のひとつとして数えられるカリーライス専門店。秋葉原・御茶ノ水・高田馬場にも出店しており、どこも行列ができるほどの人気ぶりなのだとか。

 名前は聞いたことがあったし、自分もいつか行ってみたいと思っていたお店のひとつ。しかし行列に並ぶ気までは起こらず、なかなか入店する機会のないお店でもあった。列に並んで待つくらいなら、他のお店を開拓してみたい気持ちがあったので。ただでさえ飲食店の多いエリアですしおすし。

 しかし先日、その “機会” が唐突にやってきた。

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 とある平日の14:00過ぎ。
 メシ屋を探して、ふらふらとたどり着いた神保町。

 さすがに14:00を過ぎるとランチタイムが終わっているお店も多く、「マクドナルドで季節限定バーガーでも食うかー」などと考えながら通りがかった明大通り。そこで目に飛び込んできたのが、『エチオピア』の看板だった。そういえば、本店はここにあったんだっけ。

 しかも店先に並んでいる人の姿はなく、店内も空いている様子。ソーシャルディスタンスを確保しながら座れそうな客入りを見て、即断即決。――これは、入るしかあるめえと。外食でカレーを食べる機会も減りまくっていた2020年、念願叶ってのエチオピアデビューをキメるのは……今しかない!

 いざ、入国である。

野菜(特にブロッコリー)がめっちゃおいしい!

 1階の券売機で食券を購入し、空いているカウンター席に着席。テーブルの上には噂に聞いた説明書きがあり、注文時に辛さを選べることが書かれている。

カリーの辛さをお選び下さい

0・1倍・2倍・3倍・4倍・5倍・・・・最高70倍まで可能です。

※0で一般的な中辛口になります。
※豆カレーは3倍からになります。

 ――グルメサイトで予習したところだ!

 「0」から始まるのが不思議なところだけれど、「5倍」から飛んで「最高70倍」という数字にドキドキさせられる。でも、たとえば、30倍と35倍では違いが出るのかしら……なんて野暮なことを考えつつ、水を運んできた店員さんに食券を渡して、「5倍でお願いしまー」と一言。

 そう、「5倍」である。

 後になって振り返ってみれば、あまりにも軽率が過ぎる……! いくら口コミで「5倍でもぜんぜん辛くなかった」「初心者には5倍がオススメ☆」などと書かれていたからといって、流されてはいけなかった。まずはお店の説明書きを読むべきだったのです。

 「最高70倍」の前に書かれているのが「5倍」である以上、その倍数の時点でそれなりに辛いのだろうと、なぜ想像できなかったのか。懇切丁寧に「※」まで付けて、「0で一般的な中辛口」と書かれていたのに、なぜそれを一番に参考にしなかったのか。

 きっと普段の自分であれば、もっと弱腰の選択をしていたんじゃないかと思う。「そうは書かれているけれど、辛くて食べられなかったら申し訳ないし……」などと遠慮&恐れの気持ちが働いて、せめて「2倍」か「3倍」にしていただろうに……どうしたこうなった……。

 おそらくこの時は、「久々の都心での外で食べるカレー」にテンションが上がってしまっていたのでしょう。というかそもそも「カレー」って、少年時代に見ればテンションMAXになる刷り込みをされてしまっている食べ物の代表格じゃないか。そりゃあ判断力も鈍るってもんですよ。

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 そんな後悔をすることになるとは露知らず。無事に注文を終えてほっとした自分は、目の前にドン! と置かれたジャガイモと向き合っていた。

 「なぜジャガ……?」と首を傾げつつ、そういえば神保町の一部のカレーショップにはそんな文化があるんだっけ、と思い出す。塩を振りかけ、フォークでぶっ刺していただきます。――ホクホク、もぐもぐ、こりゃうまい。歩き疲れた体にデンプンが染み渡るようだ……。

 そして、待つことしばし。

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野菜カリー(970円)

 店員さんの手によって運ばれてきた本丸、野菜カリー(970円)でございます。

 よく見るタイプのお皿に、たっぷり盛られたライス&カリー。水分多めのルーには、ブロッコリー・ナス・キャベツ・ミニトマト・タマネギ・しめじ・えのきなど、多種多彩な野菜が浸かっている様子。……あ、お豆も入ってる。思っていたよりも野菜の量が多く、これは食べ出がありそうだ。

 両手を合わせて、いざ。いただきます。

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 一口食べて、「こいつぁうめぇや!!」と、思わずにっこり。

 サラサラのルーは口当たりが良く、ライスと絡めてガンガン口に入れたくなるおいしさ。口に入れると、ややあって、スパイスの効いたルーがじんわりと舌に広がり、伝わってきた刺激を「うひょお!」と楽しめる感じ。――たしかに辛いけれど、これくらいならイケるイケる!

