ぐるりみち。

平成生まれのフリーライターのブログ。本・映画・マンガ・アニメの各種レビューに、旅行・グルメ・街歩き日記など。

正しい世界の見方って?日常生活でも使える複眼思考『ファクトフルネス』

 次々に出版される新刊に、クールごとに数十本単位で始まる新作アニメ、そして毎日のように投稿されるYouTubeの動画。日々途切れることなく流れてくるコンテンツは、食べても食べてもなくならない。それはまるで、食べ放題&時間無制限の回転寿司屋に来ているかのような生活。楽しい。おいしい。もぐもぐ。

 しかし言うまでもなく。
 そんな現状においては、絶望的に時間が足りない。

 2019年もそろそろ半分が終わるのに、せっかく買った新刊は積み上がっていくばかり。6月が終わる前に1冊くらいは消化せねばあるまいて……ということで手に取ったのが、本書。この半年間で特に話題になったビジネス書新刊の1冊『ファクトフルネス』です。

 「世界100万部超の大ベストセラー
 「ビル・ゲイツ大絶賛!
 「大卒の希望者全員にプレゼントされた名著
 「あなたの “常識” は20年前で止まっている!?

 このような文言が並ぶ帯を書店で目にした人も多いのではないかしら。「めっちゃ煽るやん」と思いつつもなんだか気になり、でも明らかに分厚いため、衝動的に買うのは躊躇しそうな本でもあります。

 ところがどっこい。実際に手に取って読み始めてからは、あっという間でした。冒頭で投げかけられる問いとその答えによって瞬時に引き込まれ、第1章を夢中になって読み耽り、次々に示される「事実」を流れるように追いかける。気づく頃には300ページ超を読み終えており、その読後感はまっこと爽快なものでした。

 評判どおりの話題書。
 多くの人におすすめしたい1冊です。

 

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過去と比べて悲劇は激減し、世界は日に日に良くなっている

 ビル・ゲイツ氏曰く「世界を正しく見るために欠かせない1冊だ」という本書。

 そう言われて「ふーん、そーなのかー」と素直に受け入れられる人もいるでしょうが、きっと反感や懸念を抱く人も少なくないことでしょう。「俺の見方がおかしいっていうのか!」「本当に “正しい” ものなんてあるの?」「結局は物事の捉え方次第なんじゃね?」といったように。

 僕自身、少なからずはそのような疑念を抱きつつ本書を手に取ったのですが──そんなモヤモヤは、一瞬で吹き飛んでしまいました。

 それもこれも、冒頭で出題された13問の「クイズ」のせい。それなりに真剣に回答したつもりなのに、自分が正解できたのは──実質的なサービス問題である1問を除いて──わずか4問。これはアカンと恥じ入ったのだけれど、同じ問いを14ヵ国・12,000人に向かって投げかけたところ、平均正解数は2問だったらしい。マジか。

 でもだからと言って、「なーんだ、平均よりは良い結果じゃん! やったぜ!」と脳天気でもいられず。己の知識不足を自覚させられ、焦りを感じたわけです。

 ──学校で勉強してきたことはなんだったのか。ニュースで聞く話とぜんぜん違うじゃないか。いや、むしろこのクイズが間違っているのでは──などと考えるも、そう都合のいい話であるはずもなく。参照されているデータは国際機関の調査結果であり、誰でもアクセスできるものらしい。

 そこでようやく実感するわけです。「世界を正しく見る」ことができていなかったのは、自分であると。そうして己の無知を自覚すれば、自然と次の疑問も浮かび上がってきます。「じゃあ筆者の言う『正しい世界の見方』とは、どのようなものなんだろう」と。

 あなたは、次のような先入観を持っていないだろうか。

 「世界では戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている。金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ。何もしなければ天然資源ももうすぐ尽きてしまう」

 少なくとも西洋諸国においてはそれがメディアでよく聞く話だし、人々に染みついた考え方なのではないか。わたしはこれを「ドラマチックすぎる世界の見方」と呼んでいる。精神衛生上よくないし、そもそも正しくない。

(ハンス・ロスリングほか著『ファクトフルネス』P.20より)

 膨大な参考資料と、筆者らが長年にわたって取り組んできた調査、世界各国の “現場” で培ってきた経験。それらを元に浮かび上がってきたのが、一口に言えば「世界は良くなっている」という紛れもない「事実」。本書では、その事実を歪めてしまう人間の10の「本能」について紐解いていきます。

