ぐるりみち。

平成生まれのフリーライターのブログ。本・映画・マンガ・アニメの各種レビューに、旅行・グルメ・街歩き日記など。

夏の思い出、ソースの匂い、焼きそばを飲む。

焼きそば

 

あなたにとって「焼きそば」とは、どのような存在ですか──?

 

 改まってこんな問いを投げかけられる機会はそうそうないでしょうが、冷静になって考えてみると、「焼きそば」は不思議な立ち位置にいる食べ物なんじゃなかろうか。

 食事では「主食」となる麺類でありながら、日常的に食べる機会はあまりない。都心はもちろん、ベッドタウンの最寄り駅や住宅街でも見かけることのある「ラーメン屋」「パスタ屋」「うどん・そば屋」に対して、専門店としての「焼きそば屋」が目に入ることはほとんどない。多彩な麺類を取り揃えたファミリーレストランのメニューを見ても、焼きそばはハブられていることが多いように感じる。

 麺類の中ではどこか微妙な立ち位置にいる、焼きそば。
 では、僕らはいったい、いつどこで彼を食してきたのだろうか。

 この疑問については、時間をかけて考える必要もないでしょう。焼きそばと言えば、屋台である。祭りである。花火である。夏休みである。

夏祭りのイメージ(川越百万灯夏祭り)

 焼きそばとは、少ないおこづかいを手に握りしめ、「なに食べるー?」などと友達と話しながら神社の境内に立ち並ぶ屋台と人混みのスキマを闊歩し、あれこれと悩みつつも最後には辿り着くメシである。そして焼きそばをかっ喰らっている途中、鮮やかな浴衣で着飾ったクラスメイトの気になるあの娘とばったり遭遇し、口の周りを紅ショウガで真っ赤にした自分たちの姿を見て大笑いする彼女。そのあまりの爆笑っぷりにムッとしつつも、普段とは違う彼女の姿に胸の鼓動は高鳴り、それ以上に夏の夜のお祭りの明かりに照らし出されたその笑顔が眩しくて、直視もできずに「うっ、うるせーな!」と声を上げ、気恥ずかしさを隠すために残った焼きそばを一気に飲みこむんだ。

 

そんな夏休み、どっかに落ちてませんか?

 

 ──という妄想はさておき、焼きそばと言えば夏の風物詩。手軽に作れるわりには以外と食べる機会は少なく、なぜか夏祭りでは決まって食べる季節の食べ物。別に夏野菜をたくさん使っているわけではないのに、なんとなく「夏」を思い起こす食べ物。それが、多くの人にとっての「焼きそば」なのではないかしら。

 とは言え昔と比べれば、焼きそばの専門店を見かける機会も増えたように感じる近頃。ブログでも過去に『あぺたいと』さんや『梅林』さんを紹介しましたが(※『梅林』さんは大盛り焼きそばを出す中華料理店です)、もしかすると、水面下では焼きそば需要が高まりつつある──のかもしれない。

 そんななか、特に強く記憶に残っているお店がある。池袋・サンシャイン通りを脇道に逸れて歩いて行った途中にある、こじんまりとした一軒のバル。

 その名もずばり、『やきそばる。』さんでございます。

池袋『やきそばる。』外観
池袋『やきそばる。』のソース焼きそば
『やきそばる。』さんのソース焼きそば(2018/08撮影)

 昨年夏にその存在を知り、ふらっと入店してランチをいただいてきました。口にする前からそのモチモチ感が一目瞭然な太麺は食べ出があり、ソースの香りと軽い焦げ目が香ばしく、食欲をそそる。夜は文字どおりの「焼きそばを出すバル」として営業しており、少なからず人を集めていたそうな。

 ところがどっこい。先日、その『やきそばる。』さんで久しぶりにランチをいただこうと池袋に降り立ち、脇道に入ってお店の前まで来たところ……己の目を疑った。

池袋『焼きそばは飲み物。』外観

池袋『焼きそばは飲み物。』看板

 

なん……だと……。

 

