にいち『彼女の季節』感想〜可愛くて切なくて温かい、めぐる季節の物語


 にいち@niichi021さんを知ったのは、『艦隊これくしょん』の二次創作絵がきっかけだったと思う。Twitterで目に入ったのか、pixivランキングで見かけたのかは覚えていないけれど、「『いってきます』」と「『ただいま』」の連作が最初。しぐれ……。

 その後、オリジナルの女の子を描いた一枚絵をたびたび見るようになったと思ったら、ニヤニヤ&ほっこりできる創作漫画がTwitter上で拡散されるようになり、それが頻繁にニュースサイトで取り上げられる流れができあがっていた――という印象。例えば、有名なこちらとか。

 そんな、にいちさんは今年4月、個人作品集『彼女の季節 ―少女アラカルト―』を出版して話題になりました。秋葉原では即完売するほどの勢いだったそうで*1、僕自身も発売当初は手に入れることができず、すっかり買う機会を逃してしまっていたのでした。

 ――ということで今回は、ようやっと手に取って読むことができた『彼女の季節』、その感想となります。

 

 

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かわいい(かわいい)が盛りだくさんの、四季折々の物語

 「pixiv、ニコニコ静画の累計閲覧数1000万超!」「第2回次にくるマンガ大賞第6位!」の文字が表紙に踊る本作は、作者のにいちさんがウェブ上で公開してきた短編漫画とイラストをまとめた一冊。全ページカラーの11編に加えて、ウェブ未公開の描き下ろし「彼女の季節」も収録。

 

 目次  
  1. 【盛春】先生と女の子のほんわか背徳ラブコメディpixivニコニコ静画
  2. 【晩春】ずぼらな彼女の遠距離恋愛事情pixivニコニコ静画
  3. 【初夏】私の渾身のラブポエムが委員長に朗読されかねないpixivニコニコ静画
  4. 【盛夏】夏と君と、いつか来る○○の話。pixivニコニコ静画
  5. 【初秋】世界が終わる前日も、君とpixivニコニコ静画
  6. 【晩冬】君がいない、初めての春pixivニコニコ静画
  7. 【初春】真白のあたふた東京駅紀行pixivニコニコ静画
  8. 【初春】この街で、夢を見る。pixivニコニコ静画
  9. 落とした恋の拾い方pixivニコニコ静画
  10. 風邪引き少女と年上彼氏pixivニコニコ静画
  11. 不良くんと天然さんpixivニコニコ静画
  12. 彼女の季節(描き下ろし)

 

 ――とまあ、だいたいはネット上でも読めてしまうわけですが、書籍版は当然のごとく加筆修正されており、イラスト集&おまけあり。にいちさんの作品をまとめて一気読みできるという点からも、ネットで楽しく読んでいたファンとしては購入不回避なわけでござる。

 それぞれの作中で描かれるのは、四季折々の青春模様。単純に「女の子が! かわいい!!」と読むのも悪くないけれど、時に学生ならではの恋愛模様に「リア充爆発しろ!」とツッコみ、時にほんわか切ないエピソードに思わずじーんとできる、素敵な短編集となっています。

 そしてなにより、描き下ろし漫画が良い。収録作品すべてのキャラクターが登場する新規エピソード。1話目の主人公を中心に、一部キャラの「その後」が端的に示されていたり、想像できたりするストーリーになっていて、これだけで買ってよかったと思える内容でした。尊い……。

 

にいちさんの描く「夏」が好きです

 こういったある種の「シチュエーション」を描いたショート漫画って、そこそこ前から好きでちょくちょく探して読んでおりまして。そのなかでも、にいちさんの作品って、「季節」の色が少なからず出ているのが好きなんですよね。

 本書も、タイトルからして“季節”をひとつのコンセプトにしているし、収録作品の多くにそれぞれ季節が当てられている格好。恋愛や友情を伴った人間関係をただ簡潔に描くのではなく、そこに四季のモチーフや舞台設定を盛り込んだうえで切り取っている点が、個人的に大好きです。

 特に印象的なのが、「夏」の作品。

 一般的にまず想像される「夏」と言えば、海・山・川と夏休みの光景、帰省先の田園風景に、どこか郷愁を誘う青と緑のイメージ――なんかがあると思うんですが、本作ではそこに「死」を持ってきた。ウェブでの公開時も、他とは毛色の違う作風に驚いた覚えがあります。

 でも言われてみると、そもそも夏はお盆の時期でもあるし、暑くて寝苦しい少年時代の夜には、ふと「死んだらどうなるんだろう……」なんて考えたこともたびたびあったように思う。そういった意味でも他の話以上に感じさせられるものがあったし、特に好きな作品のひとつです。

 そして、今年の夏に描かれた漫画を見て、にいちさんの描く「夏」の話がやっぱり自分は好きなんだなーと、改めて実感したのでした。切ないけれど、あったかい。それがいい。

 しかし一方で、先ほどの「夏と君と、いつか来る○○の話。」については、編集さんが単行本への収録に難色を示したとの話もあったそうな*2。たしかに、年月の経過を描くことで「少女」の枠を外れてしまっているとも受け取れるし、読後感も他の作品とは明らかに違いますもんね……。

 でも自分としては、本作が収録されているからこそ、一冊の本として読んだときに「季節」をより強く感じられるし、「青春」たりえているんじゃないかとも思います。喜も哀も噛み締めてこその青春であり、けれど直接的に描くのが難しい「死」というモチーフを「切ないけれど、あったかい」ものとして表現できるのが、にいちさんの魅力なんじゃないかしら。

別れる度に涙を流せるのが青春だと思います。大人になって、別れに慣れすぎてしまう前に。

にいち『彼女の季節 ―少女アラカルト―』P.174より

 そんなこんなで、あまり長々と個人的な感想を書き連ねるのもアレなので、この辺で。ウェブ上で見かけたものの本作を買い逃していて、電子書籍でも無問題という方は、Kindleストアで半額セール中のこの機会にぜひぜひ。キャラクターとしては、直ちゃんと真白ちゃんのコンビが好きです。

 

 

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