おやつは3冊まで


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 本棚の整理をしていたところ、ふと「おまえは今まで買った本の冊数をおぼえているのか?」と、頭の中で声がした。はて……4桁には達しないはずだけれど、実際はどのくらいになるんだろう……。

 デジタルで購入記録が残っている電子書籍ならばともかく、紙の本をすべて数えるのはさすがにダルい。そもそも、過去に捨てたり売ったりした本も含めれば、そのすべてを振り返るのはさすがに不可能だ。アカシックレコードに聞いてください。そろそろ誰もがクラウドで閲覧できるようになっても良いと思うんだ、アカシックレコード。

今も昔も「本」は特別なお買いもの

 思えば、今も昔も「本を買う」ことは日常のありふれた行為でありながら、ちょっとした特別感の伴う行為でもあった。書店に行って本を物色し、いくつかの本に目星を付けたら、あれこれと悩んだうえでレジへ持っていく。ただそれだけの行為に、不思議といつもドキドキしている。謎の高揚感。

 特に中学・高校生くらいのときはそれが顕著だった。

 マンガを読みたい、CDも借りたい、ゲームも欲しい──。物欲にまみれた思春期の少年も、しかし手元にあるのは限られたおこづかいのみ。CDは当日返却のレンタルで、電車は使わずママチャリを乗りまわし、ゲームも中古で安くなってから買うようにするなど、節約に励んでいた覚えがある。

 そんな学生から見れば、CDやゲームほどではないにしても、「本」はそれなりに高価なコンテンツ。

 新刊を買うのはよっぽど大好きなマンガくらいのもので、それ以外は中古で済ませるのが基本。それも古本屋で見つけたからと言ってすぐには購入せず、近所にある他のお店もチャリで巡ったうえで、一番安いところで買うという徹底ぶりだった。ブッコフは中高生の聖地。ブッコフはいいぞ。お世話になりました。

 そして、あれから10年。
 自分で稼ぎを得るようになった今、どうしているかと言えば。

 「ひゃっほーぅ! これで思う存分に大人買いができるぜー! 大人ってすっげー!」と、迷うことなく本を買いあさっている自分がいる……かと思いきや、そんなことはなかった。そこには、生息地を古本屋から大型書店へと変えはしたものの、相も変わらず、お財布とにらめっこしているアラサーがいた。

 いやー、だって、ねぇ……。文庫本ならまだしも、下手すりゃ2,000円オーバーすることもあるハードカバーを新刊で何冊も買うのは、やっぱりキッツいわけですよ。

 特に最近は、無料で楽しめるコンテンツやら定額○○放題なサービスやらも増えて、月に何度も数千円単位で散財するのはなかなかに辛い*1。安価でコンテンツを楽しむなら、延々とNetflixを見ているだけで事足りるような印象すらありますし。質を問わないなら、YouTubeやニコ動でも充分。ワシもVTuberになりたい。

 さらに付け加えれば、そんなコンテンツ過多の状態にあっては、消費に使える時間もまた限られてくる。同じ値段で満足感を得ようとするのなら、映画やライブや落語のほうが確実性が高いと思うんですよね。拘束時間が決まっており、ハズレが少なく、身体性を伴った “体験” として満足感を得やすい、あの感じ。

 もちろん、自分のペースで読める「本」のほうが時間の調整には適しているという側面もあるし、より深く没入しやすいという実感もある。映像からは得られない活字ならではの魅力もあり、だからこそ、こうして学生時代から親しんできたわけですし。なんだかんだで、一番しっくりくるのは文字かなーと。

 今も昔も大好きな「本」。けれど、現在の生活環境と金銭感覚を考慮すると、「主食」にするのは難しい。いっぱい買っていっぱい読むことができないそれは、言うなれば、「おやつ」的な立ち位置に落ち着いたようにも見える。ごはんはおかず。ごほんはおやつ。

 生きるために食べる必要はないけれど、口にすれば精神的に癒されて、お腹も満たされる、甘くておいしい間食。ちょっとつまむだけで満足することもあれば、ついつい手が伸びて食べ過ぎてしまうこともある、ニクいやつ。HPよりもMPを回復してくれそうなアイテム。……いや、むしろアクセサリー?

 そんな立ち位置にあり、そして、さっきも書いたようにそこそこ良いお値段もすることから、一度に買うのは数冊程度。セールがあるたびについつい買いすぎてしまう電子書籍とは別に、紙の本は──そうね、月に3冊程度がベストかしら。実際、家計簿と読書記録を見たら、まさにそのくらいのペースで買って読んでいた模様。

 おやつは3冊まで。無理のないペースで、お財布にも優しく、そして存分に楽しみながら味わうには、自分の場合はそのくらいのバランスがちょうどいいのかなーと。そう考え、今日も今日とて、もぐもぐとおやつを食べるのです。

今月のおやつ

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*1:その割に創作同人誌で散財している系おじさんではあるのですが……。