青く輝くクリエイター讃歌|YOASOBI『群青』


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――あなたが好きな「色」は、何色ですか?

そんな問いを唐突に投げかけられたら、きっと多くの人は「赤」「青」「黄色」といった、はっきりとしたわかりやすい色を選ぶのではないでしょうか。

いや、もちろん「わかりにくい色がダメ」と言いたいわけではございません。ただ、おそらくこの手の質問を投げかけられる場面――自己紹介とか――では、誰の目にもわかりやすい「色」を答えるんじゃないかなーと、そういう意味で。「浅葱色」とか「山鳩色」とか「勿忘草色」とか、そういう色を選んでもぜんぜん良いと思います。というか、個人的には好きです。

ちなみに僕は、が好きです。多分、幼稚園時代からずっと「“あお”がすきです!」って答えてたんじゃないかなー。特に好きなのは、夏の空の「青」。前々からこのブログを購読してくださっている方はご存知かもしれませんね。夏空、今年は撮りに行けるかなあ……。

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東京の「青空」の写真たち - ぐるりみち。

まあ「青空の“青”が好き」なんていうのは、自意識が確立されてからの後付けっぽくもありますが。でもそれが、「青」という色を好きになる要因のひとつだったんじゃないかなーなんて、自分では考えています。ただ改めて考えてみると、「空の色」って濃紺に近い青というよりは、どちらかと言えば「水色」に近い気もする……? 「空色」なんて呼ぶこともありますし。……うん、空色。空色デイズ、いい曲ですよね。関係ありませんね、はい。

そんなわけでふわふわとした前置きもほどほどに。今回取り上げたいのはそんな「色」にちなんだ作品、それもをタイトルに冠した、あの楽曲です。

 

誰もが“夜に駆け”ていた、2020年

2021年現在、日常的にSNSを利用していて「YOASOBI」の名前を知らない人は、きっとほとんどいないはず。

もともとネット上では有名なアーティストだったYOASOBIですが、2020年の大晦日には紅白歌合戦に出場。デビュー曲『夜に駆ける』を引っさげてテレビ番組で初めてのパフォーマンスを披露し、大きな話題になりました。オープン間もない角川武蔵野ミュージアム館内の巨大な本棚に囲まれての演奏と歌唱、かっこよかったですよねー。

自分の観測範囲を見ても、知らない人はゼロなんじゃないかというくらいに認知度が高く、人気のアーティスト。少なくとも『夜に駆ける』という曲名を口に出すかサビを聞いてもらえば、だいたいの人は一発でピンとくるんじゃないかと思います。

他にも『ハルジオン』や『たぶん』、そしてアニメ『BEASTARS』の第2期オープニングテーマ『怪物』なんかも最近は人気ですよね。YouTubeでカバー動画をたくさん目にするし、VTuberもカラオケ配信でよく歌っている印象。ただ、それでもやっぱり、一番人気は『夜に駆ける』……になるんですかね? そういえば、香取慎吾さんも歌唱動画を投稿されていたのには驚きました*1

――とまあそんな感じで、「YOASOBIといえば『夜に駆ける』だよな!」というイメージも強いわけですが。僕自身も実際、『夜に駆ける』が大好きなわけですが。

それ以上におすすめしたいのが、今回取り上げる群青です。

YOASOBI楽曲の中でも異色の「青」

群青

群青

  • YOASOBI
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

もともと独特な方法で発表されているYOASOBIの楽曲の中でも、さらに変わった、異色の立ち位置にある曲群青

YOASOBIのそもそもの特徴として、それぞれの楽曲に「原作」となる小説の存在があることが挙げられます。『夜に駆ける』もそうですし、アニメ『BEASTARS』のOPである『怪物』は言わずもがな*2

そうやって「原作」ありきの楽曲を数多く発表しているYOASOBIですが、『群青』は事情が若干異なります。原作になっているのは「小説」ではありません。

では、いったい何が元になっているのか。
答えは、「アルフォートのCMテキスト」です。

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https://www.youtube.com/watch?v=vELh3Q6BBx4