 『ファクトフルネス』が示すのは、データの大切さは言うまでもなく、視野狭窄を回避する複眼的なモノの見方や、思い込みを排除するための考え方など。約20年間で大きく様変わりした世界の姿を再確認しながら、今後は誤った真実に踊らされないようにするための「世界の見方」を教えてくれます。

 

本書で学ぶ「世界の見方」は、日常の「モノの見方」にも通じる

 しかし一方で、「『世界の見方』なんて、知る必要なくね?」と感じる人も少なからずいるのではないかしら。仕事や旅行で海外へ行くような機会はなく、外国に友人がいるわけでもない。実際に訪れたことのない国の事情を一個人が知る意味はないし、気にかける必要もないと。

 というかぶっちゃけ、自分の生活だけでいっぱいいっぱい。

 自身の日常とは無関係な「外」の事情なんて、知ったこっちゃない。世界の平均寿命が劇的に伸びていようが、災害死亡率や貧困の割合が驚くほど改善されていようが、教育や電気のインフラが広く行き渡るようになっていようが、それを知ったところで自分の生活が変わるわけはない──と、そう考えている人。

 正直に言えば、僕自身もうっすらとそう考えていたことは否定できません。今もあながち間違いではないと思っているし、この本が示す「事実」を知ったところで僕らの生活が良くなるわけでもない。「世界は良くなっている」という事実は、現実には役に立たない「豆知識」程度のものなんじゃないかと。

 それでも実際に読了してみれば、この本を読んで良かったと、心底から感じています。なぜならこの本が示す「ファクトフルネス」は、「世界」のみならず「個人」の単位で見ても当てはまるものだったから。さまざまな「モノの見方」を教えてくれる参考書としても、本書はむちゃくちゃ有用であると感じられたのです。

 一個人にはどうしようもできない「世界」の「事実」はさておき、筆者らが指摘する「世界の見方」は、日常生活における「モノの見方」にも当てはまる。ただでさえ膨大な情報であふれかえっている現代において、この見方──物事を正しく捉える視点──を持っているかどうかの差は、とてつもなく大きいのではないかと。

 そのような「モノの見方」を改善するにあたって役立つのが、本書が示す10の「本能」です。

 人はなぜ、誤った情報を鵜呑みにし、安易にネガティブな評価を下し、物事を必要以上に重大に捉え、わかりやすい「敵」を作って責任を押し付けようとするのか。これらの思い込みをもたらす人間の「本能」を筆者らは10個に分類し、その問題と対策を説明していきます。

 健康な食生活や定期的な運動を生活に取り入れるように、この本で紹介する「ファクトフルネス」という習慣を毎日の生活に取り入れてほしい。訓練を積めば、ドラマチックすぎる世界の見方をしなくなり、事実に基づく世界の見方ができるようになるはずだ。たくさん勉強しなくても、世界を正しく見られるようになる。判断力が上がり、何を恐れ、何に希望を持てばいいのかを見極められるようになる。取り越し苦労もしなくてすむ。

(ハンス・ロスリングほか著『ファクトフルネス』P.24より)

 10の本能と「ファクトフルネス」の具体的な考え方については、ぜひ実際に読んで確認していただきたいところ。あちこちの書評でもすでに言及されているので、ここでは割愛します。

 この本を読めば、「○○世代」などと無闇矢鱈と新しい概念を作ることの無意味さを知り、専門家が声高に語る「正解」が一面的過ぎる場合もあることに気づき、特定個人を「犯人」として吊し上げることのデメリットを実感できるようになる。以上のような視点は、日常生活でも役に立つのではないかしら。

 もちろん、本書の内容のすべてを鵜呑みにするのも、それはそれでどうなのかという “見方” もできる。そこでおすすめしたいのが、今まさに読んで学んだことを、この『ファクトフルネス』という1冊に対して実践してみることです。

 この本で学んだ「事実」と「本能」を軸に、自分なりにその妥当性を検討してみる。さらには、ふと目に入ったニュースや、会社や学校での人間関係、誰かが発した物言いについても、「本能」を排除して考える習慣を持つ。そうすれば、自然と多角的な視点でもって物事を見極められるようになるはずです。

 読了して終わりではなく、長く付き合っていくことになる予感がある。折に触れては本書を読み返し、何度も咀嚼しながら消化していきたい1冊です。

 

※動画版

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