ハロー、鼻水マン。元気してる?
――え? 元気してるわけないって? そりゃそうか。だって、アナタは鼻水マン。季節の変わり目になると現世に降り立ち、ズビズババという鳴き声を響かせ街中を闊歩する、風邪の申し子だものね。HAHAHA。はよ、家に帰って寝ろ☆
鼻水マンは、ポケットティッシュがだいすき。外出の際には最低3つのポケティ(※ポケットティッシュの略称)を携帯し、瞬く間に消費してしまうの。その速さときたら、常人の比じゃないわ。電車内では多くの人がスマホを操作するなか、尻ポケットやらポーチやらから次々とポケティを繰り出してズビズババン! その勢いは、周囲に風(邪)を巻き起こすほどにすごいんだから。
……うん、アタシは知ってる。アナタがそれを、決して好きでやっているわけじゃないってことを。アナタのその真っ赤に腫らしたお鼻は、放っておいたらアラ大変! みるみるうちに決壊を起こし、まるで号泣するかのごとく養分が流れ出てしまうのよね。きゃー! 洪水よー!
そう、ダムの決壊を防ぎ、車内の平和を守るためには、救世主ポケティを頼りにするしかないの。ズビズババン! は、まだ世界が平和であることを知らせる鐘の音。悪いものじゃないって、アタシは知ってるんだから。でもね、鼻毛は日頃からちゃんと整えておこうね。トナカイさんも真っ青になるくらい真っ赤なお鼻から、チラ見えしてるわよ。ハ・ナ・ゲ☆
ところで、救世主ポケティも万能じゃないこと、アナタは知ってる? ……そうよね、アナタほどのプロの鼻水マンなら、知らないわけがないわよね。ごめんごめん、念のために確認しておきたかったの。
そうなの。進化したスーパー鼻水マンともなると、最低3つのポケティじゃ足りないことも珍しくないわ。アタシの経験では、最速で30分に1つのポケティが天に召させてしまってもおかしくない。とてもじゃないけどポケティトリオではカバーしきれず、涙涙にトイレへ駆け込む鼻水マンを何人も見てきたんだもの。そうなってしまえば、アナタはもう鼻水マンじゃない。ポケティの慈悲も届かない、その名も――トイレットペッパーマン。あとはもう、芯だけになるまで燃えるのみ。
だからこそ、プロの鼻水マンは皆、バッグの中に「神(紙)」を忍ばせているんだったわね。主の御名は、唯一神ハコティ(※箱ティッシュの意)。正確にはネピア教やエリエール教といった教派もあるのだけれど……まあその話は専門家にでも聞いてちょうだい。あぁっ鼻セレブさまっ。
ともかく、鼻水マンは神(紙)の加護がないと生きていけないの。慣れないうちはポケティ頼りになりがちだけど、早い段階で洗礼を受けておくことをオススメするわ。洗礼を受けるなら、週末の安息日。ドラッグストアで安売りのまとめ買いよ! ヒャッハー!!
――さて、本来ならば、いざという時の緊急対策として、駅前でポケティを布教する人の存在や効率的な神との対話方法(※紙の使い方)も指南してあげたかったのだけれど。でもきっとアナタは、そんなことくらい既に知っているのでしょうね。だって、良い鼻してる。プロの鼻だわ。
え? アタシは誰なのかって? そうね……強いて言うなら、生まれながらにして鼻水マンだった者よ。後天性の鼻炎マンではなく、季節性の花粉マンでもなく、鼻水と共に生まれてきた、鼻水マンの中の鼻水マン。全くもって困ったものよね。紙も鼻洗浄もあったもんじゃないわ。ぷんすか。
何はともあれ、これからの季節、街中にも大量の鼻水マンが現れるはず。彼らはそれだけで周囲を害する存在ではないのだけれど、少しでも油断したら途端に発熱マンへと変貌を遂げるわ。そうなる前にアナタも、ポケティとハコティ、そしてマスクの準備を忘れずに。もしも鼻水マンになってしまったら、マスクをするの。マスクマンであるかぎり、アナタは後ろ指を指されることもないはずだわ。
――ん? あまりに酷い状態になってしまったら、もう鼻水マンとして生きていくしかないのか……って? バカ言うんじゃないわよ。そんなときにやることは、昔から決まってるじゃない。
病院、行っとけ☆