――そう、アルフォート。青いパッケージでおなじみの、ブルボンのチョコビスケット。近年はきのこたけのこ戦争において第三勢力として登場することもある、青の刺客。そのアルフォートのCMのために用意されたストーリーテキストが、『群青』という楽曲の「原作」になっているらしいのです*3

さらにさらに、それだけではございません。『群青』の「原作」はアルフォートのCMテキストですが、もうひとつコラボレーション先があります。

それが、『月刊アフタヌーン』で連載中の漫画『ブルーピリオド』

なんとアルフォートのサクサク成分だけでは飽き足りず、群青』の歌詞には『ブルーピリオド』の世界観が多分に盛り込まれているのです。本作のファンなら、きっとすぐにビビッときて共感できるはず。というか、もう曲のタイトルで「あっ!」ってなりますよね。

YOASOBI×ブルーピリオド×アルフォート=?

とまあ長々と説明してきましたが、つまりはこういうことです。

『群青』という曲は、アルフォートを原作とするタイアップ作品であると同時に、『ブルーピリオド』に強くインスパイアされたコラボレーション楽曲でもある。

これ、なかなかにすごくありません?
さすがに要素てんこ盛りすぎでは??

こうやって複数の要素が盛り込まれていると考えると、「ちゃんとアルフォートのタイアップ曲として成り立ってるの!?」なんて、変な心配をしてしまう人がいてもおかしくないんじゃないかしら。多分、僕も知らなかったら心配になってたと思う。

しかしそこはご安心ください。この『群青』を使ったアルフォートのスペシャルムービーとCM、とんでもなくすばらしい出来栄えになっております。というか今回ご紹介したかったのは、ずばりこのムービーでございます。

僕が最初に『群青』を知って聞いたのも、この映像。もう大好きすぎて大好きすぎて、何回リピートしたか覚えていないレベル。『群青』という曲単体でも、ぶっちゃけ2020年のマイベスト。2020年に聞いた歌の中で、いっっちばん大好きだと断言できます。しちゃいます。マジ最高。

ってなわけで記事の途中ですが、まずは一度、ぜひともこのムービーを見ていただきたく! 「『群青』は知ってるけど、ムービーは見たことがない」という方もぜひ!

「好きなものと向き合う、すべての人へ」

――どうですか? 見ましたか? 聞きましたか?

僕も今、改めて見て聞いたんですが、ホントもうマジでやっぱり最高すぎませんかどうですか!?!?

『群青』という楽曲、それ自体の解釈や楽しみ方はもちろん人それぞれにあると思います。でも一言で言うなら、僕はこの歌は「クリエイター讃歌」だと思ってます。

すでに第一線で活躍しているクリエイターは言うまでもなく、創作活動を始めたばかりの人や、忙しくなって今は離れてしまっている人も含めて、何らかの活動に取り組もうという人のための応援歌。そしてその活動を続ける中で無視できない、「好き」の感情と向き合うための歌。

「好きなものと向き合う、すべての人へ」

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https://www.youtube.com/watch?v=vELh3Q6BBx4

ムービーの最初に映るこのフレーズからしてそうですし、心惹かれました。続く歌詞を聞いていても、序盤は「それでいい」「そんなもんさ」と諦めるような表現が並んでいたのに、コーラスパートに入って曲が盛り上がれば盛り上がるほど、聞く人を勇気づけるような言葉が聞こえてくる。悩み打ちひしがれている人を、奮起させようとしてくれる。そんな印象を受けます。

そうやって曲が盛り上がっていくと同時に、ムービーも青く、色彩豊かに色づいていく。あの感じがまた、たまらないんですよね……!

