ぐるりみち。

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強さの源は“普通”であること?プロゲーマーが語る勝負論『1日ひとつだけ、強くなる。』

 はじめは「勝ち方」について書いた本なのかと思っていた。世界で活躍するトップゲーマーが教える、「勝負に勝つ」ための考え方。そこにはビジネスシーンにも応用できる勝負論が書かれており、ゆえにビジネスマンからも高い評価を得ている1冊なのだ──と、そのように思っていた。

 しかし読み進めていくうちに、その認識が間違っていたことを知る。筆者が論じていたのは「勝ち方」ではなく「勝ち続ける」ための方法であり、ひいては「戦い続ける」ための考え方だった。何もゲームに限った話ではない。仕事や私生活にも当てはまる「成長」のための視点が、本書には散りばめられている。

 しかも、それで終わりではない。「勝つ」「戦い続ける」「成長する」というそれまでの認識は、読み終える頃には別のものに上書きされてしまっていた。残ったのは、一口に言えば「自己肯定感」。徹底的に自分と向き合い、理解し、認めて、日々を前向きに過ごしていくための考え方が、この本には記されている。

 自身を突き動かす原動力はどこにあり、どのように育んでいけばいいのか──。梅原大吾さんの著書『1日ひとつだけ、強くなる。』は、勝負事に留まらない「生き方」を教えてくれる1冊だ。後ろ向きになりがちな自分ですら感化される部分が多く、前に進むためのモチベーションを得ることができた。

 

 

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「技術」よりも大切な「視点」と、俯瞰することで見えてくるもの

 本書がビジネス書としても評価を集めているのは、そのバランス感によるものが大きいと感じた。

 物事を俯瞰的に見ることの大切さを説明しつつ、「ここ一番」に注力するための考え方も提示する。自分の個性としての「軸」の置き方を論じる一方で、他人のアドバイスは信じることを推奨する。意識高く「成長」を志向しながらも、適度に休むことの重要性も併記する。

 切り取り方によっては矛盾しているようにも読めるこれら言説も、本文では一本筋の通った説明になっているのだ。冷静沈着にして理論家。常に大局を見通して事に当たろうとする筆者のスタイルが、1冊を通して感じられた。それでいて、時折「熱さ」を感じられる文体も魅力的。

 そのようなバランス感は、本書冒頭の時点ですでに垣間見える。

 第1章で語られるのは、勝負における「視点」の重要性。ある分野において個々の技術がどれだけ優れていたとしても、その優位はずっと続くものではない。環境が変化すれば有利不利はたやすく覆るし、そもそも技術・局面・要素というのは数あるパーツのひとつに過ぎない。場面場面を追っていてもうまくいくとは限らず、本当に考えなければならないポイントは別にある。それこそが、全体を捉えた「視点」である──といった話が、第1章では取り上げられている。

 

 本当に考えなければならないこと。それはゲーム全体を捉えた「視点」とでも言えばいいのだろうか。

 そのゲームをどう捉えるか、どうすれば勝てるゲームなのかという視点がまずあって、そのためにどう動けばいいかを考える。これが勝負に臨むときの、僕の基本的な考え方だ。

梅原大吾著『1日ひとつだけ、強くなる。』Kindle版 位置No.267より

 

 もちろん、バラバラにされた個々の要素を分析・検討することも大切だ。しかしそれ以上に、俯瞰的な視点でもって全容を把握しなければ、小さなパーツをどれだけ研究して極めようが意味はない。広い視野でもって全体を把握することのできる、冷静な視点を持つこと。それが大前提となる。

 全体を見通すことで「勝ち」のパターンを見出し、冷静に優位を積み上げていく戦闘マシーン──。傍目から見て、そのような印象を彼に抱いた人もいるかもしれないが、当然そんなことはない。俯瞰的な視点から全体を把握し、そのうえで構成要素のひとつである「相手」と向き合うことを是とする筆者は、おそらくほかの誰よりも「相手」の存在をはっきりと捉えている。勝負の最中で「コミュニケーション」に楽しみを見出しているという話からは、そのような筆者の「視点」が感じられた。

 

 僕は相手の動きに意味を感じながら、コミュニケーションを取るように戦っているといってもいいかもしれない。そもそも僕が勝負を好きなのは、画面越しであれ卓上であれ、何かを伝え合うような感覚があるからだ。

 「お前は勝とうと思って、この行動を取ったんだ。じゃあ、俺はこうするよ」そんなふうに、勝負というコミュニケーションを楽しんでいる。だから、相手が取った行動もコミュニケーションの流れとして意味付けができているのだ。

同著Kindle版 位置No.434より

 

なぜ「成長」しなければならないの?その先にある「普通」を目指して

 俯瞰的な視点の話があり、相手とのコミュニケーションを切り口とする言説もある一方で、本書は徹底して「自分」と向き合うことの重要性を説いている。それは、普段からネット上で文章を書き、そこで得られる数字の多寡に一喜一憂している自分にとって、痛いところを突かれるような指摘だった。

