電子書籍端末を買って、書店が身近になった1年間


 月に一回、夜な夜な代官山蔦屋に現れ、目を血走らせながら本棚の間々を徘徊する和服姿のおっさん。実家はAmazon。右手には、Kindle Paperwhite、左手には、iPad。それが、僕。嘘です。

 そろそろ、電子書籍端末を手に入れて、一年。2013年の電子書籍事情と、僕にとっての「電子書籍」と「本屋さん」の話。

 

2013年の、電子書籍

 「これからは、電子書籍が急速に普及する!電子書籍元年だー!」

 ――と、2010年頃から言われ始めて、気付けば2013年も終わり。毎年のように「電子書籍元年」が叫ばれ続けてきたような気もする。そんな電子書籍界隈。今年は、前の3年と比べれば、電子書籍がなかなか広まった年なんじゃないかなー、と思う。

 と言うのも、今年は、各電子書籍ストアのラインナップが、どんどん充実していくのが目に見えて感じられた一年だった。僕の感覚だけれど。

 これまでは、電子化された限りある書籍の中から、もともと人気や知名度のある作品がランキング上位に上がっていた。しかし最近では、新作の小説・漫画などが、紙媒体と同時に電子書籍として出版され、リアルの書店と同じように、ランキングに現れるようになってきた。この変化は大きいと思う。

  電子書籍業界の、コンテンツとしての具体的なデータは見当たらなかったけれど、どうなんだろう。いちユーザーの感覚では、結構伸びているんじゃないかと思うんだけど。

 そして、年末ということで、各電子書籍ストアが発表している年間ランキングを確認してみると、『進撃の巨人』『半沢直樹』シリーズがどこを見ても圧倒的だ。他のランクイン本は、各ストアが取り扱っている電子書籍、出版社などによって、ばらつきが出ている。

 このランキングを見ると、電子書籍ストアそれぞれの色が見えてくるようで、おもしろい。

 例えば、AmazonのKindle本ランキングでは、新装版の『孤独のグルメ』が4位と大健闘した他、『限界集落温泉』の1巻もベスト10入り。これらは、価格の安さと、度々行われるセールの影響が大きいと思われる。僕も、ゴローちゃんは99円の時に買った。

電子書籍と、本屋さん

 さてさて、そんな電子書籍の話。

 1月にKindle Paperwhiteを購入した僕。今年は、Kindleストアに全力でお世話になった一年だった。セール情報をマメにチェックして、気になる作品が安くなっていたら、速攻でポチッと。セール本ばかりを狙っていたつもりだが、塵も積もればなんとやら。端末の本棚もかなり充実した。

 そんななか、何よりも変わったのが、書店の使い方。これは、思わぬ変化だった。

 本は好きで、昔からそこそこ読んでいた僕。けれど、音楽やらアニメやらの他の趣味にお金を使っていたこともあり、中高生時代はBOOK OFFが行きつけの「本屋さん」だった。

 それまでは、友達に薦められたり、ネットで評判を見て気になった本をチェックしたりして、近所のBOOK OFFを探しまわって、安く手に入れようとするのが、基本の流れ。街中、駅中の書店をうろうろすることもあったが、そこで新品で買うのは、漫画とラノベばかり。小説や新書は、いつも古本屋で買っていた。

 ところが、電子書籍端末を手に入れて、その事情が全く変わった。古本屋へ行く頻度ががくんと減り、街の「本屋さん」へ足を運ぶ機会が急激に増えた。

 その「本屋さん」も、駅ナカの簡易的なものや、商店街の片隅にある小さな書店ではない。何フロアもある規模の大きい店だったり、特集コーナーなどが充実していたり、個性的な本棚作りをしていたりする書店を選んで行くようにしている。

電子の海と、本棚の山を行き来する

 それはなぜか。自分にとっての本屋さんが、まだ見ぬ「本との出会いの場」となったからだ。

 書店に行くときは、いつも買うものを決めず、ぶらっと立ち寄る。「こんな本が読みたいな―」「あのジャンルを探してみよーっと」など、漠然とした目的を持つことはあれど、あらかじめネットで情報を仕入れて、「今日はこれとそれとあれを買う!以上!」ということは、かなり減った。

 そして、書店へ行くと、気ままに本棚の間をうろうろする。新刊を見て、特集コーナーを見て、平積みされている本の表紙をぼーっと眺めつつ、ぶーらぶら。たまに手に取って、ぱらぱらと読んでみて、またぶーらぶら。その中で、気になった本、関心を持った本を、チェックする。

 その場で、「これだ!」と衝動買いすることもあるが、基本的には、あくまでチェックするのみ。そこで気になった本は、ネットで概要と評判を流し読みする。その上で、電子書籍版があればポチッと、なければ、次に書店へ行くときに購入する、という流れだ。

 書店側からすればおもしろくないのかもしれないけれど、これが今の僕の「本」に対するスタンス。本屋さんは、会ったこと・見たことのない本と出会う場所。これまでは、金銭面と、ネットの情報を重視して、買う本を「選んできた」僕からすれば、あてもなく、ぶらぶらと本を探して歩きまわるのは、なかなかに楽しいもの。お宝を探すみたいで、わくわくするのだ。

 実際のところ、電子書籍端末を使うようになって、本の数と、読書時間は圧倒的に増えた。電子本・紙の本と、媒体は関係なく、どちらも。その意味では、電子書籍は僕に、どこかの宣伝文句にありそうな「新しい読書体験」をもたらしてくれた、と言っても、間違ってはいないのかもしれない。

これからの、電子書籍

 日本の電子書籍業界は、海外と比べればまたまだ未成熟だと言う。「電子書籍発」で話題沸騰のベストセラーはまだ生まれていないし、規格や価格、出版社間の問題なども、まだ議論中のようだ。

 1人の読者としては、電子書籍がもっともっと普及して、コンテンツが増えてくれれば非常に嬉しい。それに伴って、新鋭の電子書籍作家、書評サイトなども、数多く生まれれば素敵だと思う。

 もうひとつ。作家さんに限らず、ブロガー、ライター、記者などの、個人の書き手たちが、電子書籍という媒体で自分の文章を収益化できるのなら、それほど良いことはないんじゃないだろうか。

 ブログなんて、ジャンルも内容もばらばらな、雑多な文章の集まりにしか見えないけれど、全く別の書き手の記事でも、「一緒に読むとおもしろそう」なものもある。それらを集めて、ひとつの「コラム集」として書籍化してもいいし、個人のブログをそのまま本にしてしまってもいい。

 未成熟ゆえ、電子書籍にはまだまだいろいろな可能性がありそうだ。そこに、たくさんの書き手が集まって、何かおもしろいコンテンツが作れないかな、とも思うのだけれど……どうでしょう?

 

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