秋──と言うには、まだまだ暑さが残る9月上旬。
外気温は余裕で30度オーバー、南からは台風がちょこちょこ日本列島を訪問し、大学生は今なお夏休みの真っ只中──という現状を見て、「やっぱり夏なのでは……?」と思わなくもないものの、他方では秋の味覚の話題も聞こえてくる。季節の狭間。
そんな9月上旬と言えば、自分にとっては恒例となりつつある、あるイベントが開催される時期でもある。足を運ぶのは多分、今年で4年目。がっつり下調べをするわけではなく、連日参加するわけでもなく、なんとなしにふらっと物見遊山で訪れるイベント。
それが、藝祭。
東京藝術大学の学園祭でございます*1。
芸術は、よくわからないけれど、楽しい
そもそもの話として、僕個人は「芸術」とは無縁の人間です。絵は描けないし、楽器の演奏もできないし、デザインスキルも皆無だし。それなりに優等生で通っていた中学時代の通知表を見ても、「美術」だけが五段階評価で「2」を記録するというダメダメっぷり*2。僕は芸術に嫌われている。あ、和太鼓は叩けます。
とはいえ「苦手=嫌い」というわけでもなく、年に数回はふらっと美術館に行くことがある。時間をかけて芸術作品を眺めるのは楽しいし、「美術館」というあの独特な空間も好き。……もちろん、わからないものは、まじまじと見てもわからないけれど。
でも、知識がなくたって、「ここがすげー」とか、「この描き方が好き」とか、作品を鑑賞して感じるものはある。美術館の静謐な空気と匂いにふれ、作品を眺める人の表情と、あれこれ語り合う様子を見るのも好きだ。それは美術館でしかできない、ある種の「異文化体験」のようなもの──なのかもしれない。
でも実際のところ、自分にはよくわからないもの──言うなれば「異文化」的な存在を目の当たりにして得られるものって、かなり大きいんじゃないかとも思うんですよね。
映画を観て泣くとか、マンガを読んで爆笑するとか、音楽を聴いて癒やされるとか。そのような自分が慣れ親しんでいる「作品」からは得られない、独特の刺激を感じられるというか。わかりやすく感情を動かされるでもなく、単純で素直な感想を抱くでもなく。安易には言語化できない、特別な体験としての「鑑賞」の態度を取ることによって、自分のなかに何らかの感慨が生まれ、不思議と感傷に浸れる──そんなイメージです。
(藝祭2018に行ってきた!今年の神輿は……アヌビスに烏天狗!? - ぐるりみち。)
「よく知っているから好き」なものだけではなく、「よくわからないけれど好き」だと感じられるもの。知らないがゆえにうまく言語化できない、でもなんとなく好きでいられる対象を持つのは、決して悪くないことなんじゃないかと思うのです。「わからない」からこそ得られるアイデアやインスピレーションだって、きっとある。
自分でも意識していなかった、新たな興味関心と出会える場所
そうやって藝祭に足を運ぶようになって、はや4年目。今年も特に目的があるでもなく、ふらふらっと自由気ままに校内を歩いてきたのですが……帰ってから、ふと気がついたのです。
自分が興味を持ち、時間を割いて見る作品。
そのジャンルの傾向が、例年とは少し違っていることに。
もちろん、その日のテンションや藝大のキャンパス内の混雑具合にもよるけれど、これまでの自分の足取りは基本的に一貫していたように思う。ざっくりまとめると、こんな感じで。
- 藝大のキャンパスに入る
- 受付でパンフレットを買う
- 各学部の「神輿」を撮影する
- 油絵・日本画の作品を見に行く
- デザイン・建築などの作品を見に行く
- タイミングが合えば音楽系の演奏を聴く
特別に油絵や日本画が好きというわけではないものの、なんとなく素人目にもわかりやすい「絵画」をまずはざっと鑑賞して、そのあとで他分野の作品を見に行く──というのが、例年の流れだった。目立つところに展示されている「神輿」も忘れずに。
ところがどっこい。
今年の自分は何を思ったのか、まず真っ先に「彫刻」を、そして続いて「デザイン」の作品を見に行ったのです。絵画はその後で、しかもいつもなら校舎の上から下まで隈無く見てまわるところを、今年は掻い摘まむ程度で終わりにしてしまったんですよね。
自分のこの行動は、実際に藝祭を巡っているときにはまったく意識しておらず、帰宅してから「そういえば……」と気づいたもの。到着した時間が若干遅かったから、という理由もありそうだけれど、いつもとは異なる順番で、鑑賞に割く時間も変わっていたのは、我ながら不可解な気もする。
これは、無意識に、何らかの心境の変化があったのでは……?
心境の変化──と考えて、はたと気づく。今回、自分が時間を割いて眺めていた作品にはそれとなく共通点があり、最近の興味関心と合致しているじゃないか、と。絵画ではなく、彫刻。印刷されたものではなく、立体的なデザイン。それはつまり……アレです。
──VRじゃん。
そう、この半年間、バーチャルリアリティに入り浸り、かわいかったり精密だったりする数多くの3Dモデルにふれ、「空間に配置された立体物」を意識的に眺める習慣ができた自分。日常的に接していたそれら3Dモデルと結びつけるように、今年の藝祭では、立体的な作品群に注目していたのかもしれない。
とはいえ、僕自身に3Dモデリングの知識はないので、「作品を見て参考にしよう」と考えていたわけではないはず。それでも、普段から接していて、また過去にはあまり関心のなかったジャンルとしての「立体物」全般に惹かれるものがあり、それが今年の鑑賞態度に表れたんじゃないかなーと思います。
で、そのように考えると、一口に「芸術」と言っても幅広い分野の作品にふれられる(しかも入場無料で!)藝祭は、まっこと刺激的で素敵な空間だなーと、改めて感じたんですよね。
十人十色の個性豊かな作品を鑑賞できるだけでなく、多分野に跨がるアートにふれることで自分自身の関心を再確認し、新たな興味とも出会える場所。今年の自分は立体物に注目していたけれど、来年はまた絵画を真剣に眺めているかもしれないし、はたまた雅楽を聴きに行ってもおかしくないわけですし。
たとえ芸術に詳しくなくても、多種多彩な作品と、それがもたらすアイデアや感動を五感で体験し、創作意欲やインスピレーションをもらえる。そんな気づきを得られる「藝祭」という空間がやっぱり僕は好きだし、短時間ながら今年も存分に楽しむことができました。
来年もきっと、ふらっと足を運ぶことになるのでしょう。学生さんがつくった素敵な作品を垣間見、そして年に一度の特別なハレの空間で、自分自身の興味関心と出会うために。