“伝える”でなく、相手に“伝わる”言葉を紡ぐ20の考え方『伝わっているか?』


 小西利行さんの著書、『伝わっているか?』を読みました。

 物語形式で、「コミュニケーション」と「言葉」に関する悩みの事例を挙げながら、相手に言葉が「伝わる」ようになるメソッドを紹介していく内容。

 すぐに実践できそうな方法論ではあるけれど、それを自分なりに応用していくには訓練が必要そう。でも、様々な事例と考え方が取り上げられており、取っ掛かりとしては最適な、良書だと思います。純粋に、おもしろかった。

 

 

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「伝える」ではなく、「伝わる」コミュニケーション

 表紙のパッと見だけでは、何の本かよく分からない本書。

 書名である「伝わっているか?」の文字がデカデカと示され、表紙を横半分に分かつ、海?から顔を出している「イルカ」の姿が目に入る。かわいい。その頭上には著者の名前と、「コピーライター」の肩書。そして水中部分には、伊坂幸太郎*1さんの推薦文句。

 タイトルを見て、佐々木圭一*2さんのベストセラー、『伝え方が9割』を思い浮かべる人もいるかもしれません。実際、本書『伝わっているか?』の著者である小西利行さんは、佐々木さんの先輩に当たるらしいです。

 

 

 こちらの対談でも、 “『伝え方が9割』をきっかけに本を書いた” と話されているように、これらふたつの本は、方向性としては近しい印象を受けるもの。

 ただ、小西さんが『伝わっているか?』の序文で繰り返しているのは、「伝える」ことではなく、「伝わる」ことを前提とした考え方。あくまでコミュニケーションの「相手」が主体であり、言葉を「伝わる」ようにするための技術を紐解いていく内容となっております。

 

「伝える」ことばかり考えると、結局、相手のことを考えず、自分の意志を押し通すエゴになってしまう

「伝わる」ためには相手の気持ちを徹底的に想像して、その人が嬉しくなって、心が動くアイデアを考えなければいけません。

 

 相手の存在を意識し、友人とのコミュニケーションに限らず、仕事や家庭関係など、あらゆる場面で使える「伝わる言葉」のつくり方と考え方。それをまとめた20の「伝わるメソッド」が、本書では次々と登場します。

 

 イルカと共に。Windowsのアレ*3ではありません。

 

 寂れたスナックを切り盛りする、ももこ(35歳男)の元に突如現れた、偉そうなイルカ。そのイルカが相談者の悩みに答えていく形で、話が展開していきます。

 類似の形式だと、最近は『嫌われる勇気』を読みましたが、そちらほどは押し付けがましくないというか、自然と受け入れることのできる展開でした。事例が身近なものばかりで、「あるある!」ネタとして共感しながら読んだせいもあるかもしれないけれど。

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目次。

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相談者が悩みを打ち明ける → イルカ「伝わっているか?」 → メソッドの紹介 という流れ。

 このイルカ、無駄にドヤ顔で偉そうな口調のくせに、たまに「キューキュー」とか鳴きやがるから憎めない。かわいい。

 

街に溢れる「当たり前」の文句を解説

 本書で取り上げられているメソッドは、人によっては「当たり前」と感じるものも多いかもしれない。

 例えば、最初に出てくる、伝わるメソッド①「だけしか」は、 “限定感” を説明した内容。「1日◯個限定」「ここでしか食べられない」「本日のおすすめ」などなど。

 それこそ、街中で当たり前に見かける文句であり、「なんだ、そんなものか」と感じる人がいてもおかしくはないかと。数を限定することで、何でもないものに「特別さ」を演出したり、「おすすめ」は単に店側が売りたいものだったり、という話。

 

 続いて、交渉の初歩としての「アゲサゲ」に、決断や継続を促す「ごほうび」「ゲーム化」「喜怒哀楽」など。なんとなく、字面で内容が想像できるのではないでしょうか。

 具体的な事例としては、トイレの貼り紙の、「いつもキレイに〜〜」*4とか、街中の “鳥居” *5は有名な話ですよね。最近では、 “妖怪の仕業” *6という視点も話題になっていました。

 序盤はこのように、なんとなく「コピーライター」っぽい話題から始まります。

 知ってしまうと、言葉に “動かされている” 感覚に忌避感を覚える人もいるかと思いますが、視点と言い回しを変えることによって効果がある、というのは面白いもの。ちょっとした言葉遊び。

 

自由は不自由。制限・ルールがもたらす創造性?

 メソッドに合わせて事例が20個以上もあれば、全く知らない、「そういうのもあるのか!」という発想もあるわけで。僕の場合は、それが先ほどのインタビュー記事でも挙げられていた、「ひらめきスロット」と「プラス新しい」でした。

 

[新しい+テーマ]×[ターゲットが好きそうな言葉]=[アイデア]

 

 こちら、本の中盤で取り上げられているメソッドなのですが、事例としては終盤の例が面白く感じたので、そちらを引用させていただきますと、次のようなもの。

 

  • 新しいゲイバー×[イケメン]=イケメンゲイバー
  • 新しいゲイバー×[スタイリスト]=スタイリストゲイバー
  • 新しいゲイバー×[ケーキ]=ゲイバー
  • 新しいゲイバー×[カフェ]=ゲイカフェ
  • 新しいゲイバー×[料理教室]=料理教室ゲイバー
  • 新しいゲイバー×[学び]=学べるゲイバー

 

 発想としては「◯◯喫茶」とほぼ同様のものなのですが。そこに「新しい」や「ターゲット」といった制限を加える事で、アイデアがポンポンと出てくる格好。学べるゲイバーは僕もぜひ行ってみたい。でも、何を学ぶんだろう……。

 この考え方は、川上量生さんの『ルールを変える思考法』と方向性が近いように感じた。メソッドのひとつ、「ゲーム化」ともつながるものもあります。

 

 

 このように、本書は広く「コミュニケーション」について考える本でありながら、「言葉」「表現」についても問い直す内容をはらみ、そして両者を引っくるめて「伝わる」考え方を示した本であるように思います。

 1冊の本でありながら、様々な視点を提供してくれるもの。そういう意味では、個人的には示唆に富んだ良書でした。

 物事を前向きに考えるための視点変更……というと、どこか自己啓発っぽさ、胡散臭さを感じることも否めないけれど、そうやって刺激を受けることは大切な場合もあると思う。

 

イルカ 未来が過去をつくるんだ。

金太郎 ははは。過去が未来をつくる、の間違いでしょ?

イルカ いや違う。どれだけ過去が辛かったとしても、未来で成功すれば、その過去はすべて、成功のための道筋になる。つまり、未来が良くなれば、どんな過去でもいい思い出になるわけだ。だから、過去についてくよくよするより、未来をよくするために努力する方がいい。未来を変えることで過去が変わるから。

 

 前向きな、良い話だとは思うけれど、逆もまた然り。

 個人的には、自分の為になるか怪しい、輝かしい誰かの「成功本」よりも、過ちやありのままの体験を記した「失敗本」が読みたい。今のところ、それが読めるのはネット・ブログの場の方が多そうですが。

 

 

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