 あまりにも衝撃的すぎてどこからツッコめばいいのかわかりませんが、まずもって「知っていた焼きそば屋さんが、別の名前になっていた」ことにびっくり。

 飲食店の入れ替わりが激しいこのご時世、「いつの間にか閉店して別のお店になっていた」なんてことは別に珍しくない。でも「焼きそば屋であることはそのままに、別の名前になっていた」というのは、予想すらしていなかった。いや、それも決して特別な話ではないのかもしれないけれど。

 それ以上に、何と言っても、名前である。『焼きそばは飲み物。』である。「やきそば+バル」というシンプルながらありそうでなかった素敵なネーミングに対して、それ以上のド直球具合。店名で語り、しかもご丁寧に句点まで付けて言い切っているあたり、店主の自信の深さが窺える。

 とは言ってもすでに多くの人に周知されているように、『○○は飲み物。』シリーズは今や都内のあちこちで見かけるようになった定番のお店(※あとは甲府にもあるそうな)

池袋『カレーは飲み物。』外観

 こちらも過去に取り上げた『カレーは飲み物。』は店舗数を着実に増やしているし、少し前には「とんかつ」も飲み物になったのだとか。実際にそこそこ繁盛しているという話を聞くに、なんでもかんでも飲みこむ大食漢が東京には蔓延っているのだろうか……。カービィかな?

 では、はたして『やきそばる。』さんには何があったのか……と思ったら、どうやらもともと運営元が同じだったみたい……? 新橋にも『焼きそばは飲み物。』がオープンするのを機に、こちらも屋号を変更したのだそう*1。なるほど……「バル」という建前は、当初から飲まれる運命だったのか……。

池袋『焼きそばは飲み物。』のソース焼きそば

 名前が変わっただけなら、きっと味もそのままのはず。実際、注文して出てきた太麺焼きそばは、紛れもなく半年前に食べたものと同じだった(鰹節と豚肉の量が減り、少し薄味ぎみだったような気はするものの)

 ところがどっこい(2回目)。この世のあらゆる事象がそうであるように、何かの「変化」に伴う「変化」はつきものだ。

 名前が変われば、性質が変わる。性質が変われば、印象が変わる。印象が変われば……それを目にする、人の心も変わる。──そう、中学の同窓会でひさしぶりに会ったあの娘の名字が変わっていたのを見て、不思議な感慨がこみ上げてきたり諦めがついたりするように。そして、惚れた彼女への想いを二次会の場で親友に吐露してひとしきり泣いたら、めいいっぱい笑って思い出話にするんだ。

 

まあ、中学時代にそれっぽい恋愛なんてしてなかったけどな!

 

 ──それはさておき、『焼きそばは飲み物。』さんの話ですね、はい。焼きそばの味とメニューは以前のままだったものの、それでもやはり、屋号の変更に伴う「変化」がそこにはあった。『○○は飲み物。』を冠したお店になったことで、同シリーズのお店と同じシステムが実装されたのです。

 それが、好きなものを3つ選べる無料トッピングシステム

 『やきそばる。』時代から定番だった「スキヤキ卵」のほかにも、『カレーは飲み物。』のほうでも見かけたような選択肢がちらほら。一度はスキヤキ風に焼きそばを食べるのにもチャレンジしていただきたいところですが、王道の目玉焼きを乗っけるのもありありかと。

 そうして半年ぶりに食べた太麺焼きそばは、いつかの「夏」を思い起こすような、懐かしい味わいだった。そして、その太麺を溶き卵に浸して啜るなか、はたと気づく。

 

ああ……なるほど、たしかにこれは “飲み物” だ……。

 

 どこか懐かしさを感じるソースの香りと共に、存在しないはずの青春時代の「夏」の日々の思い出を飲みこむ。徐々に春の陽気を感じつつある3月下旬のお昼時、夢のような「夏」の味がする焼きそばを……ただただ、ひたすらに、飲む。

 ──ごちそうさまでした。
 今度は、本当の「夏」になったら会いましょう。

 

店舗情報

  • 営業時間(月〜土):11:15~16:00 / 17:00~22:00
  • 営業時間(日):11:15~19:00
  • 定休日:水曜日
  • アクセス:JR『池袋』駅東口 徒歩5分
  • 住所:東京都豊島区東池袋1-13-2

※参考:食べログ

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