※ストーリー展開や具体的なキャラクターなどには言及せず、なるべくネタバレを排除した感想としてまとめています。
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退屈でも、きっとおもしろい映画体験になるはずだから
映画『君たちはどう生きるか』を観た。
本当は、わざわざ公開初日に観に行くつもりはなかった。「ジブリだし、ちょっと待てばテレビで放送されるっしょー」と思って、慌てて観るものでもないと思っていたから。
別にジブリ映画が嫌いというわけではない。むしろ好きな部類に入る。子供の頃にビデオで観た『となりのトトロ』は思い出の作品だし、『天空の城ラピュタ』は言わずもがな。特に大好きなのは映画館で観た『千と千尋の神隠し』で、家でも家族そろって何度観たかわからない(我が家の本棚には、もう随分前から2羽のオオトリ様のぬいぐるみが鎮座している)。ただ、改めて整理してみると「そういえば観たことなくね?」という作品もそこそこあるので、大ファンというわけでは決してない。
じゃあどうして、今回は公開初日にわざわざ映画館へと足を運んだのか。答えはまっことシンプルで、「“前情報ゼロ”にホイホイされたから」。それに尽きる。
このインターネット社会の令和の時代において、「マジでなんもわからん状態で最新の映画を観られる」こと。それ自体が、ある種の「価値」であるように感じちゃったんですよね。たとえ映画本編が自分好みではない退屈な内容だったとしても、こんな体験はそうそうできないはず。
しかもそれが、「監督:宮崎駿」のスタジオジブリ作品でしょ?
自分がまだウッキャアアアアアとか猿のように公園を走り回っていた幼少期の頃から知っている、世界に誇る日本のアニメ監督の、もしかしたら、これが本当に最後になるかもしれない劇場アニメ。いくらでも宣伝しようがあるはずなのに、それをあえてやろうとしないどころか、「タイトルとポスター以外は隠す」という、その徹底ぶりが気になった。
かくして、「公開初日に映画館で観る、初めてのジブリ作品」として、この『君たちはどう生きるか』をいただきに参ったわけです。絶品だろうが激マズだろうが、今後味わえるかどうかわからない、唯一無二の映画体験になるんじゃないか――。そんな予感があった。
鑑賞前ワイ「ハヤオ……教えてくれ……俺たちはどう生きればいいのか……」
— けいろー🖋バーチャルライター (@K16writer) 2023年7月14日
鑑賞後ワイ「ハヤオォ゙!!!!!!」#君たちはどう生きるか pic.twitter.com/UjHvw6v44L
夢のような映画体験を
そうして満員の映画館で観た『君たちはどう生きるか』は、序盤こそ予想外の要素も多かったけれど、終わってみれば紛れもない「ジブリ映画」だった。
不思議で、不可解で、おもしろい。でも、ちょっとだけ怖い。ジブリ特有の「コミカルな不気味さ」が濃厚に感じられるキャラクター(?)も登場して、しばらく忘れていた感情を刺激されたような感覚があってゾクゾクした。子供の頃だったらトラウマになりかねないやつ。不気味で怖いんだけど、コミカルで愛嬌もあるから憎めない。最終的には「あれ? こいつかわいくね?」ってなるタイプのキャラ。好き。
ストーリーや世界観に関しては、すでにTwitterでも「ジブリのアレとアレを足して割ったやつ」「あの作品っぽいよね」という声が散見されている(それも結構いろいろな作品が挙がっている)けれど、個人的にはやっぱり『千と千尋』のイメージだろうか。ただ、世界観や雰囲気が、というよりも、物語の「構造」的な部分で近しい印象を受けた。序盤はぜんぜんそんな雰囲気もなかったし、中盤は中盤で「新海誠監督のアレっぽいな……(※not最新作)」とも感じていたのだけれど、終わってみれば『千尋』成分が色濃かったのかなと。
それと、言うまでもないことではございますが、「アニメーション」や「美術」の部分はやっぱり最高でしたね!! 冒頭5分のあいだだけでもいろいろな表現を盛り込んでいるように見えて、映画館の大きなスクリーンに見入ってしまった。キャラクターの細かな所作や背景美術をまじまじと眺めたいし、躍動感や疾走感にあふれる印象的なシーンもたくさんあった。「VRChatのシェーダーにこんなのあった!」などとも思ったり。
あとは、作中に登場する諸々のモチーフから想起させられるあれこれがあり、別にジブリファンではない自分でも「これってアレじゃね!?」と過去作品を思い起こすセルフオマージュっぽい要素もありと、そういった切り口からも楽しめた。このあたりの話は、きっとレビュー記事なんかでもたくさん書かれるんじゃないかしら。
そして、終盤っすよ。何も知らずともメッセージ性を感じてしまうキャラクター同士のやり取りに、ちょっと泣きそうになった。というか、その後のセリフで泣いた。こんなん、後世に残すメッセージじゃないですかやだーーーーー!!!!
ただ、「これは全年齢向けのエンタメ映画なのか?」と問われると、腕組みをして「うーーーん……」とちょっと考えてしまうかもしれない。でも、もしも子供のあいだに観ることがあれば、きっと何かしら心に残るものがある作品だと思う。それこそ、幼い日の自分が何もわからずに『ナウシカ』を見て怖がっていたように。
なんというか、現実の体験と思い出、幼少期に見た夢、過去にふれた物語作品から得た記憶が混じり合った、総じて「夢」のような映画体験だった。リアリティを感じられる場面あり、子供心を刺激するワクワクドキドキの展開あり、印象に残るシーンや刺さった言葉もあり――でも、全体を通して振り返ろうとすると、掴み所があるようでない。
観る人の年齢によっても捉え方が変わってきそうだし、僕自身も多分、何年後かに観たらまた別の感想をいだくんじゃないかと思う。味わい方もさまざまで、ああでもないこうでもないと、咀嚼するところまで含めて楽しめそう。特に、大なり小なり宮崎駿作品に影響を受けて育ち、ジャンルを問わずものづくりに励んでいる大人には、ぜひとも劇場で観てほしい。
否が応でも叩きつけられるメッセージがあり、それを突っぱねようとしても、あなたがものづくりに携わる人間であるのなら、きっと何かを受け取らずにはいられない映画であるはずだから。