『秒速5cm』『言の葉の庭』のオーディオブック版が最高だった


映画とは違う小説版を、オリジナルキャストの声で

 2018年に入ってから、「耳」で楽しむコンテンツに触れる機会が増えた。Podcastやnoteの音声配信を聴くようになったほか、YouTuber動画もラジオ感覚で楽しんでいる。

 そんななか、オーディオブック配信サービス『Audible』「新海誠作品オーディオブック プロジェクト」という特設ページができていた。いつの間にこんなものが……。

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「新海誠作品オーディオブック プロジェクト」特設ページ

 映画監督・新海誠@shinkaimakotoさんの関連小説をオーディオブック化していく企画として、8月末から作品が追加されていたらしい。

 第1弾として『君の名は。』に始まり、現在は『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』のオーディオブック版を配信中。いずれも新海さん自ら執筆した小説版を元にしている。

 ──そう、「映画版」ではなく「小説版」。
 しかも、声を当てるのは、映画版の声優陣。

 新海誠作品のファンであれば、これが単なる「音声版」ではないことがわかるでしょう。見方によっては「完全版」とも呼べるコンテンツ。あるいは11年ぶりに『秒速』の2人の新録ボイスが聴けるとくれば、それだけで嬉しいという人も少なくないはず。

 だって、映画『秒速』の本編では描かれなかったエピソードと、明かされなかった “手紙” の内容が、あの2人の声で聴けるんですよ!?

 それだけでファン垂涎ものだし、同じく映画以上に広い世界観、多くのキャラクターの目線で紡がれる『言の葉の庭』の小説版も音声で楽しめるときたら、もう最高じゃありませんか。

 ──貴樹と明里、孝雄と雪野先生に、また会える。
 これ、実は神木隆之介さんあたりが一番喜んでいるんじゃないかしら……。

オーディオブック版『言の葉の庭』の魅力

 映画版の「補完」的な印象もある『秒速』に対して、『言の葉の庭』の小説版は「完全版」というイメージ。主役2人の関係性を掘り下げるのみならず、その周囲の人間関係も各キャラクターの視点から描く、群像劇スタイルを採用したノベライズになっている。

 具体的には、主人公の男子高校生・孝雄の兄と母のほか、彼が通う高校の体育教師に加えて、さらには映画本編では終盤でビンタされていた女子生徒も合わせた、計6人。各章では映画では脇役に過ぎなかった彼ら彼女らの主観で物語が進み、それぞれが過ごす日常と懊悩が描かれるのだ。

 いつからか靴作りに真剣な弟、がむしゃらに役者を目指している梨花、一回りも下の中年男に真剣にぶつかっていく母親。

 ──こいつらみんなばかなんじゃねえか。オレは苛々と胸のうちで毒づく。辿り着くはずもないゴールに、それ以外の場所は存在しないような勢いでひたすらに走り続けている。どいつもこいつも。ふいに今日二回目の涙が込み上げてくる。なんて日だ、今日は。

 うらやましいのだ、オレは。

 誰にも聞こえないように鼻をすすりながら、オレは決して口には出せないその気持ちを、必死に胸の中に押し戻そうとする。

(新海誠著『小説 言の葉の庭』第三話「主演女優、引っ越しと遠い月、十代の目標なんて三日で変わる。──秋月翔太」より)

 灰色の日常に閉塞感を抱き続けている人がいれば、理想を捨てて周囲から憎まれること選んだ人もいる。映画では二言三言程度のセリフしかなかったキャラクターたち一人ひとりにも物語があり、日常があり、悩みがある。巧みな心情描写も手伝って、彼らの息づかいすら感じられた。

 そんな小説版がオーディオブックになるとくれば、それは文字どおり「息を吹き込む」ようなもの。6人のキャスト陣によって、6つの物語が臨場感たっぷりに語られる。短歌がモチーフとなっている本作は「朗読」との相性も良く、映画以上の長尺でもってこの世界観に浸れることもまた嬉しい。

 また、「朗読」であるためにセリフの読み方、感情の込め方が違うという特徴もある。一言一言の「間」や呼吸も意識しながら読んで(演じて)いるように聴こえて──しかも映画と違って音声以外の情報がないため──とにかく集中して作品世界に浸れる。オーディオブックなので倍速もできるけれど、これは等倍じゃないと聴けない。

 あと、雪野先生がなんとなく映画よりも大人っぽく感じた。これは当然、朗読というメディアの特性もあると思う。でも一方で、花澤さんの演技への印象が変わったという側面もあるのかもしれない。映画の収録当時は雪野先生よりも年下であり、今は年上になっている──と考えれば、そう感じるのも自然なのかなと。

 これは「ドラマCD」ではなく「オーディオブック」なので、各章ごとに1人の読み手が担当する形が基本。ただし本作では終盤に限って、孝雄役の入野自由さんと雪野役の花澤香菜さんが2人で「読む」章がある。

 これがまた、最高なんですよ……!

 詳しくはぜひ実際に聴いてみてほしいのですが、やはり映画とは違った感情の高ぶりと余韻があってたまらない。雨の映像と演出、BGMと迫真の演技、そして最後に秦基博がどーん! とくる映画に対して、淡々としていながら着実に感情の波が押し寄せる感じがすごかった。

 もう映画で何度も観てるのに、また泣きそうになったぜよ……。

最初の1冊は無料で聴ける

 以上、「新海誠作品はオーディオブックでも楽しめるぞ」という話でした。

 とはいえ、オーディオブックと言えば単価が高いのが悩みどころ。個人的に好きな作品かつ好きな声優さんが担当しているなら喜んで聴くものの、そうでなければ「本でいいや」となるのが常だったんですよね。読むよりも時間がかかるし、かと言って倍速にするのも違う気がするし。

 その点、此度の「新海誠作品オーディオブック プロジェクト」は完全に俺得な企画だったわけです。大好きな作品だし、オリジナルキャストだし、しかも映画とは違う小説版を声優さんの声で聴けるとくれば──むしろ進んでお金を払いますとも! 時間をかけて堪能できるのも嬉しいですしね。

Audible

Audible: 本は、聴こう。

 また、てっきりKADOKAWA系のサービスでの配信になるのかと思いきや、Amazonの『Audible』での展開というのもありがたい。初めての利用であれば30日間は無料、かつ1冊を追加料金なしで入手できるので、まっことお得。

 ──実はこれ、前々からいつ登録しようかと様子を窺っていたのですが、此度の『言の葉の庭』の配信開始を聞きつけて、「今しかねえ!」とダウンロードして楽しんでいる格好です。

 ほかにも『君の名は。』では朴璐美さんが朗読を担当しており、12月には外伝小説の『君の名は。 Another Side:Earthbound』も配信予定なのだとか。外伝は新海さん執筆による作品ではないのですが……これがまたいいんですよねー。宮水父の話が大好き。

 そんなこんなで、新海誠作品が好きな方はぜひぜひ聴いてみてくださいな。

 

新海誠作品 オーディオブックプロジェクト

 

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