ぐるりみち。

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『ふたつのスピカ』宇宙を夢見る少年少女と、夢破れた大人のSF漫画

 「宇宙」を描いた作品は、どれだけ時が経っても色褪せないように思う。これまでに数多の研究者と宇宙飛行士によってその謎が解き明かされてきたとはいえ、人間にとってはまだまだ未知の領域である場所。――なればこそ、一般人たる僕らも好奇心を抱かずにはいられない。

 そこは、世紀を跨いだ現代においても理解の範疇を超えた空間であり、一般人が足を踏み入れられない異世界。子供の頃に抱いた「すごい」「わからない」が、空を見上げれば今もそこにある。それゆえに、僕らはいくつになっても、「宇宙」を描いた作品を楽しめているのではないかしら。

 

 

 そういった「宇宙」をテーマにした創作物として、自分が真っ先に思い浮かべるのが、柳沼行さんのマンガ『ふたつのスピカ』です。あまりに有名な作品なので、あれこれと書くまでもないとは思う。それでも、読んでいない人にはぜひおすすめしたい、大好きなマンガでござる。

 自分の場合、初めて見たのはNHKで放映されていたアニメ版だった。それが何年か経って、そういえばちゃんと読んでいなかったと原作を手に取って、一気に読んで、泣いた。つい最近も読み返して、「大人たちに強く共感できる年齢になってしまった……」と謎の感慨を覚えたくらい。

 そんな『ふたつのスピカ』について、個人的に好きなポイントをざっくりと書いてみました。

 

 

宇宙を夢見る少年少女と、ド直球過ぎて切なくなる青春模様

 一口に「宇宙」と言っても、作中での切り取り方は作品によってさまざま。「宇宙船にトラブルが発生して大変だ!」という洋画に多そうな展開から、宇宙飛行士を目指す少年やオッサンの奮闘記もあり、地球と宇宙、2つの舞台から哀切を描き出す物語もある。『ほしのこえ』はいいぞ*1

 そういった多種多彩な作品が並んでいるなか、『ふたつのスピカ』に登場する「宇宙」の意味は単純明快。そこはメインキャラクターである5人の少年少女たちが目指すべき高みであり、「夢」を具現化した存在とも言える*2。ゆえに、作中で“宇宙空間”が登場する場面はほとんどない。

 

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柳沼行著『ふたつのスピカ』6巻(KADOKAWA/メディアファクトリー)P.118

 

 本作は、遥か高みにある「宇宙」を目指す少年少女の群像劇であり、なんでもない日常のなか、途方もない「夢」を叶えるために仲間たちが手を取り合って成長していく、ド直球の青春モノだ。

 まだ子供だった頃に読んだ際には、「宇宙」のスケール感と「宇宙学校」ならではの独特かつ過酷な試験、そしてキャラクター各々が抱える想いや過去のしがらみに魅了され、ワクワクしながら読んでいた覚えがある。まだ見ぬ宇宙は遥か彼方、なれど、誰もが悩みや問題を抱えながらも、毅然と夢に向かって一歩一歩を踏みしめていく様は、最高にかっこいい。

 

みんな大好き“ライオンさん”と、別視点で「夢」を見る大人たち

 ――ところがどっこい。大人になった今となっては、それがあまりにもストレートで、眩しく、切ない物語だから。否が応でも惹き込まれ、“夢見る少年少女”よりも“夢破れた大人たち”に強く共感してしまい、いろいろと込み上げてくるものがあるから困る。

 かつて見た夢を諦め、淡々と過ごすだけの日常。しかし、過ぎゆく日々にかつての夢の残滓を見つけてしまい、少年少女を鼓舞し、良き助言者として力になる。夢が叶ったその瞬間に命を落とした“ライオンさん”はその最たるものであり、作中の“大人”代表でありながら“子供”の側面も持ち合わせた、本当に素敵なキャラクターだと思うのです。

 

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柳沼行著『ふたつのスピカ』10巻(KADOKAWA/メディアファクトリー)P.145

 

 夢を追う過程で何をすべきか、どのように考えればいいか――と書くと、まるで自己啓発のような物言いではあるけれど。そういった「夢の目指し方」が“子供”と“大人”の両面から描かれているのが本作であり、何かに悩んで立ち止まっているときの処方箋となるのではないかしら。

 それだけでなく、物語後半からは闇雲に追うだけの「夢」に留まらず、その過程で顕在化してくる「変化」にも焦点が当てられているのが魅力だと思う。夢を追うなかで自然と現れる関係性の変化に、少しずつではあるものの変わりゆく生活と、やがて訪れる「別れ」に対する考え方。

 

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柳沼行著『ふたつのスピカ』8巻(KADOKAWA/メディアファクトリー)P.112

 

 単なる懐古でなく、別れを惜しむでもなく、移りゆく日常の変化を受け入れて、それでもなお今を大切に過ごそうという示唆。言うなれば、「非日常」を目標とする“夢”を目指しながら、その途上にある「日常」のかけがえのなさをも同時に描く、このバランス感が大好きだ。

 現実では、時として胡散臭い文脈で使われることもある「夢」という言葉を、本作では心から素直に受け取ることができる。果てを夢見る主人公たちのワクワク感も伝わってくるし、夢破れた大人たちの懊悩も理解できる。さらには、再び夢を追わんとする彼らの奮起と助言も、かっこいい。

 

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柳沼行著『ふたつのスピカ』10巻(KADOKAWA/メディアファクトリー)P.88

 

 そして何より、シンプルで柔らかい絵柄ながら、台詞と情景、描かれたキャラクターの感情がストレートに伝わってくる、柳沼さんのイラスト――特に見開きの絵が大好きです。

 語るところでは存分に語らせ、感情を爆発させるところでは爆発させ、そうして開いたページでふっと目に入る一枚絵が、どれもこれも本当に好き。台詞は抑え、絵と表情だけでその瞬間を切り取った、まるで写真のような一枚。数年ぶりに読んでも、これらの絵だけは覚えている。

 もう何周も読んだ作品だけれど、これからもきっと、折に触れては読み返すことになるんじゃないかしら。もともと、ぼーっと空を見上げるのが好きな子供だったけれど、マンガのなかにも“空”はある。『ふたつのスピカ』のページを開き、ライオンさんに会いに行こう。

 

 

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*1:新海誠さんの作品が好きです『秒速5cm』『ほしのこえ』『言の葉の庭』 - ぐるりみち。

*2:裏の主人公とも呼べる“ライオンさん”視点では、ちょっと別の意味合いを持ってきそう。