 筆者がまず提起しているのが、「成長」という言葉について。就職活動を経て社会人として過ごすなかで、耳にタコができるほどに聞かされ続けるこの言葉。周囲から強制される「成長」ほど嫌なものはなく、その意識の高さに辟易している人も少なくないのではないかと思う。

 では、長年にわたってトップを走り続ける筆者にとって、「成長」とはどのようなものなのか。凡人には真似できない考え方や方法が飛び出る──のかと思いきや、そんなことはなかった。筆者曰く「成長は義務ではなく、楽しく生きて、この時代にコースアウトしないためのツール」であるとのこと。

 必ずしも「成長」を志す必要はない。ただ、どのような分野においても変化が目まぐるしく、その流れに適応しなければ窮地に陥りやすくなっている現代においては、「成長」を道具と考え利用したほうが、楽しく生きやすいのではないか──。そのように説明している。

 

 真面目にさえやっていれば生きていける。できれば、そんな世の中であってほしい。僕もそう思う。しかし、こちらの思惑とは無関係に今はそうなっていない。僕が知っている範囲でさえ、真面目で善良な人がコースアウトしてしまうようなケースが続出している。僕が生きてきた勝負の世界に、世の中全体が近づいてきているような感じがある。

同著Kindle版 位置No.1,014より) 

 

 そして、そのような社会においては──成長できるかどうかはさておき──「行動しないことそれ自体がリスクとなりかねない」とも、筆者は書いている。

 曰く、行動力がない人には、「『リスク』と捉えるものが多すぎる」という特徴がある。

 ああすれば失敗するかも、準備もなしに動くのは良くない、悪口を言われるかもしれない──などと、目先の些事が気になって行動に移すことができない。それでは変化に対応できず、どんどん深みにハマってしまうだけ。だからこそ、自分の視点が正しいかどうかは別として、大局観をもって行動に移し、自分の選択肢を広げることが大切になってくるのだという。

 極めつけが、以下の言説だ。

 

 自信のあるという態度というものが、世間では誤解されている。本当に強い人は、いわゆるマニュアルにあるような、自信ありげな態度は取らない。虚勢や誤魔化しがない。そういうことをする必要がないのだ。極めて普通である。僕は、そういう人に凄みを感じる。

(中略)

 得意なことや成功したことがあれば自信が付くというのは噓ではないけれど、正確な言い方ではない。外からの賞賛に頼っているだけでは、結局は本当の自信にならない。自ら支えることが必要になる。どんな成功をしたのか、という結果ではない。どんなふうにして成功をしていったのか、という過程が問われることになる。

 そして、本当の自信というのは、考えられているよりも、ずっと柔らかくしなやかで強靭なものではないだろうか。それは一言で表すなら「普通」だということになる。

同著Kindle版 位置No.2,105より) 

 

 得意なことだけをやっていても、真に自信を付けることはできない──。自信らしい自信が皆無で、楽なほうへ楽なほうへと流されがちな自分にとって、この指摘は耳が痛い。と同時に「ことさらに実績を強調している人は自信家ではない」という旨の指摘を読んで、納得しつつも軽く笑えてきてしまった。

 また、何よりも印象的だったのが、「自信」を指して「普通」と称していること。

 「普通はこうする」「私と違うお前は普通じゃない」「普通にすることもできないのか」などと、雑なレッテル貼りとして使われるイメージの強かった「普通」という言葉。それが、まさかこんな意味で使われるとは考えもせず、新鮮に感じられたのだった。周囲に「普通」を強要するのではなく、ただただ淡々と(その人にとっての)「普通」をこなし続けることができる人は、たしかに強い。

 そして、書名にもある「1日ひとつだけ、強くなる。」という言葉。これは何も難しいことではなく、「1日にひとつだけ、その日の成長をメモする」ことを指している。メモするのは、周囲からはなかなか評価されない、自身の内的な成長。それを意識し記録することで、モチベーションを保てるのだという。

 これは僕自身も強く共感できる指摘だった。というのも「成長」という形で明確に言語化していたわけではないものの、その日にできたこと・できなかったことを日記として記録していた時期があり、たしかに当時は充実した日々を過ごしていた覚えがあるので。精神的にも安定しており、日記を読み返すことで自身の変化を実感できていたように思う。

 

成長への期待。それが自分を動かす原動力なのだ。

同著Kindle版 位置No.1,651より) 

 

 無思考に前に突っ込むでなく、後ろ向きに慎重になりすぎるでもなく。全体を見通す視点を養うべく、自分なりに予測し、失敗したら修正し、ひたすらに試行錯誤を続けること。想定外を成長の機会と捉え、周囲から学びつつも自分の軸を持ち、目先の失敗に落ち込むのではなく、未来の成長に期待すること。

 人によっては改めて読むまでもない、それなりに普遍的なテーマではあるのかもしれない。でも、間違いなく大切なこと。自己啓発書には忌避感を覚えてしまうという人も、「ゲーム」という身近なテーマとバランス感覚に優れた文章で構成された本書ならば、すんなりと読むことができるのではないかしら。

 目指すは、「普通」。
 まずは “1日ひとつ” を「普通」とするところから、一歩ずつ進んでいこう。

 

 

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