 何より驚いたのが、野菜の存在感。
 この野菜たち……むちゃくちゃおいしいんだが!?

 しっかりと火を通された野菜はどれもやわらかく、食べやすく、噛めば噛むほど味わい深い。それでいてキノコ類は歯ごたえがあり、全体的に甘い。――そう、甘いんです! 野菜の甘さをストレートに感じられて、その味がまたルーとぴったりなんですよね。これは止まらなくなる。

 中でも印象的だったのが、ブロッコリー。

 最近は北海道発のスープカレー店を都内でも見かける機会が増え、たっぷりの野菜の中にブロッコリーが入っているのは珍しくない……のだけれど。そしてもちろん、そちらのスープカレーのブロッコリーもおいしいのだけれど。それ以上に、この日食べたブロッコリーは、記憶に残るほどおいしく感じられたのです。

 しかもそんなブロッコリーが、量多めで入っているのも嬉しいポイント。カレーのスパイスを楽しみながら、甘くおいしい野菜をたっぷり味わえる幸せ。――いやー、これは癖になりそう。むちゃくちゃハマって通う人がいるのにも納得ですわー。

もう何も恐くない

 ところがどっこい。

 そうやっておいしくもぐもぐしていたはずなのに……ふと気がつくと、口の中が、圧倒的な「辛さ」で支配されていた。

 ――辛い。すごく。ヤバい。おかしい。食べ始めて数分は「このくらいならイケるっしょ〜」なノリだったのに、どうしてこうなった……。まさか……敵のスタンド攻撃か!?

 とはいえ、完全に「食べられなくなる」ほどでありません。

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 ここ数年は味わっていなかった辛さではあるものの、途中で「む〜りぃ……」と匙を投げるまではいかない。辛い辛いと紛れもないキツさを感じつつも、同時にまだ「おいしい」と舌が訴えかけてきてくれているから。それならば、しっかり味わって、最後までいただこうじゃありませんか。

 そう内心で決意する頃には、急激な発汗現象に加えて、朝から通ることのなかった鼻詰まりが解消されるなど、自身の体が戦いの中で適応しつつあることを感じていた。自然に鼻呼吸ができることの感動を噛み締めつつ、それによってダイレクトに伝わってくるカレーの味わいと、絶えず広がり続ける辛さをも存分に感じながら、うめぇうめぇとカレーを頬張る至福の時間。辛い。けれどおいしい。

 鼻が通る……。
 こんな幸せな気持ちで食べるなんて初めて……。
 もう何も恐くない――!

「後を引かない辛さ」っていいよね

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 ――というわけで、なんやかんやありつつも無事に完食。いやー、長く苦しい戦い……もとい、辛くおいしい戦いだった……。

 正直に言って、「5倍」を頼んだことは軽く後悔したし、自分と同様に辛いものが苦手な人にはおすすめしません。

 ただ、それでもむちゃくちゃおいしかったことに変わりはなく、ぜひとも再訪して別のカレーもいただきたい所存。それに、まったく辛くなかったらなかったで、ここまで印象に残らなかった可能性も否定できないので……次はせめて、2~3倍くらいにしようかな……?

 あとは重要なポイントとして、「後を引かない辛さだった」というのは大きかったかなーと。

 食べている最中は内心でヒーヒー言っていたものの、食べ終えた後はまっっったくと言っていいほどに辛さが口の中に残らなかったんですよね。これにはびっくりした。食べ終えて、お店を出て、「あー! 辛かったけどおいしかった!」と伸びをする頃にはすでに元通り、というさっぱり具合。これはむちゃくちゃありがたい。そりゃあリピートもしたくなるってもんです。

  そんなこんなで、初入店で忘れがたい体験をしつつも、ぜひまた入国したいと感じられた『エチオピア』。また近いうちにおじゃまします! たぶん!

 

店舗情報

※参考:食べログぐるなび

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