一心不乱に絵を描く青年と、『ブルーピリオド』主人公・矢口八虎の2人の姿。その背中を見ていると、時間も忘れるほど夢中になって「好き」なことに取り組んでいた、いつかの自分の姿を思い起こさせられずにはいられない。

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https://www.youtube.com/watch?v=vELh3Q6BBx4

そして続く「本当の声を響かせてよ」と歌うコーラスパートには、何度聴いてもドキドキさせられます。幾人もの歌声が折り重なって聞こえてくるあの部分は、まるでクリエイターの先輩たちが勇気づけてくれるよう。美しく響く合唱が聞こえてきたあの瞬間の、ぶわっと視界が開けるような感覚は、何度味わっても飽きることがありません。

ただ、この曲が一番刺さるのは多分、イラストレーターさんやマンガ家さんといった「絵」を描いてきた人になるのかな、とは思います。そもそもインスパイア元が『ブルーピリオド』ですしね。でも同時に、必ずしもぶっ刺さるのは「絵」にまつわる活動者だけじゃないとも思っていて。この歌詞はきっとジャンルに関係なく、「好き」を原動力に何らかの活動をしてきた人、万人に刺さるんじゃないかなと。僕自身、絵はからっきしですし。

たとえば、この歌詞とかどうでしょう。

好きなものを好きだと言う
怖くて仕方ないけど
本当の自分
出会えた気がしたんだ

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https://www.youtube.com/watch?v=vELh3Q6BBx4

幼い子供の頃は無邪気に楽しんでいられた活動も、歳を経て、いろいろなものが見えてきてしまったことで、「好き」と口にすることをためらってしまうようになった――。

この歌詞を聞くと、そんな感覚が蘇ってきます。

自分よりも上手な人、才能を持っている人の存在を目の当たりにすることで生まれる、嫉妬や諦めにも似た感情。ルーチンワークのようにこなすことで刺激を失い、やがてその活動自体が楽しくなくなってしまう、マンネリ感や倦怠感。作り続ける中で常に向き合い続けることになる、「オリジナル」や「個性」の所在。

そのようなモヤモヤがこみ上げ、やがて押し潰されるような感覚すら抱くようになり、自分の「好き」に自信を失ってしまう。そんな経験に心当たりがある人は、決して少なくないのではないでしょうか。

でもこの歌と映像は、それをで塗りつぶしてくれる。

失敗も後悔も、十人十色の経験を「自分にしか出せない色」に乗せて描き出そうと、背中を押してくれる。そうやって全力で走り続けた先の表現として、『ブルーピリオド』の見開きページと「い光」を重ねてくる。この演出が、これまたニクイんですよね……!

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https://www.youtube.com/watch?v=vELh3Q6BBx4

そのうえで続けて、「好きなことと向き合うのはまだ怖いよね」と寄り添いつつ、「でも君は、透明だった頃のままじゃないよ」とありのままの現在の自分を認めてくれる。――なんかもうここまでくると、感謝の念がこみ上げてくるレベルですよね。クリエイター全肯定ミュージックっすよ、これは。

そういう意味で、僕はこの群青「クリエイター讃歌」だと捉えています。

青く輝くクリエイター讃歌

というわけ今回は、YOASOBIの楽曲『群青』と、アルフォートのスペシャルムービーについての話でした。

もちろん、切り口はまだ他にもいろいろあると思っていて。音楽的観点から楽曲を分析してみるとか、『プルーピリオド』と絡めて「青」という色について考えてみるとか、歌詞をひとつひとつ掘り下げてみるとか。ただ、僕は音楽については門外漢ですし、『プルーピリオド』語りは長くなりそうなので……まあこのくらいのボリュームがちょうどいいのかなと。

ここまでのお話はPodcastでも話しているので、もしよかったら聞いてやってくださいな! あ、Podcast購読orチャンネル登録もしてくださると嬉しいです!

 

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© 山口つばさ/講談社

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*1:参考:夜に駆ける/YOASOBI 歌ってみた!しんごちん【香取慎吾】 - YouTube

*2:ただし『怪物』の場合は『BEASTERS』という作品全体というより、このために漫画原作者さんが書き下ろした小説が元になっているとの話。

*3:参考:ブルボン アルフォートミニチョコレート オリジナルテキスト